日本財団 図書館


高齢者ケア国際シンポジウム
第3回(1992年) ゆとりある生活環境と自立


分科会 II 討論  高齢者にやさしいまちづくり


司会 大森彌 東京大学教養学部教授
パネリスト オーレ・アナセン(デンマーク)グラズサックセ市長
デイビッドA・トゥームズ(イギリス)ウースター県社会サービス部長
岩川徹 秋田県鷹巣町長
岩國哲人 島根県出雲市長
西野善雄 東京都大田区長
水田邦雄 厚生省老人保健福祉局老人福祉計画課長

討論
[大森(司会)]きちっと時間をお守りいただきまして、これから討論に入るわけでございますので、恐縮ですが、パネリストの方々、演壇におのぼりいただけますでしょうか。
それでは、これからディスカッションに入りたいと思いますのでよろしくお願いいたします。
ディスカッションの進め方についてちょっとご案内いたしたいと思います。今、アナセン市長さんからお話がございまして、わが国でもなじみやすいような具体的なサービスの内容に即してお話がございましたので、それ自身としてはそれほど新奇なものではないと私はうかがったのでございますが、最後に結局この問題は自分の問題であるということを投げかけられて、お話をしめくくられました。実は本日は日本から3人の区・市・町長さんをお招きしてございまして、まずこの3人の区市町長さんからお1人10分程度でそれぞれのお考え方を出していただきまして、その後、恐縮でございますがフロアとの討論に入りたいと思っています。
実は、昨日トゥームズさんの講演がございまして、大変素晴らしい講演をされていますので、トゥームズさんに対するご質問もあろうかと思いますし、今のアナセン市長さんのお話にもご質問があろうかと思いますので3人の区市町長さんからお話をいただいたらフロアからご質問やご意見をいただいて、そしてその過程であとお2人の方、トゥームズさんとそして厚生省から、水田さんがおみえでございますので、ご参加いただいて、このテーマに即して議論を深めたい、そう思っています。
討論に入る前に「高齢者にやさしいまちづくり」というふうにかかげられている、この「まち」というこの言葉使いについてちょっとお話し申し上げます。英語では、タウンズというふうに表現されているんですが、ここではできれば広く地域の暮らし全体のことにさせていただきたいと思っています。したがって何か物理的な建造物のことだけではございませんで、昨日来お話がございますように、地域の人たちがどういうふうに社会心理的なネットワークを形成できるかという広い意味での「まち」というふうにさせていただきたいと思っています。
それからもう1つ。最近、日本では「やさしい」という、このことばが多用されていまして「やさしい」というのはどういうことかということも、実はそれほど明確でございませんけども、ひと言でいえば、老いを、老後を人間らしく暮らせると、人間らしさというのは昨日からの議論でいえば、高齢の方々の自立と尊厳の問題でございますし、そしてそれを支え得るような、これはトゥームズさんが非常に強調したことですけども、ユーザーの立場にサービスの支援体制というものをどうやってつくり出し得るか、そういうことではないか、とまあだいたいそういうふうに一応イメージいたしまして、これから3人の区市町長さんのお話に入りたいと思います。
順序はまず、これは私の趣味でございますが、小さいところからいきたいと思いまして、最初は秋田県の鷹巣町長さんの岩川徹さんからお話しいただきたいと思います。この町長さんはお若くございまして、24年間現職でやった町長さんを打ち破って、今、新風を吹き入れている町長さんでこざいます。それでは岩川さんからお願いいたします。
[岩川]それでは私から参ります。岩國市長・西野区長がいらっしゃる中で私が先陣をきらしていただきます。そのご無礼をひとつお許しをいただきたいと思います。
まず初めに、外国の皆さんは、当然私の町、秋田県の鷹巣町はご存知じゃないんで、また会場にいらっしゃってる方々もほとんど知らないと思います。まず初めに私の町を簡単にご説明を申し上げたいと思います。
本州北端、青森のすぐ下が秋田県でございまして、その秋田県の中央に秋田市がございます。その秋田市の100kmくらい北になりますが、そこが鷹巣町、私の町でございます。近くには有名な十和田湖がございます。車で約1時間くらいの距離にあります。
秋田県は69の市町村がありまして、9の市、それに60の町村で構成されております。鷹巣町は60の町村の中では、一番人口が多ございまして、2万4千人の町でございます。産業としましては農業、それに林業が主産業になっております。
まず初めに申し上げたいことは、われわれの使命は自治体を預かっている者としては、これからはいかに町づくりを進めるかというのは、非常に重要な課題だろうととらえております。町づくりと申しますのは、その町をどういう町にしたいのか、これは市民が意識的に共有のできるもの、皆さんがご理解いただけるものを、1つのテーマとしてかかげて、そして理想とか理念、あるいは、夢というものをそれにくっつけて、そして現実を踏まえて、それに到達する実践行為、それが町づくりと私は理解しております。
その中で私は福祉というものを町づくりの重要なテーマの1つと考えておりまして、なぜこれが福祉なのか、2点ほど理由がございます。第1点は私が行政に関係する前は、町内で薬局を数軒、経営しておりまして、本業は薬剤師をやっておりました。
それで当然、医療・保健・福祉というのは非常に私自身が前から関心が高い分野でありまして、それに加えてちょうど選挙の際に、うちの町は7千数百軒くらい、家がございます。で一軒一軒、全部回らせてもらったわけです。恐らく、2順したと思っています。場合によっては、その3順もしたんじゃないかと思っておりますが、そのときに一人一人、皆さんは何が希望ですか、何が不満ですか、何が誇りですかということを、お話をさせてもらったわけです。そのときに一番多かったことが自分の生活を含めた社会福祉のサービスをなんとかしてくれという、そういう要求が一番多かったわけです。
そういう2つの理由から、福祉というものを町づくりの大目標にかかげさせてもらう、とそういう立場で今、私はやっているわけでございます。実際行政に入りまして、なかなか事が進みませんで、いろんな方の知恵をお借りしたいということで、いろんなところへ行きました。そうしているうちに、このシンポジウムのご協力者の一人でもあります、デンマークのコペンハーゲン大学の伊東先生にお会いさせていただきまして、そこでいろいろと福祉先進国のデンマークとかあるいはスウェーデンのお話をうかがったわけです。
実際そういう状況というのがほんとにあるのかというのが、そのときの私の偽らざる心境でして、じゃどうしても1回現場に行きたいと、実際デンマークを見たいという気になりまして、私はこの春に約半月ほどデンマークに行って参りました。
それで向こうのホーム、プライエムとか、あるいはさっきスライドに出ていましたケアハウスとか、老人住宅あるいはいろんな食事のサービスとかホームヘルパー制度、ホーム看護婦制度、など多くの状況をつぶさに見まして、実際に日本ではとても想像できないような、なかなか理解のできないような素晴らしい状況でして、ほんとうに、ビックリして帰って来たようなわけです。そのときに、そういう福祉の状況環境と併せて非常に私が感銘を受けた部分があります。それはデンマークにおける合意形成なんです。
福祉に関して、何をしようか、あるいはどういう状況にするかというときに必ず中心が住民なわけです。住民が自分たちのニーズをいろいろ具体的に出すということ、それに対して行政がフォローして、そしてあくまでも住民を大事にした住民参加型の、民主的な開かれた行政がデンマークでは行われているという、このことが非常に私にしてみればショックな状況でした。と同時に私もぜひそういう形を、できたら自分の町で実践をしてみたい。というところで帰って来てから福祉の町づくり懇話会という1つの委員会をつくらせてもらいまして、県内あるいは県外から、いろんな専門家の方にお入りいただいて、14〜15人のメンバーで、今やらせていただいております。
その委員会の下に実はワーキンググループというのをつくりまして、これが実はわが町の住民が自らどういう問題があるのか、そしてどうしたいのか、ということを具体的に提案してもらう実践部隊なわけです。これを広報等を通じまして呼びかけをしましたら、すぐ60人ほど住民の方がお集まりいただいて、そしてこの60人が6つのグループにさらに細かく分かれるわけです。ですから、1グループが10人、それで実際に要介護者の自宅とか、あるいは町内施設とか、あるいは現在ある組織、それを10人でもって何回も見て歩くわけです。そして相手のお宅に直接おじゃまをして、その10人がいろんな状況把握のために、調査をしたわけです。
そうやって現場から何が今わが町では必要なのか足りないのか、これはうまくいっているということを、そのグループが自らの問題として提起していただくわけです。そうやって、ようやくデンマークで見た住民が中心になっている民主的なその合意形成も、なんとかやれそうな状況に今、町はなっているわけです。幸いにもそういうグループができたことによって、これはあくまでもまた行政のプロの役場職員も動かないと町は動かないわけでして、そのワーキンググループに後から追っかけるかっこうで職員もこれは我々もやらなければいけないということで職員のワーキンググループ、なんとしても自分たちもボランティアをしたいということで恐らく全国でもまれじゃないかなと思うんですが、職員のボランティアが組織されました。その他、前に看護婦さんをやってた方が、何とかそういうワーキンググループに協力したいということで、自ら組織化されまして40人ほどのそういう、かつての資格を生かしながら、その福祉の町づくりに協力しようという、そういう形もできてきております。
そういうような形で今、総勢200人ほどが、そのワーキングという調査実践の仕事に頑張っていただいております。昨日、厚生省の横尾局長が1%が今の日本では非常に良くいっていると、そしてl0%がそれに近い状況にあるとうかがいまして、わが町は、それからハミ出している90%に入ってるなという感じを持ちました。
ただ、そういう200人のワーキンググループがいるということで、気持ちだけは安心して暮らせる、安心して住んでいられる1%に絶対負けない状況ではないかと、そういうふうに、そこだけは自負をしております。併せて全国の残っている90%の自治体が良い環境のもとに、やさしい福祉の中に住めるような状況になるように、私も努力しながら、そういう状況を目指して一生懸命に頑張って参りたいと考えております。よろしくお願い申し上げます。
[大森]どうもありがとうございました。次は島根県の出雲市の市長さんであります。ご紹介するまでもなく大変著名な市長さんでありまして、岩國哲人さんでございます。出雲旋風を巻き起こしておられる市長さんであります。それでは市長さんお願いいたします。
[岩國]皆さんお早うございます。ご紹介いただきました出雲市長の岩國でございます。私は大学を卒業してから30年間故郷を離れておりました。ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京。アメリカで私は2年と3年と5年3回会わせて10年。ヨーロッパはロンドンに4年、パリに4年、そしてまたロンドンヘ帰って3年、計11年間ヨーロッパという世界を担当しておりました。その間、いろんな国、さきほどのアナセンさんのデンマークも……。私は北欧に25回出張しております。中近東、つい去年の湾岸戦争、あの地域も私はベイルートの所長も兼務しておりましたから、25回出張しております。世界の4大都市、ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京4大都市に家族と一緒に生活し、そして子供は学校に通い、私はその町がどういうふうにしてつくられているか、その町の人たちがどういう生活ぶりをしているのか、それを30年間、全部見てくることができました。ロンドンに5年いた、あるいはニューヨークに3年住みましたという方はいらっしゃると思いますけれども、世界の4大都市、1つ1つの中に住んで比較し、そして見ることができたのは日本人で恐らく私だけだろうと思いますけれど、私は貴重な体験をいただいたと思っております。
そして今、ジスイズイナカみたいな出雲市の市長をさせていただいております。
まあ、いろいろ役に立つこともあり、役に立たないことも多いと思いますけれども、私は30年経ってある日突然1本の電話、それが2本になり3本になり、4本になり、そして私は故郷の出雲へ帰る決心をいたしました。2人の娘をアメリカヘ残したまま、私と家内は帰ることになりました。4年前の10月18日に辞表を出して、それがちょうど4年前です。市長選挙の準備を始めて出雲へ帰っていろんな集会に出ながら、それでもまだ心の中には迷いがありました。どうしてこんな馬鹿なことを引き受けてしまったのか。つまらん仕事、退屈な仕事、市会議員にだまされたんじゃないか、県会議員にだまされたんじゃないだろうか、どうしてこんなこと引き受けてしまったのか、脇が甘すぎたんじゃないだろうか、30年間、たった1つの間違いはこれじゃなかったか。いろんな迷いがありました。しかし、そういう迷いが覚めたのは、ある老人会に出席したときです。私が小さいときから見ておったおじさん、おばさん、今では当然ですけれども、おじいさん、おばあさんです。そういうおじいさん、おばあさん80人が私を待っておられた。畳の上に座って、そして私も畳の上に座って、まあ出雲というのはすぐ畳の上に座るところですけれども、今から出雲市をどうしようとしているか、出雲市をどう変わらせねばならないかと私が話そうとしたとき、おじいさんとおばあさんが前へ出て来られました。そして農作業で荒れた指で私の手を握って、「お前さんよう帰って来てごすなさったのう、お前さんが帰って来たけん、私たちはこれから長生させにゃいけんわ」といわれるんです。私が市長として何ができるか、何をしようとしているか、ひと言も聞かないで、私が帰って来ただけで、涙を流して、これから長生きする……。
私はそのとき初めて性根が入った気がしました。そのとき初めて、こういうおじいさん、おばあさん、あの市長がおったから本当に良かったといってもらえるような良い仕事を1つでも2つでもしなきゃいかん、まあ悪いことをするために帰って来たわけじゃありませんけれども、良い仕事を1つでも2つでもしたい、市長になりたい、市長の仕事をやってみようという気持ちが初めてそのとき猛然と湧いてきました。私は市長をしている間、あのおじいさんとおばあさんのことばだけは、忘れたくないと思っております。
出雲市の市長をしておりますけども、私は周りの12市町村、大社町とか斐川町とかあるいは竹下元総理大臣の掛合町、あるいは鉄の村づくりで有名な吉田村、12の市町村の連合体の代表理事もしております。全部合わせますと約20万ですけれど、出雲市を中心とする出雲圏域が私の仕事の舞台であります。
3年前の4月7日、私は市長に就任しました。私は強くやさしい出雲市をつくりたいと、訴えてきました。人は強くなければ生きていけない、しかしやさしくなければ生きている価値がない。強くなければ競争に負けていきます。しかし強いだけではなくて周りの恵まれない人、体の弱い人、お年寄り、人生の途中でふっと幸せを見失った人、そういう人の立場で仕事をする。そういうやさしさが必要だと、そういう町をつくっていこうと……。強い出雲市、それは災害に強い出雲市です。八岐大蛇で有名な斐伊川の治水事業。2千億、20年かかる大事業。これを今、出雲市は進行中です。市の南部と北部をドッキングさせる、そのために鉄道、駅の高架もする。バイパスも建設する。多くの道路をつくり、橋づくりを今、一生懸命進めております。どの都市と競争しても負けないような……。
国と国との戦争はなくなりましたけれども、新しく始まったのは都市と都市との競争時代です。どの都市を選ぶか、どの都市に住むか、どの都市を拠点として仕事をするか、そういう都市間競争時代で、よその都市に負けない、足腰の強い出雲市、しかし同時にやさしい出雲市、それは福祉と教育です。教育、そのためには、女子大も誘致する。3年後に出雲市に初めて女子大が設置される運びになっております。そして幼児教育、0から6歳までの幼児教育も充実させる。そのためには日本で初めての認可保育所のほかに認定保育所制度という、市長が認定すれば無認可保育所の中でも優秀なグレードの高いところは認定保育所として補助金を出す。そういうことを出雲市議会は3年前の6月に議決いたしました。
そうした教育も大切ですけれども、もう1つのやさしさは福祉です。今日のメーンテーマでもあります、そうした福祉にも一生懸命私は努力していきます。例えば介護手当、寝たきり老人の方、そのお方も大変気の毒ですけれども、一番お気の毒なのはそれを介護される方。介護される方は長男のお嫁さんかあるいは実の娘さんです。自分も仕事を持ちながら、ご主人のめんどうをみながら、子供を学校にやりながら、そしてそういうおじいちゃんおばあちゃんが寝たきりになった場合に仕事しなければならない。三重四重の重荷の中で一番苦労しておられるのは、そういう介護をされる方。そういう方に少しでも楽をしていただきたい、そういう介護手当を国や県の補助なしに出雲市単独事業として、実行しております。小さい規模ですけれども、これからもっと拡大していきたいし、国や県の応援もいただきたいと思っております。
そして、その次に始めましたのが、一人暮らしの老人の方に月に2回ないし4回、必ずご飯を配達してさしあげること。さきほどのスライドに出ておりましたけれども、そうした配食サービス、あるいは給食サービスを、それぞれの家の中で楽しんで、そしてそれを運ぶ人とこれはボランティア組織でできておりますけれども、触れ合いをつくる。1人で食べるだけでなくて、その上にこんどは会食サービス、会って食べる。そういう一人暮らしの人たちが月に何回か一緒になってそしていろんなおしゃべりをして、そしてわかれていく。そういう配食サービス、給食・会食サービス、これを出雲市は始めております。
話はちょっと変わりますけれども、ドーム球場をつくりました。市政施行50周年を記念しまして、今年の4月29日に誕生いたしました。これは高さ48mの木造りで日本最大の建築物です。昔の出雲大社は古代最大木造り建築、それは今は24mですが、昔は48mあったといわれています。昔の高さ48mに敬意を表して、この21世紀の木造り文化の象徴としてつくった出雲ドームは48mにしてあります。
野球・ゲートボール・ソフトボール・ラグビー・サッカー・陸上競技、いろんな多目的に使えます。そして全国太鼓フェスティバル、全国吹奏楽、昨日は福祉大相撲。この大相撲、東京で見られない若花田、貴花田、この兄弟対決の取組を見て私は飛行機に乗って東京へやって来ました。そしてその大相撲の益金を全部出雲市の福祉事業に寄付していただきました。そうした強いだけではなくて、やさしい気持ちを持った大相撲の力士を私は強くやさしいその典型だといってお礼のことばを申し上げました。
このドーム球場、若い人たちがもっとスポーツをするようにと、そういう願いで、私はつくったんです。山陰は天候に恵まれない、そういうところで雨の日でも風の日でもいつでも若い人たちが利用できる……と。私の考えは間違いでした。つくってみて、完成して、わかったのは一番喜んでいるのはお年寄りの人だということです。雨の日でも風の日でも心配しないで、そこでゲートボールができる。盆踊りができる。町内大会ができる。町内の運動会ができる。自分の所の孫が小学校の運動会で、幼稚園の運動会で、今まで「おじいちゃんおばあちゃん、応援に来てね」とお孫さんがいっても、今日は雨だ、今日は風だ、いろんな理由をいって結局応援に行かなかったのです。今、ドームで運動会だといえば、おじいちゃんおばあちゃんは腰を伸ばして喜んで行きます。中にいれば雨の心配はない、風の心配もない、お孫さんとずーっと付き合うおじいちゃんおばあちゃんは時間がたくさんありますから、お父ちゃんお母ちゃんは来なくても、おじいちゃんおばあちゃんは喜んで来てくれる。
考えてみれば全天候型の施設というよりも、0歳から100歳までの人が使える全年齢型の施設をつくったことになるんです。これから私は高齢化社会にこうしたドーム型の運動施設がもっともっと必要になってくる、喜ばれるんじゃないかと思います。そうした全年齢型のスポーツ施設をつくるというのも、これからの福祉には大切なことだと思います。同じようにお年寄り、このごろ大変勉強熱心です。これからは生涯学習、20歳や22歳で勉強をやめるんじゃなくて学校を卒業してからもっと勉強する。やっと60歳になってから勉強をする。そういう人が増えました。
その人たちの勉強の場は学校ではなくて公民館です。出雲市の中に16の地区があります。16の公民館があります。全部コンクリートでつくっています。私はそれを一つひとつ今、木造りに変えています。出雲市は小学校も中学校も幼稚園も全部木造り。私が市長になってから3年半、私は市長のハンコを使っていろんな建物を決裁しました。コンクリートの建物を私は一度も決裁したことはないんです。3年半私が決裁したのは木造りの建物だけ。小さな子供たちを小さなときに日本人の感性を身につけさせる。日本人の感性は木の感性です。この日本の文化の良さを理解し愛し守っていく。それは日本人の木の感性、小さいときに木の感性をつけさせること。そのためには木の温もり、木の香り、木のやわらかさの中で子供たちを育てて、はじめて日本人の感性は育つと思います。そのために中学校・小学校・幼稚園も全部木造り、そして公民館も木造りです。私は生コン組合からも推薦を受けています(笑い)。しかし、そういう人に申し上げました。私は学校にだけは、皆さん手を出してもらいたくない。私は全部木造りでやる、それを了解していただいて、私は推薦を受けとりました。ですから出雲市の中学校・小学校・幼稚園は全部木造りです。ドーム球場も木造りです。そして公民館も木造り。16の歴史に割りふって江戸時代、室町時代、鎌倉時代、それぞれの地区の歴史にふさわしい、そして、いつかは16の時代を象徴する公民館ができ上がります。塩治判官で有名な塩治地区も木造りに変えました。コンクリート時代、1万4千人の人が使っていました。木造りにして何人使ったか、2万8千人です。2年目3万9千人です。2倍の人、3倍の人が利用したということは、利用者1人当たりの建築費が2分の1になった、3分の1になったということなんです。今まで月に2回しか行かなかったおばあちゃんが月に4回行くようになった。今まで公民館の勉強会に行かなかったおじいちゃんが行くようになったのです。
木造りにすると皆さん気持ちがいいから、こういう高齢者の人ほど木造りの建物に足が向かっていくのです。私はこれからの長寿社会、高齢化社会にはこういう建物に対する配慮、これは非常に必要なことではないかと思います。安ければ良い、丈夫ならいい、便利ならいい、そういう建物がちょっと世の中、多すぎたんではないでしょうか。これからは人間の住む建物というのは、やはり人間が皆気持ち良くなるような建物、特に長寿社会には、こういう配慮というものが、行政が一番それをやらなければいけないことだと、私はそのように思っております。
島根県は高齢者比率ナンバーワン、そして、出産比率も本州でナンバーワンなんです。沖縄県に次いで島根県が出産比率ナンバーツー、本州で一番高いのは島根県です。お年寄りが一番多くて赤ちゃんも一番多い。いないのは年齢層のまん中の方だけなのです。赤ちゃんが多いということは、お母さんたちが安心して赤ちゃんを生める環境がそこにあるということなんです。
私は、これから21世紀の長寿社会の一番理想的な村は島根県だと思っております。こういうお年寄りが、生き生きと住めて、そしてお母さんが安心してお子さんを2人、3人と生めて、お年寄りと小さなお孫さんが両方の笑顔が一緒に見られる、これこそ私たち日本人が一番求めている村ではないでしょうか。島根県は遅れてる、遅れてると県民は思っていたんです。しかし世の中の価値観が開発重視から環境重視へと逆転するとどうなるか。先頭を走っていた東京はどうなるか。追いつけない、追いつけないと島根県も鳥取県も思っていました……。これからは時間とか豊かさ。お金と経済力ではなくて、豊かさ、ゆとりを、求める時代に変わっていきます。価値観が逆転したということは、先頭を走ってた東京はビリになり、ビリを走っていた出雲市が先頭を走るということなんです(笑い)。
私たちが気をつけなければいけないのは、東京に追いつかれないようにすること。これからは私たちが先頭なんですから、理想的な村だ、そういう誇りと自覚をもって、その良さを残してゆくことではないかと、そのように思っております。のちほど区長さんからもいろいろお話を聞きたいと思っておりますので、一応この辺でお話を終わらせていただきたいと思います。
[大森]どうもありがとうこざいました。たぶんちょっと通訳の人、つらいんじゃないかと思います。話が速い方でございますけども、まあ、たぶんお2人、外国の方々のご理解いただいているかどうか、ちょっと不安でございますが、私どもにとっては非常によくわかるお話でございます。
それでは、その東京を代表していただいて、東京の大田区65万都市でございますけども、ここはハイテク産業の中心地でございますが、そこの区長さんの西野さんからお話をいただきます。
[西野]皆さんお早うございます。ご紹介いただきました東京都、そのうちどん尻を走るかもしれない大田区の区長の西野でございます。
私のところは、大田区といってもなかなか全国の方はわかってもらえないんですが、代表的なものをいくつか申し上げると、あヽあすこの町かということがおわかりいただけると思いますが、かって漫才のネタになりました田園調布、最高住宅地でございます。それから皆さん方が国内空港にお乗りになると、東京へ来るときには一番便利な羽田空港。これがある町、それから小学校の教科書などにも載っております大森貝塚。これは日本の考古学発祥の地として貝塚が発見された、そういう場所を包含しているところが大田区でございます。
ここのホテルから約10kmくらい南へ行きまして多摩川を渡る手前の地域でございます。人口が65万、面積が57k?u、さきほどお話のあった秋田県の鷹巣町、あすこは人口が2万4千、面積が300 k?u、ざっと計算いたしますと私のところは人口密度で150倍、羽田空港という大きな空地がございますから、あれを差し引きますと、200倍くらいの人口密度。ギッシリ人間だけがつまった雑然とした町、そういうことでございます。そういう中で実は区民の方々に若者には夢を持って、お年寄りには安心して住める地域社会を作らなくてはいけない。こういう任務を背負って仕事を進めさせていただいております。
そこで今日は、高齢者についての問題ですが、調査のないところに実行なしでございますから、高齢者の方々が一体全体どのようなこと考えていらっしゃるか、昨年私どもの調査した内容を少し、大田区民の意見をご披露させていただきたいと思います。
第一に心配ごとはなんですかというお尋ねをいたしましたところ、約50%以上の方が、これから先も十分な年金がもらえるだろうか、ということでございました。それから30%くらいのご心配をなさっている中に、いくつかの項目がありまして、老後も健康でいられるだろうか、医療費の負担がどんどん増えているけれどもこれに耐えられるのだろうか、それからここ数年土地が、ベラボウに上がりました。息子たち、あるいは娘たちが財産を処分して税金を払って自分の残した財産が引き継げるんだろうか、あるいは仕事を引き継いでくれるんだろうか。こういう悩みごとを持っていらっしゃるようでございます。その他にもいろいろございますけれども、その中に自分自身が体をこわして寝たきりになったら誰が面倒をみてくれるか……。東京における住宅状態というのは、必ずしも良くありません。
昨日、上坂冬子さんが2世帯住宅を、今でも広告で見るというようなお話をしてましたけれども、2世帯住宅というものが東京の中でどれほどあるか、ということをお考えになればおわかりになる話だと思います。それから、高齢者の方々が福祉対策に対しどういう要望をしているかというご質問を申し上げましたところ、これは3割以上の回答を寄せられたものに老人福祉施設、一人暮らしの高齢者対策、寝たきり高齢者の対策、それに病気になったときに手立てをつくしてほしい。こういうものが並んでおりました。
実は東京における高齢者対策のうち、収容施設問題でございますが、特別養護ホームあるいは老人ホームの建設、これにつきましては5年ほど前まではすべてが東京都のお仕事という形で東京都が多摩地区あるいは各地方都市などに収容施設をつくる、こういうことでやっておりました。私どもの同じような調査の中でお年寄りのご希望の中に、引き続いてこの地域に住みたい、仲間がいる、この場所に永住したいという希望者が90%以上のご意見として寄せられております。
そういう中で特別区、実は23あるわけでございますが、その23が話し合い、特別養護老人ホームは、それでは特別区がつくるようにしようじゃないか、5年前に決めました。私のところも、それから計画を建てて現在近々8カ所を建設をしよう、特別養護老人ホームをつくるときには在宅サービスセンターを必ず併設しよう、そこではデイケアサービス、あるいはショートステイなどもとり入れようと。その他にも3年前から東京において高齢者の方々が住宅にお住まいになっていて、家主さんから立ち退きを求められる、あるいは建て替えのために、どうしても転居をしてほしい、こういうときに次のアパートを探すことになり、不動産屋さんに相談に行くのですが、高齢者を入れてくれるアパートがない、斡旋業者も適切な情報を提供をすることができない、また、もしあったとしても非常に高価な部屋代を払わなければいけない、こういう問題にぶつかりました。
住宅問題も昭和60年までは東京都の役割、特別区のほうは直接的な住宅建設はやらない、そういう方向になっておりました。今、私たち特別区は制度、役割の改革を求めて、いろいろな運動をさせていただいております。その中で住民に身近な仕事は我々区がやろう、こういう方向性を出して、政府のほうも中央制度調査会の中で、その意見はよろしい、東京都とつめて1日も早く身近な仕事に取り組めるように努力をしなさい、こういう答申をいただいております。そこで住宅問題、昭和60年から私ども特別区も取り組みましょう。高齢者の問題は特別養護老人ホームを建設するときにできるならば、さっきお話しいたしましたように200分の1の土地と200倍の人が住んでいる、そういう場所でございますから、多少高層化することによって、住宅の提供も進めていきたい。このような計画を現在進めているさなかでございます。
私たちがお年寄りに安心して住める地域社会をつくるというお約束の中には、お年寄りがすべて特別養護老人ホームに行くんだという発想はございません。現在地域の中に155の老人クラブがあります。2万1千人の会員の方々をかかえています。それぞれがいろんな行事を行います。そのための施設づくり、さきほどドームのお話がありましたけれども、子供と取り合って公園でゲートボールをやっております。残念なことに午前中ゲートボールに熱中したお年寄りは、午後に向かっても一生懸命やっています。午後は子供が帰ってくる、子供とお年寄りがけんかをして場所の取りっこをする、地方では考えられないような悲劇も生まれております。また特別養護老人ホーム以前に、元気なお年寄りをつくり出さなくちゃいけない、ということで私たちがそのような施設づくり、公園がよりお年寄りにも利用できるような方向を探させていただいております。
老人クラブヘ行って私はいつもお話をしております。「皆さんは特別養護老人ホームヘ行くようなことは決してなさらないでください。いつまでも健康でいてください。そして生き生きとして人生を楽しんでください。逝くときはポックリ逝ってください。生き生きポックリの人生を豊かにすごしてほしい」。お年寄りから大拍手をいただきました。なぜお年寄りがそんなこといわれて拍手をしてくださるのか。家族に囲まれながらもやはり迷惑はかけたくないという、お年寄りの本音がそこにあると思います。私たちは生き生きと生き続けられる老後をどのように設計していくか、こういう機会を通して大いに学ばせていただき、また、私の経験を外国の経験と照らし合わせながら、さらに発展させたいと思います。
そういう中で政府のほうが地域福祉計画をつくりなさいという方針を出しました。せんだってのゴールドプランの話でございます。3千を超える市町村がそれぞれの地域の特徴を、とらえながら、ゴールドプランに対応する地域福祉計画をつくるようになると思います。私のところも今、取り組んでおります。これからは地方都市の競争になる。私も岩國市長と同じ認識を持っております。東京は出雲に負けられません。頑張るつもりでおりますし、また、そういうお互いの特徴を交流することによって、より人間的な豊かさ、高齢化社会を築いて行かなければならないだろうと考えております。ご静聴ありがとうございました。
[大森]最初に12時くらいになったら、20分間くらい質疑応答と申し上げたんですけど、ちょっと変えさせていただいて、今、アナセンさんを入れますと4人の区市町長さん、自治体の長の方からご発言がございましたもんですから、ここでフロアの方、皆さん方のほうから、ご質問なりこ意見をいただき、それを受けとめさせていただいて、後2人の方のご発言に入っていただくようにいたしたいと思います。ちょっと会場を恐縮ですが明るくしていただけますか。それで、私承っていますのは鷹巣からはワーキンググループの方もお見えだそうでございますので、ワーキンググループの方どなたか最初に口火を切っていただくと後の方がお話しやすいと思います。鷹巣のどなたかちょっとお手を挙げていただけますか、はい、それではできるだけ短い時間でご発言をいただきます。
[質疑](ワーキンググループのメンバーの1人)
ワークキンググループの1人でございますが、私の感じたことをひと言述べさせていただきます。多くの町民が福祉の町づくりに参加する機会を与えられて、その集まりで、いろいろな職業経験のある人たちや現在親を介護している人から具体的な問題提起や老人施設の不足で困りきっている話や、その他諸々の福祉の問題が出されたことによって、自分の知らなかった多くのことを学びました。今までは、このような問題に対処するのは行政が考えることだと思っていましたが、そこに集まっているワーキンググループの人たちは、その問題の多くが間近にせまっている自分たちの老後のことであるということから、問題解決のための共通目的がわかりました。
そこで、もっともっと多くの地域の人たちにも一緒に参加するように、私たちが働きかける必要性を認識しました。また、全町民の福祉に対する意識の改革の大切さを痛感し、今後、その共通の認識の上で、具体的な実行に向けて話し合い、煮つめているところでございます。
[大森]すいません、もう一度ちょっと立っていただけますか。この岩川町長さんてどんな町長さんだってお考えですか。ひと言ちょっと。
[メンバー]福祉の町づくりに一生懸命の方だと、ひと言で申しますとそういう方だと思います。
[大森]再選されそうですか(笑い)。
[メンバー]はい、大丈夫だと思います。
[大森]ワーキンググループは、さきほどかなりの方がおいででしたけど、だいたいお手を挙げて皆さん参加されているんでしょう。地元では……。
[メンバー]はい、そうです。
[大森]恐縮ですが、あなたは何を普段はされている方ですか。
[メンバー]主婦ですが、ボランティア活動にとても関心がありまして、長い間、ボランティア活動を行っております。
[大森]福祉のボランティア活動ですね。
[メンバー]はい、そうです。
[大森]他のワーキンググループの方々も、地域で、何かやった方々ですか。
[メンバー]えー、いろんな職業に就いた方なんですが、保健婦さんとか、県の職員を退職なさった方とか、あらゆる職業に就いて退職した方、あと若いお母さん、年齢も、年齢層もいろいろな方が集まっています。
[大森]もう1つ、すみません。恐縮ですけど、あなたがそういう活動をしていることを、ご主人はどうみておられますか。
[メンバー]幸い福祉関係に勤めてるもんですから……。
[大森]役場ですか。
[メンバー]県の職員でございます。
[大森]県の職員の方ですか。
[メンバー]それで、私の福祉活動には、とても理解がありますので、いろんなところに出かけるのも出やすいようになってます。
[大森]ところで、おくさんのほうがお若いと、亭主のほうが普通は先に死ぬんです。そして普通の日本人はお墓に入りますけども、あなたはあの世へ行ってもご亭主と同じお墓に入りたいですか(笑い)。
[メンバー]もちろん、そう考えてます。
[大森]あっそうですか、いや、これは重大問題で、意外と女性たちは「入りたくない」とおっしゃってる人もいるもんですから。ありがとうございました。それでは他の方で、ご質問でもご意見でも結構でございますので、フロアからいただきたいと思います。どうぞご遠慮なくお手を挙げていただければと思います。ちょっと、大きい声で「ハイ」といってくだされば、マイクが参りますので、どうぞ、どなたからでも結構ですけど、一番左の……どこからおいでですか。
[稲庭]秋田女ばっかり続いて申し訳ありません。秋田から参りました医療福祉の現場で働いております稲庭と申します。今日は、お2人の方に質問したいんですが、なんとか現場でやってると、なんとかしたいっていう気持ちが非常に強いんですよ。ところがですね、こうしたいってものがあっても、要は予算の問題なんですよ。それでぜひジェンコ勘定、金勘定も得意そうな岩國市長にですね、要はなぜ、例えば岩國市長が出雲市をそういう福祉の厚い市にするとしたら、どういうふうにすれば予算アップができるのか、どっかの予算を削らなければいけないわけですよね。そのあたりをどうお考えなのか。後ですね、水田課長にですね、私は厚生省にはかねがねそういう予算をもう少し増やしてもらえないだろうか、当然マンパワーがつく、あるいは診療点数の問題でも、いろんな問題で考えてもらいたいということは、よく陳情に参りますけれども、そのあたりですね、単に厚生省が金くい虫で、要は中央官庁の中ではお金をもらえない省のために、なかなかそのあたりが難しいだけなのか、あるいはなんらかの工夫ができ得るものなのか、そのあたりをぜひ、うかがいたいと思います。
[大森]ご質問ございまして、同じようなことで実は財政問題は、西野区長さんが保健福祉計画のことをお話しでございまして、この保健福祉計画を裏付ける財政問題ってのがございますので、後でそういう議論もしたいと思います。その折に水田さんからもご発言いただければと思っていたんですけども、今のようなことで、まあマンパワーといいますか、ヒューマンリソースをどうやって確保するか。そのための財政をどうするか、サービスにお金がかかるものですから、建物をつくることにもかかりますので、そういう財政のことについてはたぶん重要な議論になるんではないかと予想してます。けど、今のような関連でご質問のある方はございますでしょうか。おいででございましょうか、はい、そのまん中の方。
[岩淵]岩手県の水沢市の岩淵と申しますけれども、昨日、横尾さんから10%福祉が十分なところの1つに挙げられるところではあるんですが、実は県立病院、私立病院、福祉特別養護老人ホーム、いろいろありまして、老人保健施設とかも、我々もやってるんですけども、なんていいますか、対象になる高齢者の方々が結局老人保健施設のほうに、来れないくらいの施設がいっぱいありすぎるというふうなことがありまして、果たして国で民活をさかんにさして、そういう高齢者を収容する施設をつくろうとしているのか、それとも、福祉関係のほうを、どんどん力を入れてやっていこうとしているのか、現場からすると、わからなくなるところがあるんですが、そのへんを教えていただければと思います。
[大森]ちょっとすいません、嫌味ふうのことをいって恐縮ですけども、少なくとも私どもの理解では、現在施設については「収容」ということばは使っていませんで「入所」ないし「受け入れ」というのが新しいことば遣いでございますので、通訳の方もさかんに「収容」とおっしゃってますけど「収容」ということばは法律上からも、消していきたい、「入所」「入所施設」っていってますので、これ以降「収容」ということばをできればやめていただきたいと私は思っておりますが、よろしいでしょうか。
[岩淵]はい、結構でございます。失礼しました。
[大森]それでは、今、2人からご質問が出ましたので、まず、実はそのいろいろ保健福祉のサービスを充実させていく、あるいはそれを含めて町をつくっていくということになりますと大変膨大なお金がかかるということもございますので、そういう財政のやりくりについてどんな工夫をされているかということを、では、出雲の市長さんこの点について、まず、ご発言いただきましょうか。
[岩國]こうした福祉関係の財政については、また、別のセッションもあるようですから、私は一市長として短い経験ですけども、簡単にその秋田の方のご質問にお答えしたいと思います。
さきほどから、秋田、あるいは岩手の方のご質問が大変多いようで、東北地方の皆さんの福祉に関して非常に研究が進んでるなという感じを受けますけど、私は明日、弘前で講演をして、それから何日間か、初めて私は東北をゆっくりと旅行をしたい、自分で車を運転して娘を乗せて、岩手県、秋田県、いろんなところへ回ってみたいなと思っております。そういう思いを込めて今のご質問にお答えいたしますと、3つあると思います。1つは国や県の制度を上手に使うということですね。やっぱり地方自治体の税金、今、アナセン市長から、私に日本の地方自治体は、自分たち自由にローカルタックス、その地方税を上げたり下げたりするのができるのかと、そういうことを聞かれていたんですけども、私の答えはできない。福祉を充実するために、新たに消費税を上げて……。ヨーロッパでも、特にアメリカでは、その消費税、売上税は地方自治体がやることになってますから、3%を5%に上げる、10%を8%に下げる。そういうことを住民と話し合いできる。こういうことは今日本ではできません。したがって国や県の特に最近は厚生省のいろんな、福祉関係のメニューは、中華料理から、フランス料理、日本料理といろんなメニューがありますから、それを上手に自分たちの自治体に合わせた使い方をする。国のお金をムダなくムラなくムリなく使うということがまず1つあります。
2番目には、地方自治体で税収を増やすためには、人口を増やすか、会社を増やす。出雲市も両方努力し、人口も増えております。また、企業も増やしております。企業誘致、工業団地。私が市長に就任したとき、23%が売れておりましたが、今、おかげさまで景気も良かったせいもあり、職員も頑張り、83%は売れて、そして企業の数がずいぶん増えました。こういうことは固定資産税、法人税いろんなはねかえりとなって出雲市税収を支えてくれるんです。市役所が頑張れば、それだけ福祉を充実させる、ということがいえると思います。
3番目は頭ですね。職員の頭を使うという……。「市長さんお金が足りないからやめましょう」と職員がいって来ます。10億の事業をやりたい、7億しかない。3億足りないから、やめましょう、やめましょうじゃなくて、3億足りないから、私はあなたの知恵がほしい。全国3千3百の市町村、みんなお金がないところばかり。あるのは東京都だけです。ですから、お金がないときは知恵を出してほしい。私はあなたの胃袋にだけ給料を払ってるんではなくて、頭にも給料を払ってるんだといいます。だから3億どこからお金を工夫するか、あるいは7億のお金を使って10億の効果を出すためにどうするかという工夫をしてもらいたい。頭を使えということです。例えば、1つの例をいいますと、出雲市は今年の4月1日からゴミ戦争に突入しました。去年の湾岸戦争には出雲市民は参加しませんでした。しかしゴミ戦争、子供さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、皆参加しています。何をやったか、有料制に切り替えたんです。今までゴミは無料で集めてましたから、市民の皆さんは、市役所の職員さんゴミがほしいんじゃないかと思って、一生懸命ゴミをお出しになる。冗談じゃない。ゴミは出さないほうが良い。だから全部有料制に切り替えました。ゴミをたくさん出す人は買い物をたくさんする人、買い物をたくさんする人は収入が多いからです。収入とゴミは正比例します。そういう人のゴミをなぜ、収入の少ない人の税金や、ゴミを出さないように一生懸命工夫している奥さんの税金を使って、そういうたくさん出す人のゴミを処理しなきゃいけないか、不公平です。私は有料制に切り替えました。ゴミが30%減ってしまいました。いいですか、去年の4月に比べ、5月に比べ、6月に比べ、燃えるゴミが30%消えてしまったんです。ゴミがなくなったということは、それだけ処理資用が浮いたんです。相当なゴミ処理費用が浮きます。つまりゴミが福祉のお金を払ってくれるということもありうるということです。これが頭を使えといってることのひとつなんですね。いろんなやり方、他にもあると思います。出雲市は、こういう福祉カード、これは血圧、血液型、アレルギー、持病、さっき時間がなくてお話しできなかったんですけど、65歳以上の人はみんなこれを持っています。そして身分証明書や印鑑がなくても、役所へ行けば、これで全部いろんな証明書をそのまま申込書なんか書かなくてももらえます。毎年の健康診断の結果も入っていますから、計画的な健康づくりができます。
救急車も病院も開業医も全部カード読み取り器を持っていますから、これさえあれば万一外で事故に遭っても、急に意識を失っても、どこのおばあちゃんか、すぐ連絡がいく、そして応急処置ができる。アレルギー、持病、かかりつけのお医者さんの電話番号、ファクスまで全部入っています。ですから、これを現代のお守り札といってます。1枚1,200円。しかし、ありがたいことですけれども、自治省、厚生省、農林省、郵政省、そういうところが率先して優先してこれを応援していただきました。当時の、津島厚生大臣、去年の8月、私のところへ電話をいただきました。大臣が地方の市長に電話をされるということはめったにないことなんです。あるとすれば何か悪いことをして怒られる時です(笑い)。津島厚生大臣、何をいわれたか。「この総合福祉カードを、世界に冠たる、制度として、日本にも世界にも広めるため、厚生省が物心両面にわたって応援するということを決めました」。ありがたいことです。国が決めて県が下請けし、市町村が孫請けする。そういう時代はもう終わったんです。市町村が、行政の前線にいる人たちが、住民、市民のために必要なことを先に考えついて、それを国が応援する、そういう時代に変わってきてます。頭を使えといったことも、これも1つなんです。1枚1,200円かかります。しかし、そういう国が応援するということになれば、そのコストもだんだん少なくなっていく。以上です。
[大森]どうもありがとうございました。ちょっとアナセンさんとトゥームズさんに実は今、市長さんのお話にありましたようにその福祉カード、システムってのは、先駆的なお仕事になってまして、その市民の個人情報を記録してるカ一ドを持ってますと、それによっていろんなサービスを比較的簡単に受けうるような、そういうまあ、効率の良いカードシステムを導入してるんですけども、イギリスとかデンマークには、こういう方式はないものか、あるいは考えられないものか、ちょっとお2人にお聞きしたいと思うんですけど、どんなもんでしょうか。
[トゥームズ]カードシステムが関わる限りは、これは新しい斬新なアイデアでございます。ですがイギリスの文化とは、ちょっとなじみ合わないものであります。わが国におきまして、難しいかもしれません。このようなカードを導入されると、個人情報がそこに書き込まれる、あるいは当局が個人情報を持ち合わせるということになりますから、そのことに対しては、抵抗がまき起こるのではないかと想像するわけであります。ですので、もう少しこれまでのご発言に対して、ひと言申し上げますと、やはり何か大変革新的なアイデアを打ち出して、そしてそれを、町々−まあ市などにおきまして実践に移されてるということを聞いて、大変感動しております。ですので昨日申し上げました講演したところへ戻りますと、それはすべてやはり、各自治体、地方においての革新に依存しているところが多いと思うわけであります。
[大森]ちょっと待ってくださいますか。イギリスでは、そうするとこういうカードシステムっていうのはなかなかなじみにくいっていう、一番大きな理由はなんでしょうか。その個人情報が保護されにくいっていう、そういう心配があるからでしょうか。もう一度すみませんトゥームズさん。
[トゥームズ]やはり、情報、個人情報の共有に対して抵抗するというのが最大の障壁になるわけであります。そして、それがその延長線上に、複雑な課題があるわけであります。ですので専門家との間においてパートナーシップを樹立するというのが難しくなるわけであります。医学界において医師同士が協力すると、特に患者についての個人情報を例えばソーシャルワーカーとの間において情報を共有するということについて、大きな抵抗が過去においてはあったわけであります。プライバシーという概念、それから個人情報を共有しない、出さないということは、イギリスの文化、そしてイギリス人にとっては大変貴重な、大事な価値ということになるわけであります。ですので、こういうような、改革というのは一夜にしてできることではございません。
[大森]今のことについて、お考えがあれば述べてください。
[オーレ・アナセン]デンマークにおきましては、健康保健カードがございます。私のカードがこれでございます。ですので出雲ほど革新的な磁気テープなどはついておりません。ですので1年、2年後には、こういうようなICカードにしていきたいと思っております。ですのでわが市において行われていること、もう少しお話ししたいことは、各自治体が、特に市におきまして市議会におきましては、その資材について決定する権限があるということであります。ですので高齢者のケアについての予算を拡大するためには資材を引き上げるということができるわけであります。まあ、しかしながらデンマークにおいては、最初っから税率が大変高い、税負担が重いということもいえるわけであります。ですので、今、おっしゃった問題を、われわれとしても理解したい同じ悩みを持っているといえるんじゃないでしょうか。
[岩國]ちょっとひと言。トゥームズさんが、そうしたことに対してイギリスの人が抵抗感があるということは、私のたぶん説明不足だったと思います。このICカードにつきましては、そうした誰も彼もその情報を知るというんではなくて、市長、市の職員は、そのいろんな戸籍とか、それに関することを自分の暗証番号を使ったときだけ読み取りができる。お医者さんは、お医者の必要なデータだけわかる。それぞれの職業の度合い範囲に応じてその取り得るデータというのは全部区分してこの中に入っています。ですから、不必要な人があそこの奥さん腎臓が悪いとか、あるいは流産されたらしいとか、そんな余計なことまでわかるということではないんです。それが1つと、それからすべて医学情報を体の情報を全部この中へたたきこむということではなくて、基礎的に救急のときに必要な、べーシックな基礎的なものだけこの中に入ってますから、この人は腎臓を悪くしたことがある、かかりつけのお医者さんはここだ、お医者さんであれば、そのお医者さんに電話ファクスでこの中に入ってますから、問い合わせて、どういう病気をされたんだろう、自分のところへ今、具合が悪くなって来ておられる、そういうときに、これがヘルプする、そういうことです。
[大森]はい、トゥームズさんは、たぶんそれでご理解いただけると思いますので、このカードの問題についてはこれまでとさせていただきます。さきほど市長さんのほうから、財政どうやってその福祉のお金ってものを満していくかっていう、基本的なお考え方が述べられたんですけども、岩川町長さんのところも財政問題は小さいところですから、いろいろ悩みがあるんだろうと思います。そういう福祉をめぐる、さきほど合意形成のことを強調されましたけれども、実際はこれをやっていく場合の財政問題があると思いますので岩川町長さんその点についてお考えがあればちょっと簡単に述べていただけますか。
[岩川]町の予算規模は約80億でして、大都会からみると非常に少ない予算で、今、四苦八苦をしてやりくりしている現状であります。まあ、ある程度政策の幅というものがありまして、町の場合には、今、福祉やろうと、そういう合意形成があると、例えば3%あるいは5%という数字の移動はできるわけです。その範囲でやってるということ、それともう1つは、今、岩國市長がおっしゃられたように、まだまだ、国の制度を十分地方の自治体が使いきってないわけです。非常に斬新的なアイデア制度ができてるわけでして、例えば訪問看護婦制度ですとか、あるいはデイケアです。これはサービスではなくて保健医療としてのデイケアの問題、それと移送の問題、こういうのが全部、保健医療点数制度の中でカバーできるわけです。そのへんをなかなか自治体の職員は理解できない、逆にいうと、国のピーアールが薄いのかなと、そういうふうになるんですが、そのへんをいち早く知恵を出しながら、そういう、どれを使うかという、そのへんが自治体の知恵くらべなわけです。そして、他の地区に先んじて良いものどんどん取り入れて、そしたら有利に事を進められる。特に今の福祉行政っていうのは、こういう状態ですから、先んじたものが、かなり有利性を保つというのが、これは明白なわけです。それをねらっていくべきじゃないのかなという気がしております。
[大森]大田区は今予算規模はどのくらいでしょうか。一般会計でいって。
[西野]私のとこは2千億でございます。金があり余ってるということではございません。やはり、それぞれコストがちがいます。私のところで特別老人ホームを100人規模のをひとつつくろうとすると、最低でも土地代だけで40億近くかかります。地方でお建てになる場合と多少そのへんがちがうだろうと思います。それから、やっぱり財政問題は私どものネックになっていることは事実でございます。
[大森]私が拝見しています大田区のやさしい福祉の町づくりの中には、要項があっていろいろ建物をつくるときに、民間がつくるときにもいろいろ行政指導をされて、建物についてやさしい、ここでいうやさしさですけども、それを付与されようと努力されてんですけども、東京のようなところで民間が建物をつくるときに、こういう指導を行うときには結構いろいろ困難が多いんではないか。単に建物を建てる、お金だけではなくて、こういう町づくりをやるときにご苦労があるんじゃないかと思いますので、後ほど水田さんにご質問を受けていただきますけども、ちょっとせっかく大田区のことがございますので、この町づくり要項について、ちょっとご発言頂けますか。
[西野]町づくり要項は主として障害者、高齢者の方々が、町中を歩き、利用する際にご便宜を計りたい、こういう趣旨で、例えば玄関の扉をオートドアにする、階段をスロープに直す、中に入ってトイレ利用したいときに障害者トイレが設置してある、あるいは上へ上がる際にはエレベーターを付ける、当然そのようなことは建設者は考えるわけですけれども、やはり障害者あるいは高齢者に合った条件を、つくり出してもらわないと意味がございませんので、基準を決めて、私どもの基準と合意していただけるならば、建設の一部を助成いたしましょう、こういう制度をつくり上げたわけでございます。現在までに30件ばかり実績ができ上がっておりまして、どこのお店へいくと、利用できる施設がありますよ、そういうマップもつくりながら、お配りしていきたい。こういうことを考えております。お年寄りも当然のこととして、そういう利便性を、当然共有なさったほうがよろしいわけでございますから、これからも進めていこうとこのように思います。
建設については上限がございまして、エレベーターやる場合には、例えば100万円までですよとか、金額をお出しするわけではございません。一応その方向に向けたときのコストに上乗せされる部分であろういうものを助成をして差し上げるということです。
[大森]全体としては民間の方々もこういう福祉のまちづくりに対しては、理解といいますか、受け入れてくれる方向でしょうか。中にはなかなか理解していただけないような方もおいででございましょう。
[西野]まあ、だいたい企業さんとか、あるいは商店の方々を中心に、お願いしているわけですが、なかなか受け入れていただけない。コストの問題と、一番大きいのはスペースの問題なんです。建物をつくったときに、それだけのスペースを取り得ないとこういうことですね。売場面積をできるだけ広げるためには、玄関にそういうオートドア、それからホールをつくるようなスペースは割愛して、売場にしたほうがいいということになりますから、ちょっと成立する件数が少ない。このようなことが実態です。
[大森]それで、さきほどご質問いただいたことで、まだ残ってるもんですから、まずそのご質問についての、こちら方として受け答えさせていただいて、その次の問題に入りたいと思います。今日は厚生省から水田課長がおみえでございまして、あまり陳情風にならずに、しかし国は物事をどういう風に考えているのか、その基本のところを少しお話ししていただきたい。で若干それに触れて、いくつか問題提起風のこともおっしゃってくださっていいと思いますが、このお2人からのご質問に、まずお答えいただいて、少しいろんなことを広くお話しくださいますか。
[水田]厚生省の老人福祉計画課長の水田でございます。私は、老人福祉関係、特別養護老人ホームの施設でございますとか、それから在宅サービス在宅福祉サービス、それからもう1つ重要なことはこういった、それぞれの個別の事業をするだけではなくて、それらをどうやって計画的に整備していくかという、その計画部門などを担当している者でございます。
最初に、稲庭さんのほうからのご質問についてのお答えでございます。金がないと、こういう話でございましたが、これは、究極的には政治経済の場での資源配分ということに帰着するというのは模範答弁になるわけでありますけれども、実は幸いこのゴールドプラン、これは昨日も説明があったと思いますが、今までの政策との進め方とはちがった形になっております。と申しますのは、あすこで例えば、ホームヘルパーさんを西暦2000年までに10万人にするとか、デイサービスセンターを1万カ所つくるとか、こういった目標を示しているわけですが、これは将来の福祉サイドから、こうしたものを持ちたいというお約束だけではなくて、大蔵省、自治省、厚生省の3省が3大臣の合意という形で出したものでありまして、2000年に向けて、いってみますと、資源が約束されているわけです。これは日本の行政の進め方では、めずらしいと思うんです。初めに資源を約束していると、それに向けて法律改正をしてそれに取り組む、高齢者社会にふさわしい社会というのはどういう社会なのかと法律改正をやったと、こういった形になってくるわけでございます。したがいまして、ちょっとまず質問のほうを答えてしまいますと、さきほど来、市区町長さんがおっしゃったように私どもの目からみますと、どうして新しい国の施策にもう少し関心を持っていただけないんだろうかと、ゴールドプランが始まって最近はようやく順調になりましたけれども、在宅福祉サービスにつきましては、非常に需要が正直に申しまして少なかったわけでございます。特に今までもケアハウス、食事付きの車椅子対応の住宅でありますが、そういうものにつきましても、おそらくデンマークの経験でも、あるいはヨーロッパの経験で当たり前のものと思うんですが、そういったものに対する需要というのが、非常に少ないわけですね。したがってもっと上手に活用していただきたいというふうに思っているわけであります。
さらに申しますと国の補助事業、補助制度がないから、事業をやらないんだというのは逆転した発想でありまして、さきほど来出ておりますように、福祉の問題というのはやはり地域の需要から出て来るわけでありますから、それを国の補助事業がないからというのは、こういう場ですのであえて申し上げますと、志が低いんじゃないかと、そういうことかと思います。逆にいえば、まず自分のしたいことがあって、それから国の事業をどうやって利用していくかというのが発想の順序であろうというふうに思っております。
それから国の資源を十分に利用してないという点では、補助金もあるんですけども、もう1つは地方交付税とこういう制度もあるわけであります。で、ちょっとこれは大森先生のご専門でありますけれども、地方公共団体で標準的に福祉の分野にはこれだけのお金が、需要があるという基準財政需要というものがあるわけでありますが、果たして各々の市町村で、標準的な福祉に割り当てられるべきお金をどのくらい使っておられるのか、超えておられるところはそんなにないんじゃないかなという、これはまあ全部調べたわけではありませんが、そういうところもですね、いろいろ資源があるわけでありますから、補助金がない、直接ぴったり自分に来るお金がないというのはどうでしょう。それはなかなかありませんけれども、そういったところもやはりもう一度見直してみる必要があるんじゃないか、というふうに思っております。
で、なんで今、地方交付税のことに触れたかと申しますと、さきほど申しましたゴールドプランの後の体制づくりのところで、やはり地域福祉の、主体は市町村だと、一番住民に近い基礎的な自治体である市町村だという、市町村主義を打ち出してあるわけでありますが、具体的な処置としては入所、今まで町村部というのはですね、在宅サービスには責任を負っていたんですけども、施設に入る、お入れするということにつきましては県の権限だったわけです。それを来年からその権限も町村に下りるということで、市町村が在宅福祉サービスそして施設福祉サービスの一元的な供給主体となると、さらにヘルスの部分についても現在供給主体でありますので、保健福祉の一元的な供給主体に来年から名実共になります。権限を持つということは、お金の使い方につきましてもやはり地方交付税というものにつきまして、もう少し関心がないと適切に運営されないんじゃないかというふうに思っているものでございます。
で来年度に向けての法律改正があったわけでありますが、1つが、その市町村主義ということでありまして、もう1つは総合的なケアということであります。これはデンマークの経験でもあり、アナセンさんからありましたように施設ケアと在宅ケアっていうものを総合的なものとしてとらえる、別のものとしてはとらえない、あるいはその中で在宅ケアというものを特に重視する。それからちょっと観点がちがいますけども、保健・医療・福祉と、こういった部門間を総合的にとらえていくと、その中で在宅というものを中心に考えていくと、これがその2点目でございます。
それから3点目が計画的にそういった事柄を、2000年を目指して、計画を来年度1993年につくっていただこうということでありますが、そこでの一番のもとがニーズ調査であります。で、これも国がこういう事項について計画をつくってくださいということをお示しするんではなくて、まず初めに地域でどんなニーズがあるんだということを調べることから始めてくださいということでお願いをしているわけです。で、幸い全国で3,300ほどある市町村で7割の町村でニーズ調査がなされているわけでありますが、これもさきほどの秋田県の例、岩川さんのところのように、しっかりした調査が行われていますが、いろんなアンケート調査もいろんなやり方があるんですけれども、ぜひこのニーズ調査っていうところに、参加をしていただいてですね、そこがともかく基礎でございますんで、そこにしっかり、いろんな実態を把握してそれを出発点にしていただきたい。
それから計画というものは、もうちょっとすいません解説させていただきますと、将来の需要っていうものを、2000年時点でのサービス需要っていうものを、ニーズに基づいて推計をしていただく、そこから現在持っている資源をひいたものが結局2000年までに整備する事業ということになります。そのサービスの需要につきましても、例えば、ホームヘルパーサービスで申しますと、週に3回から6回とか、デイサービスでありますと週に1回から2回とか、具体的な基準を示しております。ただこれはあくまでも参考にすべき基準でありまして、正にそれをどういうふうに組み合わせていくかということは、市町村の方々にまかされているわけでありまして、経緯からしますと、なんだかトップダウンみたいでありますけれども、計画の中身そのものは地域ごとにつくっていっていただきたい。こんなことで今日実は3人の市区長さんの話を聞きまして、大いに意を強くしているところであります。
[大森]もう1つ実は水沢市の方からは施設づくりについて、民活を含めて、どういうふうに施設のつくり方っていうか、もうちょっといえば配置の仕方、利用の仕方に関係するんですけれども、厚生省としては施設づくりについてはどんなふうに考えておられるのかというご質問があったように思うんですけど、それについても簡単に恐縮ですけど……。
[水田]主要な施設としては、特別養護老人ホーム、それから老人保健施設とこうあるわけであります。で特別養護老人ホームについては、住民の1.1%強、老齢人口のですね65歳以上人口の1.1%強、老人保健施設につきましては1.3%というような水準で計画と申しますか、まあ、設計されているわけであります。で、それをどういうふうに配置するか、いずれも広域施設なもんですから、これは正に市町村老人保健福祉計画の中で考えられていくべきもんだと思っております。で民活の話でありますが、これは有料老人ホームの話かなとちょっとよくわからない点もあるんですけれども、そこは正に民活、民間の世界でございますんで、国がどうこうしようというようなことは、数についてですね、どうこうしようということは特にございません。ちょっとお答えが足りないかなとも思いますが。
[大森]はい、だぶん私こうだと思うんですけども、現在法律上、すべての市町村と都道府県に、義務づけをいたしました老人保健福祉計画、長期計画でございますけども、それは少なくとも公共的な責任でキチッとサービスを行わなきゃいけないような方々、つまり要介護老人、法律で使ってることばでございますけども、痴呆性の老人の方々とか、虚弱の老人の方々が念頭にございますけども、この方々に対し、それぞれ地域の実情に応じて、キチッとサービスが提供される仕組みをつくる、これは広い意味でいえば実際にそのサービスの供給主体の中に民間があっても基本的にいえば公共的な責任になっておりますので、これは市町村都道府県、国、全体を通じて実現していくという、そういう運びになると思うんです。
その際、施設をどういうふうに配置するかにつきましては、小さい町村がすべて、特別養護老人ホームを必ず持たなきゃいけないというふうにいたしますと、大変な事態でございますので、したがって施設の配置につきましては、ニーズとの関係で、例えば都道府県が広域的な立場に立ってその適切な配置について、いろいろ計画をつくってくださる、ないし実質的には市町村と相談しながら施設を配置していくということは、当然予想されることでございますので、そういうことを含めて適切な施設の数量、配置ということを考えてほしいと思います。それらの現在すべての市町村で準備に入っている保健福祉計画の、あるいは都道府県がつくろうとしている計画の1つのポイントになってるんだと思います。しかし民間の側は、民間独自でいろいろ施設をつくって、実質的にいえば保健福祉のサービスを提供するかもしれませんので、そういう方々との関係においてあるところに住んでる人がそういう施設をお使いになれば、その施設を通じてあるニーズは満たされてしまう、ということになるもんですから、民間と広い意味でいえば、公共部門とどういうふうにそういうことを調整しあったり、あるいは協議しあったりしていくかということが、課題になると、とりあえずは考えていいんではないかと私は思うんですが、ささほどの水沢市の方、それでよろしゅうございましょうか。
[質問者(水沢市の人)]おおむねよろしいんですけれども、ちょっとお尋ねしたかったもので、1.1%のところの場合、1.3%の件の場合と、これは現在の状態、それとも将来の場合、例えば2000年ということをみこしての人口の予測に対しての状態なのか。といいますのは、我々のところは人口が58,000くらいしかない、まあ、60,000弱のところなんですけれども、施設の数が十二分にありまして、例えば、その2000年くらいまでなら、場合によっては、今の状態でも間に合うかもしれないという状況、つまり現状にしてみると、施設が過剰状態にあるというふうなことにあります。そういう中で公的なところは、中でのいろんな施設間の調整をされるわけで、特別養護老人ホームがいくつかできると、そちらのほうへ割り振ると、そうすると新しく老人保健施設をつくっているところの数が多くなり、入居する人がない、民間の場合はどうしてもそういうかっこうだと赤字にならざるを得ないという現状があるもんですから、なんていうか、ほかの有料の老人ホームとかいうことではなくて厚生省のほうで補助金を出して、つくらしている、そういう老人保健施設も含めて民活を当てにされてるのか、それともやはり特別養護老人ホームみたいなのを主に頑張らして、つくらしていこうとしているのか、そこを知りたかったんです。
[水田]ですから、1.1%、1.3%っていうのはあくまで全国ベースの話ですので、地域的な需給バランスというのは相当バラツキが出ているのはこれは事実でございます。したがって私どものできる範囲でそういった過不足状態というのは調整していこうというふうに思っておりますが、その個別の特定の地域について、ここは老健がどうしてほしいとかいうところまで、国の立場からはいえませんので、それは県なり地域の中での話だと思います。ただ、その供給過剰の状態の場合には、当然そこには、例えば補助金を執行する際の1つの基準と申しますか、考え方にも反映されますので、そういう状態のある場合には、そこにさらに資源が投下されるっていうことはないと思います。
[大森]基本原則はですね、県が国に対して説明するんではなくて、そこに暮らしている地域の方々、もう少しいえば、出雲のようにもうちょっと広い圏域の中でいろいろニーズが満されていくことが重要でございますので、基本的にそこにそういう区域に暮らしてる方々に対して、ある自治体は、どうしてそのことをこういうふうに行うかということが、キチッと説明できることが第1原則だと私は思うんです。そういうふうに考えてくだされば、あまり%の標準について、これがどうだというふうに考えなくて、もう少し柔軟にお考えくださっていいんじゃないかと、そうお考えくださったらいかがでしょうか。もし水沢市のほうがそれほど過剰ならば施設が周辺の自治体にサービスしてもよろしいんではないかと、すぐに私なんか思うんですけども。そういうことでよろしいでしょうか。
今のご質問ちょっとすみません、今、いろんなことについて議論が及んでいますけども、さきほど岩川町長さんからデンマークに行かれたときに、合意形成の仕方にあるショックを受けられたというご発言がございましたので、アナセンさんからデンマークで実際にこのことはあまり強調されていませんで、実際にどういうふうにサービスが行われているかということは、ご指摘でございますけども、市民のニーズの声をどういうふうに吸収して、それが施策に結びついていくか、そういう合意形成のあり方について、ちょっとご説明いただければと思うんですが、アナセン市長さんいかがでしょうか。
[アナセン]ことば少なくお答えするのは難しいと思いますけれども、まず、高齢者も投票権を持っているわけですね。有権者であるということです。しかも高齢者の有権者としての発言権というのは、ますます大きくなってきているわけです。日本でもそうだというふう聞いているわけですが、有権者としてのパワーを使うというのが1つだと思います。
有権者グループの中でも、主要なグループであると、政党たるもの、それを認識しているであろうと、そういうことで高齢者の要求を反映させなければならない。それから、その政策決定過程においてのコンセンサスづくりでありますけれども、名政党も票を持っている高齢者に対して答えたいという意識があるわけです。そして高齢者はキチンとした請求書っていうか、経費を支払うことができるわけですから、それが税収を基盤とした財源というものも確保されているわけですから、逆にそれが高税率ということにもなっているわけですけども、高税率であることが高齢者の将来の問題解決につながるとも思います。
[大森]出雲の市長さんは、かなり強いリーダーシップの方だと私は思うんですけど、出雲の市民の方々がこういう、今日のテーマでいえば、様々な福祉施策、あるいはこれから新しい計画をつくっていかなければなりませんけど、そういうときにどういうふうに参加の形をおつくりになってるかということについて、ちょっと岩國市長さんからお話をいただければと思うんですけど、いかがでしょうか。
[岩國]そうですね、2つだけ申し上げます。私はよくいろんな女性の団体の集会にも行きます。それからゴミ集会。ゴミのところへ立ったままで、いろんな奥さん方の話を聞きます。私は大切にするのは大きい声よりも小さい声。小さなつぶやきとかささやき。そこに一番新鮮なアイデアがあるんです。大きい声の発言というのは、まず誰もが賛成してくれるだろうという声で市長のほうへ向かって、「市長さんこうしたらどうでしょう」と。しかし、それではなくてゴミ集会なんかで私の隣の隣のその隣ぐらいの奥さんが「もう、これからはリサイクルが必要な時代。あの角にあるガソリンスタンドがリサイクルステーションになってくれたらいいのにね」と私の方に向くとも向かないとも、そんなことやってくれるはずがないという感じの奥さん同士のささやき。しかし私の耳に入ってしまった。これはおもしろい、私はやってみようと思いました。そして出雲市のガソリンスタンドの経営者をみんな集めて、これから市民の皆さんの希望は、あなた方のガソリンスタンドがリサイクルステーションになることだと。ひとつ協力してもらいたい。そして13のガソリンスタンドが毎週木曜日にリサイクルステーションを開業することになったんです。開業ったって無料奉仕ですよ。このごろの奥さん方は、ハンドルを持って買い物に行かれるんです。車でいらなくなったリサイクルするものを、全部1週間ごとに、そこへ行ってポンと下ろさせていただく。ついでにガソリンを入れる。たったそれだけのことで1万1千本の木が1年間に救われたことになるんです。1万1千本の木、今日もどこかの山で元気に生えてます。出雲市のほうを向いて、「出雲市の奥さんありがとう、出雲市のガソリンスタンドの皆さんありがとう。僕たちの命を救ってくれてありがとう」。そういう感謝の声が聞こえてくるようです。こういう小さなつぶやき、ささやき、それを町づくりにすぐに生かせる、これが地方行政のダイゴ味だと思います。
中央の行政を変えるためには大きな声をいつまでも出さなきゃいけない。地方では、市長がやろうと思ったら、明日から、今日の午後からでもできます。それが1つのおもしろさじゃないかなと思います。
もう1つは今度は、さっきアナセン市長がおっしゃった老人パワー。出雲市も14%の人は高齢者、65歳以上の方です。そして出雲市では、成人式というのは20歳になった方を1月15日に、これは体だけ大人になった人を集め成人式をやってる。
65歳になったら、老人クラブに入会資格ができる。こういう人を集め慶人式を私はやっています。慶応の「慶」、よろこぶ。65歳まで長生きをされた、おめでとうございます。そして経験、知識、判断、人格、すべてを揃えて迎えられ65歳、おめでとうございます。3月にやります。去年もやりました。たくさんの人が今日のように来ておられました。65歳、私はビックリしました。私が小さいころみておった65歳、ほんとうにおじいちゃんだな、おばあちゃんだなという気がしました。もうそろそろ準備?をしておられました。今の65歳はどうですか、顔が若々しすぎる。ほんとうに65歳かなと思えるくらい。
そして慶人式が終わると、2次会、3次会についてこられます。中には私の前を歩いてる人がいます(笑い)。もうそれくらい、若い高齢者が増えたんです。だから私はいいました、これから65歳で老人クラブに入れる、こんな資格は甘すぎる。もっとバーをきびしくしたい。私はそういったんで、今の65歳は昔の65歳に比べて、東大の木村教授もおっしゃってますけども、「体力がありすぎる、2番目にゆとりがありすぎる、3番目に気力、意欲がありすぎる、だから老年といわれる資格はない。新しい定義は20歳から44歳までが青年、45歳から74歳までが壮年、75歳で初めて老人といわれる資格がある」。私はそれも引用しました。
人生50年といわれた時代は正月になると、毎年1つ1つ年をとったんです。今はそうじゃないでしょう。1年おきに年をとる、そういう時代がやって来てるんです。そうしないと、昔の年に合わなくなってしまったんですね。だからもう皆さんの年は8掛してください。体は8掛、気持ちは7掛ですよ、と。そういうことを私はいつもいっています。そうしないと昔の年に合わなくなったんです。だから、65歳で入会資格はない。もっときびしくしたいと。すると、老人会の会長さんと副会長さんが私の前へ出てこられました。2人合わせて160歳。「市長さん、ほんなら老人会に青年部をつくりましょうか」こういうんです(笑い)。青年部というのは20歳から30歳のときに使っておったことばです。今の高齢者の人は平気で青年部をつくる。ビックリしましたけど、私はうれしくなって、それじゃ日本で最初の老人会青年部をつくってあげましょう。約束して、約束したことは私は必ずやりますから、去年の9月14日、出雲市に老人会青年部が誕生したんです(笑い)。
60歳から70歳は青年部、70歳まで足踏みして本会員になれる。この60歳から70歳の青年部員1000人が堂々と設立宣言をした。そして60年間蓄えた知識、経験、判断、人格、そういうものすべてを地域活動に投げ出して、その地域活動の中で、自分自身の第2の人生の生きがいを見つけようと。考えてみると人生50年といったときは、青春は1回しか来なかったんです。今、青春が2回やってくる時代が来たんじゃないでしょうか。2回目の青春が60歳でやって来ます。満60歳、数えで61歳といいます。書いてみてください。還暦、若返りです。1回目の青春と2回目の青春、どこがちがうか。1回目の青春−知識もない、経験もない、人格もない、ゆとりもない。2回目の青春−知識、人格、経験、ゆとり、判断、すべてを揃えて迎える第2の青春。どっちの青春のほうが素晴らしいか。60歳の青春のほうがはるかに素晴らしいんです。これだけの組織の活性化をやりながら、お金を1銭も使ってない。1000人が、今2000人に増え、そしてこれだけのお年寄りの人たちが今までになかった力をだしている。お年寄り、高齢者というのは人的資産です。高齢者というのは物をつくる時代には、女、子供、年寄りといって役に立たないような表現でした。役に立たないことの代名詞でした。女性の方に申し訳ありません。そういうことはよくいわれたという昔の話です。今はちがったでしょう。物をつくる時代から、これから、ゆとりの時代、幸せの時代に変わったら、物つくりの時代の男の時代は終わって、これから、女、年寄り、子供の時代が始まって来たんです。お年寄りは60年間、蓄えた知的資産、性格、人格を持ってます。この資産を使おうと、そしてふるさとアカデミーという学校を開学したんです。これもほとんどお金がかかってないんです。
園芸だとか、歴史だとか、郷土史、伝説、そういう知識をたくさん持った高齢者の人が、若い市民の人に一生懸命教えてます。市民が教え、市民が学ぶ、そういう新しい学校をつくりました。それも、こういう老人会青年部のパワーです。去年の9月14日青年部が発足したときに、私は老人会という名前も変えましょう。昭和から平成に元号が変わったように、皆さんの元号も変えましょう。老人会をやめて慶人会にしましょうと。満場の人が拍手をして、そしてその日をもって出雲市から老人会の名は消えていきました。
今は慶人会と慶人会青年部。これだけの大きな事業に一銭も税金を使わないで、そして新しい力と新しい幸せと生きがいが、そうやって生み出されていくんです。こういうことができるのも、やっぱり地方の自治、地方の政治のおもしろさだと、私は思っています。以上です。
[大森]今、大変大切なことをおっしゃってくださったんじゃないかと思うんです。どうやら、法律用語ではみんな等し並みに「老人」ということばを使ってきてるんですけども、その老人についての基本的な見方の転換をどうしても迫られていて、それは単純に統計をとるときに65歳だけでとってるんではすまない。さらに、実に人生を多様に営んできた高齢の方々が、現在をこれからどんな風に暮らしていきたいか、そういう多様性に合わせた暮らし方の町、ないし暮らし方が可能なる様々な施策というのを、どうやって立てていけばいいかという、基本的な、つまり、この潤いのある生活環境とか、自立のことを考えるときに、基本的発想の転換の話を、今されたんではないかと私は思ってまして、大変大切なご指摘ではなかったかと思ってます。
実は今日、最初にアナセンさんから基調報告がございました折に、最後にスタッフのことをかなり強調されていまして、人、特に副の保健福祉現場を担ってる方々の話をされていました。そしてその人の話と、いわばサービスの質ですけども、質の管理と品質管理ということを強調されていたもんですから、ちょっと時間がなくなってきましたんですけど、最後に、これについてまずトゥームズさん、昨日、実はトゥームズさんからも、ケアマネージメントという非常に大切な考え方が提示されていまして、若干時間が少なかったもんですから、キーコンセプトがいくつかおありだそうですので、このスタッフとの関係でサービスの質に、ちょっと焦点を合わせて、まずトゥームズさんから、簡単にご発言をいただいて、他の方々からもこれについてのお考え方をちょうだいしたいとそう思っています。
[トゥームズ]ありがとうございました。ただ今の年齢に対する岩國市長からのコメントについて、私のほうからもちょっとコメントをしたいと思います。日本でも同じだと思いますが、50代というのは高齢の青年時代だと、60歳というのは青年の高齢時代であると、ちょっとゴチャゴチャですけども、そういういい方もできるんではないかと思います。
さて、このケアマネージメントですが、私は、地方自治の管理者であると、今日のパネリストはみんな地方自治に携わっている方たちだと思いますが、地方自治と、それから中央政府が、合意するということは、まずもって少なく、たいてい中央政府とは、色々緊張関係があるわけですが、今日は、水田さんが中央政府から来ておられますが、彼のいわれたことにも私は同感なんであります。それは何かと申しますと、これは世界的な問題である、すなわち高齢者人口が世界的に増えてきていると、その人たちのサービスの需要は拡大していると。片方において資源は有限である、と。そうであるならば、その問題の解決は中央政府では遠すぎて、現場から遠すぎて、とても解決できない。今日、日本の政府代表者は、地方自治に逆にあなたたちの責任ですよという、挑戦を出された、それは正しい方向だと思って、英国政府も正にそういうことをいったわけです。私どものケア政策というのは、地方自治こそ、その担い手であると位置づけしているわけです。サービスの提供の担い手は地方自治にあると。その計画の責任も地方自治にあると。ニーズの評価の責任も地方自治にあると。サービスの買いつけ購入の責任も地方自治にあるということを英国では打ち出してるわけです。
それは正しい方向づけだと私は思っております。その地方自治の中で、管理者たる私ども、または政治に携わっているその管理者というのは、我々といえども地方自治といっても、現場から離れているということを認識する必要があると、特に大きな地方自治の場合には、現場がやはり地方自治といえども離れてしまっていると。ですから地方自治は、その前線で現場にいる人たちに権限を委譲していかなければならない。
政治家として地方自治に携っている我々は権力が好きですし、管理をするのが好きですし、とにかく全部データを集めて管理をするのが好きでありますけれども、その現場の人たちに委譲をする必要がある。これは現場にとっても新しい経験です。予算をどう配分するのか、予算をどう管理するのか、今まで中央がやっていた、それを今度現場でやるということになると、現場にとっても新しい経験ということになります。政治がキチンとしていれば、それの配分の基準は政治が決められるというふうに思うわけです。ですからこのケアの管理のプロセスというのは、何かというと、その目標を達成する手段だと。プロセスは手段だということになるんだろうと思います。昨日はお見せしたスライドの中で、ゆっくり読んでいただけなかったところがあったと思いますが。後で議事録ができたときにそれを資料の中にぜひ入れといていただきたいわけですけれども。
そのケアマネージメントはどの段階でおさえているかということが書いてあるはずです。まず情報を公開するということが第一歩だと私は申しました。で、その政策研究所がやった調査の結果も、ちょっとお話しいたしました。要するにサービスのユーザーから、聞いたところによると、情報がないとお互いに色々そのゴシップをして、井戸端会議をやって、こういうサービスがあるということに気がついたということなんですね。それは最悪だと。情報の公開がないわけ、提供がないわけですから、ユーザーから情報を探してこなければならないと。これは最悪だと。ですから知るべき人たちに対して、その情報を出すと、こういうサービスがありますよ、こういう機会がありますよ、ということをこれだけの幅広いもの、できればですよ、ありますよということを出すのがまず第一歩だということであります。
幅広いサービス、これは法令で法廷で定めた硬直的なものだけではないと。医療サービスだとか、社会サービスに限られるものであってはならない、住宅サービスだけでもない、と。その中には、任意団体がやっている、ボランティア団体がやっている、NGOがやっているようなサービスも、当然含めてのサービス、情報提供でなければなりません。民間がやっている、サービスも情報の中に一部入ってなきゃいけないということです。民間を入れるべきかどうかという、まあ懐疑的なご意見がありましたこともわかります。営利追求ということになりますから、それと、どうかみあうのかという、やさしい問題ではないと思いますけども、英国政府としては、中央においても地方においても、民間も一緒にやろうと、ナーシングホームを運営しているレストハウスをやってる民間があるわけですから、民間の強みというのは官僚でないということがあります。地方自治もやっぱり官僚でありますから。ケアマネージャーがニーズをキチンと提起すれば、民間のほうが早まわりがきく、小まわりがきくわけです。
地方自治が少なくても英国です。ニーズに向かうまでに民間のほうが早いわけですね。まずサービスの情報を出す。それからサービスを提供する基準、標準づくり。これは地方自治の2つの重要な課題だと思います。どのレベルのサービスを出すか、これは政治の問題です。政治の決定です。その標準づくり、基準づくり、これは政治の課題だと思います。同僚の市長さん方も政治だろうと思いますが、政治家っていうのは、逃げるわけであります。あまり具体的なものはいいたくない、具体的なことをいってしまうと公約だといわれるので、抽象論をやると。だけどこの問題に関しては具体的に出していただかなければならない。必要な政治的なリーダーシップを発揮してくださらなければ、有限な資源でとても解決することはできないと思うわけです。その資源の問題ですけども、日本でも英国でも、この福祉において、十分な資源というのはあり得るはずがないと。限られた資源を、今ある資源をどう有効活用するかというふうに頭を切り替えなきゃいけないと思うわけです。ケアマネージメントのプロセスを、評価の手続きの一環にする必要があります。
評価っていうのは、個々人が何をニーズ、必要としているか、どなたか自分の市町村のとこではケア施設が多すぎる、過剰供給だということをいわれましたけれども、それもケアの管理だと思うわけですね。サービス供給側の考え方だったわけです。需要、ニーズの需要からみてないわけですね。これだけ出します、上げますよということだから過剰供給になるわけですけども、今のアプローチはどうかと、ニーズが主動しなければいけないと、ベッドをつくるからつくるんだというんではなくて、ベッドが必要だからつくりましょうという時代なわけなんですね。
自立した生活を送るために何が必要ですか。ニーズを主動とした評価をする必要があるということです。これは専門家だけに託しててはとてもできることではないと思うわけです。個々の状態というのは非常に多様であるということでありますから、数多い人たちがインタビューをしなければならない。その意味ではお医者さんなんかも役割があると思いますね。特に一般開業医の人たちなんか、それからナースなんかも話し合いができる、それから地主なんかもそれからボランティアの組織も、ソーシャルワーカーも、みんながニーズを吸収したらいいと思うわけですね。
彼らの技能を使ったり、彼らの評価の頭を使ったらいいというふうに思うわけです。これはプロの行動に限られてしまってはならないと思うわけですね。これはユーザーの参加をあおぐ必要がある。そして、そのケアの介護者も入れなければならないと。そのサービスを使っている人、ケアを、介護をしている人たちのほうが専門家より知ってるはずだと思います。
専門家と考えると高いものを出そうと考えるけども、数時間、手伝ってくれればいいのよということであるかもしれません。ユーザーに決定の権限を委譲するということなんです。それは我々専門地方自治のプロよりは現場のケアを提供していく人たち、またはユーザーのほうが知ってるかもしれないと。彼らを尊重すべきだということなんです。
4番目ですけれども、まずそのケアの企画、プランニングです。ニーズを定義しましたと、それに基づいて企画するわけです。どれだけのものを購入するのか、誰がそれを提供するのか、どの部門が何を貢献するのか、どういう寄与をするのかといったようなことです。英国の経験では、その地方自治の福祉部の予算ばかりではなくて、他の予算も併せて、考えているわけですね。ですから、医療サービスの人たちとも予算もつき合わせて、どういうふうに配分したらいいかと、資源をプールして大きな予算ということにして、みんなでそれを管理しようという考え方なわけですね。自分の小さな予算を守ってるよりは、みんなでプールしたほうが、みんな使いやすくなると。これは、関係省庁の横の対話ということになりますし、今までは私の予算が他の人の予算へと、責任転嫁をやってきたわけですけども、それも変わるということになるわけです。予算の配分とその実行において全意識が変わるということを意味するんだと思います。
英国において、色々それは難しいという人もあるわけですけれども、個人の負担が増えてきております。今まで無料で国なり、自治体がサービスを提供してくれた。
あと2点だけ、一番大切だと思いますのは、こういったプログラムを出しましたら、1回決めたら終わりだというんではなくて、定期的に6ヵ月に1回というふうに決めといたってよいと思うわけですが、ユーザーとともにそのサービスが、提供されているものが、ほんとうにほしいサービスなのか、そしてそのクオリティーというのが劣化してない、低下してないかということをキチンとモニターして、検討していく必要があると思うわけであります。これも6ヵ月に1回、12カ月に1回、皆さんが決められればいいことですけども、これをモニターするわけですけども、今、提供されているサービスがこのままでいいのかと、ニーズが変わってきているのか、そうであるならば、今やってるサービスは減らして新しいサービスということだって考えられるんじゃないかと、いうような、レビューをするということが、必要だと思います。
非常に簡潔なアウトラインでありますが、これがケアマネージメントのプロセスの各段階だと思います。まずユーザーに権限を委譲するということが中核になっております。それから有限の資源の有効活用につきると思います。
[大森]間もなく時間が終わってしまいますけども、日本側の3人の市区町長さんから今のようなご発言をちょっと念頭においていただいて、最後にこのスタッフとか、今のようなニーズのつかまえ方とか、現場主義みたいなことについてひと言ずつ、1分くらいずつで、しめていただいて、終わりにいたしたいと思います。では西野区長さんから…。
[西野]マンパワーを確保しながら、福祉を充実するというのは、私ども都会は非常に仕事のチャンスが多いわけでございますので、意欲をもって来ても横を向くと、もっといい仕事があるということで動いていかれる方が非常に多い、そういう悩みを持っております。したがいまして、これからは市民の多くのボランティアの力も結集しながら、お互いに助け合っていくと基本に立ち返って共に支え合う。そういう高齢化社会にしていかなければならない。今年の10月に福祉公社、財団法人福祉公社の設立をすることができました。ボランティアの登録が500人、サービスを受けたいという申し込みが150人、2年間の経験の中から、これから財団法人として出発をしていきたいと思っております。
[大森]どうもありがとうございました。では岩國市長さん。
[岩國]これからの福祉、それから高齢化社会を支える人的資源として、出雲市は3年後に県立でありますけれども、医療看護短期大学をつくるっていうことになりました。大変ありがたいことだと思っております。こうしたメニューはある。お金はまた増えてくる。しかしそれを支える人がいないということではいけません。学歴とやさしさは反比例するということばがあります。大学へいく。あるいは4年制の大学へいく、そういう高学歴の女性ほど、そういうやさしさというものは失われていく、大変残念なことです。この新しい大学では、学歴とそれから心づかい、やさしさが正比例する。そういう大学にしたいと思っています。
私は30年間お金の世界におりました。株式の売買は一度もしたことはありませんけど、会社を全部合併させる、お金がお金を生み出す、そういう世界におりました。今、私はこう市役所に入って華麗なる転身とかいろんなことをいわれておりますけども、実際には私は華麗なる転落ではなかったかと思っております。華麗なる転身というのは肩書が上がるか給料が上がる場合ですから、しかし、私はその華麗な転落を味わっております。楽しんでおります。財布の中は満たされてませんけど、心はいつも満たされている。私のやることは朝から晩まで、わずかなお金を、市民の皆さんの喜びに変える、幸せと生きがいに変えていく。こんな素晴らしい仕事はないと思ってます。民間の皆さまの力を引き出すのも市役所の力。私は市役所の職員によくいいます、金がなければ知恵を出せ、知恵もなければ、東京都庁へ行けと。東京都だけはお金がある。そして知恵の出ない人が勤まるのはあそこしかないんだと、私はいつもそういうことをいって、市役所の職員に一生懸命知恵を出すようにはげましています。
それは知恵というのは、自分たちがもっとよく働くこと、市民の皆さんの協力を引き出すこと、これが、これからの福祉社会を乗りきっていく、地方行政の一番大事なことではないかと思っております。
[大森]はい、ありがとうございました。では華麗な転身を計られた岩川町長さん。
[岩川]今、トゥームズさんのほうからニーズの問題、最後に出されておりますが、私も福祉の問題、究極は現場主義が一番よいと思っております。現場に聞くことが問題の解決も、また、そこで探せると、常にそういう現場のニーズに対して行政として、どういう形で柔軟性をもって対応できるかと、機構の問題があるわけです。それで1つをつくったらいいんじゃなくて常に現場の声を尊重しながら、それに行政が合わすということ、行政は、あくまでも住民サービスが一番の使命なわけです。それに対応する組織、それが我々の責任でキチッとしなければいけないと、そういうふうに考えています。で、そのときには我々も相当勇気を持っていろんなことをやるわけですけども、いろんなニーズがあったら、とにかくやってみようと。失敗を恐れないで、結果をあまり予測しないで、まずはアクションを起こす。そしてダメだったら、もう1回やり直したらいいんです。失敗は間違ったことが失敗じゃないんです。間違いをしようとか、あるいは成功しようという、そういう考えをそこでストップすることが、我々の失敗に当たるわけです。
そしてこれからの福祉というのは、介護とあるいは介助の質と量の問題が最終的には解決するんだと思ってます。そういう意味で、例えば訪問看護とか、ヘルパーの問題、あるいは施設の問題、あるいは補助金の問題、そういうものを使うときに、それがただ単に与えるんじゃなくて、やはり現場でもって、これをどう使うのか、どういう要求があるかというところで使う側、あるいはそれを欲する側と、そして行政が常に一体となるということ、そして距離をできるだけ縮めるということ、そしてやはり最後はそういう住民が参加しての行政、住民が主人公であります。以上であります。
[大森]ありがとうございました。このセッション、まとめは午後の2部会の冒頭で15分ほど私からいたしますので、まとめはございません。パネリストの皆さん方、および会場の皆さん方に感謝申し上げまして、この第1部を終わりたいと思います。ありがとうございました。





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