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見世物小屋遊心 人間ポンプ一座………北村皆雄

 

◎見世物小屋って何◎

 

私は最近、「見世物小屋〜旅の芸人 人間ポンプ一座〜」という二時間のドキュメンタリー映像を完成させた。

特別深い理由があったわけではない。ふと見世物小屋というものが気になり撮ってみようと思い立った。一九九三年、私が撮影するとき、全国に四件の見世物小屋があった。友人で見世物小屋に詳しい上島敏昭さん、鵜飼正樹さんに相談すると、人間ポンプの安田里美さんがいいだろうということになった。その安田さんは撮影の七カ月後に亡くなった。今年(一九九八年)の夏には、多田興行部の主宰者多田さんも亡くなったので、見世物小屋中心に興行できるところは今では大寅(大寅興行社)さんのところと団子家さんのところの二つになってしまった。

見世物小屋の関係者も次々と亡くなっている。

私の撮影した身体障害者で小人の芸人ナミちゃんも一九九六年に亡くなった。丸太で小屋掛けする数少ない職人、秀義さんも九八年の五月に亡くなっている。私共は消えかかろうとする最後の光りを映像に収めることになったのだと思う。特に見世物小座の最後の芸人といわれた人間ポンプの安田さんの芸を記録できたことは幸運であった。これほど美しく人を魅せる芸人はもう出現しないのではないか。安田さんの死で、見世物小屋の光りは一層小さくなった。

私は「見世物小屋」の映画を自分の会社で自主制作することにしたが、当初、テレビで出来るのではないかと思っていた。それの方が予算的に楽になる。しかし、テレビ局担当者が躊躇した。というのも、見世物小屋には身体障害者が出演しており、それをテレビで見せると、障害者を見せ物にしてと、世の〈良識ある〉視聴者から抗議の電話がくるのだという。ウの目タカのめでウォッチングし、電話をかけてくるそうした人たちは、身体障害者の立場に立ってものを言っているのだろうか。それほど身体障害者のことを気にかけ、暖かいまなざしをそそいでいるのだろうか?

というより、そうした存在を視界の外に置きたい、見たくない、目の前から抹殺したいというのではないのだろうか。良識という殻を破った人の中には、身体障害者=可哀想、見世物=ケシカランという図式がキッチリとできあがっていて、それ以上に踏み込むこんで探索しないのだ。

見世物小屋ってホントになんなのだろう?

 

◎一座のひとびと◎

 

私が撮影したとき安田里美興行社の構成メンバーは総勢九人であった。ざっと素描してみると、こんな人々である。

*安田里美さん(七一歳)…一座の責任者、太夫元。生まれた時アルピノ、いわゆる白子であったために、四歳の時に岐阜の興行主であった先代安田与七さんにもらい受けられた。親は養育費を付けて預けたと言い、先代は金を出して買ったと里美さんに語っている。今となってはどちらかは分からない。

 

 

 

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