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(参考資料2-1)

 

滋賀県甲良町

 

農業基盤整備事業の導入を契機に住民が町づくりを考えた

 

琵琶湖の東部湖東平野に位置する滋賀県甲良町。水路が張り巡らされた端正な町並みが美しいところである。甲良町のグラウンドワーク活動の特徴は、景観が、住民すべての意見をベースにし、行政や専門家が参加して作り上げられている点だ。

甲良町は、約8000人の町であるが、13の集落にわかれている。その集落ごとに会合をもち、集落ごとの町づくりを行い、成功した例といえる。そして、13の集落の間の調整を行う組織も用意し、町全体に統一のとれた水路のある景観をつくりあげている。“子どもからお年寄りまですべての人の意見をこぼさずに拾い集めること”。これは行政が最も気を配った一点だという。

住民の意見による集落ごとの町づくりが行われるようになったきっかけは、1981年から展開された場整備事業とかんがい排水事業だった。甲良町は、水争いの地域であったゆえ、先人たちの努力や知恵はひとしおで、犬上川から取水された用水は、13集落内を縦横に巡る用水路を経て水田に到達するようになっている。この水は、飲料水だけでなく、炊事洗濯また庭先を流れる生活の潤いとしての意味もあった。その水路を田の生産効率をあげるため、地下パイプにするという計画がまとめられたとき、住民の間からそれを憂う声があがった。

町は住民の意見を聞く諮問機関をつくり、事業実施主体の県も、住民の意向を受け入れて計画変更を行ったのである。1990年から町の呼びかけで全集落に「むらづくり委員会」が発足。同年には、町づくり構想のコンセプトとして、町全体を「せせらぎ遊園」にしようと、「せせらぎ遊園構想」が打ち出され、せせらぎのある町づくりが始まった。現在、住民は、水環境整備事業や地域づくり推進事業をはじめ、すべての事業に「むらづくり委員会」を通して企画設計から施行段階まで参画している。

 

住民、行政、専門家のパートナーシップによる町づくり構想提案

公共事業への住民の参加によって、新しい町づくりがスタートした甲良町であるが、この成功の背景には住民の学習会や勉強会による学習の成果が大きい。集落ごとの「むらづくり委員会」では、住民自らが、絵を描き、頭をひねり町の姿を考えた。そして、1989年には4名の専門家を講師に呼び、講座や学習会を開いた。1991年には勉強会「せせらぎ夢現塾」を開設し、住民自らの意思による学習を積み重ねている。こうした学習の蓄積が、各事業の町づくりの原動力になっているのも事実である。

多くの人でアイデアをひねり、専門家の参加による地域づくりを行うことによって、甲良町には、せせらぎのあるユニークな景観がいくつかお目見えするようになった。たとえば、上空から見るとピエロの顔になっている「ピエロの滝」は、子どもたちがデザインしたものだ。

甲良町は、住民の意見をもとに水路のある暮らしを守り、さらに美しく景観整備をしたことによって、甲良町独自の景観ができた。他の町にはない独自の美しい景観は、町民にとって誇りであり、その誇りこそが自らの地域を愛する心を育て、地域をつくりあげている。町を流れる豊かなせせらぎは、町の人々が自ら行動することによって手に入れた、この町の宝であり、挑戦の証である。

 

特長

 

町の公共事業の計画に住民が参画した例。集落単位で「むらづくり委員会」をつくり、全住民の意見を取り入れての町づくりを行う。住民と行政が協力して、甲良町ならではの水路のある景観を守る。

 

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「ピエロの滝」。上空から眺めると、ピエロの顔になっている。

 

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集落内当番制で管理される水路。

 

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住民自らの手による水路の整備。

 

宮城県鳴子町

 

自分の地域に活力を求めて結成した住民グループの台頭

1993年、「鳴子温泉」として名高い鳴子町の一角、石の梅地区に、地域づくりの会、「石の梅まちづくり創造研究会」が発足した。石の梅地区に下水処理場建設の話が持ちあがったことが契機だった。リーダーの板垣幸寿さんは、旅館を経営し、米もつくる。温泉旅館経営者が地域運動に乗り出したという、企業と住民の2つの視点を合わせ持った活動が始まっている。

地域の「資源」は何かを考え、掘り起こし、観光地としてただ訪れてもらうのではなく、心がゆきかう町づくりをめざそうと会の活動は進む。手はじめに休耕田を都会との交流の場にし、地元の人をインストラクターに蕎麦や米づくりをする。訪れた人たちと一緒に汗を流し収穫を祝う「小さな村の感謝祭」は、地域あげての秋祭りとなった。また、稲刈りの終わった田を突き抜ける農道に、赤や黄色の旗をたて、風を視覚的にも感じることのできる新しい名所、「風の道」もつくり出している。

そのほか、独自の研究会「川渡・石の梅まちづくり小学校」の開校によって、活動がさらに充実しつつある。1995年に開講し、20歳代から80歳代の人たち約50人が、半年間、月一回の授業を重ねた。専門家・著名人が教師になり、「まちなみ景観研究」「温泉研究」「住民活動研究」「農村食堂研究」にわかれて研究を進めた。いま、地元企業兼住民でもある人たちが中心になっての地域文化を興こすグラウンドワーク活動に注目が集まっている。

 

特長

 

温泉地の旅館経営者が、地元企業として住民として地域活性化を模索する。地元の「資源」発掘と訪問者との心の交流による町づくりをめざしている。

 

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「川渡・石の梅まちづくり小学校」入学式の日。

 

 

 

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