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高齢者ケア国際シンポジウム
第4回(1993年) 高齢者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)


第3部 発表  中国における高齢者のケアとその対策

中国・上海華東師範大学人口研究所教授
桂世??



高齢者ケアの問題解決は、高齢者のクオリティー・オブ・ライフ(Quality of Life:QOL)「生活の質」を高める重要な側面であり、高齢者の寿命を延ばすばかりでなく、やすらかに晩年を送り、幸せで申し分のない落ち着き先を得るうえで重要な課題である。中国では高齢者ケアの問題はますます重要視されるようになってきているが、きわめて深刻な問題もいくつか存在している。本報告はそうした面の状況を概観し、政府および社会の関係者の施策に対する参考意見を提起するものである。
1.中国における人口高齢化の動向
中国は世界の人口大国であるうえ高齢者大国でもあり、1990年の国勢調査によると中国の総人口は11億3370万人(香港、マカオ、台湾および金門、馬祖等島嶼の人口は含まない、以下同)で世界総人口の21.4%を占める。中国の60歳以上の高齢者の数は9720万人で、世界の60歳以上の高齢者総数の19.9%、中国の65歳以上の高齢者の数は6310万人で、世界の65歳以上の高齢者総数の19.3%を占めている。
中国の1990年における65歳以上の高齢者の総人口に占める割合は、5.6%にすぎなかったが、しかし5つの省、市(上海市、北京市、天津市、江蘇省、浙江省)では、すでに7%に近いかまたはそれを上回っている。特に上海市では、すでに1979年末に市の総人口の約7.2%を占め(桂世勲、1990)、1990年には9.4%となったのである。
中国では70年代以降に、計画出産を全面的に展開したことにより、50〜60年代には5.78(常崇??、1992)だった女性の総産生率が、現在は2.2前後にまで下がり、1970年に33.4%だった粗出生率は、現在20%前後に下がっている。また1957年には男性55.8歳、女性56.0歳だった平均寿命は(??永熈等、1991)、1990年には男性67.6歳、女性70.9歳に延び、今後中国における人口の高齢化はかなり急速に進むことが予測される。国連人口委員会は80年代末に発表した「世紀転換期の世界人口」のなかで、「中国は目下空前の急速な高齢化の過程にある」と指摘している。同委員会が1990年に修正した中期プランの予測によれば、2000年には中国では65歳以上の高齢者が総人口の7.0%を占め、2025年には12.8%に達する(日本厚生省人口問題研究所、1991)見込みである。最近、中国の学者たちが1990年の国勢調査のデータに基づき、1990〜2050年の中国の人口増加の趨勢について6とおりの予測プランを示した。彼らが比較的妥当だと考えている第1プラン(総産生率は1990年の2.3から徐々に下がり、2000年には2.1、2010年にはさらに1.8まで下がり、以後は変化なし。人口の平均寿命は1990年の男性67.58歳、女性70.91歳からそれぞれ延び、2050年には男性76.0歳、女性80.8歳)によると、2003年に中国の65歳以上の高齢者人口の割合は7.03%に達し、高齢者型国家に仲間入りすることとなる。2050年の中国の65歳以上の高齢者数は3億680万人に達し、1990年の3.9倍、総人口比は20.4%を占めることとなる。これは1990年の2.6倍となることを示している(図1、2、郭瘡萍ら、1992)。ちなみに、各種の長期人口増加趨勢の予測では、中国の65歳以上の高齢者の総人口に占める割合が7%から14%にまで増加するにはおよそ30年とされている。これは、フランスの115年、スウェーデンの85年、アメリカ70年、イギリスとドイツの45年、日本の24年(日本厚生省人口間題研究所、1992)に比べた場合、かなり早いといえる。
ここで指摘しておかなければならないのは、今後中国の人口高齢化が急速に進むなかで75歳以上の高齢者数の増加がさらに急速化すると予測される点である。上記の予測によれば、中国の75歳以上の高齢者の数は、2050年には1億5200万人に達する見込みで、1990年の1870万人の8.1倍になり、75歳以上の高齢者が65歳以上の高齢者総数に占める割合も1990年には29.5%だったが、2050年には49.5%になる。しかも中国は経済水準が高くない状況の下で、人口の急速な高齢化と老年人口の急速な増加を迎えることとなる。中国が21世紀初頭に高齢者型国家の一員となるとき、経済状態はややよいといった水準にしか達しておらず、さらに、21世紀中ごろに予測されている総人口比の5分の1となった場合でも、中程度の発達と予想されている。
注目に値するのは、1979年から実施された1夫婦に子どもを1人という政策である。これは1980、1990年代に出産年齢の女性の大多数が結婚・出産適齢期に入ったときの出生率を抑え、人口の急激な増加をコントロールするうえできわめて重要な役割を果たしたことは事実であるが、21世紀前半における高齢者ケアの問題を解決するうえでは重大な問題を提起したといえる。1987年に行われた60歳以上の高齢者人口のサンプリング調査によれば、高齢者世帯の1世帯あたりの人数は、都市・町部では平均3.7人、農村部では5.5人、うち独居世帯と夫婦だけの世帯の割合は、都市部ではそれぞれ5.2:20.9%、町部では6.5:22.5%、農村部では1.9:7.5%となっている(中国社会科学院人口研究所、1988)。本政策により中国では一人っ子の数が急速に増えており、1989年末には「一人っ子証明書」
を受取った人数(16歳以上ですでに「一人っ子証明書」を取得している者は含まず)は3550万人になり、うち都市部が1390万人、町部が960万人、農村部が1200万人で(中国人口情報研究センター、1991)、20世紀末には「一人っ子証明書」取得者数は全国で約5000万人に達すると予想される。しかし、1億人近い一人っ子の父母が老年期に入る2030年代、2040年代、都市や町ではその60%以上に、また農村ではおよそ30%以上に同居する子どもがいないという現実が待ち受けている。しかもそのとき都市や農村における多くの一人っ子の結婚後の居住地は、どちらかの父母の居住地と遠く離れており、双方の父母の面倒を同時にみることが非常に困難な状態となっている。したがって身近に子どものいないこれら多数の高齢者が75歳以上になり、日常の生活能力がますます衰え、ひいては不幸にも配偶者が死亡したような場合、こうした人々のケアの問題をいかに適切に解決するかが、今後きわめて重大な社会問題になるだろう。
2.現在の中国における高齢者ケアの状況
現在中国では、大部分の高齢者が自立して生活を送っている。1987年代に行われた60歳以上の高齢者のサンプリング調査によると、生活がやや困難な者、非常に困難な者およびまったく生活の自立のできない者が、都市部では高齢者総数の13.6%、町部では14.6%、農村部では18.2%を占め、65歳以上の高齢者については、その値が、都市部では18.5%、町部では19.6%、農村部では23.1%を占めている(表1)。
(1)在宅ケア
現在中国では、要介護高齢者のほとんどが在宅で、主として配偶者と子どもが介護している。子どもが同居していない場合であっても、通常子どもは近くに住んでいる場合が多い。特に農村においては、男子は結婚後年老いた父母と別居はするが、大多数は同じ村に住み、高齢者が自立ができない場合は、食事や日常生活の介護をしている。1987年に行われた中国の60歳以上の高齢者のサンプリング調査の結果は、在宅高齢者の介護状況を基本的に反映している。調査対象となった介護を受けている高齢者についてみると、都市部では子どもの介護を受けている者が51.7%、配偶者の介護を受けている者が39.5%、町部ではそれぞれ53.9%、36.5%、農村部では83.1%、13.7%である。65歳以上の介護を受けている高齢者については、都市部では子どもと配偶者の介護を受けている者の合計が90.6%、町部では89.4%、農村部では97.0%になっている。しかし、一部の自立不能高齢者は、未婚、離婚または別居、子どもがいない等の理由から、友人、保母、社会および隣人の介護に頼っている(表2)。
さて、それでは65歳以上の主として子どもの介護を受けている高齢者は、どの子どもから介護を受けているのかを見てみる。1992年の12の省、自治区、直轄市で行われた中国における高齢者扶養体系の調査によれば、都市と農村では明らかな違いがあり、また介護の項目のうえでも大きな違いがみられた(表3、中国老齢科学研究センター、1992)。都市では主として娘、次が息子と嫁であり、農村では嫁、息子と娘の順である。
中国では、子どもや身寄りもなく、生計手段をもたない高齢者に対し、50年代中ごろから「衣、住、食、医、葬を保障する」制度が実施されてはいるが、大部分は隣人等のボランティアに頼っているのが現状である。また、80年代初め、都市では退職者や地域社会の末端幹部を中心に「独居老人援護請負グループ」が組織され、独居老人への食事、石炭、医療等の宅配および種々の介護を行っている。現在、上海の市街地区だけで5000あまりのグループができている。
1991年に筆者は、日本の山形市が独居老人のために取付けた「愛いっぱいベル」の経験を参考に、「救援要請ベル」の設置を上海市に提案した。この提案は採用され、現在、全市で200人あまりの独居老人宅に、緊急通報ベルが設置されている。
一方、在宅高齢者のサポートおよび援助に関しては、80年代後期から、
?@地域社会サービスセンターを設置し、在宅高齢者に対する食事、洗濯、入浴、理髪、清掃などのサービス。日常生活が不自由な高齢者に対する食事、理髪の出前サービス、
?A昼間介護が必要な高齢者を対象とした「託老所」の設置(送迎は家族)、
?B病院に3〜4名の医師と若干名の看護人からなる「ホーム・ベッド班」を組織し、高齢者の病状に応じて定期的(通常は週1回)に訪問診療(ベッド診察)を実施、等のサービスが徐々に実施されている。
こうしたサービス項目については、サービス人員やサービス施設の必要経費を補うため、規定により比較的安いサービス料が徴収される。たとえば現在、上海市打浦街道の地域社会サービスセンターの規定では、三食配達した場合、1か月に食費90元(約900円)と配達費8元を、また高齢者「託老所」の場合は、1か月に介護費30元(昼食費別)を徴収している。「ホーム・ベッド」については上海市衛生局は、医師が「ベッド診察」に往診した場合の往診費用は1回3元、看護要員が訪問して注射、検査を行った場合の費用は1回2元(注射針・薬および検査代は別)と規定している。このほか、職業をもつ住民を組織した「地域社会サービスボランティアチーム」による余暇を利用した高齢者への無料訪問サービス、小・中学生による、放課後の独居老人宅の清掃を義務付けている街道もある。
1992年8月末の上海市の統計によれば、市全体の72%の地区に地域社会サービスセンターが設けられ、サービス拠点は5万箇所以上に達している。また、160項目以上のサービス、たとえば、2400人以上の高齢者に対する昼食の介助、12641人に対する「ホーム・ベッド」および最寄りの場所での外来診察の開設、10333人に対する日常生活の介助ならびに労働の提供など、が実施されている(解放日報、1992)。
(2)施設ケア
中国における老人ホームは、市、区レベルおよび農村における県レベルでは、「社会福祉ホーム」という名称でよばれ、都市と町の地区レベルおよび農村における部落レベルでは、通常「敬老ホーム」とよばれている。1990年末の統計によれば、「社会福祉ホーム」が1115か所(平均ベッド数91.3床)、「都市や町の敬老ホーム」10275か所(平均ベッド数18.4床)、「農村の敬老ホーム」27886か所(平均ベッド数15.6床)となっている(表4、中国統計年鑑、1991)。
これまで社会福祉ホームおよび敬老ホームには、身寄りがなく生計手段のない高齢者のみが収容され、その経費は基本的には各レベルの行政当局や社会が負担してきた。しかし現在では、都市や町が少数の退職金収入のある独居老人の入所を有料で認めている。施設に入所しているこれらの高齢者の生活自立能力について見てみると、食事は施設が供給しているが、大多数の高齢者が自立能力をもっており、一部の高齢者は何らかの労働にも参加できるという状態である。農村の敬老ホームの多くは、高齢者の生活条件を改善し、収入を増やすために、体力のある高齢者を組織し、施設職員とともに野菜や果樹の栽培、鶏、アヒル、豚の飼育等に従事させている。
80年代以来、中国では都市や農村の独居老人、特に身寄りや収入のない高齢者の数が徐々に減ってきたことから、社会福祉ホームおよび敬老ホームの収容率に影響が生じている。1990年末には社会福祉ホームの平均収容率は78.6%、都市と町の敬老ホームは77.5%、農村の敬老ホームは76.2%で、社会福祉ホームでは職員1人あたり平均2.3人、都市・町・農村の敬老ホームでは4.7人の要介護人数となっている(表4)。
高齢者のための福祉施設の機能を十分に発揮させ、また社会的需要に応じるため、ここ1〜2年社会福祉ホームや敬老ホームでは、家族のいる要介護高齢者の入所を認めるようになってきている。これらの要介護高齢者は、介護者との関係悪化の少数を除き、多くは介護者の仕事の関係、介護者の遠隔居住地等による等の理由から、高齢者自身が入所を希望したケースである。これらのケースは、一定の費用負担が必要となり、上海市を例にとると、13の社会福祉施設を3つの等級に分け、1級福祉ホームでは1人1か月90元、2級福祉ホームでは75元、3級福祉ホームでは60元となっている。また施設に引取られた高齢者の身体、生理、病理等の状況に基づき、高齢者の看護等級を決めている。日常生活で自立可能な者は看護費不要であるが、自立のできない者を半看護、全面看護、特殊看護の3段階に分け、それぞれ1人1か月60元、90元、120元の看護費を徴収している。身寄りのない者、無収入者は無料となっているが、退職金収入のある独居老人で、施設に入居した者は、管理費の3分の1と食費・看護費の全額(管理費の残り3分の2は退職前に所属していた職場が納入)、家族のいる高齢者は、管理費、食費、看護費の全額を納入しなければならない。
このほか少数の大都市で、日常生活が不自由な高齢者の入所を認める高齢者ナーシングホームが最近つくられている。現在上海市には、区レベルと地区レベルの高齢者ナーシングホームが約20か所開設されてはいるが、規模が小さく、施設も粗末で、ベッド数合計が600床にしかすぎない。
病院で介護されている高齢者は、治療または応急措置を要する病人であるが、治療または救急措置後の病状が比較的安定している高齢者は(不随疾患も含む)、退院させ、在宅で「ホームベッド」へ登録させるか、あるいは高齢者ナーシングホームヘ転入させている。
3.中国における高齢者ケア問題の解決のための対策と提案
中国の1990年代から21世紀前半は、人口の高齢化および超高齢化がきわめて急速に進む一方、多数の一人っ子の父母が老年期を迎える時期である。しかし、それを支える経済水準が低いために、社会福祉ホーム、敬老ホーム、高齢者ナーシングホームの増設によって高齢者問題を解決することができないのが現実である。また、日常生活の自立が不可能であっても、伝統的文化の影響から施設に入所することを望まない高齢者も多数存在する。これらの事情に鑑み、筆者は今後の中国における高齢者ケアのパターンは、必然的に在宅ケアが主で、施設ケアが従となり、また在宅高齢者は、親族の介護を主とし、地域社会サービスを従にすべきであると考える。
上述のパターンを適切に構築し、中国における高齢者ケアの問題を解決し、高齢者の生活の質を向上させるため、中国政府および関連部門に以下の主要対策を提案する。
(1)社会全体、特に一人っ子である青少年の間に、高齢者を尊敬し、愛し、年老いた父母を養うという教育を強化する。就学前教育ならびに小中学校教育の大綱を制定し、新教材編纂の際に、敬老の内容を増やす。
1989年8月に、筆者は上海市の要介護在宅高齢者の状況と意識についてサンプリング調査を行った。調査対象となった上海の都市と農村の65歳以上の高齢者994人中22.4%が、高齢者の生活ケアの問題を適切に解決するうえで社会が早急に実施しなければならないことは、敬老を広める教育の強化である、とした(表5)。回答者のうち232人は身近に子どものいない高齢者(子どもと同居していない者と子どものいない者を含む、以下同)で、子どもが高齢者家庭を訪ねて介助・介護を行うよう政府が教育することを希望する者24.6%、孫世代が高齢者と同居して介助・介護を行うよう政府が教育することを希望する者7.3%、子どもが高齢者ケアの問題の解決のため父母にお金を多めに渡すよう政府が教育することを希望する者4.3%であった。
(2)総負担係数が比較的低い2020年代から2030年代までの「ゴールデン期間」を十分利用して、改革をさらに推し進め、解放を拡大し、全力をあげて経済建設を速め、高齢者ケアの問題解決のため良好な物質的基礎を固めるべきである。現在、特に広大な農村において、子どもがあって収入の少ない寝たきりの在宅高齢者に対する一定の補助や、子どもがあって収入の少ない要介護の施設入所高齢者に対する費用の一部減免や、高齢者福祉施設で介護に責任を負っている職員に対する一定の収入助成などを実施できない理由は、結局経済水準が低く、各レベルの行政当局の財源に限りがあるためである。今後の人口高齢化と高齢者ケア問題の解決の重大さに対する行政府役人の認識を高めるとともに、国の経済発展を順調に進めるよう努力しなければならない。しかも上記の予測に基づく今後の高齢者の扶養率は、1990年の8.3%から2050年には32.1%になり、さらに同時期の児童の扶養率が下がることにより、総扶養率は21世紀前半の20年間は一貫して45%以下に抑えられるのである。これも国の経済発展を加速するうえで、きわめて有利な条件を提供するものである。
(3)21世紀の初めに多数の一人っ子が結婚、出産適齢期に入った際、1組の夫婦が子どもを2人生むことを許可し、推薦する。居住地が子どもとかなり離れているか、または不幸にして子どもに先立たれた高齢者については、その孫世代が高齢者と同居し、高齢者ケアの責任を主体的に担うよう、積極的に奨励しなければならない。
上海市の介護を要する在宅高齢者のサンプリング調査では、身近に子どものいない要介護高齢者で孫が主として介護している者は1.2%にすぎなかったが、身近に子どものいる要介護高齢者で孫が主として介護している者は8.3%を占める。主たる介護者のほかに介護協力者がおり、かつ身近に子どものいる高齢者では、孫が介護に協力している者10.9%、介護協力者がいて身近に子どものいない高齢者で、孫が介護に協力している者19.3%となっている。特に身近に子どものいない高齢者への「もし現在も将来も子どもと同居できないなら(子どものいない場合を含む)、自分の生活の介護問題をどのように解決することを最も希望するか」との質問に対し、健康状態が悪く回答できなかった16人と態度を保留した者4人を除き、212人の高齢者の希望の第1位は、孫世代と同居し介助・介護をしてほしいというものであった(46.2%)。今後中国において多数の一人っ子の父母が老後を家庭で送る問題を適切に解決するため、筆者は1983年の論文で「一人っ子が将来結婚後、子どもを2人生むことを許可するよう考慮すべきである。そうすれば現在の一人っ子の親が70歳に達するころ、孫の世代が15〜20歳前後に成長し、徐々に高齢者の介護ができるようになる」と提案した。現在上海市、天津市、遼寧省、陜西省、安徽省、山東省、福建省、広西壮族自治区ではすでに、夫婦双方が一人っ子の場合は子どもを2人生んでよいとしている。したがって21世紀初めから多くの出産適齢期の夫婦が、子どもを2人生むことができるようになると推測される。多数の一人っ子の父母が老年期に入るころ、中国には祖父母と孫の2代だけで構成する「隔世代家庭」がかなりの数出現し、家庭で老後をすごす問題の解決を補う重要な形式になると思われる。
(4)地域社会サービスの健全なネットワークを積極的に確立する。地域社会の在宅高齢者の実際的な必要から出発して、食事、洗濯、入浴、リハビリ、訪問健康診断と注射、デイケア等の地域社会による高齢者サービス項目を適切に発展させ、在宅高齢者をサポートする。
これらの方法は政府の負担を軽減できるうえ、高齢者が慣れ親しんだ家庭と地域社会のなかで生活を続け、家庭の団らんを楽しむことも可能となる。上海市における介護の必要な在宅高齢者の調査では、調査対象となった高齢者家庭がはっきりと意思表示している。地区(または部落)が高齢者サービスを行うようになった場合、22.9%の家庭が訪問健康診断と注射サービス、11.3%の家庭が洗濯サービス、9.6%の家庭が給食サービス、8.5%の家庭が入浴サービス、6.5%の家庭がリハビリ・サービスを利用したいと考えており、地域が「託老所」を設けることについては、回答可能な要介護高齢者のなかで要求している者は2.9%にしかすぎなかった。しかし、主たる介護者に対する調査では、7.0%の者が利用したいと考えていた。
(5)各レベルの社会福祉施設は高齢者と介護者の必要に応じ、サービス機能を拡大し、子どもはいても半看護または全面看護の必要な高齢者により多く有料で入所させ、また看護の質の向上、サービス・コストと料金基準の引き下げに努力しなければならない。
上海市における介護の必要な在宅高齢者の調査では、「高齢者の全面看護問題の解決に敬老ホームを利用したいかどうか」という質問に回答した855人の主たる介護者のうち、8.1%の人が利用を非常に望んでいるとはっきり表明し、特に寝たきりで失禁のある高齢者の主たる介護者の13.3%が利用を非常に望んでいると答え、8.0%がかなり望んでいると回答した。一部の大都市における現在の高齢者サービスヘの要求からみると、施設ケアはすでに需要に追いつかない状況になっており、仕事をもつ子どものなかには、長期間寝たきりまたは深刻な老人性痴呆症の父母がよい看護を得られ、自分自身がより多くの力を本来の仕事や学習に注げるようにするため、これらの高齢者を施設で看護するよう要求する者が後を絶たない状況である。現在上海では、ここ2〜3年以内に各区に1か所ずつ敬老ホームを設置することが決定している。最近筆者が起草した上海浦東新区の90年代の社会保障・社会福祉全体計画の研究報告において、浦東新区に世界的レベルの高齢者ナーシングホームと高齢者病院を設置することを提案した。
以上中国における高齢者ケアの問題と対策について、簡単に紹介し、検討した。本報告が将来の中国における高齢者問題に関する専門家や関係各位の関心を深め、今後国際協力と交流がよりいっそう強化されることを希望するしだいである。


図1 1990〜2050年の中国の高齢者人口の変化


図2 1990〜2050年の中国の高齢者人口係数の変化


上海の敬老院


表1 1987、中国における65歳以上の高齢者の生活自立状況


表2 1987、中国における65歳以上の高齢者の介護状況


広東省の農村の敬老院


トランプを楽しむ高齢者たち


表3 1992年中国の12省、自治区、直轄市における65歳以上の高齢者で主に子どもの介護を受けているものの状況


表4 中国における1990年の老人ホームの基本的状況


ナーシングホーム

表5 1989年、上海の都市・農村の高齢者が、高齢者ケアの面で当面社会が最も差し迫って行うべきだと考えている事柄


老人病院での気功療法





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