ILA(国際ロラン協会)会議
出席報告
ILA(国際ロラン協会)会議は、1998(平成10年)年10月11日から15日までの間、米国ダンバース市で開催され、当協会嘱託 新井勉が出席したので、その概要を報告します。
1. まえがき
わが国周辺海域で広域に使用できる電波航法システムは衛星系では米国国防総省が運用しているGPSおよびロシアが運用しているGLONASSがあり、地上系ではわが国で運用しているロラン-CとDECCAがある。
GPSの利用者の増加に伴い同電波航法システムの精度と信頼性を補強することにより日本近海の航海の安全と運航能率の増進に寄与するため海上保安庁は平成9年度と10年度にかけて全国に27局のDGPS局の設置を決め平成11年3月完成を目処に作業を進めている。一方地上系のシステムとしてのDECCAは現在2チェーン(北海道、北九州)があるが今後、逐次閉局される予定であり、将来的には唯一ロラン-Cが日本の責任で利用者に対してサービスする地上系の電波航法システムとなる。
米国ではロラン-Cの運用の必要性について1992年版の米国連邦電波航法計画(以下FRP)では衛星系システムであるGPSの整備に伴い2015年まではロラン-Cを電波航法システムの一部として存続させるとしていたが、1994年版ではこれが2000年までに変更された。この発表は利用者および受信機等を供給する関係者に大きな衝撃を与え、直ちに議会に陳情が行われた。その結果1996年に米国議会は運輸省(以下DOT)に対し再検討を指示し1997年8月にBooz Allen & Hamilton調査を開始し1998年7月に終了した。したっがて、1996年版FRPの発行にはこの調査の結果は反映されずロラン-Cの閉局時期については変更されていない。
この調査の結果米国の航海、航空関係者とも安全を担保するため衛星システムとの併存補完を希望していることが明らかとなった。既にDOTでは見直しを決定し最終承認を待っている段階である。1998年版のFRPではおそらく変更が行われるであろう。
欧州においてはNorthwest European Loran-C System(以下NELS)がこれらの地域のロラン-Cの開発と完成のための計画を行っている。ここでもGPSの弱点と、それを補強する電波航法システムの併存のためのロラン-Cの重要性について認識を強めつつある。しかしNELSを構成する各国の政策や財政的な事情により足並みが揃っていない。既に4年経過しているが依然として当初計画に達していない。
一方、GPSのディファレンシャル化のための補正データの伝送システムとしてロラン-Cの電波を共用するユーロフィックス システムがオランダのDelft Universityの協力により開発された。テスト送信は1997年2月からドイツのSyltロラン-C局から行われ期待できる結果が得られたので複合局による性能を実証するため4局による運用が準備されている。
これらの情勢から日本においては、利用者への安定した電波航法システムの提供により航行の安全と効率的な運行を確保するため、GPSおよびその補強システムとしてのDGPSの利用について強力にサポートをするとともに、衛星系システムの脆弱さ(ジャミング等による妨害、米国の国益による制限)を保証するための併存補強のシステムとしてロラン-Cの運用を継続して行く必要がある。 一方、わが国は、韓国、ロシアおよび中国との間でのロラン-C国際チェーンを強固にして周辺海域の航海の安全を確保するうえで、ILAの関係者から指導的立場を期待されている。