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「あやめ」あらすじ

〈第1景〉 晩秋のほのかな陽射しに溢れる東海道。
若い武士の時次郎は、顔なじみの老爺に呼び止められた。時次郎の恋人あやめの一家が、父親の死によって俄かに零落し、乞食同然の境遇に陥ったので、時次郎との恋も実らないかも知れない……というのだ。世慣れた老爺は更に、「この世は流れる水にも似て、淵瀬に浮かび且つ消えるうたかたのようなものだから余り思い詰めない方がよい」と諭す。折しもあやめを乗せた駕籠が、茶屋の前でとまる。あやめは吉原に身を沈めて、一家の窮乏を救うために金子を作ろうというのだった。駕籠を出たあやめが抱え主の山名屋に迫られ、証文に栂印を押そうとするのを見た時次郎はもう我慢ができない。刀にかけても証文を……とい豹たつが、あやめは「刀では再び駕籠に乗る。荘然と一行を見送った時次郎は刀を鞘におさめる拍子に、ふと懐中の重い財布に触れた。ご主人からの預り金だが……そうだ、これさえあれば……時次郎の暗い胸に一筋の光りがさす。

〈第2景〉 江戸に出ると時次郎は、山名屋に行き、例の金子を差し出してあやめの身請けを交渉するが、世間を知らない時次郎は山名屋の相手ではない。金子は巧みに巻き上げられ、彼は絶望のどん底に落ちる。委細を悟ったあやめは、山名屋にかけあい、再び身を沈めて金子を取り戻し、自分との恋を諦めて故郷に帰るように時次郎に頼む。しかし時次郎にとってあやめは生命、あやめ無しでは生きてはいかれない。「逃げられるだけ逃げよう」という時次郎の情熱にほだされ、手を取り合って出口に向かうと、はや追っ手が廻り、あやめは捕えられてしまう。

〈第3景〉 小止み無く降りしきる夜の雪……その夜、覚悟を決めた時次郎が山名屋に忍び込むと、あやめは庭の松の木に縛られている。二人は改めて永遠の変わらぬ愛を誓い合うと苦悩に満ちたこの世へ、最後の別れを告げるのだった。

 

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