読んで聞かせるというのではなく,ただそばにいてあげて,じっと本を読んでいる。その姿を見て,この男性は死んでいく老婦人のそばに定期的に来て,そして一緒の時間を共有しているのであり,やはりそのことが死んでいく人に対しては非常に心の支えになっているのではないかと思えるようなシーンでした。「どうですか?」「不安ですか?」などと問いかけないで,ただそばにいてあげるということが非常に大きな意味をもっていると思われる現場を目にして,私は,ボランティアというのは,何か積極的にしなければならないというように思いがちですが,そこにいること自体が心の支えになるものなのだと改めて実感させられたのです。
ある場合には,かわいがっていたペットを連れていって,抱かせてあげることが心を安らかにすることもあるでしょう。「またあさってペットを連れてきますよ」と言うと,翌日になると「もう一晩寝たらペットを連れてきてもらえる」という小さな望みが胸に灯る。あしたペットを抱くことができると思うと,今日を希望をもって生きることができる。ホスピスにいる患者は長く生きることはできないのだけれども,まだいのちが許されている今日,明日という日に,何かの小さな希望でも与えることがとても大事なことなのです。
そういうことを胸において,ではどのように振るまえば癒しの関係において自分の存在がその患者に意味をもつようになるかということを考えなければなりません。こういうことを皆さんに申しあげたいわけであります。
共感できる能力
さて,共感することについては,ストーンという医師は,自分の本の中で,ノーザンという人が“共感”を次のように定義していると紹介しています。
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