そのためには,心臓側の条件は変えることはできないので,カフの下方の条件を変えてやればよい。カフで上腕の動脈が完全に圧迫されているとき,カフ下方の血管内には血液が残っているが,そのときの血管内圧はその血管系の容積と血液量によって決まる。血管系の容積を規定するものはとりも直さず血管壁の緊張であるから,この血管壁の緊張を下げ,血管内の血液量を少なくしてやれば,前腕血管の内圧は低下し,K音が大きくなるはずである。
先にも述べたように,ゆっくりカフ圧を下げていくと,上腕の静脈が動脈より先に圧迫されるので,前腕へ向けて血液はどんどん流れこむ。そのために前腕の血管内圧は上昇し,したがってカフ上下の内圧の差が小さくなるのでK音は減弱し,雑音も出にくくなる。このような理由で聴診間隙が生じてくる。
また,手を下げたままの状態でカフ圧を上げるということがよけいうっ血を起こすことになる。したがって手を心臓よりも上のレベルに挙上して,この静脈側の血液を心臓へ戻した後にカフ圧を上げて完全に動脈を閉塞してから,測定部位を心臓の高さに戻して測定すればよい(図54)。
もうひとつの方法では,前腕の血管の緊張をとって拡張させる。痛み,不安,そして恐れや不快を伴うときは,交感神経が緊張して血管が収縮するので,前腕血管内圧が高まり,K音は聴きとりにくくなる。従って,手を開いたり閉じたりすると前腕の血管の緊張はとれて内圧が低下し,K音は増強されてS2で雑音が生じてくる。これらのことから,上肢を挙上させ,手を開いたり閉じたりすることで,血管音が著しく強く大きくなり,K音の五つの相がはっきりと区別されるようになる。
これらの種々の測定法によって得られたK音をテープに記録して,2人の検者に同時に聴かせながら血圧値を読みとらせて比較してみたものを表3に示す。
第1には,通常の方法で,座位で血圧を測定する(?)。第2は,手を上へ上げ,そしてカフ圧を上げてから腕を戻して測る(?)。