

食事が患者のQOLに与えるもの
ホスピスに入院してある期間を過ごされる場合や,在宅で一時期を過ごされる方には,その方の生き様に触れるエピソードが食事を通しても生まれることがある。
ここで,経管栄養からの離脱が困難といわれた症例の経過と,経口での安定摂取が患者のQOLに及ぼした影響について報告したい。
1.Mさんのプロフィール
Mさん60歳・男性。原発腫瘍部位は膵体部であり,それにより膵臓を広汎に切除している。同時に脾臓摘出,腸管神経も大きく切除され,術後の問題として,1日20回を超える便意にみられる困難な排便コントロールと消化吸収障害,また膵切除による耐糖能異常があった(朝食前30分血糖値180―200mg/dl)。表4は入院当初の問題点のリストである。臨床的には低栄養状態と困難な排便コントロールが上位の問題点であるとされ,前医では,成分栄養エレンタールを用いての経腸栄養を栄養補給の主体(1日600m1〈600kca1〉で38ml/時間の流量を維持する)と位置づけ,夜間の流量を増やすことで昼間のADLを図る方針が立てられていた。しかし,ホスピスのケアスタッフは夜間の経腸栄養注入により尿意が頻繁なために不眠を招いており,強い腹部の膨満感や,下痢の一因が経腸栄養にもあると考え,その減量と経口摂取の安定をより上位の目標に位置づけていた。そして,何よりも本人がホスピス入院時に希望していたのも,食欲不振の改善であった。
表4 Mさんの問題点
#1 食欲不振
Plan ゆったり過ごせる環境を提供し食欲を促してゆく。
#2 排便コントロール
#3 消化吸収障害
Plan 経管栄養を減量し,経口摂取をすすめ,栄養状態を
可能な限り改善する。
#4 耐糖能異常(膵広汎切除による)
Plan 血糖・エネルギー・体重の自己チェック
#5 気分の落ち込み
#6 積極的治療かホスピスケアか家族内での意見の不一致
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