
まとめ
ホスピスにおいても,多くの場合は癌の浸潤により食事も内容,量,好みなどに制約を受けることになる。これに加えて病気の進行に伴う不安や抑鬱などの要因が摂食行動に及ぼす影響も大きい。このような場合 「嗜好に合ったものをお出しする」「食べやすい形態に調整する」といった調理内容に関わる対処的な対応を行うことが一般的である。しかし,今回の症例にみられるように,摂食行動を妨げている原因の分析とその対策をプランすることが時として重要となることを認識すべきである。また,場合によっては,患者さんも自身の症状緩和に積極的に関われるということを見出すのも療養生活のQOLの向上に貢献できると思われる。
ホスピスケアにおいて,食事へのサポートはエネルギーや栄養補給というライフラインを維持する生理的意味を超えた役割を果たしうる。これについてスタッフは多くの選択肢を持つ支援の用意が必要である。しかし,一方では食事や摂食を負担と感じる患者さんも多く経験するところである。つまり,時間経過とともに変化していく患者の多様なニーズに沿った対応がとれるか否かが,ホスピスで過ごす時間の充実に影響を与えるものと考える。
最後に,M夫人が後に,私たちに残された食事に関するメッセージをご紹介したい(表8)。
表8 M夫人のメッセージ
亡くなる2日前の昼食は,面会にきた知人と一緒に食堂でとりました。
それまでは,徐々に体力が失われシャーベットと少しばかりの食事を病室でとるばかりになっていましたので,主人は自分にもとうとう食べられない時期が来たかと落胆しておりました。
たまたまその日は,体調も良く,誰よりも早く出されたものを全て食べて,皆で驚いたことを思い出します。
ホスピスの食事で良かったことは
1.家族や面会者と同じ食事がとれる。
2.食事そのものが,楽しみである。
その時の様子をビデオに収めたものを時折見ますが,今となると亡くなる2日前にこのようなことができたことが信じられないほどです。しかし,結果的にはそれが家族全員で囲んだ最後の食事となりました。
参考文献
1. 食事と栄養−これからの方法,ターミナルケア,p141−p183,Vol.2
No.3 March,1992年。
2. 上田政和・遠藤昌夫:癌悪液質とサイトカイン,医学のあゆみ,p375−p374,Vo1.173
No.5, 1995年。
3. たいらまさお:がん病棟周章狼狽記,草思社刊,1992年。
4. 江國滋:おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒 江國滋闘病記,新潮社刊,1997年。
5. 日野原重明・猪狩友行監訳:緩和ケアのサイエンスとアート,財団法人ライフ・プランニング・センター刊,p77−89,1997年。
6.吉谷須磨子:食摂取機能が障害された患者への援助,臨床看護,p37−43,1996年1月。
7.武田文和訳:末期癌患者の診療マニュアル 痛みの対策と症状のコントロール,医学書院,p49−p84,1991年。
第22回日本死の臨床研究会年次大 1998.11.佐賀市
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