図1の脚伸展パワーの比較から明らかなように、本研究の調査2の被検者の脚伸展パワー値は全般に高いレベルにあり、また最
大等尺性脚伸展筋力も先行研究11)と対照すると、比較的高いレベルであった。調査2の被検者の一部は週に1、2度定期的に運動を
行っており、万歩計を用いて1日あたりの総歩数を測定した結果(岩岡、未発表資料)では、平均12000〜13000歩/日の身体活動量を
示した。また、調査2の全被検者とも、健康や体力に関して高い興味・関心を有しており、きわめて健康的な日常生活を営んでいる
母集団であったことは方法の項で示したとおりである。したがって、調査2で対象とした都市部居住の高齢女性は比較的高い体力
レベルの被検者群であり、そのため“日常生活動作の遂行に支障を来たす体力レベル”を検討するための研究報告としては、
Yoshitakeら13)が提案している下限値である“9W/kg”を間接的に支持する結果にとどまったものと思われる。
なお、調査1では“支障あり”群に1つ以上の項目に支障を感じる被検者と転倒経験があると回答した被検者が含まれており、
両者を分離した分析まで行っていないため、“支障の有無”と“転倒の有無”の関係についての考察に若干、欠ける点があること
は否めない。調査2の結果から類推すると、比較的高い体力レベルの被検者では日常生活動作の遂行に支障を感じなくても転倒す
る可能性が考えられる。体力レベルが低〜中程度の被検者において両者の関係がどうなのかについては、さらに検討すべきであ
ろう。
本研究で得られた結果から、脚伸展パワー(両脚)が男性では14W/?前後、女性では9W/kg前後より高ければ、通常の日常生活動
作を支障を感じずに遂行することができる可能性が高いと考えられる。同様に、膝伸展筋力(両脚)では男性が1.0kg/kg前後,女性が
0.8kg/kg前後がひとつの目安と考えることも可能であろう。これらの数値にみられる男女間の差異については、身体組成の影響な
ども考慮に入れて、さらに検討する必要があるものと思われる。
また、“転倒あり”群が“転倒なし”群より脚伸展パワーや膝伸展筋力が高い傾向を示した調査2の結果は、他の日常生活動作と
“転倒"が必ずしも同じ次元に分類されないものである可能性を含んでいる。一般に、脆弱な高齢者の場合には下肢筋群の筋出力
能力と“転倒”との間に密接な関連があると考えられているが、比較的体力レベルの高い高齢者の場合には下肢筋群の筋出力が
必ずしも一義的に“転倒”問題に影響をおよぼしているわけではない。
筆者ら5)は、バランスを崩しやすいと自覚している高齢者の方が10m歩行速度が高く、脚伸展パワーが高い傾向にあるという、
一見矛盾した結果を過去に報告しており、本研究の調査2で得られた結果(“転倒あり”群の方が“転倒なし”群より脚伸展パワー
や脚筋力が高い傾向にある)はこの先行研究と一致している。歩行速度が高いためによりバランスを崩しやすいのか、あるいは脚
筋力が高いなどの直線歩行の能力とバランスを崩して転倒に至るなどの姿勢保持能力との関係を考えるにはさらに詳細な情報
が必要なのか等については、今後さらに検討する必要があろう。
Fig. l. Leg extention power classified by the subjective complaints.
謝 辞
本研究は一部、三重県南勢町の研究助成(南勢町スタディ)を受けて行った。記して、深く感謝する。
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