日本財団 図書館


■事業の内容

原油流出については、タンカーの規模が大きくなるに従い、一度事故が発生すると環境に重大な影響を及ぼす。従って、これらの事故が発生した場合に対処できるオプションを常日頃から整備しておくことは、極めて重要である。
 一方、沖合いにおける流出油の防除から漏れて海岸に漂着した原油は、砂浜、砂礫岩礁等に付着し、除去作業を極めて困難なものとし、長期間にわたって近辺海洋の汚染源となる。このような海岸への油付着を処理することは、環境保全上、極めて重要なことである。
 流出油処理技術として、従来の油防除機材や付着機材に加えて、石油分解微生物を利用した浄化技術が世界的に注目されている。微生物利用油処理(バイオレメディエーション)は、限定的であるが実験室レベルでの効果が確認済みである。
 そこで、本事業では、流出油処理に関し、将来有望なバイオレメディエーションについて将来動向の把握を踏まえ、実用化試験及び流出油処理効果シミュレーションを実施して、安全性、処理効果等を確認し、今後の最適な流出油処理方法の確立に資することを目的とする。
 平成7〜8年度の調査研究では、流出油処理に関しバイオレメディエーションについて現状の成果及び研究・実用化動向を把握するとともに、実用化試験及び流出油処理効果シミュレーションを実施するため、試験計画を作成し、予備試験の実施、並びに流出油処理効果シミュレーションモデルの構築を行った。
 本年度事業では、海浜模擬実験装置を使用した実用化試験を実施して、データを取得し、流出油処理効果シミュレーションとの比較検討を行い、また処理コストを推計して費用対効果を検討し、シミュレーションによるバイオレメディエーションを用いた流出油処理対策を評価することとし、次の項目を実施している。
 [1] 海浜模擬実験装置による数値データの取得
   委員会の議論を踏まえて、試験計画を修正した。さらに、実用化試験に入る前に予備的試験を実施したが、分解過程の中間生物等の影響により、計画した試験方法では微生物の油分解性能が十分に発揮できないことが判明した。
   そこで、その原因を取り除く方法を用いた試験に変更するため、実験条件(海水温度、添加油量、添加栄養塩量など)、計測項目、計測・分析方法、実験スケジュールなど、細部について検討した上で、試験計画の見直し・作成を行い、計画に基づき試験の準備を行い、実用化試験を実施して、数値データの取得する。
   また、油の分解を視覚的に確認するため、視覚効果確認試験を行った。
 [2] 流出油処理効果シミュレーションの実施
   昨年度に構築した流出油処理効果シミュレーションモデルのプロトタイプを拡充するとともに、油量、海水温度、栄養塩の濃度、初期の菌密度などの初期条件を変えた場合のシミュレーション結果について検討し、これまでに得られたデータと照合してシミュレーションモデルの妥当性を評価した。また、各種画面(メニュー、条件入力、計算、出力)構成などインターフェースについて検討し、操作しやすい流出油処理効果シミュレーションモデルについて検討・修正等を行い、計算結果と海浜模擬実験で取得するデータと比較検討し、流出油処理効果シミュレーションを完成する。
 [3] 処理コストの推計
   バイオレメディエーションによる流出油処理に当たって、バイオレメディエーションの適用時期、栄養塩の散布方法、散布量・散布頻度など、過去の事例を具体的に検討するとともに、処理コストの推計のための基本的考え方を整理した。
   また、処理コストの推計を行うため、流出油処理効果シミュレーションモデルに組み込むとともに、コスト源単位について調査し、流出油処理効果シミュレーションモデルによって、最適な流出油処理方法を決定する際の資料とする。
■事業の成果

現段階までにおける成果及び今後予想される成果
 [1] 現段階までにおける成果
  [1] 海浜模擬実験装置による数値データの取得
    500ml容の三角フラスコに天然海水100ml、栄養塩(窒素として132ppm、リンとして46ppm)、A重油10ml、及び原油分解菌5mlを添加して、20℃で2カ月間振盪培養し、目視による視覚効果確認試験を行った結果、原油分解菌によってA重油の分解が進展するとともに白濁し、視覚的にもA重油の色が薄くなることを確認した。白濁した液体の中には、海水、栄養塩(窒素、リン)、微生物菌体、微生物による生分解活動中にできる界面活性剤・老廃物などが含まれる。白濁の主な原因としては、微生物菌体及び界面活性剤の生成・蓄積が考えられる。
  [2] 流出油処理効果シミュレーションの実施
    流出油処理効果シミュレーションモデルのプロトタイプをベースに、油量、海水温度、栄養塩の濃度、初期の菌密度などの初期条件を変えた場合のシミュレーション結果が予測できる流出油処理効果シミュレーションモデルを構築した。
    現段階までの実験データに基づいたこのモデルによって、海浜においてバイオレメディエーションを行った場合の効果(油の分解率)と安全性(微生物の菌密度)の推計が可能である。
 [2] 今後予想される成果
   より実海浜の条件に近い海浜模擬実験装置でのバイオレメディエーションの効果(油の分解度)と安全性に関するデータ、具体的には、油分解量・分解率、栄養塩(窒素、リン)の濃度、微生物の菌密度などの経時変化のデータを取得し、海浜での流出油処理に当たり、バイオレメディエーションが効果的かつ安全であることを実証して、今後の最適な流出油処理方法の確立に資する。
   また、流出油処理効果シミュレーション結果と海浜模擬実験で取得したデータとを比較検討し、必要に応じ流出油効果シミュレーションモデルの修正を行うとともに、流出油処理に必要なコストを推計するプログラムを組み込み、流出油処理効果シミュレーションモデルを完成する。
   このシミュレーションモデルによって、流出油処理に当たり、海浜においてバイオレメディエーションを行った場合の効果(油の分解率)と安全性(微生物の菌密度)、及び費用対効果の推計が可能となり、海浜においてバイオレメディエーションの実証試験を行う場合や実際に油流出が発生し、海浜でバイオレメディエーションを行う場合に、栄養塩の散布量・散布頻度などの方法論に対応したバイオレメディエーションの効果や費用などの推計が可能となり、最適な流出油処理方法を決定する際の資料とすることができる。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION