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知的障害者福祉研究報告書
平成5年度調査報告  〜精神薄弱者福祉研究報告書〜


施設見学・ヒヤリング記録

渡辺勧持氏 ヒヤリング記録

渡辺勧持氏(愛知県コロニー発達障害研究所 社会福祉学部部長) No.1

同行者 (株)福祉開発研究所:宮森、小松、金子
場 所 有楽町

日本の現状
○知的障害者38万人のうち、入所が10万人、就学・就学前が10万人、残りは在宅である。
就学後の受入先となる通所施設(認可・無認可の作業所など)が増加しており、一方で入所施設も未だ増加している。
○入所施設は国の税金が1人1月20万人、職員の人件費を加えると40〜50万円/人/月もかかっている。また、国の行っているグループホームは入所施設から出すためのもので実際入所施設からの移り住みがほとんどである。
「入所施設」では、周辺地域の住民は、特別の人がやっているものというとらえ方をして、関心を持たない。
グループホームや作業所は、地域から出てきたもので、今育てたいのはこちらである。
○通所施設を増やし、レスパイトをしっかりやれば、入所施設へは行かなくなる。



陽風園(既存の入所施設)について
○入居者がすでに高齢になっており、これまで長期に入所していた人を、今から地域に戻すことはできない。グループホームはできないだろう。
○老人ホーム等が主体の法人なので、障害者施設の方についてはどの程度本気でできるか疑問である。
○高齢になっている入所者が余生を安心して暮らせる施設とするか、あるいは、特養とドッキングした老人棟(地域を考えない)とするか、の2方法が考えられる。

入所施設と通所施設
○入所施設は、今入所している人たちにとっては必要なものである。ステップバイステップ。
スウェーデンでも、高齢者は入所施設に最後まで残った。
通所施設は、今後の展望と夢、見通しであり、それがグループホームである。
(既存の)通所施設と、(今後の)入所施設とは、分けて考えた方がよい。
船舶振興会の委員会についても、分けられないか。
○入所施設が現在もまだどんどん増えていることが問題なのである。
通所施設・グループホームに金が来るようにすべきである。

入所施設の背景
○日本では国が措置制度で障害者を入所施設に集め、それが経済の高度成長に寄与してきた。
(経済成長のためにそのような措置が行われてきたということができる。)
○欧米では入所施設が解体していることは当時の日本の専門家は知っていたはずだが、なぜ入所施設が作られてきたのかということについては、25〜30年前は日本では在宅より施設の方が生活水準が良かった。その後日本経済が大きく成長したために、施設は取り残され大きな格差ができてしまった。福祉は高度成長しなかったのである。
欧米の施設は大規模・隔離収容施設で、生活状況は劣悪であった。欧米のノーマライゼーションはこの反省の上に、障害者の人権という思想から起こったものである。

○入所施設の考え方・環境は、まだそれは「日本の社会」である。それを否定することはできない。グループホームはあくまでも「これから作っていく社会」ととらえた方がよい。
○グループホームはニードから出てきたもので、市町村が動かなければできない。
人口規模で考えることが重要であり、市町村の協力により、何万人に何がいくついるかという考え方でいくのがよい。

まとめ方についてのアドバイス
○日本の現状分析をふまえて、今の日本は過渡期にあり、今後についてはいろいろなパターンがある。そのひとつに、陽風園のような古くからある既存の入所施設のこれからのあり方というパターンがある、というまとめかたをしたらよいのでは。


研・究・論・文
知的障害者の居住サービスの日本の特徴
−アメリカ、スウェーデンとの比較を資料にして−
渡辺勧持・大島正彦 ●愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所

●1−はじめに
ノーマライゼーションという言葉がよく使われる。「施設から地域へ」あるいは、地域でともに暮らす、という表現にもしばしば出会う。障害をもつ人びとが普通の人として社会参加する、という理念が20世紀の後半で国をこえて提唱され、この30年間実現の道を歩んできた。
日本でもこれらの表現がよく使われる。
しかし、平成2年の調査では、日本の知的障害者の推定数358,100人のうち、施設人所者は101,300人、26%となっている。成人の場合に限れば、33.9%、実に3人に1人が施設で生活をしている。この数字だけをみると、ノーマライゼーション、社会参加、というのは外国の言葉で、日本はいまだ施設収容の国なのか、という印象もうける。
インスティチューションと同じように訳されていても、日本の入所施設は、欧米で過去に強く批判された大規模・隔離収容施設とは異なる、という意見もある。一方、入所施設はやはり施設であって、地域生活を楽しめる住まいとはいい難い、という意見もある。
この論文では、知的障害者の居住サービスについて、入所施設とグループホーム等の地域の数人の住まいを対比した観点からアメリカやスウェーデンと日本の歴史的経過を比較し、それを資料として日本の知的障害者の居住サービスの現在の問題を検討したい。
●2−アメリカと日本の知的障害者の入所施設と地域の住まいの歴史的展開
図1は、アメリカと日本の施設の入所者数を年次別に示している。



アメリカの入所施設は公立施設に、地域の住まいは15人以下の住まいに限っている。
アメリカでは、公立施設以外にも入所施設に入所しており、1988年の例をとると、公立施設に91,440人いるほか、民間の施設に約46,000人、ナーシングホームに約5万人が入所している。日本の地域の住まいには通勤寮、福祉ホーム、生活寮・グループホーム等を含めた。
アメリカの施設と日本の施設は、当然のことながらその規模、運営内容などが異なる。図1はそれを前提として地域の住まいと対比して施設入所人口の変遷をあらわしたものである。
アメリカと日本の居住サービスの展開を比較すると次のような特徴がみられる。
(1)入所施設が増えてきた時代の背景、増加の速さ
アメリカは、1960年代までに入所施設が漸増している。日本では1960年代から入所施設が急増している。
この違いから入所施設が設立され、増加した両国の時代の背景、障害への見方、医療の進歩、経済情勢などは相当に異なると考えられる。
アメリカでは、19世紀後半、知的障害児が治療教育で治る、と思われた。その試みが挫折し、科学の名のもとに優性学的思想があらわれ、障害をもつ人への危険視がおこり、社会防衛的なかたちで入所施設が増大するという背景があった。
日本は戦前までの入所施設が20カ所たらずで定員も少ないことを考えると、1960年代まで地域で家族がかかえていた障害の人びとを高度経済成長期に作られた入所施設に収容した感じが強い。入所施設の増加は極端に早く、30年間で一挙に作られたという感じがする。
(2)施設入所人口の増減と地域の住まいの増減との関係
アメリカの施設入所人口の増減と地域の住まいで暮らす人の経年的変化を簡略化にすると、図2のモデル?Tのような形になる。



モデル?Tでは最初に入所施設ができ、入所者人口が増加しピークに達しその後、下降する。そしてピークに達する前後から地域に新たに小規模住居がでてくる。欧米の多くの先進国が、このパターンをとってきた。1974年、スウェーデンでは、グループホームの入所者入口は、入所施設人口の10,485人に対しわずかに1572人であった。これが15年後の1990年、施設入所者人口は5,027人に減少し、グループホームで生活している人の人口は、7,835人と施設人口よりも多くなった(図3)。
日本では、この施設人口のピークと下降はまだ見られていない。しかし一方で地域生活の住まいと表現されるものが増加しはじめている。現状では、図2のモデル?Uのようなパターンになる。モデル?Uでは、最初に入所施設ができ、施設人口が増加し続ける一方で、しばらくたって地域での小規模な住居が現れるものである。
モデル?Uは、日本以外の国でもみられよう。
たとえば、発展途上国でもそれまで知的障害者の居住についての社会サービスがない場合、日本の1960年代と同様に家族が担っている負担をすこしでも早く解決するために入所施設を作るという政策が一般的に考えられる。入所施設は集団処遇であり、地域生活からは離れる欠点があるが、知的障害をもっていない人びとの暮らしの水準と比較すれば、これらの保護的観点もそれほど悪くない、という場合にはこのモデルがおこりうる。
あるいは、入所施設の機能をたとえば医療的な役割として限定したり、施設内の住まいを小舎制にし個人の尊厳に配慮しながら集団生活に積極的な意味を認め、施設を推進する場合もあろう。
モデル?Vは集団・隔離処遇である入所施設を作らないで、初めから地域サービスのモデル展開する場合である。一般的にはこれまで多くの国が入所施設、つぎに地域の居住サービスという方向をとってきた。しかし、先進国の収容施設の失敗を見、その教訓を得て、ノーマライゼーションや障害をもつ人びとの人権尊重の時代思想の中で初めから地域での居住サービスを展開するという可能性がモデル?Vである。しかし、現実にはこのモデルは見られていない。
では、モデル?Uの形をとっている日本の場合、なぜ入所施設はいまだに増大しているのだろうか。
答の1つに、日本の入所施設は欧米と比較し、それほどは悪くない、という考えがある。
たしかに欧米の1960年代までの収容施設は、規模にしても日本のものよりもはるかに大きく、批判された施設の生活は今の日本の居住施設とは比較にならないほど劣悪な場合があった。しかし、この考えは次のような点を考慮せねばならない。
第1に、欧米では1960年から1990年の30年間の間にノーマライゼーションやインテグレーションに表現される障害者の人権から発する地域生活サービスへの変化がおこり、知的障害の人びとを施設収容すること(たとえ30人、50人規模の入所施設であっても)に疑問が提出され、普通の生活を地域ですすめる施策が行われ続けられている。日本は、スタートとしては欧米のような大規模・隔離収容施設ではなかったが、以後30年間ノーマライゼーション理念の浸透があるにもかかわらず、基本的には入所施設の機能・形態をほとんど変えずに拡大し続けてきた。
第2に、この30年間に知的障害をもたない私たちの生活が飛躍的に豊かになり、知的障害者の入所生活との間に大変な格差が生じている。年金額の増大、施設入所者数の縮小、個室に近い形への住居の努力、重度障害への配慮などがあったものの、知的障害者の入所生活の暮らしは、私たちの暮らしの変化と較べると30年間すえおかれていたといっても過言ではないだろう。
もう1つの答えは、依然として施設入所の需要がある、と考えることである。
しかし、サービスを受けている知的障害者のうち、4人に1人が施設入所者である、という数字は、諸外国と較べ異様に高いと思われる。施設入所待機者がいるから施設を作ればいい、といとうのではなく、地域での住まいの展開を急ごう、という方向に向けていきたい。
(3)地域の住まいの展開の速さ
アメリカは施設入所者が増加した速さに較べると、地域生活をするための住まいは急速に展開した。スウェーデンの場合でも、1974年からの15年間に年平均417人の人がグループホームへ移っている(図3)。これは日本の人口で換算すれば1年間に5800人の人が新しいグループホームへ入居していることになる。日本ではこの4年間、1年に100ヵ所、約400人の人が国の補助によるグループホームに入居している。
日本では施設は急速に増大したが、地域生活のほうはまだ一歩を踏みだしたばかりでありスピードがついているとはいい難い。
欧米先進国では、大規模収容施設の問題がバネとなって1950〜1960年にノーマライゼーションの理念があらわれ、そこから大きな地域化のうねりがおこった。
日本では、この収容施設と地域福祉の質的な落差の大きさが経験されていない。日本ではこうした状況に遭遇することなくノーマライゼーションという用語を導入し、使っているが、それは理念的には稀薄化されており、その用語の使用によって日本の現状をはっきりと見ることが妨げられているようでもある。



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