1. 社会の変化の中での本研究の役割
本研究の目的は、『船舶のトータルライフを通しての経済性/安全性を確かなものにする為に、波浪中の推進性能や構造応答を定量的に短期/長期に亘り把握する基礎技術を得、さらにはこうした技術基盤のもとに高度モニタリングのコンセプトを提案する』ことにある。かかる観点での経済性/安全性面での社会変化として下記のようなことが挙げられる。
・経済性…海運の競争激化の中で実海域での船舶性能の向上や気象・海象を取り入れた航海計画の緻密さが求められるようになってきた。
・安全性…IMO/ISMコードにみられるように安全に対し、船陸での管理システムの装備・履行責任が明確に求められるようになってきた。船体について言えば、荒天時安全航法・適切な保守が従来以上に重要になる。
本研究はこうした社会変化の中での要請に対し、設計/運航/保守の船舶の一生を通じて応えていく為に船舶の状態を把握監視していくモニタリングに焦点を充てその技術的手法について研究を実施したものである。
2. 高度モニタリングを実現する上での必要な技術
提案するモニタリングシステムが社会に受け入れられる為には、「できるだけ簡単なセンシグシステム/データの多頻度自動収録と船上での迅速なデータ解析/状態判断と予測のシステム(陸装備)/デジタルデータベースでの船陸間通信」といったことが必要と考えられる。こうした高度な機能を要するモニタリングシステムを実現する為に下記に示すような必要技術の調査研究を実施した。
(1)船舶が遭遇する波浪の特定法の研究
船舶の波浪計化法・波浪通算/推算法・レーダ画面活用法・人工衛星情報取り込み法等について研究を実施した。船体3運動をもとにした簡単な波浪のモニター法(SR233 Simple Wave Monitor)の目処を得た。波向についてはレーダ画面情報の援用により適用範囲・精度向上が見込める。
波浪追算/推算は当該船舶の波浪遭遇履歴の整理・分析や航海計画時の波浪遭遇予測に活用でき、その適用法を示した。
(2)実海域性能データの自動計測・解析システムの開発
船舶の推進性能は波浪のみならず風・潮流・操縦運動等実海域で諸影響を受ける。データの取得・解析を効率良く行う為に、航行中の船舶の運動/運動加速度・船速・舵角・軸馬力/回転数・風向/風速・波浪を対象に5分間ないし1時間間隔でデータを自動収録し船上で自動的にデータを処理する(1次解析)とともに、これらのデータから陸上で風・波浪影響等の解析を行う(2次解析)システムの開発を行った。従来は1日1回程度のアブログ情報程度であるが、本システムによれば各種データの同時計測による相関や多量のデータをもとにした解析の精度向上が見込める。
(3) 構造応答の先端的センシング法の研究
実船計測では電気式の歪ゲージが使われているが、耐久性や防爆性に難がある。そこで光ファイバーによるセンシングや犠牲試験片によるセンシングについて研究を行った。光ファイバーについてはブラグ格子センサーによる多点歪計測が船体構造応答センシングに適用しうる、犠牲試験片(オフラインセンサー)は構造の疲労強度をモニターする上で実用域のレベルで適用しうるといった成果を得た。