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 (2)個人差
  幼児の心身は個人差が著しい。同年齢のクラスといっても、その中には約1年の年齢の開きのあるものが同居している場合が 多いし、一人ひとりの家庭生活の背景が異なっている。にもかかわらず、一斉指導の中では、とかく誰が誰よりよくできるなどと個 人間比較をしがちであるし、またクラス全体をあるレベルまで持って行こうとして無理をしがちであるが、このようなことは幼 児の個人差を無視したものといえる。大事なことは、一人ひとりの子どもが、その子どもなりに、どのように伸びたかという個人 内変動に注目することである。

 (3)指導の進め方
  一般的には易しいことから難しいことへ、単純なことから複雑なことへという方向で、積み重ねが大切とされている。 しかし、次のことにも注意すべきである。
  幼児の運動の中には、この運動ができなければ次の運動はできないという性質のものがないではない。しかしその数はそれ ほど多いものではない。それよりも、ひとつの運動が完全にできなくとも、次に異なった運動に進み、次々と遍歴している間に、い つの間にか元の運動に帰った場合に、元の自分より遥かに高い位置に立っており、「何だ、こんなにやさしいことだったのか」と 思うことがよくある。こうした、らせん状の段階的発達をすることが多いので、あまり完壁主義に陥らない方がよい。
  1回の運動実施時間の中では、運動量の多い活発な種目と、比較的動きの少ない種目とを交替させるような配慮も必要であ る.例えば、「かけっこ」と「棒つかみ」、「ボール蹴り」と「鉄棒」など、適切な運動の組み合わせを考えておくのがよい。

 (4)施設・用具
  施設・用具は幼児の体力、運動能力、運動技能の発達に影響する。幼児の手は小さい。小さい手だから小さいボールを与えた 方がよいと思われがちだが、小さいボールを与えるよりも大きいボールを与えた方が、はやく正しい横向き上手投げのフォーム をおぼえて、投げる距離も伸びる。
  重いゴムの大型ボールしかないところでは、ボールを蹴るとき足が痛いので、蹴り動作をやりたがらないため、キックカは伸 びない。ボール蹴り遊びで、ゆるく転ってきたボールを蹴っていたものは、より速く転ってきたボールを蹴りたがるようになるし、 ビニールボールを蹴っていたものは、より重いゴムや皮のボールを蹴りたくなるものである。
  鉄棒の高さも問題である。これが高い場合には、鉄棒にぶら下がってその下で行う「しり上がり」や「脚抜きまわり」に適 しており、懸垂力が向上する。しかし、その反面、鉄棒を中心としてそのまわりをまわる「前まわりおり」や「さか上がり」には適 していない。これらは低い鉄棒の方が適している。
  とびばこも、箱の奥行きを短くすれば、男児も女児も喜んでとぶし、とぶ高さもどんどん高くなる。

 (5)調整力を高める運動あそび
  各種の運動あそびの中で、とくに調整力の向上に役立つことが実験的に明らかになった種目を以下に掲げる。


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