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高齢者ケア国際シンポジウム
第4回(1993年) 高齢者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)


開会式  ごあいさつ

財団法人 日本船舶振興会理事長
笹川陽平



高齢者ケア国際シンポジウムは、今年で第4回を迎え、外国から多くの著名な先生方のご出席をいただきました。また、日本からもそれぞれの分野でご活躍の講師の皆さま方に、貴重な時間を割愛していただき、ご出席を賜っています。2日間にわたるこのシンポジウム、たいへん実り多いものになるのではなかろうかとおおいに期待しているしだいです。
さて、財団法人日本船舶振興会は、現在さまざまな分野で活動を展開しており、特に医療の問題については、非常に幅広く活動を進めています。これは、会長・笹川良一(94歳)が、たいへん健康に恵まれたことから、この健康で暮らせることのすばらしさを、広く世界の人と共有したいという思いに端を発しています。
ご高承のとおり(財)日本船舶振興会は、WHO(世界保健機関)と協力し、天然痘の撲滅に大きな努力をはらってきました。そしていまは、21世紀中に世界中からハンセン病をなくそうと、活発な運動を行っています。ハンセン病は、撲滅不可能とまでいわれた病気であったわけですが、WHOも21世紀中にはなくなるであろうとの宣言を1992年に発表したことは、ご承知のことと思います。
また、旧ソ連時代に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の後の救援活動のために、48年前の日本の悲劇的な経験を活かし、長崎、広島の放射線専門家が一丸となり、現在、ロシア共和国、ウクライナ、ベラルーシの3か国に対し、日夜、世界最新の医療機械を駆使し、健康診断を行っています。現在までに、すでに7.5万人を超える子どもたちの健診を終えました。そして、5年間をかけて、純医学的・科学的に批判にたえる報告書を提出するために、現地の医師団ともども日夜努力を重ねています。
また中国からは、日本の医療技術を習得するために毎年100人の医師を迎え、すでに650人の人々がその研修を終了し、現在、中国において活躍されています。
そのような活動のなかでも、特に高齢者の問題につきましては、関心をもっており、1992年には富山県の庄川町に日本で初めて、完全個室の高齢者施設を完成しました。この施設は、単に施設がすぐれているというだけではなく、多くのボランティアによって支えられています。地理的には町のはずれにあっても、精神的には町の中央にあるという考えをもって、高齢者のために町を挙げて協力体制を引くという、非常に先駆的な実験を行っています。今年は島根県の吉田村に第2号の施設をつくるために準備をしています。
私は、いまから32年前、初めてアメリカに旅行した帰りの飛行機のなかで、年配の女性と隣り合わせになりました。その女性は、世界の高齢者の福祉問題についての視察旅行に出た帰りだとのことでした。32年前というのは、まだ外国に自由に旅行ができない時代であり、持ち出せる外貨は500ドルという制限のあった時代です。そのときにその女性が、若かった私をつかまえて、世界中を回ってみたが、どの国に行っても、公園には老人があふれている。そしてほとんどの人々が孤独のなかで生活している。わが国日本は施設も制度も整っていないが、3世代が1つの家に住むというこの家族制度は世界に冠たるものだということがよく分かったと、話されたことが、妙に私の脳裏に、32年もたった今日も残っています。
その後、日本も急速に核家族化が進み、また地方からは青年たちが都会へ進出したことにより、農村地帯には独り住まいの老人が増えてきました。そして、寿命が急速に延びるなかで、日本も西洋並みのさまざまな高齢者問題を抱える事態になりました。
しかし、昨日、韓国の李先生と話をしたとき、李先生は、私たちはなにかたいせつなものを忘れているのではなかろうか。もちろん、制度、方法、さまざまな分野についてはやはり西洋諸国が非常に進んでいる。しかしアジアにおいて、あるいは東洋において、これからの高齢者問題に長所となる点もあるのではないかという、ご指摘をいただきました。
ご高承のとおり、韓国は儒教の影響をいまなお強くもっている国です。特に、高齢者に対する尊敬の念は、礼儀作法等、おそらくいま世界で残っている唯一の国ではないかと思われます。私たちもかつては、おじいさん、おばあさんをたいせつにしていた。そしておじいさん、おばあさんにその生活のなかで身につけたさまざまな経験等を学び、伝え、そして指導してもらった。それぞれの家庭における家庭料理を含めたすばらしい伝統、文化の継承があったわけですが、それもすでに崩壊しつつあるということは非常に残念なことです。しかしいま一度、老人に対する尊敬の心を子どもたちにしっかりと指導していく必要があるのではないかと考えるしだいです。
そのような点から、今回は特に、初めて中国、そして韓国から専門家の先生方にご参加いただきました。また、このような公式の場ではおそらくわが国では初めてと思われる、高齢者の性の問題について真正面から討論していただきたいと思います。
2日間、たいへん盛りだくさんのテーマではありますが、どうぞ実りの多いシンポジウムにしていただきたいと思います。
最後になりましたが、講師の先生方のご参加を心から感謝を申し上げますとともに、諸先生方の貴重な専門知識、そして貴重な経験を、どうぞ日本中の人々のためにお示しいただきたいと思います。





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