そこで、このミキサーダイオードを改善すればS/N比がよくなるわけであるが、それにも限度があるので、この周波数変換器の前に雑音の小さい高周波増幅器をもう一段付け加え、総合的にNFを上げることを考える必要がある。
ところが、数年前までは、レーダーのような高周波領域で使える、雑音の小さい、信頼性の高い、価格も適当な、高周波増幅器に適した半導体素子は存在せず、Sバンドのような周波数の低いレーダーを除いては、マイクロ波帯の高周波増幅器は採用されていなかった。しかし、近年になってガリウム砒素FETが開発され、Xバンド用として、信頼性や価格についても船舶用のレーダーの使用に耐えられるようになった。
従来の周波数変換部は局部発振器にガンダイオードを、混合器にはシリコンのミキサーダイオードを用い、また、これらを接続するための導波管で構成された立体回路を用いていた。
この周波数変換部の、ガン発振器の代わりにガリウム砒素FETの発振器を、カートリッジタイプのミキサーダイオードの代わりにペレットタイプのミキサーダイオードを、導波管の立体回路の代わりにアルミナ基板上に形成したストリップラインによってこれらを接続し、全体を集積化したものを「マイクロ波集積回路(MIC)」と呼び、高周波増幅器を組み込みながら、従来の立体回路系のものよりも小型化されている。
レーダー方程式で示されているように、送信出力を大きくすることと、最小探知信号を小さくすることは同じことである。このことは、マイクロ波集積回路を用いて受信機のNFを改善すれば、マグネトロンの出力を低くしても同じ効果が得られるということになる。このため、マイクロ波集積回路を用いてマグネトロンの出力を低く抑えれば、この部分の発熱も小さく、印加電圧も低くすることができる。したがって、周辺の部品の絶縁耐圧も小さくて済み、全体として小型で信頼性の高いものとなる。
現在のところ、このマイクロ波集積回路のNFは従来のミキサーダイオードに比べて約3dB低いものが得られているので、例えば、5kWの出力のレーダーで10kWの出力に相当する探知能力が得られるということになる。
3・5・4 中間周波増幅器(IF増幅器)
ミキサで作られた中間周波を十分に増幅し、第二検波器でビデオ信号に変換するまでの増幅器で、高周波増幅段を持たない受信機では、この部分が受信機の特性を大きく左右することになる。