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高齢者ケア国際シンポジウム
第3回(1992年) ゆとりある生活環境と自立


分科会 II 発表  デンマークの郊外、グラズサックセの老人たち

デンマーク・グラズサックセ市長
オーレ・アナセン
Ole Andersen



はじめに

デンマークでは、公的機関が高齢者のために広範囲なサービスを提供している。67歳以上の市民は全員、中央政府が税収から支払う基本年金を受ける。膝、腰、目の手術を含むヘルスケアは、県が無料で提供する。グラズサックセ市などの市町村は、住居、ホームヘルプ、食事の配達、看護、その他患者の自宅内のケア一切を負担する。
公的機関が高齢者の生活で果たす役割は大きいが、かなりの高齢者であっても自立している老人は多く、年金以外には公的援助を受けていないということを強調したい。子供がある人が多く、子供たちにも頻繁に会っており、子供も様々な面で両親の面倒をみている。しかしデンマークでは、親が自分の身の回りのことができなくなった場合、子供が責任を持つべきであるという期待はない。
この現象は現在のデンマーク社会に照らして理解する必要がある。今日、女性の多くは仕事を続けたいと考えており、高齢者の身内の世話をするために家庭にとどまることをしない。その上、伝統的な家庭像が変わってきている。1度ならず離婚し、再婚する人が多くなった。言い換えれば、年をとった世代に対して責任を負うべき家庭の単位の定義が明確でなくなった。
こうした社会経済の変化は、姿勢の変化を伴った。今世紀初頭まで残っていた農村社会では、一般に息子や娘が介護の必要な高齢者の世話をすることを期待されていた。今日のように高度に都市化した社会では、かつて農村社会の特徴であった身内に依存する関係を避けたいと考える高齢者が多くなっている。
これは、世代間の接触がないという意味ではなく、どの世代も互いに独立した暮らしをしたいと願っているだけのことなのである。
グラズサックセ市は大コペンハーゲン市の一部である。人口約46万人のコペンハーゲン市と境を接しており、約6万人がグラズサックセ市に居住している。グラズサックセ市の67歳以上の高齢者人口は約9,500人で、市民の総数は来世紀初頭にはわずかに減少すると予測される中で、今も増加している。来世紀初めには高齢者人口は全体のほぼ17%を占めることになろう。
1992年の85歳以上の人口は800人をわずかに下回った。が、1997年には1,000人を超え、2002年には約1,250人になると予測される。これは、5年で25%、10年で50%以上の伸びを意味する。
これでわかるように、高齢者数の増加は著しい。しかし67歳という年齢は老衰と同義ではないことを力説したい。
デンマークでは、定年は67歳が普通である。公務員は70歳まで働くことができる。しかし早めに引退してしまう人が多いため、引退の平均年齢は62〜63歳となる。こうした人たちの多くは、仕事中心の生活を離れた後、極めて行動的な人生を送っている。高齢ではあるが、老人というわけではない。
私は週1度市営プールで90歳と88歳の老夫婦に会う。彼らは毎朝7時にはプールに来ており、もっとも元気なスイマーの1人である。(私自身は週1回泳ぐのがやっとである)。最近私たちはこの老夫婦の結婚65周年を祝った。

グラズサックセ市の高齢者ケア政策

高齢者ケア政策では3つの目標をかかげている。第1に、高齢者は選択の自由が与えられるべきであり、自分の希望が考慮されていると感じる必要がある。第2に高齢者の生活には継続性がなければならない。したがって、サービスの提供は各家庭の近くで行われる。第3に、高齢者自身の能力をできるだけ活用する。市職員は、高齢者が自立できるように手助けをしなければならない。
高齢者政策を策定し実行するに当たっては、社会問題委員会に所属する職員と、高齢者の間の密接な協力が不可欠である。このために、社会問題委員会のメンバーや行政担当者、高齢者代表からなる高齢者のための諮問委員会を創設した。
高齢者は同質の集まりではない。ニーズや希望は非常に幅広い。幸い、高齢者9,500人のほとんどが年金のほかには公的援助を受けず自力で生活できている。広範囲から選択できるような種々の活動(水泳、体操、旅行、各種講座)を提供している。約2,000人がヘルパーを必要とし、1,500人が高齢者用ホームで生活しているが、ナーシングホームに住んでいるのはわずか5%の500人にすぎない。
以下に、グラズサックセ市の高齢者のための政策のうち、いくつかの重要な点について述べたい。まず初めに、住居を必要とする人々にどうやって提供しているかについて述べよう。第2に、ホームヘルパーや在宅看護、その他の家庭内でのサービスについて述べる。第3は、スタッフに関することである。
まず、高齢者に関する政策で特に重要な3点について触れておきたい。
第1に、私たちの活動を知らせる必要がある。なるべく地元の新聞や地元放送局、年金受給者のためのハンドブックや情報交換の場といった複数のメディアを利用したほうがよい。
第2に、高齢者は、困ったときなどに個人的な助言を受けたり、住宅、年金についての助言や情報が得られるようにする。
第3に、予防活動が必要である。スタッフはできるだけ高齢者と接触して、助言を与え、援助している。予防活動とは、運動(体操やダンス)や、精神的な支えなどを指す。こうした活動を通して、高齢者の生活の質を保証し、高齢者が世間から孤立しないようにして、経済的負担の大きいケアが必要になる時期を遅らせることができることが経験的にわかっている。
家族のつながりだけではカバーできなかったこと、またはカバーしようとしなかったことを公共部門が引き受けてきた。そのため高齢者(特にケアを最も必要とする85歳以上の人たち)の数がどんどん増加すると、地方自治体の財政負担が増大する。老人ホーム(1日24時間のケアが必要な人のためのもの)の費用は、年間約40万クローネ、すなわち800万円もかかる。
こうした経済的、社会的、人口統計学的傾向を考えると、今後グラズサックセ市が高齢者サービスの開発やその内容に関して、大きな課題に直面することは明らかである。そのためには、政治目標を明確にし、市の行政がうまく機能しなければならない。









住居

住居に関する分野では、できるだけ長く自宅で暮らせることを目標とする。年をとると、小さい住居へ移るほうが便利な場合がある。これを踏まえて、高齢者になじみのある近隣に、住み替え用の住居を十分用意するのが地方自治体の仕事である。この種の住居は、先々になって改造の必要がないように、家具を備えたり、場所を選ばなければならない。
住居に関する高齢者のニーズや希望は、他の年齢層と同じく多岐にわたる。他の人たちと同じように、高齢者も他人と一緒に平和に、かつ交渉を保ちつつ暮らしたいと願っている。
それ故、高齢者住宅には種類が多くなくてはならない。高齢者向けに設計された賃貸住宅(多層または平屋)が必要だが、自分のアパートや自宅に住みたい人たちはその機会を与えられるべきである。都市再開発や既存住宅の改造(例えば多層のアパートにエレベーターを設置する)等によって、高齢者はなじんできた地域にそのまま住みつづけることができ、高齢者用住宅を提供する上で一役かっている。
デンマークでは、高齢者のための住居は地方自治体、あるいは協同建築組合が建築、所有、運営をすることになる。所有者が誰であれ、市当局が室数を決定したり、費用の一部を負担することにより、誰がそのアパートに住むかを決定する権利がある。
面倒なことには、住居に関しては、2つの別個の法律がある。高齢者側からみるとそれほどちがいはない。どちらの法律が採用されたにせよ、アパートは見た目が全く同じで、家賃も同じ方法で計算される。ちがいを挙げれば、1つの法律によれば中央政府が費用の一部を負担し、したがってアパートの室数を決める。もう1つの法律によると、市当局が全面的に財政負担をし、それ相応の影響力を持つ。
高齢者向けに設計された住宅には、障害のある若い人も入居することができる。
高齢者用住宅は必要なサービスが受けられるケアセンターの近くに建設する必要がある。高齢者に孤立感を覚えさせないことが何よりも大切である。食事をするケアセンターと家を往復するだけでも、孤立感が癒される。
グラズサックセ市では、住居の水準をどこにおくかは政治的問題である。現在、高齢者住宅は2部屋に、台所、バス、トイレが付いていなければならない。総面積は60〜65?uである。建物の上階にある場合は、エレベーターを設置しなければならない。
ケアセンターの敷地内に家が何戸か建っている場合は、1戸当たりの面積が25?uぐらいしかないものもある。そこに住んでいる人たちはセンター内の共同の居間を利用できるので、1人当たりのスペースはほぼ同じになる。
高齢者向け住宅は、大抵日当たりがよく、バス/トイレ、冷蔵庫、電気コンロがあり、洗濯機、乾燥機といった最新設備も利用できる。小さなバルコニーやテラスのついたアパートもよくある。高齢者向けアパートの棟には、共同スペースがあるのが普通だ。
こうした住宅は、この25年間に建てられたものが多い。
一般に、グラズサックセ市、さらにデンマークの住宅水準は非常に高い。グラズサックセ市には住宅が29,500棟あるが、1940年以前に建てられたものは5,000棟にすぎない。約11,000棟は政府の援助を受けている非営利の建築組合が所有し、運営している。住人にはこのアパートの建物の運営に関して強い発言権がある。
建築組合との契約により、グラズサックセ市は、高齢者用として多数の住居を割り当てる権利を持っている。こうした家は、建築組合所有のアパート群にある。
これらの住宅は、多くの点で他のアパートと似ているが、この他にもグラズサックセ市は次のようなタイプの住宅を提供することができる。
・高度ケアを必要とする人のための住居。一般に面積は小さい(20〜30?u)が、1戸につき平均25?uの共有施設が他にある。7カ所のケアセンター内にこのような住居が467戸ある。それぞれ居間と小さな玄関部分があって、バス/トイレ付きである。
・ケアを必要とする人のための住宅(いわゆるケア付き住宅)。ケアセンターの敷地内ではないが、近くに建てられており、面積は少し大きく、60〜65?uあり、居間、寝室、台所、バス、トイレからなっている。これは120戸ある。
・高齢者用に設計されてはいるが、普通のアパートの棟にある住居。普通約60〜65?uの生活空間があり、居間、寝室、台所、バス、トイレからなる。グラズサックセ市には289戸ある。
・年金生活者用アパート。これも普通のアパートの棟にあるが、老人や障害者用に特に設計されたものではない。大きさは30〜65?uと様々であるがこのタイプの典型的なものは、居間、台所、バス、トイレからなり、寝室がもう1室ついていることがある。グラズサックセ市には700戸ある。
高齢者用住宅の提供形態として最も新しいのは、共同生活の形式をとったプロジェクトである。このプロジェクトは、小さな6戸のアパートと広い共有スペースからなっている。この新しい形式には大きな期待をよせている。
全体として、当市には高齢者用住宅が約1,600棟ある。この地域の高齢者人口の占める割合を考えると、デンマークの水準からみても多い戸数である。
高齢者への住居割当では、入居希望者の心身の健康状態や、経済状態の評価を基準とする。どこに住むかは、高齢者の選択に任せるべきである。どこに移ろうと、それが生活の質の向上につながらなくてはならない。何年か前ならば、身体が不自由であるといった理由で、ナーシングホームに収容されていたような老人が、今、自宅で生活できるのは、24時間体制の在宅看護サービスが十分に行き届いているからである。いまだにナーシングホームに入居するような人たちは、病弱でケア(ただし病院での治療ではない)を必要とすることが多い。ナーシングホームの平均入居期間は2年余りである。これは、今日、大規模施設でのケアは主として終末ケアとして利用されていることの表れである。
高齢者人口が増えたために生じた問題に、精神科医師のケアを切実に必要としている痴呆老人の増加がある。このためグラズサックセ市でケアセンターの1つにこうした人たちのための別棟のユニットを建設した。22人収容することができる。現在、同タイプのユニットを増設中である。この種のユニットには専門の訓練を受けた職員を配置している。
実際には、誰にケアを与えるかについての決定は、専門家委員会が希望者を訪ね、希望者のかかりつけの一般開業医などからの情報を求めて行う。疑問点があれば、希望者のニーズが正確に把握できるまで、その人をナーシングホームに収容して観察することもある。
高齢者用の2部屋住宅65?uの標準家賃は、1ヵ月約3,500デンマーククローネ(70,000円)と暖房費である。国の家賃補助制度もある。補助の程度は、収入や家賃による。基本年金(55,000クローネ、約110万円)以外の収入がなければ、だいたい月2,800クローネ(56,000円)の家賃補助が受けられる。この場合、年金生活者は月に700クローネ(14,000円)と暖房費(300〜500クローネ、6,000〜10,000円)を払うだけでよい。
ケアセンターの敷地内に建てられ、多くのケアを必要とする人たちのための高齢者住宅では、入居者1人当たりほぼ1人の割合で職員がいる。つまり、1人当たり1日にかかる費用が850〜1,115デンマーククローネ(17,000〜22,300円)ということになる。この数字をみれば、我々がなぜこの種のケア形態を最小限に減らそうとしているかおわかりいただけると思う。ただし、私たちは、施設におけるよりも、普通あるいは普通に近い住居のほうが高齢者の生活の質は高いと信じている。質、経済性の両方の理由から、施設収容型ケアを避けたいと思うゆえんである。

高齢者の自宅におけるケア








仕事中心の生活から引退生活への移行は大抵の人には難しいものである。これまでに多くの人(特に男性)はたくさんの仕事上の友人や知り合いを得ている。退職すればそういった友人関係は絶え、日常での他人との接触が極端に少なくなる。家族の絆が非常に乏しい老人も多い。しかし、高齢者も私たちと同じように他人との交流を持ち、一緒にいることが必要なのである。
寿命が延び、そのため退職の年齢が相対的に低くなると、高齢者としての生活が人生に占める部分が大きくなる。同時に、老化が加齢現象として現れる年齢が以前よりも遅くなった。そのため、ほとんどの高齢者は年金を受け取るときにくらいしか市役所に用がない。グラズサックセ市の高齢者で常時ヘルパーの派遣を受けているのは15%にすぎない。
高齢者が自分で日常の掃除、料理、着替えなどがうまくできなくなると、市からホームヘルパーを派遣してもらえる。在宅看護や、自宅の改造について補助を得たり、補助器具を借りることもできる。
社会からの孤立を避けるため、グラズサックセ市では社交クラブ、年金受給者のためのセンターや、カフェテリアを開設した。家族とのつながりが乏しかったり全くない人のために、電話や訪問サービスが行われており、理学療法や作業療法をデイケアセンターや機能回復センターで提供している。
高齢者が直面することの多い問題を大別すると、自らが求めたのではない孤独、様々な度合いの障害、病気、そして一般的な老化現象の4つがある。他人との接触がない(社会からの孤立)ということは、人から頼まれたり期待されないことであり、こういう状態をつづけると物事に対処する能力が衰えてしまう。悪くすると、いわゆる老衰への道を駆け降りることになる。病気や仕事関係の事情で、一部あるいは全部に障害がある高齢者も多い。1人で外出、特に夜間外出することを怖がって家に引っ込んでしまう。
慢性の病気か障害のある高齢者は多く、正常な老化でも体力や活力がなくなる。家の雑事や、身繕いがしにくくなる。食欲が減退するか全く食べる意欲の出ない人が多い。こうなると病気にかかりやすくなり、悪循環が始まる。
グラズサックセ市のソーシャルサービス課は、広範なサービスや活動を提供することでこうした状態を防ぐ努力をしている。
自宅が車椅子の利用に適していない場合は、台所や浴室の改造費の補助をソーシャルサービス課から受けることができる。特殊な椅子やリフト装置、照明付き拡大鏡、杖など、障害者の生活を助ける各種補助器具を提供している。
年金受給者のために開かれている食堂へ行くことのできない高齢者たちは、自宅で毎日給食サービスを受けている。現在のところ、450人がこのサービスを受けている。食事そのものの費用はサービスを受けている人が支払うが、配達にかかる費用はソーシャルサービス課が負担する。グラズサックセ市は、特別サービスとして歯科医に行けない高齢者のために歯のケアを行っている。
高齢者の多くが一番困るのは、家の掃除と自分の身の回りの世話である。ニーズの度合いに応じて市がヘルパーや訪問看護婦を派遣する。ホームヘルパーのサービスは、高齢者が、自分のニーズを一番良くわかっていると仮定して行われている。高齢者がしてほしいことをヘルパーは待ち時間内でやろうと努力している。
着替え、トイレに行く、家の掃除(普通は隔週2時間)、買い物(週1回)、洗濯(3週間に1回)、医師、銀行、郵便局等へ行くのを手伝う、場合によっては料理を手伝うといったどんな身の回りのケアにも手がさしのべられている。
グラズサックセ市には約400人(内5人は男性)のヘルパーがいる。彼らは2,000所帯を受け持っているので、67歳以上のほぼ3分の1がヘルパーに助けてもらっていることになる。援助は年間を通じて毎日24時間体制でおこなわれている。大抵のヘルパーは家から家への移動に自転車を利用している。
ヘルパーの費用はおおむね無料である。ただし高所得者またはなんらかの財産のある人は所得または財産に応じて費用の一部を負担する。しかし、1ヵ月1,500デンマーククローネ(=30,000円)以上支払う義務はない。その人が亡くなるまで支払いを延期することもできる。ヘルパーの派遣を受けている人の約15%が自己負担している。
病院か一般開業医の処方があれば、在宅看護を無料で受けられる。在宅看護サービスには40人(内男性3人)の専門看護人が当たり、その多くは市が提供する車を運転して移動し、移動電話を使っている。
例えば就寝直前など、決まった時間に看護婦の訪問を受ける高齢者は多い。緊急に助けが必要なときは、電話か、緊急用に取り付けられた電子装置で呼ぶ。現在この装置を家庭に備えている高齢者は335人いる。
ヘルパーも訪問看護婦も、病人や終末期患者にはより密度の濃いサービスを行っている。現在30人がこの種の任務についている。
市のホームヘルパーに加えて、高齢者は自分で通いのお手伝いさんを雇って、補助金を受けることもできる。現在のところ、この制度は若年で障害度の強い人の場合にのみ利用されている(現在25所帯)。
大きな家や庭の管理に助けが必要な高齢者は、家の中の仕事や庭仕事を手伝う人を派遣してもらえる。失業中の若者25人が約400所帯のためにこのサービスに当たっている。これは失業中の若者に何か職を与えるのが目的であり、どぶ掃除、芝生や垣根の手入れ、樹木の伐採をする。高齢者は費用の15〜20%を負担する。
高度のケアが必要な人たちのためのホームのほかに、ケアセンターには理学療法や、作業療法を提供するデイケアセンターがある。高齢者の身体機能を回復させ持続させるために、また自分のおかれた環境に対処する能力を高めるためにこうしたケアセンターは設けられている。
治療や訓練は退院後のケアとして行われることが多い。治療のために宿泊が必要な場合は、リハビリテーションセンター(全部で18室)を利用する。治療と訓練は個別とグループの両方で行うことができる。看護帰、理学療法士、作業療法士は協力しあってこのサービスに当たる。
7か所のケアセンターと約250カ所のデイケアの場所があり、75人の職員がいる。特殊な治療のために考案された温水プールのあるセンターが1カ所あり、毎年約400人が利用している。デイケアセンターの利用者は、80デンマーククローネ(1,600円)または160デンマーククローネ(3,200円)支払わなければならない。
24時間体制の在宅看護とともに、デイケアセンターは、施設収容型のケアを避けようという私たちの政策の主眼である。この政策の他の具体内容は次の通りである。
・4カ所のケアセンターにある年金受給者用の食堂。年間145,000食のメインコースを22デンマーククローネ(440円)で提供している。
・145人の利用者との電話ネットワーク
・赤十字が組織したボランティアによる家庭訪問サービス
・老人クラブ。クラブは4つあり、メンバーは900人いる。その他に民間組織のクラブが19あって補助金を受けている。
こうした食堂、センター、クラブでは、高齢者の社会や自分自身についての知識を高めるために、「適切な社会のネットワーク」を形成しようとスタッフが努力している。高齢者は自分が社会にとって大切であることに気付き、その能力や経験に自信を強めるべきである。
グラズサックセ市はほかにも多くのサービスを提供している。以下に例を挙げる。
・国内の各所で年金受給者のための5日間コース…参加者700人
・夜間クラス(語学、美術、音楽など)…参加者2,500人
・水泳、ダンス、体操…参加者900人
・年金受給者のための旅行…参加者650人
・年金受給者のための日帰り旅行…参加者2,135人
これらの活動にかかる費用は利用者が一部負担する。
高齢者ができるだけ長く自宅にとどまれるように、一時用ベッド緊急用ベッド昼用/夜用ベッドをケアセンターの1つに置いた。
一時用ベッドを提供する対象:
・在宅年金受給者で、自分の家族に介護してもらっている人
家族にも休暇がないと倒れてしまう
・重病患者あるいは末期患者で入院が必要と思われる人
緊急ベッドは、在宅の年金受給者で、急病になったり、不安がつのったりした場合に利用できる。老人は自分で緊急用ベッドを希望することができ、希望があれば必ず受け入れられる。短期間、あるいは長期間、ケアやなんらかの治療を受けた後、自宅に帰って行く。一時用/緊急用ベッドは14床あるが、来年中には2倍に増床される。夏休みには一時用ベッドの数を増やす。患者は1日当たり65デンマーククローネで一時/緊急用ベッドを利用することができる。
このケアセンターには17床の昼用/夜用ベッドもある。自宅で生活を続けてはいるが、終日または夜間にケアを必要とする老人のために考えられたものである。したがって、1床のベッドを昼間、夜間と2人が交代して利用することがあり得る。ケアセンターへの往復の輸送は市が受け持つ。患者は1日あるいは1晩につき45デンマーククローネ(900円)を支払う。

スタッフ





高齢者向けサービスに従事するスタッフはほぼ全員、特別の訓練を受けている。医療以外のあらゆるケアを提供できるように、グラズサックセ市は看護婦、看護助手、ヘルパーを雇用している。彼らは年間を通して24時間、交代で仕事に当たる。決められたサービスと急に必要になったサービスの両方をこなしている。
その仕事場は患者の自宅(在宅看護、身の回りの世話など)とナーシングホーム内である。デイケアセンターやリハビリセンターには、理学療法士、作業療法士、ホームヘルパー、用務員が勤務している。さらに料理、掃除、建物の営繕を担当する職員がいる。
総スタッフ(ナーシングホーム500床の世話、2,000人を対象としたホームヘルパーの提供、年金受給者10,000人を対象としたその他の活動の提供)の内訳は次の通りである。

表中、2欄の人数に差があるのは、パートタイマーを多く雇っているからである。つまりグラズサックセ市では高齢者または障害者10人に対し職員1人ということになる。
これらの職種は男性よりも女性に人気があるようだ。スタッフの内、男性はほんの少数に過ぎず、用務員か営繕の仕事がほとんどである。
一般的には、こうした職種の採用は容易ではなかった。看護婦は別として、これらの職種の地位は概して低く、待遇や労働条件もとても魅力があるとはいえなかった。
この問題を解決し、男性も女性も高齢者向けの仕事にもっと関心を持ち、より多くの人がこれを生涯の仕事として選ぶようにとの願いから、新しい教育システムが発足した。3段階に進めるシステムである。
将来は正規の研修を受けた職員のみを雇用することになろう。
現場教育も行っている。現場教育計画については職員と話し合う。この費用は通常給与経費の1〜3%に当たる。すなわち、平均年俸20万デンマーククローネ(400万円)の看護助手にかかる現場教育費は年間700デンマーククローネ(14,000円)である。教育期間中にはある程度代わりの人を雇う。この教育はおおむね組織内で行われる。
フルタイムの職員の労働時間は週37時間で、年間5週間の休暇がある。女性は産前4週間、産後24週間の産休が有給で得られる。有給休暇の一部は夫が利用してもよい。病気の場合、ほとんどの職員は給料の全額を支給される。また、無給の有給休暇を希望することもできる。

将来の課題

デンマークの経済状態を考えると、自治体は予算を大幅に拡大できない。しかし、高齢者の数やサービスのニーズは増大する。つまり、サービス供給の効率を高めるために、高齢者ケアだけでなく自治体そのもののサービスを合理化せざるをえなかったということである。同時に、ケアの水準が目立って低下するようではいけない。
これに関連して、グラズサックセ市では大規模施設におけるケアと在宅ケアとの行政上の統合計画があることを述べなければならない。共通した、分散管理を打ち立て、新しい簡素化した訓練システムを採り入れ、ひいては職員数を減らしたいと考えている。こうすることにより、専門間の壁が取り払われればと願っている。将来は、職員がより多くの資格を身につけ、広範囲な機能を果たせるようにしたい。床を掃除するだけでなく、複雑なナーシングケアも受け持てる職員でなければならない。
これらはすべて、利用者中心で利用者が管理決定権を持つ組織内で達成しなければならない。地方のケアセンターには高齢者が選出し、センターの運営に大きな影響力を持つ委員会を設ける予定である。利用者と職員の触れ合いを強めることで、日常の決定事項(高齢者の生活に非常に大切である)が一人一人の高齢者の希望やニーズを重視したものになるよう、私たちは努力している。高齢者が助けを得るに当たって、卑屈な気分にならないことが大切である。援助は互恵尊敬の念をもって行われるべきである。
委員会は高齢者代表、その身内およびスタッフで構成されている。
行政機構は、民間サービス機関や多数のボランティアとの関係を含め絶えず見直しが必要である。
社会サービスを新たに開発する場合は、高齢者が選択の機会を実際に持つことが非常に重要である。みんなが同じニーズや興味を持っているわけではない。同時にサービスの質は最高でなくてはならない。
品質管理はデンマークの高齢者政策におけるキーワードとなった。しかし質は一言で言い切れるものではない。質には直接費用に関係する側面がいくつかある。質の高いケアは費用がかかるということである。費用とは関係なく、職員の姿勢が質を左右するケアもある。費用に依存しないケアに重きを置くことが大切である。我々の考える質の高いケアは以下の原則からなる。
1)配分
高齢者は個々のニーズや希望に応じた適正なサービスを受けるべきである。
2)提供
ケアは時間どおりに、取り決めどおりに提供しなければならない。
3)実施
ニーズが変わればサービスもそれに合わせる。
4)提供者
スタッフは適切な教育を受けていて、動機がなければならない。
5)フォローアップ
フォローアップにより決められた水準を確実に維持しなければならない。
グラズサックセ市の高齢者政策について述べたが、我々がこれら5つの原則に基づき質の向上を目指してたゆみない努力を重ねていることをわかっていただければ喜ばしい。これは今後、高齢者になる人たちの期待に応えるために大切なことである。この高齢者予備軍はつまるところ我々自身である。








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