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第3章

仙田郷の環境・景観の調査

 

第1節 仙田郷の環境・景観とその特徴

 

仙田郷は信濃川の支流である渋海川に沿う、典型的な中山間地帯である。集落の立地は、渋海川沿いと右岸(東面)支流域及びその山地斜面に集まっている。集落が立地する海抜は、最低が約110m、最高が約290m(別荘地は除く)となっている。

町内の信濃川左岸の広大な河川低地と段丘面に比べると、使える土地が格段に少なく、自然地形に創意工夫を加えた、興味深い土地利用も見られる。

ここでは、こうした自然環境や人々の生きざまを示す土地利用と集落などを、景観という視点で見てみよう。

 

1 自然景観

仙田郷はこの地方特有の地すべり地帯にあたり、渋海川右岸の山地中腹や谷に向かう斜面には、地すべりによって生じた緩やかな斜面や削ぎ落としたような急斜面が多く、土地利用しやすいバラエティーに富んだ地形となっている。

渋海川沿いから右岸の山地斜面にかけては、地質が軟らかいために侵食の影響を強く受け、細やかな地形の変化が多い。また、渋海川もその影響で蛇行が著しく、屈曲部がつながって河道がとり残された地形も見られる。

渋海川左岸の山地斜面は比較的地質が硬いために地すべりが起こりにくく、V字型に侵食された急峻な地形がほとんどで、したがって土地利用もしにくい土地柄になっている。

仙田郷はほとんどが起伏の多い山地景観であり、土地利用がしにくい急斜面地や稜線に近い奥地ほど自然環境は良く保たれている。このような立地は広葉樹林になっていることが多く、地すべり面や雪崩が頻発する斜面は貧弱な低木に覆われている。

森林植生はほとんどが二次林であるが、ナラ類を中心に、ブナ、カエデ類、サクラ類、渓畔林など樹種が豊富である。これは、雪による寒さの保護効果によって植物の生育の幅が広がる日本海側の多雪地の特徴でもある。こうした多様性のある植生は、生活という舞台の背景として、メリハリのある季節変化を伝えてくれる。

地内にあるスギはほとんどが植林したものだが、日本海側のスギは、多雪に適応したアシュウスギの血筋を引き、その端正な樹型はそれだけで美しさがある。大木はしばしばランドマークとなり、スギが集落景観や棚田景観を引立てている例が少なくない。また、広葉樹林にスギが交じると、コントラストのある森林景観に仕立ててくれる。

 

2 土地利用景観

地すべり斜面では、その地形的特徴を生かして棚田状の水田を造成し、中山間地特有の立体感のある営農景観を展開している。地形が細やかなためダイナミックな景観にはならないが、それがかえって景観をまとめ、親密な空間をつくりだしている。

渋海川の屈曲部を人工的につなげる「瀬違い」と、屈曲で自然にとり残された旧河道を生かして造成された水田は、まさに自然の営みを巧みに利用した、人間の生きざまを物語る特異な景観であり、土地を利用することの意味が一目で理解できる教科書的な景観である。

土地利用景観の大枠は、これらの農地と集落による構成である。農地と集落の土地利用関係は、地形によって意識的に造られたひとつの型を見いだせる。基本的には、土地の利用がよりしやすい地形に農地を優先させ、住宅は起伏地、斜面地、山際などに集まることが多い。集落内でも、土地に余裕があるところでは、宅地まわりにも農地を造成しているケースが少なくない。

 

3 集落景観

集落の立地は、渋海川流域の河川低地や段丘面、山地斜面や地すべり斜面などが基盤となっている。低地にあたるところでは、渋海川の屈曲で自然にとり残された旧河道の上が集落の一部になっているところもある。

土地の基盤が平坦か微傾斜地は集落の住宅密度が高く、傾斜地は地形によって土地を選ばなければならないため、住宅密度は低くなる傾向にある。

 

 

 

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