空中線は、そのほとんどが可逆の定理を適用できるので、同一周波数に対しては送受信とも同じ能率で使用できる。また、レーダー空中線の重要な特性の一つに、指向性とサイドローブレベルとがある。
指向性は方位分解能を決定し、サイドローブレベルが大きいと偽像を生ずることになる。指向性を作りだすためには、ダイポール空中線を配列したものや光学系のように反射板を使用したものがあるが、このうちのダイポール空中線を配列したものの一つであるスロットアレイ空中線が現在では船用レーダーに最も広く用いられている。
3・4・1 スロットアレイ空中線
導波管の一側面に一定の間隔をおいてスロットを斜めに切り込んで、そこから電波を発射させるが、1個のスロットから発射される電磁エネルギーは少量なので図3・20のようにスロットを多数設け、スロットの傾斜角を変えて鋭い指向性を作り出している。このため、これをスロットアレイと呼んでいる。スロットアレイには、方形導波管の狭い面(H面)にスロットを切ったものと、広い面(E面)にスロットを切ったものとがあるが、前者が水平偏波、後者が垂直偏波の空中線となる。
図3・19(a)において、導波管内壁の電流分布は点線で示す通りであり、スロットが斜めに切り込まれていると、この電流分布をスロットで切るためそのギャップに生じた電界により電磁波が発射される。また、この角度θが大きいほど発射される電磁波は大きくなり、逆にθ=0で発射は零となる。発射される電界ESは、水平方向の電界EHと垂直方向の電界EVとから成っている。いま、隣接したスロットの間隔をλg/2とし、各スロットを逆の傾きで切っておくと垂直成分EVは互いに打ち消し合い、水平成分EHのみが相加わって水平偏波の空中線となる。〔図3・19(b)参照〕
このように集中した鋭いビームを得るためには、多数のスロットを一つずつλg/2の間隔で、それぞれを逆方向の傾きにして、中央部で傾斜角を大きくし、両端ではこれを小さくする。〔図3・20(a)参照〕
電磁波のエネルギーはスロットを設けた導波管の一方の側から給電するが、給電側と反対側の終端は、最後のスロットからλg/4のところに吸収体を設け、空中に放射したエネルギー以外のものはこの吸収体で吸収して、無反射の状態とする。