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■事業の内容

本事業は当協会の設立目的である「人と自然」、「都市と自然」との共存・共生に関する活動の実践的展開の一環であり、公益的自然保護事業活動の根幹をなすものである。本申請は「里山の保全と活用」に関する普及と啓発、及び指導者の養成並びにプロジェクトによる研究と市民ボランティアの育成を目的とするが、同時に我が国が提唱し、1987年に宣言した「持続可能な開発」の国際的普及をも視野に入れたものである。
(1) 里山管理指導者の養成
[1] 実施内容
本講座は「里山の保全と活用」に関する活動の基本となるもので、農業構造の変化や人手不足などによって、荒廃のいちじるしい都市近郊の雑木林(里山)を再生、整備、活用するための指導者を養成することを目的とするものである。
マスメディアなどを通じて広く一般市民に呼びかけ、地元林業家を含む経験豊かな講師・指導者による講義(座学)と、実際の現場実習によって基礎的な技術の習得を行い、終了後の研修によって技術的にも高度な指導者を目ざした。年3回(初級・中級・上級)の講座と1年間(6〜10回)の現地研修を終えた者に修了証を授与し、指導者(リーダー)登録を行い、各種アクションプロジェクトを組織するなど、活動推進の場を提供する。また、優秀な指導者を「里山委員会」の推薦により、各地の自治体や団体、企業などの実施するイベント、事業活動へ派遣する。
[2] 実施日時
a.平成 9年 5月17日〜18日
b.平成 9年11月15日〜16日
c.平成10年 2月 7日〜 8日
[3] 実施場所
大阪府豊能郡能勢町宿野「大阪府立総合青少年野外活動センター」
[4] 講師・指導員
講師=3名(延べ9名) 指導員=10名(延べ30名) 特別指導員=1名 事業事務局=1名
[5] 参 加 者
延 126人(一般市民・自然保護団体・野外活動指導者・行政担当者等)
[6] 実施内容
a.座   学
(a)里山とは・里山の成立と変遷・里山の自然(生態学)
(b)里山景観の維持と管理(管理計画・管理技術)
(c)平板測量の方法・植生調査の方法
(d)市民参加と市民組織(各地・各国の経験から)
b.実   習
(a)植生調査の実際(夏期)・平版測量(秋期)
(b)林床の管理・樹木選択刈り・畦畔の管理(柴草刈り)
(c)間伐・大径木の伐採・枝打ち・玉切り・用材づくり
(d)動力機器(チェンソー・草刈り機等)の取り扱い(技術と安全)
(e)自然観察路作り(土木工事)
(f)炭焼き実習(冬期)・きのこ栽培(研修過程)
[7] 研修・活動場所
イ.各講座を受講後、当協会の研修地にて月1回の実地研修を行う。
ロ.研修地=大阪府豊能町(約4ha)・太子町(約20ha)・八尾市神立、その他
(2) 里山・公園管理プロジェクト
[1] 実施事業名
「市民による(里山)講演の景観管理」
[2] 実施目的及び内容
本事業は「里山の保全と活用」に関する具体的取り組みの一つとして、近年各地の自治体が最も注目している活動である。身近な公園緑地の少ない我が国では、里山を都市住民の「身近な自然」として計画的に確保することが重要となっており、市民のレクリェーションや子供達の自然体験、自然学習の場として、また高齢化社会の到来に対する「生きがい」や健康維持などのために活用されることが望まれている。
一方、我が国では市民の社会活動参加の制度や場が少なく、英国をはじめ欧米諸国と比べ極めて未成熟であると言える。そこで我々は先進国から学びつつ、市民の余暇活動の一つとして国及び地方自治体の管理する「里山・田園型公園」(都市公園)や「自然公園」の一部をそれぞれの管理計画に基づいて整備を行い、より豊かな自然の復元と市民に親しまれる公園づくりをおこなった。
実施に当たっては所轄管理者の合意のもと、その指導に基づいて実施した。
[3] 実施の方法
a.機関紙・会報・チラシ等のほか、マスメディアなどを通して広く一般市民(府民)に呼びかけ、プロジェクトチームを結成した。
b.プロジェクトチームは1年間継続するものとし、公園管理者の指定する場所において、(里山)公園の景観維持・復元・植生管理などの作業を行う。
c.実施に当たっては、専門家や「里山管理指導員」によって事前に講習を行い、目的技術・安全などの徹底をはかる。
d.実習・作業は各班5名編成とし、それぞれ1名の指導員と若干名の連絡・記録・雑務係などによって運営される。
e.講習及び実習に必要なテキスト・道具類・消耗品は貸与又は支給した。
[4] 実施日時
年11回 各1日
[5] 実施場所
大阪府池田市「五月山緑地」
[6] 講師・指導員
講師=2名(講座4回) 指導員=11名(実習11回)
[7] 参 加 者
延 436名
[8] 実施内容
a.室内講義
(a)里山とは・里山の成立・里山の現況
(b)五月山(里山)の歴史と自然
(c)公園の景観維持と植生管理・植生調査の方法
(d)管理技術と安全(道具の使い方・安全作業について)
b.実習作業
(a)森林整備作業(草刈り・枯れ倒木の整理などの林床整備)
(b) 〃 〃  (間伐・樹木の選別刈りなどの景観管理)
(c)遊歩道・木柵・木道の補修(間伐材等を利用して杭づくりなど)
(d)清掃その他、景観の維持・管理・復元に必要な補助的作業
(3) 稲作生態系保全プロジェクト
[1] 実施事業名
「休耕田を利用した水生昆虫のピオトープの創造に関する研究」
[2] 継続実施の目的
我が国の自然の多くは、過去の人間とのかかわりの中で、その多様な気候風土と独特の農業的土地利用によって、多様かつ複雑な生物相を育んできた。中でも、ため池、水路、水田などからなる伝統的な稲作の水系は、水生半翅類、水生甲虫類、トンボ類など多種多様な水性昆虫類の温床であった。しかし、現在ではこうした稲作水系はコンクリート護岸や圃場基盤整備、あるいは生活排水や農薬などによる水質の汚濁・汚染などで絶滅に瀕する生物も多い。また、中山間地域では、手間のかかる谷津田や棚田自体が放棄されている。そのため、かっての稲作水系に豊富に見られた水性昆虫の中にも、タガメやケンゴロウ、ハッチョウトンボなどのように、全国的に急激に減少してしまったものもいる。本研究では、中山間地域の休耕田に水深、管理方法などの異なる浅いため池(湿地)の実験区を造り、昆虫類を中心とする水生生物の種数や個体数などの推移を継続的に調査して、今後の水生昆虫のためのビオトープづくりの基礎データを集積する事を目的とするものである。
次年度(平成9年度)は、今回実施中の調査研究を更に発展させ、調査池に発生した水生昆虫の微小分布を底質、水流、日照、水温、植生の粗密など、より微小な環境要因と関連づけて解析したい。また、今回周囲の水田等に見られたが、調査池では発生しなかった種についても、その原因を調査・観察して明らかにした。
[3] 実施方法
平成8年度に大阪府豊能町の休耕田に水を引いて造ったため池を維持し、基本的には1年目からの継続調査を行う。すなわち、人為的に生物を持ち込むことはせず、春から秋まで、原則として月2〜5回、水中および水辺の生物の種数と個体数を調査する。また冬季には昆虫類の越冬状況の調査を行う。調査池を深水・除草区、深水・放置区、浅水・除草区、浅水・放置区の4区も継承するが、各区をさらに小さな区画に分け、底質、水流、日照、水温、植生の粗密などの微小な環境要因が水生昆虫に及ぼす影響を評価できるようにする。また、調査池の周辺にある水田等でも簡単な見取り調査を行い、調査池で見られない種については、侵入出来ない原因について検討を行う。特に、周辺の水田に生息するのに調査池に確認されていないコオイムシについては、成虫の飛翔能力について、研究室でも実験も実施した。
[4] 実施日時
平成9年4月〜平成10年3月
[5] 実施場所
大阪府豊能町・その他
[6] 実 施 者
研究責任者 大阪府立大学農学部昆虫学教室 石井実
研 究 員 同上 石井亘
  〃 同上 小林幸司
  〃 大阪自然環境保全協会プロジエクトチーム 石井 栄 他 4名
実施協力者     〃    里山管理指導員 長岡一夫 他10名
[7] 報 告 書   A4判 80ページ 500部

■事業の成果

今日、地球環境の汚染と自然破壊が世界的な問題となり、人類の歴史に暗い影を落としている。欧米諸国やわが国などの工業先進国では、既存の環境保護・保全政策だけでなく、まもなく迎える21世紀とさらなる未来に向けて、人類の「持続可能な開発(発展)」をどのように保証するかが重要な課題となっている。一方、市民の環境に対する意識の高まりはグローバルな問題だけではなく、ライフスタイルの見直しや「身近な自然」への関心の強さとなって現れている。
 我々はこのような状況をふまえ、1983年から身近な生物生態系の保全を前提とした「里山の保全と新しい活用」を提唱し、その普及と啓発に取り組んできた。この提案は、自然保護運動に於ける新しい展開として、都市近郊の“みどり”の保全ばかりでなく、都市に於ける自然復元(ビオトープ)運動や各地の「まちづくり」「むらおこし」運動等としても大きな広がりを見せている。さらに「故郷の野山=里山」の活用は、高齢化社会を迎えての健康維持や生きがい、青少年の自然体験、自然学習の場や日本の伝統的文化(伝統行事や祭りなどを含む)や伝統的技術の継承など、まさに民族文化の見直しを機軸とした「新しいライフスタイルの確立」運動としても、その可能性を示唆するものである。
 このように市民参加による「里山・田園景観(環境)の保全」運動は、国民的ボランティア活動による様々な運動を展開している英国など欧米諸国でも注目している。中でも我が国の伝統的農業技術による環境保全運動の手法は、「持続可能な開発」のモデルとして国際的にも高く評価されており、その成否が注目されているところである。
 一方、「里山」は本来、水田農耕を営む祖先の生業と結び付き、我が国特有の気候風土のもとで成立したものである。そのため、保全と維持・管理には多くの人手が必要である。昨今、これらの活動に「余暇活動」や「生きがい活動」などとして、参加を希望する声が急速に大きくなっている。
 そこで我々は、日本の四季を彩る美しい「里山・田園景観の保全」と、メダカやトンボに代表される「身近な生き物の保全」、そして竹細工や藁細工などの我が国の「伝統的(里山)文化の保全」など、それぞれのテーマに基づくプロジェクトを組織して、市民(国民)の要望に答えるとともに、全国各地からの指導者の派遣要請と、市民ボランティアの育成の要望に答えることにしたものである。本事業は国内における自然環境保全事業に資するだけでなく、我が国の伝統的手法による新しい環境保全技術を確立し、その国際的な普及・啓発に取り組む事により、21世紀を展望した新たな環境ネットワークづくりに寄与するものと期待できる。





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