研究の概要
当財団は、財団法人日本船舶振興会(日本財団)からの補助を受けて「へき地住民の健康増進に関する研究等」の一環として、地域、へき地の疾病構造の特徴やその対策に関する研究を行うとともに、脳血管障害、血液疾患及び悪性腫瘍等の成因の検討と早期診断法の開発などのテーマのもとに、調査及び基礎的研究を行ってきた。これによって生活習慣病や難病の地域における実態の理解が進み、地域での保健、医療、福祉を如何に進めるべきかの基本となる資料が蓄積されてきた。さらに、へき地医療に関する各種資料の収集、地域の医師、コメディカルスタッフ、地域医療関係職員の研修を通じて、総合的な地域医療の質を高めることに主力を注いできた。
近年、医師過剰時代を迎えたといわれながら、へき地医療はなお多くの問題を抱えている。第1にへき地医療にたずさわる医師数は依然不足している。第2には地域に供給される医療の質的な格差である。「へき地住民の健康増進に関する研究」の目的は、量的にもまた質的にも医療の供給の偏在を如何に改善し、国民が平等に医療の恩恵に浴することが出来るためには、どうずれば良いかという指針を得ることである。このため、本研究プロジェクトでは、へき地における疾病構造の特性の解明と解決のための方策を探る一方で、地域に質の高い医療を供給するための基礎的な研究を行ってきた。質の高い医療とは単に医師による医療ではなく、看護、介護などコメディカルによる医療も包含する。
本報告書は、平成10年度の研究プロジェクトの成果と研修プログラムの実施状況を取りまとめたものである。研究プロジェクトとしては、平成10年度は前年度に引き続き「へき地医療の実態調査と好発疾患の発生機序に関する研究」のテーマのもとに、11の具体的な課題について研究を行った。研究プロジェクトを担当したのは自治医科大学の基礎医学、臨床医学、地域医学、総合医療の研究者に加えて、全国各地での地域医療の第1線や厚生行政で活躍する自治医科大学卒業生であり、調査活動の対象となる地域も広範囲にわたっている。さらに、本年は自治医科大学短期大学の研究者からの報告も含む。
2000年からの介護保険の実施を控え、在宅医療の現状を知り、対策を講ずることは急務である。本報告には自治医科大学のシステムの利点を利用した、在宅患者の健康問題に関する横断的調査報告が含まれる。これと関連して、在宅高齢者の看護には介助者の精神的健康度に関する調査も重要な情報を提供する。また、排尿障害改善のための看護介入に関する報告は予備的であるが、将来を先取りする問題である。痴呆症の危険因子に関する検討や、食事内容が高血圧のコレステロールに及ぼす影響に関する調査など、地域における生活習慣病に対する状況の把握に役立つであろう。ありふれた疾患に対する対処・治療に関する調査研究は、地域において行われている医療の現状を垣間見る資料である。
本報告には更に地域で見られるまれな遺伝性疾患の遺伝子解析、LDL亜分画の地域格差に関する報告や、カラードプラによる下肢血流量と動脈硬化度の関連をみた検査法の開発利用の報告も含まれる。これらの先端的の知識は、地域での医療の質を高める上で重要である。
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