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■事業の内容

近年、我が国は港湾工事量の減少と作業船の建造量減少という状況に直面している一方で、海外、特に東南アジアに目を向けると、大型の港湾工事プロジェクトが各国で推進されている。そこで、我が国がこれまでに蓄積してきた作業船と港湾工事に関する技術・ノウハウを発展途上国において活用する方法・手段を調査する目的で、平成8年度に引き続き、本年度も昨年同様3ヶ国を対象に作業船の需要動向調査を実施した。
 [1] 作業船需要動向調査委員会設置等
  [1] 作業船需要動向調査委員会
    作業船の需要動向調査を円滑に実施するため、当協会会員(作業船建造者、関連機器製造者、作業船運航者)の専門家及び海外技術援助に関与する関係官庁・諸団体並びに学識経験者より構成される本委員会(14名)と海外調査作業部会(7名)を設置し、作業船の需要動向調査を実施した。
  [2] 報告書作成
   a.題 名  作業船需要動向調査報告書及び同別冊
   b.規 格  A4版、白表紙
   c.部 数  報告書60部(55頁)、別冊40部(285頁)
   d.配布先  運輸省と地方機関、委員会メンバー他
[2] 海外調査
   当初の調査対象国は、タイ国、カンボジア国及びフィリピン国の3ヶ国であったが、そのうちカンボジア国について、同国の国内状況の都合により取りやめ、代わりにインド国を調査対象国として、下記のとおり調査をおこなった。
  [1] インド国:平成9年11月30日から12月9日まで
    インド国調査団(3名)は日本大使館、JICA、インド運輸省、インド浚渫公社等の関係機関で調査すると共に、ヴィサカパトマム港等の港湾施設、作業状況を調査した。
  [2] タイ国:平成9年12月14日から12月21日まで
    タイ国調査団(3名)は日本大使館、JICA、タイ国運輸通信省、タイ国港湾局等の関係機関で調査すると共に、バンコック港、レムチャバン港及びソンクラ港等の港湾施設、作業状況を調査した。
  [3] フィリピン国:平成10年1月25日から2月1日まで
    フィリピン調査団(3名)は日本大使館、JICA、アジア開発銀行、フィリピン国運輸通信省、フィリピン国港湾局等の関係機関で調査すると共に、マニラ港、スービック港、セブ港等の港湾施設、作業状況等を調査した。
 [3] 英文作業船要覧の海外配布
   英文の作業船要覧は平成8年度に作成し、在日大使館、領事館等に配布した。その際、本国政府機関に配布希望のあったところに対して、同要覧を配布した。
■事業の成果

本年度の実施内容は、アジア地域の作業船需要動向調査が中心となった。そして、当初計画である3ヶ国のうちカンボジア国が同国の国内事情から調査対象から外れ、代わりにインド国を対象国に選定し、予定通り3ヶ国の調査を実施した。
 二年間の調査結果を総括して言える成果は、次の点である。
[1] 調査した6ヶ国はいずれも経済発展のために欠かせないインフラとして港湾の整備を重視しており、大規模な外国貿易港湾を建設中或いは計画中である国が多い。従って今後、それに伴う大量の港湾工事が発生する潜在的可能性が存在していると言える。しかしながら、東アジア地域を直撃した通過危機による国内経済の混乱や国際通貨基金(IMF)が課している厳しい融資条件などによって、こうした大規模なインフラ投資を推進する力が国家財政からは失われてしまった。
   他方、ASEANに属する諸国は、これまでの高い経済成長率を通じて人口1人当たりの所得水準が向上し、ODA受取国から順次卒業の時期を迎えており、無償やソフトローンなど、有利な援助資金の入手が困難となりつつある。以上の結果として、これらの国々は港湾等のインフラを民営化することによって、国家財政への需要圧力の低減を図ろうとしているのが現状である。
 [2] 作業船は港湾建設工事や港湾施設の維持等に必要とされるものであるが、これらの国々では従来港湾の建設・管理・運営・維持が国又は国に準じる公的機関の直轄事業として行われてきたので、作業船の所有・管理・運用もしばしば集中的な直轄方式で行われてきた。しかしながら、国等公的機関による直轄方式の非効率性(コスト高、過剰な人員、低い技術レベル)や上記港湾運営の民営化の影響を受けて、作業船を使用する港湾建設・維持工事も徐々に民間企業の手に委ねられる傾向が強まっている。インド浚渫公社のように、国内浚渫工事をほぼ一手に引き受けている機関がある場合には、浚渫船もそこに集中所有されており、作業船の売り込み先も絞り込めることになるが、今後作業船が民間企業(外国企業も含め)に分有されることになると、売り込み先も多様、多数となり、またわが国政府のソフトな資金利用も限定され、作業船の売り込みは益々の困難が予想されることになる。
 [3] 作業船の運営技術に関して調査したところから言えば、いずれの国々も熟練した高いレベルの技術者の絶対的な不足に悩まされていることが解った。港湾建設・維持工事の民営化が進むと、優秀な技術者が国等公的機関から民間企業へ引き抜かれていく傾向が強まると予想されるが、いずれにせよ、調査した国々から技術移転に関する強い要望が出されたことは注目しなければならない。特に、作業船の建造及び施工技術に関する講習会の開催等の具体的な要望に対しては、作業船受注との直接的つながりは期待困難としても、当協会として今後の対応を検討すべき事項の一つになると考えられる。
 [4] さらに、過去に日本から輸出した作業船の利用状況に関する調査の結果、日本以外の国から輸入したものを含めて、それらが部品供給体制の不備やメンテナンス不良のために、充分活用されていない状況が確認された。今後、我が国から作業船を輸出する場合に、このような事態が生じることを避けるためにどんなシステムを講じることが可能であるのか、重要な検討課題になると思われる。
 [5] 最後に、調査の一環として、日本の作業船を紹介した「THE WORKVESSELS IN JAPAN 1997」の反響についてであるが、我が国の建造している作業船の性能の優秀さは充分に評価された一方で、その高い価格故に残念ながら購入が困難だとする意見が多くみられたことは、予想されたこととは言え、我が国関係業界全体にとっての深刻な問題である。





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