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高齢者ケア国際シンポジウム
第3回(1992年) ゆとりある生活環境と自立


まとめ、閉会の辞

(財)笹川医学医療研究財団理事長
日野原 重明



パネリストそしてまた聴衆の方々が、この2日間のプログラムに参与していただいて、非常に多くの、また、難しい問題を取り上げていただき、2日間にわたって全然空席のない、この満席の状況で、集中力を高度に発揮されてこの2日間のプログラムが終了するに至ったことに対し、主催者側の責任者の1人として、非常に感謝します。
この第3回にわたる高齢者ケア国際シンポジウムの第1回は、寝たきりなどを中心に、外国の進んだ老人の施設、その他ケアを学びました。そして昨年の、痴呆などにかなり焦点を合わせ、外国の色々な施設やケアの状態から大いに学びました。それに加えて今回のシンポジウムは大きな成果があったと信じます。
私たちは、ただケアをする、介護をするということだけではなくて、日本が最も遅れている、この高齢者の環境は今や大きな問題があります。皆さんが、特養に行ってご覧になると、そこで自分の生涯の最後を迎えるという目で見れば、皆さんの足はそこには向かないようなところが少なくないと私は思います。その意味においては、この北欧、英国、アメリカ特に北欧から私たちはかなり多くのことを学びました。もう20年、30年前に施設を良くするということがされたのであります。日本は施設を整えるということは、高齢者が少なかったために、非常に遅れたわけでありますが、世界一スピーディーに高齢化が進み、この2020年には人口の25%が65歳以上になります。現在でも、島根県の吉田村は40%は既にこの65歳以上であるということを踏まえると、ほんとうに家ではケアはできない人を収容する施設の改善は絶対に必要であると思います。厚生省のゴールドプランでは、非常に数の多い施設をあと7年間のうちに、つくろうとしているわけでありますが、しかし、今回ここで色々お話をおうかがいしますと、いまや、欧米の高齢者に関しての関心のある国々は、施設よりも個人の住まいに、関心と努力を払っています。その家でこの高齢者の生活を持つように援助するというのは、非常に必要だということが明らかになって、欧米の施策もその方向に大きくこれは変わってきたのであります。
高齢者のケアについては、日本はマラソンでいえば、ずっと後から走っていたと思います。ですから、欧米の老人、高齢者への対策をみると、先進諸国が目指したゴールが方向転換をしなくてはならないような破目に現在なっていることを、私たちは後から見ることができます。で、施設を急いでつくるということと、しかし同時に、個人の住宅とを同時にしなければならないということで、私たちは手一杯になっているように思います。欲張って両方やるってことがほんとうに成功するかどうかは、これから10年間のうちにだいたい目鼻がつくと思います。
ゆとりのある生活環境とはおおよそ遠い、ゆとりのない住居の中に、日本人の多くが住んでいる現状を見ると、欧米ほどになることは、土地その他がないことから、ことに都市ではそれは難しいと思います。しかし、私自身高齢者には、このトイレットと、バスルーム、簡単に水を浴びるところがなければ、それは老人の部屋とはいえないと申したい。廊下の向こうとかでなしに、それは室内に必須のものです。ベッドと同じように必須です。それがなければ、老人の部屋とはいえないという観念が、日本人には全然ないのです。
もし、日本の住宅が狭ければ、あの飛行機内に使ってるトイレットのようなものが、老人の部屋の一角にできれば、失禁も少なくなり、下着を汚しても、自分で洗え、汚れたものを着たりするようなミジメなことをしなくてもいいわけであります。人間の排泄ということ、からだを清潔にするということが人間のディグニティの最初であります。その人間の身体を清潔にする、排泄について粗そうがないようにするということが健康の最初であり、またディグニティの最低限度のものであるということを、日本のすべてが今まで忘れていたと思います。そうして、格好のいい建物を建てるとか、あるいはそこでエアコンディションをどうするかっていうことに集中して、もっともっと手近なことを忘れていたことを、私たちは反省しなくちゃならないと思うわけであります。
一方、日本の老人施設や病院は人手が少ないのです。アメリカの教育病院、これは良い病院ですが、その看護婦の数は、日本の教育病院の看護婦の数の4倍あります。平均在院日数が1週間であるというところから、アメリカの看護婦は忙しいとみても日米間では2倍以上の差はあります。一般の日本の老人施設は、だいたいアメリカの施設の4分の1です。そのために、寝たきり老人が出るわけです。昭和23年に保助看法がつくられ、人員数も制限されたのです。これは計画的に変えなくちゃならない日が必ずくると思います。このために婦人がどうして立ち上がってくれないのですか。婦人が立ち上がれば、私はこの実現は決して難しくはないと思います。そういうことをするためには、この環境が非常に悪いということをもっともっとみんなが知って、一般の人が、今の皆さんの、そばにある特養その他の老健施設を改善すべきです。多くの日本人が、自分たちが将来どこに入るかということを今から考えて、もっともっと自分たちの将来を考えるような若い人が出て来なければ日本の将来はどうしようもないと思います。
レオナルド・ダ・ビンチは、若いときに最後を考えろ、そして老いのために若いときのエネルギーを蓄えよ、といいました。この環境というときに、ただ物理的な格好のいい建物を建てるというよりも、もっともっと温かいケアが与えられるような、ものをつくることが優先されるべきことを私は申し上げたい。
ドイツのフェルフュールドンク長官が言われましたが、ドイツは今、東ドイツのために非常に苦労しておる。そのためには、ドイツの税金は19%から63%といったかなり高いところまでいっているのですが、7.5%のスペシャルタックスが、東ドイツを助けるために2年間特別に課税されたことを、国民が合意してやっているそうです。そのお話にありましたように、東方を助けることが自分たちの使命であるということをハッキリ、この政策者が言われたことを、日本人はよく考えるべきであると思います。なぜ日本人は日本だけのことを考えていて地球の南半球のことを考えないのでしょうか。異常な世界があるということを考えますと、私たちは年をとったらそれほどのぜいたくは要らない。ワーズワースが言っているように、ハイ シンキング エンド プレイ リビング。老人は、サビのある生活をしたい。プレーンな生活をしたい。しかし、思いは高く。
環境には、エキスターナル環境とインターナルな環境があります。エキスターナルは、政府、市町村のいろんな施策でしょう。あるいは家族の援助もあるでしょう。しかし、インターナルエンバイラメントは私たち自分自身が、これをつくらなくちゃならないのです。それはなんであるかということは、私たちの課題です。そして、そのインターナルなエンバイラメントを良くすることによって、その人の人生が豊かになるとすれば、それは恐らく来年の私たちのこのシンポジウムのテーマとして取り上げたい。クオリティ オブ ライフが関与します。私たちのリビングはプレーンであっても、私たちの思いが高ければ、クオリティ オブ ライフが豊かになるものと私は思うわけです。どうか私たちの次回のシンポジウムは、ただただ外面的なことでなしに、もっと医者、ナースあるいは介助者の役割を変えていくことにもかかわるでしょう。医師はこれをする、ナースはこれをするというふうな専門専門な縄ばりではどうしようもないわけです。
今度のシンポジウムの中で、デンマークでは人員を節減して経済的な困難にミートするようなことを考えているという発言がありました。そういうふうに大勢の方が与えられたところでもっと人員を節減をするためには、役割を変えなくてはならない。それには話し合わなくちゃならないわけであります。そういう意味において、チームがほんとうに必要であり、まためいめいの国がめいめいのやり方があることを考えて、それぞれの知恵と経験とを分かち合うところに国際シンポジウムの意味があります。
そういう意味において、今日集まられた方が、この先進国の経験と知恵を、私たちが日本ではどう使うことができるか、あるいは日本自身はどうクリエーティブな考えを具現することができるかということを、今日のシンポジウムから与えられたインスピレーションによって私たちが考える機会となれば、主催者側としてほんとうに感謝です。意義が深いシンポジウムが持たれたことに対して、また皆さんの熱心なご参加のあったことを心から感謝いたします。





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