MIRC QCソフトウェアについて
○鈴木亨(MIRC)・秋島重樹(パスコ)・永田豊(MIRC)
海洋情報研究センター(MIRC:Marine Information Reseach Center)では、海洋データの高度品質管理手法の研究の一環として、水産試験研究機関の定線観測データの品質管理(QC:Quality Control)を行うためのソフトウェア“POD-QC”を開発した。PODとは1980年代後半に海洋観測資料刊行委員会が配布したデータ管理プログラムのことで、各水産試験研究機関では1986年以降の定線観測データについてPODを使って流通ファイルを作成し、水産庁中央水産研究所がそれらを収集・管理している。しかしながら、PODは流通ファイルの作成を目的としているため、現状ではエラーチェックが完全に行われているとは言えない。そこでPOD-QCでは、流通ファイルに含まれている基本的なエラーの検出と修正が系統的に行え、かつ、現場において、特に非専門家でも容易に操作ができるよう配慮し、一般に普及しているコンピュータOSであるMicrosott Windowsで動作するように設計してある。
POD-QCを起動して流通ファイル名を選択すると、各クルーズの航跡(Fig.1)、ヘッダーリスト(Fig.2)、および選択された測点のデータ表示(Fig.3)に関する各ウインドウが画面上に現れる。流通ファイルフォーマットにはクルーズ番号が含まれていないので、POD-QCでは、直前の観測との間隔が1日以上空いた観測をクルーズの開始としている。この間隔はユーザが任意に変更が可能である。ヘッダー部、特に位置・日時の入力ミスの検出には、クルーズ毎の航跡・船速チェックが非常に有効である。船速は三測点の緯度・経度および観測開始時刻から計算され、それが15knotsを越えていた場合にはユーザに注意を促す。例えば、Fig.1のように経度の入力を誤った場合には船速が428.9knotsとなり、航跡ウインドウおよびヘッダーリスト内の該当測点が赤色で表示される。
POD-QCにおけるデータ部のチェックは、深度逆転、観測深度超過、水温・塩分のレンジおよび勾配、密度差の各項目について行われる。水産試験研究機関で行われているような定点観測の場合には、定点の位置および水深を含むファイルを用意することにより、観測深度超過チェックが有効となる。水温・塩分のレンジおよび勾配チェックは、US-NODCが発行しているWorld Ocean Database 1998で使用されている閾値を採用しているが、三陸沖のように海況が複雑なエリアを対象として品質管理を行う場合には、これらの閾値を再評価が必要である。また、これらのチェックで検出されないような入力ミスは、複数の測点のプロファイルを重ね書き表示(POD-QCでは「系列追加」機能と呼ばれる)することにより判断できる(Fig.4)。
POD-QCで行われた品質管理処理の結果は、流通ファイルフォーマットを一部拡張して各項目の結果に応じてフラグが付加され保存される。POD-QCで保存されたファイルは、MIRC/JODCにおいて高度な品質管理下にあるデータとして処理され、新JODCフォーマットでJODCデータベース内に収録される予定である。
現在、POD-QCには二つのバージョンが用意されている。Ver.1.xは既存の流通ファイルの修正を目的としており、すでに和歌山県水産試験場、三重県水産技術センターでは修正作業が行われ、その有用性が確かめられた。Ver.2.xでは新規に流通ファイルを作成する機能に加え、等深線表示、水平分布図、鉛直断面図、T-Sダイアグラム作成・印刷といった解析機能が追加される。水産試験研究機関ではFRESCO2(Fishery Resource Conservation)と呼ばれる新しい情報システムが構築されつつあり、それが本運用されるまではPOD-QC Ver.2.xを利用して高度な品質管理下にある流通ファイルの作成が可能である。また、FRESCO2のデータフォーマットは流通ファイルフォーマットの上位互換となるので、POD-QCを改良・発展させた品質管理処理ソフトウェアを開発することでFRESCO2データにも対応させる予定である。