だんだん呼吸数が少なくなり,脈が少なくなり,脈が触れなくなっていく中で,お兄ちゃんが,「お母さん,9年間ありがとう」と耳元でささやきました。そうしたら,そばにいた7歳の弟さんが「ママ,7年間ありがとう」。これが子供とお母さんとの最後のコミュニケーションでした。お母さんとの心のつながりは彼らの生涯の間ずっと続いていくことでしょう。そう思いますと,人間が最後を迎える環境や雰囲気はとても大事なことではないでしょうか。人生の9割が非常に幸福であっても,最後がみじめな状態であればどうしょうもないのです。「終わりよければすべてよし」のシェークスピアの言葉通り,最後の時が祝福されていれば死もまた決して悲しみだけではないということを,私は実感させられました。
感性を磨くこと
ボランティアになる人は,どうずれば自分の人間としての感性が深まるかを心に留めておいていただきたいと思います。絵とか音楽などの芸術はもちろん人間の感性を高めるものではありますが,人間に対して皆さんの感性を鋭敏にするにはどうすればよいかという日頃の皆さんの訓練と配慮が,ターミナルの患者さんに接する場合には欠かすことができないものであることを申しあげておきたいと思います。
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