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その値は水温値として0.002℃、塩分値でも0.002の精度というのがそれである。これが実現できるかどうか、延々と議論され、また研究されたのである。至難の業ではあったが、関係する研究者・技術者の非常な努力によって、ほとんどの基準線においてほぼ達成されたのである。WOCEの計画では、先ず研究目的を明確に定め(全体計画)、それに必要とする精度のデータを取り(海洋観測従事研究者)、それを十分に管理し(データ管理研究者)、それを数値実験等の研究者がすぐに使えるような形に整えたデータセットを作成し(データプロダクト作成研究者)、数値実験等を通して地球規模の全体像を明確にして気候変動の予測にあたるという壮大な協力体制が取られているのである。現在WOCEの観測フェーズが終了したところで、膨大な観測資料と数値モデルの作成準備も着々と成果をあげており、海洋の役割を十分に組み込んだ精度の高い気候変動予測がようやく実行されようとしているのである。

この例でも分かるように、データ・情報は全ての研究・開発の基礎となるものであるが、データの取得に膨大な費用と労力を要する海洋データ・情報では、データの管理が重要となる。しかも、集められた膨大な資料は、生の形で提供されたのでは、個々の研究者の処理能力を超えてしまうことがしばしば生じるようになって来ている。このために品質管理を含めたデータ・情報管理体制の充実が急務となっている。しかし、上に述べた例のように、個々の研究者があるプロジェクト研究の全ての段階に関わることが実質的に不可能となりつつあることを考えると、データ・情報の管理は高度なものとなるだけでなく、また関連する他の種々の段階の研究がどのようなデータを、どのような精度で、またどのような形で要求について十分な理解と見識を持ってなされなければならない。
このことは、データ・情報の管理が、技術的な側面だけでは対処出来ないことを意味し、それ自体が研究的要素を多く持つことを意味する。1997年に日本財団のご援助の基で、日本水路協会の中に新設された海洋情報研究センター(MIRC)の名前の中に「研究」という文字が入っている由縁である。海洋情報研究センターでは、わが国の公的な海洋データ・情報の総合バンクである日本海洋データセンター(JODC)の活動を、高度のまた能率の良い海洋データ管理手法等を開発・提供することによってその活動を援助し、JODCでは実行することが難しい、多方面の海洋データ・情報のユーザーのそれぞれの要求に答えて、高度なデータプロダクツを作成・提供してJODCの活動を補完することを計画している。また、気候問題の例でも分かるように、海洋データ・情報の管理の業務は国際的にならざるを得ないし、一般の方々の理解と支援が不可欠である。MIRCの活動は、狭い意味でのデータ・情報の管理の業務に限られるものではない。国際協力事業やこの講演会のような海洋知識の普及啓蒙にもできる限りの努力を払っていくつもりである。

 

 

 

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