この頭痛は高血圧のためであったということにする。ところがこの人は以前からこのくらいの血圧値であったのかもしれない。今の頭痛の原因は,よく聞いてみると息子が4度目の医師国家試験を受験して明日その発表がある。だからお母さんとしてはハラハラドキドキして頭痛に襲われたのかもしれません。ですからそれは息子が試験に通れば通ったで,ダメであればまたそれであきらめるから,血圧も下がり,頭痛もとれた。
つまり,血圧が高いというデータは,本当の診断をつけるためのデータではないのです。それを客観的なデータだと考えるところに間違いがある。血圧が高ければ高血圧症だというところに間違いがあるのです。血圧は誰が測るかによって違うし,どういう時間に測るかによっても違います。それなのに一度の血圧測定だけで高血圧と決めて,チャートには「本態性高血圧」と書く。本態性高血圧というのは高血圧症の9割以上を占めるもので,本態がわからない高血圧だからそういっている。血管の狭窄による高血圧や副腎の腫瘍による褐色腫等の場合には手術によって治りますから,外科的高血圧といいます。本態性高血圧には何か遺伝子が関係しているかもしれないともいわれていますが,双生児の片方が高血圧になってももう一方はならないということもある。では,環境が関係しているのか。実に不明な点がいまだにいくつもあるのです。
ウィリアム・オスラーは,100年ほど前に「医学は不確実性の科学である」といいました。医師はたいていの病気に薬を処方しますが,その薬がどの程度に効いたのか本当はよくわからない。
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