第1章 緒論
1・1 レーダーとは
レーダーとは山彦の原理と同じである。山彦は音声が付近の山から反射して戻ってくるのであるが、電波を送信したとき、その付近にある物体に当たって反射してきた電波を受信するというのがレーダーの動作である。そのような動作が可能になるには、反射をする物体に対して電波の波長が同じ程度かあるいはそれより短いこと、そして、反射信号は極めて弱くなるので、大電力の送信が必要であるといった技術的な制約がある。
このような技術は第二次世界大戦前に来襲してくる航空機を発見する目的で開発され、戦時中に軍事用としていろいろな分野に使用されるようになり、戦後は一転して平和的な目的にも使用されるようになった。今日、レーダーが民間用に使用されている分野を見てみると、陸上に設置して、海上を航行する船舶の動向や上空を飛行する航空機を監視する交通管制用のレーダー、雨や雷雲を探知するための気象用レーダー、ロケットや人工衛星を追跡する宇宙開発用レーダー、航空機に搭載して気象や地形を求めるための気象レーダーや電波高度計、さらには自動車の衝突を探知してそれを防いだり、車内のエアバッグを膨らませて人命を助けるレーダーあるいは、自動車等の高速で移動する物体の速度を瞬間的に計測するためのレーダー等も開発されている。
船舶用のレーダーは、わが国では昭和25年8月から導入が許可され、最近では、数トンの小型船にまで装備されるようになってきた。したがって、船舶用のレーダーは、いろいろな種類のレーダーのうちで最も数の多いものとなっている。この船舶用のレーダーは3〜4秒に一回転をする空中線から垂直方向には広く、水平方向には狭い電波ビームを極めて短時間〔1マイクロ秒(μs)すなわち百万分の一秒程度で、このような短時間の信号波形をパルス(Pulse )という〕ずつ、毎秒約 1,000回繰り返し送信をする。その電波の波長は3cm〜10cmであっていわゆるマイクロ波である。
この電波は直進して、その方向に船や陸地、あるいは雨域や波浪のようにレーダーの空中線に対向している部分があると反射されて戻ってくる。電波の波長はその信号のパルス幅を仮に1μsとすれば 300m,0.1μsとすれば30mの長さをもった形となって進んで行くので、反射をする二つの物体がそのパルス幅に相当する距離の半分以上離れていれば、別々に分かれた反射波として識別することができる。