日本財団 図書館


高齢者ケア国際シンポジウム
第3回(1992年) ゆとりある生活環境と自立


分科会 I 討論  高齢者の住環境の課題と問題点


司会 前岡大作 日本社会事業大学教授
パネリスト ローズマリー・クロウ(イギリス)サリー大学看護学部主任教授
ヤーナ・アナセン(デンマーク)グラズサックセ市健康・社会サービス部作業療法主任
ジーンY・ウエイ(アメリカ合衆国)ハーバード大学医学部教授
ソルベイ・フリイデル(スウェーデン)建築家 王立工科大学建築学部研究員
林玉子 東京都老人総合研究所生活環境部門研究室長


[前田(司会)]それでは、最初に講師の先生方をご紹介いたします。
最初の講師は、イギリスからお越しくださいましたローズマリー・クロウ博士でございます。クロウ先生は現在、イギリスのサリー大学の看護学部の主任教授をなさっておられます。先生はお若いころに、マンチェスターでヘルスビジター、これは日本で申しますと、訪問指導専門の保健婦さんのような仕事にあたりますが、ヘルスビジターのお仕事をかなり長くなさったという、大変貴重な経験をお持ちでいらっしゃいます。また、研究者としては、床ずれやあるいはカテーテル挿入に伴いまして、色々感染症が起きてきますが、そういう感染症の防止の研究などで、大きな業績を上げられた方でございます。このようなご経歴からおわかりになりますように、クロウ博士はイギリスを代表する老人看護の専門家でいらっしゃいます。なお、クロウ教授、先ほどからクロウ博士と申しておりましたからおわかりのように、博士号を持っておられますが、先生の博士号はPh.D.でございます。日本では、看護の専門の方が、Ph.D.のドクターの称号をとってらっしゃることは、ほとんどないわけで、看護学とかあるいは、看護の現場に携わる方々に対する社会の処遇が英国と日本との間で非常にちがう、ということがおわかりいただけると思います。なお、このシンポジウムで、クロウ先生からお話をうかがうのは、今日が初めてでございますので、他の講師の方々よりも、やや長くお話をしてくださることになっております。他の先生方は、昨日あるいは今日、お話しいただいておりますので、多少短くお話をしてくださることになっております。
次の講師は、デンマークからお越しくださったヤーナ・アナセンさんでございます。ヤーナ・アナセンさんにつきましては、昨日司会の方が大変詳しくご紹介くださいましたので、今日は簡単にご紹介いたしますが、作業療法士でいらっしゃいまして、デンマークのグラズサックセ市で、作業療法部門の責任者をなさっている方でございます。また、コペンハーゲンの作業療法士の学校、スクール・オブ・オキュペーショナル・セラピーというのだそうでございますが、そちらで講師として、後輩の育成にあたっておられる方でございます。
次の講師の方は、スウェーデンからお越しくださいましたソルベイ・フリイデル先生でございまして、フリイデル先生につきましても、昨日詳しく、ご経歴が紹介されましたので、簡単に述べさしていただきますが、先生は高齢者や障害者のための住宅、保健福祉施設、都市計画などの専門家でございまして、この分野でスウェーデンを代表するリーダーの1人でございます。
次は、アメリカからお越しくださったジーン・ウエイ博士でございます。ジーン・ウエイ博士につきましては、昨日やはり詳しいご説明、経歴のご紹介がありましたので、本日はごく簡単に申し上げますと、ウエイ博士は医師でございまして、現在ハーバード大学医学部の教授であり、老年医学部門の責任者を務めてらっしゃいます。また、同時にベス・イズリアル病院というところの老年学研究部の部長、また臨床面では、老年学・老年病学科の科長の役割を務めてらっしゃいます。事前に事務局から送ってくださった書類から、ウエイ博士が女性であるということは承知していたんですが、一昨日の夕方初めてお会いいたしまして、いわゆる、お医者さんのイメージとだいぶちがって、大変優しく見えますので、こういうお医者さんでは、お年寄りが病気になりたがって困るんじゃないかなと、思ったりしたわけでございます。それでは、講師の紹介を終わりまして、討論に入らせていただきます。最初は先ほど申し上げましたように、イギリスのサリー大学のクロウ教授にお話をおうかがいいたします。プログラムには印刷してございませんが、本日のお話のテーマは「高齢者の家庭内自立を助ける」というテーマでございます。英語では、Helping the elderly to remain independent at home.でございます。それでは、クロウ先生よろしくお願いいたします。
[クロウ]前田先生、ありがとうございます。それでは、高齢者の家庭内自立をどのようにして助けるか、についてお話ししたいと思います。
高齢者を家庭内で介護することの目的は、老年期の慢性疾患や虚弱にかかわる症状、障害、治療にうまく対処することによって、高齢者ができるだけ自立を保てるように助けることにあります。ここで大事なことは、健康の衰えを早期に見つけることによって、転倒、食生活の不備、便秘、体が自由に動かないことなどから起こることはあっても、避けられる合併症などの、好ましくない影響を予測することができることです。
イングランドやウェールスでは、地域におけるケアの責任は地域の正看護婦にあり、正規の訓練を受けていないヘルパーや、準看護婦の助けを得て行っています。(スライド1)
訓練を受けたスタッフには、急性、慢性病患者の世話をするのが主な役割である地域看護婦(DN)、保健と観察を扱う訪問看護婦(HV)、ぼけの人たちの面倒をみる地域の精神科看護婦(CPN)がいます。こうした人たちは保健当局または、独立したトラストに雇用されています。彼らはプライマリィ・ヘルス・ケアのチームになくてはならない要員として一般開業医(GP)と連係して働くか、地区の中で別個にあるいは両方の仕事をしています。その外に、一般開業医に直接雇用されて診療所で働いている診療所看護婦(通常、正看護婦)がいます。診療所看護婦は健康管理を行うこともあります。
さて、まずナーシングケアの提供について述べます。ナーシングケアは、高齢者の病気よりもむしろ健康に重きをおいて提供されており、高齢者の身体的、精神的能力の記録、その人の健康上の問題を記載したリスト、必要とされる干渉や健康指導がいる領域などのケア計画に組み入れられています。主な活動は、健康の評価、ニーズの優先順位を決めることと、ニーズを満たすにはどうすればよいかを確認することです。
健康の評価についてですが、全般的に高齢者は、広範囲にわたる自己申告リストに自分で記入するのが不得手です。それ故、看護婦が短期評価やチェックリストを組み合わせて略式の面接をして、その時の様子から健康評価をするのが普通です。これを成功させるには、看護婦は十分な観察力のある面接技術と、どんな情報が必要であるかというはっきりした考えを持って面接を行うことができなければなりません。
1つのアプローチとしては、次のような一連の質問に基づいた略式の面接を準備します。
1.高齢者は家庭でどのように活動しているか
2.高齢者は身の回りに起こるできごとにどの程度関与しているか
3.高齢者はどんな健康上の問題を抱えているか、自分だけでそれに対処できるか、あるいは助けが必要か
4.高齢者は投薬について理解しているか、また、それについての指示に従っているか
5.高齢者は新しい情報を学習し、利用することができるか
6.高齢者は外の人たちとどのように付き合っているか、特にどれくらい気楽で、人付き合いがよいか
これには、また、スライド2、3、4に示すBuckley & Runciman(1985)の開発した簡易リストを利用してもよいでしょう。
一般的な身体状態の範囲:日常の動作、運動能力、下肢の状態、皮膚の状態、知覚の状態、栄養状態、投薬、病歴(スライド2)

第2の一般的なセルフケアの範囲:全体的なケア、失禁、補助器具の利用、住まいと家事、財務状況、娯楽、趣味(スライド3)
第3の点は精神衛生および社会的支援の範囲に関するものです。全体的な知的能力、対応の仕方、社会的支援とその他の提供されるサービス(スライド4)

スライド3 スライド4
アプローチがどのようなものであれ、高齢者にとっての困難あるいは不能は、それぞれ個人の状況としてとらえられています。たとえば、高齢者に失禁がみられるとすると、ベッドあるいは椅子から起き上がることがどれぐらい容易にできるか、トイレにいくのにどれぐらい時間がかかり、自分の部屋への帰り道がわかるかどうかなどを考慮して問題を理解する必要があります。同時に、対応ができないことも明らかにされます。
認識能力と行動的能力を評価するのにClifton Assessment Procedures for the Elderly(CAPE)の簡易版が広く用いられています(Pattie and Gilleard,1979)。それは身体的障害のみならず、見当識、知的能力、精神運動能力、コミュニケーションの欠如、無感動や社会的迷惑なども扱っています。たとえば、ノートン・スコア(Crow and Clark,1990)といった床擦れの危険を評価する判断基準も数多くあります。(スライド5)
高齢者が介護者に面倒をみてもらっている場合は、評価もされているわけです。次のような一連の質問に基づいて編成した総合的なガイドをMartha Worcester(1990)が開発しました。
1. 高齢者はどんなことで助けが必要なのか、あなたはそれらをうまくできるか
2.介護するうえで何が一番難しいか
3.あなたが日ごろ利用しているか、または、必要なときに手助けを頼める家族、あるいは他の提供者があるか
4.緊急時にどうやって助けを得るのか
5.現在何か問題があるか
高齢者やその介護者の中には、障害は年をとる段階における正常な部分であると考える人がいますので、状態が変化しても容易に外へは出さないこともあります。したがって、看護婦は家庭訪問をするたびに注意深く観察する必要があります。薬の副作用があれば見つけなければならないため、薬を飲んでいるかどうかを確かめることが特に重要です。栄養状態、動作の程度、転倒したことを示す証拠があれば、見落とさないようにしなければなりません。冬季には、特に家が寒かったり、高齢者が暖房費のことを気にするような場合は、低体温症の徴候に注意しなければなりません。
ニーズの優先順位を決め、介入方法を明らかにすることが必要です。明らかになった健康上の問題すべてが訪問の都度解決できるということは期待できません。したがって、毎日の世話(たとえばインシュリン注射や包帯の取り替えなど)が必要か、周期的なケア(血圧や体重の測定)のどちらであるかによって問題を分けます。高齢者が予告なしに夜間家を出て俳徊するようならば、明かりのない階段、あるいは床の段差といった環境を改める方法を考えます。
高齢者に対して、看護介入が行われる間隔を示し、その目標が何であるかを明らかにすることは極めて重要です。高齢者が訪問配膳サービスを喜んで受ける状態にまだなっていない場合は、栄養支援のプログラムをたてても無駄でしょう。多くの高齢者は投薬あるいはその他の治療を期待していますが、話し合うという形で心理的な介入をされることには慣れていないかもしれません。それ故、そういった介入がどれほど大切かを理解してもらう必要があります(Emery,1981)。
次に教育について述べます。教育は、高齢者の自立を保つうえで重要な一面です。その中でも特に大切な領域は次の諸点です。
1.正しい栄養摂取の基本と便秘との関係
2.投薬の計画と治療の管理
3.家庭内の安全、ことに事故の防止
4.低体温症や、動かさないことからくる筋肉退化の問題など避けることのできる病気の予防
高齢者に情報を与える際には、情報の量を限って、これを時間をかけて示す必要があります。記憶を助ける簡単なシステムを工夫することができます。たとえば、高齢者に薬の管理を教えるときは、1日の決まった時間に飲まねばならない錠剤を数えて、別々の容器に入れ、これにはっきりと表示があるのを確かめるように指示することができます。カウンセリングと同時に文字や(Laherら、1981)、絵で示した(Dunnら、1985、スライド6)明確な指示を利用することが特に大事です。

情報をこれまでに経験した何かと関連づけておくと高齢者には助かるのです。これを高齢者に教えるのは、できれば1日のうちで一番よい状態にあって、何か活動をしたいと思っているときを選ぶとよいのです。薬の副作用で眠かったり、目がかすんでいるときは避けることです。
こういうときにはいつも介護者に参加してもらいましょう。さらに、介護者にも、事故がないように体を持ち上げるなどのデモンストレーションを行って、床擦れの予防といった手順を教えることもあります。
最後に高齢者の自宅での生活を支援するサービスについて述べます。高齢者が夕刻や夜中に看護を必要とするようなことに備えて、いくつかの取り決めを準備しておかねばなりません。1つは、24時間観察が必要な在宅の高齢者のための時間外看護サービスです(Martin & Ishino,1981)。もう1つは、ホスピタル・アット・ホーム(在宅病院)と呼ばれる計画の導入で、それは疾病の急性期の集中看護や、たとえば股関節全交換、内部固定術、股関節骨折などの整形外科手術後で回復期にある人たちのためのものです。こうした企画によって、家族が一緒にいられるとか、また家で1人でやっていかねばならないが虚弱だったり、障害があるなどの人のための費用のかかる外部の援助を受けなくてすみます。
高齢者が家で生活できるかどうかということは、障害の程度や介護者の負担の度合い、家族生活への影響の度合いによります。(スライド7)


ストレスの程度によって介護者が介護できる時間の長さが影響されます。介護者が特に我慢しがたいことは、夜間の徘徊、日常的な大小便の失禁、理由のない叫び声によって睡眠が妨害されることです(Sanford, 1975)。独居の場合なら、高齢者が自宅にとどまれるかどうかは、安全であるか否かということで最終的に決まります。
以上ですが、結論として次のことを申しそえます。
高齢者が自宅で住みつづけるためには、疾病の治療や専門家による治療に頼るよりは、むしろ個々の体力と選択に応じたケアを必要とします。こうしたアプローチによって、高齢者たちは自分が尊敬されていると感じ、その残りの人生が価値あるものだと感ずるのです。看護ケアの鍵となるのは、「健康の衰えを予測する」ことで、それによってどんな悪影響も緩和できます。物理的な環境を適切に改良し、観察、教育、リハビリテーションを行うことが大切な介入となります。介護者を支援することはケアの最も大切な要素です。短期一時預かりを利用すれば高齢者とその介護者の両者にとって好結果をもたらすことを、身内の人たちにわかってもらうことが特に重要になります。
国営保健サービスの中で、高齢者のためのナーシングホームケアを提供できるかどうかを評価するため保健省(1983)の指導で設立された実験ホームは、同様の趣旨に基づいています。地域の保健サービスでは提供することができない、精神科以外の看護ケアを継続して必要としますが、全面的な病院サービスや積極的な医療は必要としないという人たちのためのサービスが計画されました(Sander, 1991)。家庭的にはうちとけた環境があり、個人の自由がある、受けるケアを選択できるなど、高齢者の生活の質は高められるということが分かります。

参考文献
Buckley,E.G.& Runciman,J(1985)Health assessment of the elderly at home.University of Edinburgh, Edinburgh.

Crow,R.A.& Clark.M(1990)Chapter 5 Current Management for the Prevention of Pressure Sores in ed Bader,D.L. Pressure Sores Clinical Practice and Scientific Approach.Macmillan Press Scientific & Medical, London p43‐52

DHSS(1983)The Experimental National Health Service Nursing Home‐an Outline.

Dunn,M.M.,Buckwalter,K.C.,Weinstein,L.B.,& Palti,H.(1985)Innovations in family and community health:Teaching the illiterate client does not have to be a problem.Family and Community Health,8(3):76−80

Emery,G(1981),Cognitive therapy with the elderly.In Emery,G.,Hollon,R.,& Bedrosian,R.C.eds.New Directions in cognitive therapy. Guildford,NewYork

Laher,M.,O’Malley,K.,O’Hanrahan,M.,O’Boyle,C(1981)Educational value of printed information for patients with hypertension.British Medical Journal,282:1360‐1361

[前田]クロウ先生、どうもありがとうございました。最後にご自分でおまとめくださいましたので、私のほうからはまとめは申し上げませんが、お話しいただいたアセスメントについて、また、在宅看護の実際については、最近日本でも色々研究が行われ、学会でも発表がなされるようになってきておりますが、今のお話は、大変そういう点で参考になったと思います。日本の多くの人たちが考えているよりも、イギリスで実際に行われている在宅看護は、非常に幅が広い内容を持っている、ということが良くわかったわけでして、今のお話をうかがいますと、特に研修が非常に重要だということをしみじみ感じたわけでございます。クロウ博士、どうもありがとうございました。
それでは、これから討論に入らせていただきますが、林先生は先ほどお話しくださいましたので、一番最後にしていただきまして、先に外国からいらっしゃった3人の先生方のお話をうかがいます。先ほど10分〜15分ぐらいでというふうにお願いをいたしましたが、ちょっと時間が伸びてつまってきておりますので、お1人10分くらいでやっていただければと思います。それでは最初に、ヤーナ・アナセンさん、よろしくお願いいたします。
[アナセン]ありがとうございます。昨日、補助器具について申し上げました。スタッフが在宅でケアをする際に、補助器具が重要だということを申し上げましたので、今日は、もう少しその点を補いたいと思いますし、皆様からの質問もお受けしたいと思います。在宅ケアでありますけれども、看護スタッフが正しい補助器具を持っていることが、重要でありまして、高齢者をケアする際に、スタッフが傷害を負ってはいけません。スタッフが病気になってはいけないわけであります。そのために正しい補助器具が重要でありますし、技術も必要であります。スタッフのほうでリフトがちゃんと使えるのだと、そして、重い物を移動できると、そして、高齢者も動かすことができるということです。それから、地方自治体側の責任、スタッフを助けるのだという地方自治体側の責任も重要であると思います。そして、補助器具を提供する、あるいは、補助器具の使い方を教えるという意味でも、自治体の役割が重要だと思います。
それから、在宅高齢者に対しての援助でありますが、その補助器具が高齢者が使いやすいもの、そして、高齢者の役に立つものと、高齢者とユーザーにとって使いやすいものでなければいけないと思います。ただ、その際高齢者のほうで、あまりにも、補助器具といいますか、技術的なものがありすぎると困るということがあります。つまり、なるべくプライバシーを尊重することが重要です。プライベートな空間であるわけですから。つまり、補助器具のことばかりを考えてしまって、そのかわりに高齢者の精神的な状況、あるいは、身体的なニーズを忘れてしまってはいけないと思います。主役は高齢者であります。補助器具ではありません。
また、補助器具でありますが、機能的な障害を補佐するという意味で、緊急時以外のものであるということです。そして、補助器具でありますが、リハビリ、という考慮を踏まえたものでなければいけないと思います。それから、車椅子を使う際に、リハビリテーションを行う前に、はじめに、きちんと大腿骨なりの骨折などを治療しておくということが重要であります。ですから、どのような疾病を持っているのかと、それから、疾病に対する治療と、リハビリに対しての知識を持ったスタッフが補助器具を使うことが重要でありますので、市民、医師、ナース、それから治療師が、合意をされた方法を使って、お互いのやり方など調整をとりながら、連係をとってチームワークであたることが重要だと思います。
この後で、質問があると思いますので、特にスタッフに対するサポートについてのご質問は後でお受けしたいと思います。とりあえず、ここまでです。
[前田]どうもありがとうございました。それでは、今おっしゃられましたように、細かいことについては、後ほど皆様方のほうからご質問を出していただいて、それに答えていただくことで、またお話をうかがいたいと思います。それでは次に、スウェーデンからお越しくださいましたフリイデル先生にお願いをいたします。どうぞ。
[フリイデル]私も非常に簡潔に述べたいと思います。2つの問題を強調させていただきたいと思います。まず、組織−オーガニゼーション、それから、その組織の規模、スケールということ、それから、組織の中でのチームワークを強調したいということ。それから、 2つ目に、デザイン−設計であります。つまり、高齢者が物に近づける、アクセスできるというための設計はどうあるべきかということです。
まず、第一のポイントですが、組織、編成についてです。林先生も強調されていらっしゃいました。小規模な解決策は良いと私も思います。スウェーデンでの経験なんですけれども、そういう方法によってのみ、良好なるケアを高齢者に対して、障害者に対しても提供できる小規模在宅の施設が非常に重要であると思います。また、その組織、編成ですけども、あまり大きくてはいけないと思います。いずれのレベルでも、 1人の人間が個人として、人間として協力できるということが必要です。ある自治体で、もし、2人の人が協力をすると、ところが、この2人は異なった背景である、しかし、同じレベルの人であるという場合です。協力をしなければいけません。協力できない2人だったら、そのチームワークはだめなのだということで、断乎として、そのチームワークをやめなければいけないと思います。協力し合える人が必要です。つまり、関係する責任を持った人の協力、チームワークということが非常に重要です。協力し合える人でなければいけないと思います。
次に、私の最後のスライドを日本語で書いてあったわけでありますけれども、文字が小さすぎて、後ろの方お読みいただけなかったということで、申し訳なく思いました。私は在宅、ということを強調したかったんです。つまり、在宅においてケアを受けるためには、サービスも変わらなければいけないと。そして、家も障害に合わせて改造される必要がある。補助器具も提供されるべきであると。それから、緊急・警報連絡体制がなければいけないということ。
それから、介護者に対するサポートが、とりわけ重要だと思います。交通輸送サービスとか、デイケア、様々な形態のデイケア、それから、在宅サービス、在宅ケアが重要だと思うのです。こうして、色々な多種多様な形態でのサポートが提供されるということを。つまり、個人のニーズは色々と多様性があるわけですから、それに合わせた、きめ細かいサービスが提供されることが必要であって、それら全体が連係をとって編成されると、組織化されるということが必要だと思います。その間に協力がなければいけないと思います。そのための1つの方法として、その地方のナーシングホームとか、高齢者のホームが住環境だけを改善するのではなくて、もちろん、住環境も重要ですけれども、その中にリハビリセクション、リハビリの部門というものを設けなければいけないと思います。つまり、病院と緊急病棟と、それから、在宅との間の絆といいますか、リンクが住宅、あるいは、家庭のような環境でのリハビリということだと思うのです。自分の家にいるような環境にいられる、あるいは、自分の家にいられる、友人とも会えると。そして、在宅サービスのスタッフとも親しくなれると。そして、あるいは、在宅の場合でも、自分できちんと自立できるということが必要です。リハビリは非常に重要だと思うわけです。
そこで、スタッフにつきましても、高齢者に対するリハビリを良く理解しておかなければいけないと思います。自立させるためには、どういうようなサポート、あるいは、援助が必要なのかということ。リハビリ知識がそれらの組織を結びつけるものだと思います。それから、リハビリユニットの中に、短期的なステイ、いろんな内容の短期的な滞在というものが必要だと思います。なんらかの緊急事態が発生したという場合、その緊急事態の理由は色々ありましょう。その場合、ホームサービススタッフ、あるいは、親族、家族、あるいは、高齢者自身が緊急事態に対応して、電話をとって、そして、リハビリユニットに緊急連絡をすることが必要です。例えば、高齢者の方が、ちょっと困ったことが起こった場合に、そこに必ず人がいて、答えてくれる人がいなければいけない。誰かが1時間以内にやって来てくれると。そういうことが、安全性とセキュリティを改善するわけであります。そういうのは、まさかの場合でありますけれども、それでも必要だと思います。まさかの場合に頼れる術があるのだと、緊急体制があるのだということによって、多くの問題を予防できると思うわけです。
また、意識といいますか、態度−アティチュードということについても、申し上げたいと思います。態度、姿勢には色々ありますが、プロとしての姿勢が、まず第一にあります。先ほど、協力ということを強調しておりますが、医師−ドクターの皆様方、在宅サービスのスタッフにもっと敬意をはらっていただきたいと思います。そういうスタッフは有用なる能力を持った人なのです。在宅サービスをしているスタッフのほうこそ、日常の経験から患者といいますか、高齢者と接していて、大量の豊富な知識を持っているわけです。医師にとって有用なる知識を持っているわけです。医師は2週間に1回ぐらいしか家庭を訪問しない、あるいは、1週間に1回くらいなのです。それよりもスタッフのほうが、常時高齢者と接しているわけです。そういう高齢者に接している現場の人に対する尊敬が、もっと医師からはらわれるべきだと思います。そうした上でのチームワークが役に立つ、ということを強調したいと思います。
また、スウェーデンでの私自身の経験から申し上げますと、このようなチームワーク、そして連係がうまくいっている例がいくつかあります。これは、2万人以下の人口の町でありますし、それから、もう少し小さな町の場合で、人口が2万人以下と、小規模な場合でありますとかなりチームワークがうまくいきますし、組織編成もスムーズにいき、連係プレーもスムーズにいくようだという気がします。
それから、設計、デザイン、物理的な環境に関してのデザインについて、少し申し上げて終わりたいと思いますが。日本にも豊富な知識が存在しています。林先生のような専門家の貢献で、日本には大量の知識があると思います。スペースと、それから、スペースに対するニーズ、それから補助器具に関してのスペースだけの知識は存在しています。スウェーデンでも、もちろんそうです。ただ、どのくらいアクセスできるのかと、例えば、老人性痴呆症の高齢者が、その物理的なものに接近できるのかということです。そのためには、良い物理的な環境が必要です。従来の習慣を維持できる、従来の慣れ親しんだライフスタイルを維持できると。そして、他の地域社会の施設を訪問する場合も、例えば、家を出て他の施設へ行く場合にも、どのくらいアクセスできるのか。従来のライフスタイルを維持したいわけで、その地域社会での、ローカルなライフスタイルを維持したいということです。つまり、自分の家内部だけではなく、外部のものにも簡単にアクセスできるのか、行けるのかと、こういうことが大切です。
スウェーデンでは、そういう研究も行われておりますし、日本でも、これらの研究がさかんになることを希望しています。補助器具だけの問題ではないと思います。昨日、日本では、こういう問題を掘り下げようとする気運が高まっているということを知り、うれしく思いました。日本の高齢者の場合、施設に収容されるときに、自分にとって大切なものを持ち込むのだということの発表がありました。仏壇のお話が出たんですけれども、収容されるときに仏壇を持って入りたいということ、すばらしいと思いました。それについても、もう少しおうかがいしたいと思ったんですが、そういう配慮が大切だと思います。以上ここまでです。
[前田]どうもありがとうございました。色々と昨日のお話を補足し、さらに重要なポイントのご指摘があったわけでございます。それでは、次にジーン・ウエイ先生にお願いいたします。
[ウエイ]前田先生、どうもありがとうございます。女性ばかりのパネルのメンバーになることができて、うれしく思っております。また、今回のパネリストは、色々な分野を代表している人たちでありまして、これが、やはり老人医学の現状を示していると思います。やはり、色々な分野の人たちがチームワークをしなきゃいけないということですね。そして、それぞれの専門知識を持ち寄るということが大事だと思います。そして、はじめて高齢者に対して、良いケアを与えることができると思うのです。また、ここで私は、やはり、社会心理学的な局面を強調したいと思います。高齢者にとって、やはり、社会心理的な局面を大事にすることが、大変大事だと思うのです。そのうち、 3つを申し上げてみましょう。
1つは、高齢者のためのコントロールの場所、すなわち、高齢者に対して、選択を与えることが必要だということを強調しておきたいと思います。これまで、何度も何度も、色々な研究調査が行われておりますけれども、そして、また、高齢者に対してコントロールを与える場合に、やはり、選択を与える、自分で選択をするという気持ちを与えることによって、高齢者の機能が上がります。例えば、認知能力が全く悪くなっていない人でも、認知能力が悪くなっている人でも、やはり、ぜひ選択を与えなさい。
第2は、責任を与えなさいということです。高齢者にとって、なんでもいいんです。ペットでもいいですよ、動物でもいいですよ、他の人でもいいですよ。この人、この動物の面倒をみてくださいね、と責任を与えることによって、自尊心が上がるんです。そして、やはり責任を持つということによって、機能も上がります。最近、調査が行われておりましたけれども、高齢者によっては、住宅状態が、例えば、グループ住宅に住む高齢者にとって、それぞれの人たちに対して責任を与えます。そうしますと、病気の疾病率も低い、それから、うつになるときも低い、そして、機能も上がる、そして、より長い間健康を維持するということが、この調査でわかりました。
また、最近、例えば、世代間センターというのがつくられたわけですけれども、そこで高齢者が、就学前児童の人たちと話し合うわけです。片一方は、高齢者が住んでおりまして、もう一方には若い人がいて、その中間のところで、若い人とそれから高齢者が話し合うことができる、お互いに色々な活動を共有することができます。これをやってみましたところ、高齢者のほうの自尊心が非帯に高くなった、そして、機能も上がったということがわかりました。健康状態も良くなった、そして、機能も無傷のまま残ったという結果が出ております。しかし、子供たちもたくさんのことを学ぶことができたと。これは大変すばらしいことではないでしょうか。高齢者だけではないんです。高齢者と触れ合うことによって、児童たちも大変多くのことを学びました。最初は高齢者に対して、触れ合うことに対して、心配を持っていたようです。しかし、高齢者にだんだん慣れまして、話し合いを持つことができました。子供たちも自信を持つことができた訳です。そして、子供たちの行動も良くなりました。学校での勉強も、良くできるようになりました。そして、やはり、より成熟したおとなっぽい、実践的な行動を、子供たちがとることができるようになったそうです。もう1つ、これまでの研究結果によりますと、高齢者に対して、どのような行動をとるかということがよく言われますけれども、高齢者に対して若いときに触れ合った人が、一番高齢者の面倒をみるということがわかりました。
高齢者に対して、例えば、おばあさんとか、おばさんとか、おじさんとか、年をとった友達とか、近隣の人とか、6歳以前に高齢者に触れ合った人たちだけは、高齢者に対して良いものの見方をすると、すなわち、98%以上の人たちが、高齢者に対してポジティブなものの見方をしているということがわかりました。6歳以下のときに高齢者を知った人は、年をとっても高齢者を温かくみるということになっております。ところが、思春期、または大学、または医学学校に入る、またはもっと年をとるまで、高齢者に会ったこともないような人たち、医者になってからもはじめて高齢者をみたような人たちは、高齢者を温かくみることができないわけです。これも、やはり、ぜひ皆さん覚えておいてください。小さいときに、高齢者に触れ合うことです。そうしますと、世代間の緊張を減らすように高齢者を温かくみて、お互いに助け合うことができます。
それから、3つ目の点として、やはり、自分で自分の面倒をみるということが大事です。やはり、自分で自分の面倒をみさせようということが、自己の幸せにつながります。高齢者にとってもそうです。
あと2つほど申し上げておきたいことがございますけれども。林先生の先ほどの発表、大変に興味深くうかがわせていただきました。やはり、中心的なところを見て、そして、4つか5つの他のスペースをとるということが大事だと思います。例えば、それぞれの居室はプライベートなところ、そして、小さなところは色々な人がー緒に、4人か6人が一緒に集まることができるようなところをつくってはどうでしょうか。アメリカでも、そのような可能性を探っています。公共の場所と、それから、集会所をまん中に持って、放射線的にその周囲に個室を持つということであります。
また、もう1つ、中庭を持ったらどうでしょうか。例えば、認知能力が失われた人たちは、どうしても徘徊をしてしまいますので、中庭を持つことがいいと思います。それから、円形の廊下を持ってはどうでしょうか。そして、最終的には、この中庭のほうに入ってしまうと、そうすれば、認知能力が失われた人たちは、ひたすら徘徊をいたします。 1日歩き回っています。そういうわけで、外に出て行かないで、円形に歩けるように、そして、また、常にスペースは限られていますから、円形にしておけばスペースも有効利用できるというものです。
それから、もう1つ、ぜひ皆さんに考えていただきたいことがあります。それは、民間部門をも巻き込んで行くということであります。すなわち、もっと多くの資源を、老人のための施設をつくるために必要だという場合に、公的支援だけではなく、民間も巻き込んで行くことを考えていただきたい。以上です。ありがとうございました。
[前田]ありがとうございました。それでは最後に林先生にお願いしますが、先生は補足をしたいということで、スライドをお使いになって、お話しされます。

スライド1

[林]時間がきましたら、前田先生ストップしてください。ほんとに、いろんなものを皆さんにお見せしたいんですけれども、時間が許すかぎり、ではどうぞ、スライド1をお願いします。今、わが国は寝たきりゼロ作戦を行っていますけれども、私から言えば、肝心の椅子がない、ということです。私が2年前に、朝日新聞の便利帳に、自分の分身になる椅子を持とう、と言ったら、全国から反響がありまして。外国に行きますと、こういうふうに、並べている椅子の高さがみんな違うんです。

スライド2

次のスライド2をお願いします。例えば、その人の高さに合わせて、足に履かせる、こういうものさえ売っているわけですね。だけれども、わが国はごていねいに、大体長椅子で、同じような高さのものを置いているわけです。わが国は椅子の文化がない、ということを痛感いたします。
ほんとうに老人がリラックスして座れる椅子というのは、まず、足台があるということ。それから、背もたれが高く、ベッドに枕があるように、椅子にもちゃんと枕があるんですね。このような椅子をわが国で求めると、大体20万円します。私が朝日便利帳に発表したその椅子に対して、問い合わせがきましたけれども、どのぐらいの予算でお買いになりますかと聞くと、大体1万、 2万くらいです。私が「20万出さないとだめですよ」と言ったら、それっきりお電話がかかってきません。わが国でも、老人が座りやすい椅子を、もっと手軽な値段で求められるようにしなければいけないと思います。
それにつけ加えて座るということによって、何か付加価値がないと意味がないと思います。ある笑い話ですけれども、老人ホームがみんなが座る車椅子を買い求めたら、結局ベッドから横の車椅子に座らせただけで、施設の中ではラッシュでどこにも行かれなくなり、とうとう、施設を改造・増築する羽目になったということです。ほんとうに、ただ座るだけですと、たぶん寝たほうがいいんじゃないかなと思うんです。

スライド3

スライド3を見てください。この老人の使用している椅子の足には、ちゃんと足台があり、ひじ掛けがあって、それから背もたれには枕が重い頭を支えてくれています。老人は、このように座りやすい椅子に座り、電動自動ページめくり機で本をめくり、好きな本を長い時間かけて読んでいます。ただ座らせるだけではなくて、座ったら散歩に連れて行く、座ったら何かもっといいことができるという付加価値を与えないと、寝たきりゼロ作戦も意味がないと思います。

スライド4

わが国では、スライド4に見る老人車は安いから、みんな敬老の日になると競って親にプレゼントします。この中でも、きっとプレゼントした方がございますと思いますけれども。私は、なぜこれが良くないかといいますと、良い姿勢が保たれないからです。

スライド5

外国に行きますとスライド5に見るように、背すじを伸ばし、赤いポシェットを背負って、ほんとにカメラを向けても様になります。このように良い姿勢を保てる歩行器をもっと使うようにしてほしいと思います。

スライド6

スライド6は、見てわかるように、この方たちはかなり重度の痴呆性老人ですが、それぞれの車椅子の横のサポートするところがちがいます。車椅子も、このようにその人の分身になるように、色々アダプターを付けたり、調整をしないと座りづらいわけですね。

スライド7

外国に行きますと、スライド7に見るように、いわゆる補装具センターの地下かどこかに必ずそのための作業スペースがあり、いろんな補装具を補修したり、微調整をする、いわゆるなんでも屋さんという技術者がいます。

スライド8

それから、年をとればとるほどおしゃれしましょうと私は常に言っています。ですけれども、わが国の老人ホームには、男性の理髪室はありましても、美容院室というのはほとんど見かけません。スライド8に見るように、外国のナーシングホームのほとんどには美容院があって、みんなきれいにしています。

スライド9

それからほしいのがスライド9に見るように、足をきれいにし、たこを切ってくれたりするお部屋なんです。日本には、まだこういうお部屋は全然ありません。この足をケアしてくれるスタッフは、聞くところによりますと、 1年間の特別の研修コースがあるようです。

スライド10

高齢化社会の対策のポイントは2通りあるといえます。その1つは、いかに健康な老人をつくっていくか。2つ目は体が不自由になっても、いかに人間らしく豊かに老えられるかであります。その1つ目の健康老人をつくるには、一番大切なのが給食だと思います。我々が家庭訪問に行きますと、老夫婦2人、または独り暮らしの家の食事は栄養的にバランスが悪く、自分の好きなものばかり食べて、栄養失調の手前になるような方もいらっしゃいます。ですから、 1日1食、どこかで栄養のバランスのいい給食サービスを受けられることが大切です。それも、スライド10に見るように、車椅子に乗ってでも、例えばヘルパーとかボランティアがみんな集まるところに連れていって食事を摂るようにすることです。 1日1回外出できるということは、生活のリズムをつくり出せますし、いい仲間もでき、孤独も解消します。このように食べるということを介して、人生が豊かになると思います。

スライド11

昨日、横尾局長が感心したような光景(スライド11)ですが、外国に行くと、こういう猫もやっぱり1人の主人公として、老人ホームでは職員が世話をしてあげています。今まで飼っているペットは連れて来ていいけれども、新たに飼うことはできないという制限がすありますが、ペットも人間と同じお部屋でちゃんと世話をされているということは、日本では見かけられないことです。
最後に、私は社会というのは、老いた人、若い人、体が不自由な人、元気な人、みんなが一緒にいる、いわゆるバランスのとれた社会が一番いいと思います。スウェーデンのストップリカにある例ですが、日本流で言えば団地ですけれども、そこの団地では、老人も障害者も自由にどこでも住めるように、住戸を分散配置しています。

スライド12

そして、各自の住戸、例えば70?uが1つの住戸でしたらその住戸の10%をそれぞれ供出して、その10%で共用のスペースをつくります。共用のスペースは何かというと、共用の厨房、共用の食堂です。この食堂には老人も、それから子供も、みんな利用できるわけです(スライド12)。昼間は公的に職員を派遣して、厨房で食事をつくってくれますけど、夜は有志がチームを組んで、例えば、10人の主婦がチームを組んだら、10日に1回お食事の当番をすればいいわけです。女性の立場からいいますと、こういうふうな共同生活できるライフスタイルがいいと思います。

スライド13

さらに共用の空間として、いろんなお部屋があります。例えば、老人が子供たちの教育、いろんな話をしてあげるとか、このように地縁、血縁のない方たちが新しい世代をつくって、 1つの空間の中で仲良く過ごしていくことは、核家族も含めて、迫り来る超高齢社会に向けて、取り入れたい居住形態だと思います。
それから、今日、話ができませんでしたけれど、住民参加ということです。つまり、建物をつくる過程に、生活主体者である住民が参加し、自分が住んでいるところを、自分で何かと手直しする、手を加えられるということが、とっても大切だと思います。わが国では、みんな建築家が完璧につくりすぎて、そして建築家がつくった空間の中に、いやいやながらでも住みこまなければいけないというようなことは、間違いではないかと思います。ここではスライド13に見るように、廊下を残して、ここの住民が自由自在に、壁を塗ったり張ったりしています。自分の住むところは、自分の意思で色々つくられるような、余裕を与えるべきだと思います。

スライド14

最後に、昨日の話にありましたファミリープレイスメントですが、カナダではスライド14に見るようなサテライト的なプロジェクトがあります。

スライド15 スライド16

スライド15に見るこの方がその里親ですけれども、看護婦さんです。その家では3人老人を引き受けております(スライド16)。そのために部屋を改造しています。例えば、緊急通報をつけるとか、階段に手すりをつける規定があります。日本の居住環境は悪いが、例えば、長期的でなく、短期的な里親制度、ちょっと旅行に行くときに、近くで老人を知っているような方のところに、ちょっと預けるこのような短期的な養護委託というのは、有効ではないかなあと思います。
[前田]どうもありがとうございました。大変貴重なご意見を、5人の先生方からおうかがいしたわけでございます。全体のまとめは、午後の分科会の報告で申し上げることになっておりますので、その点は省略をさせていただきまして、すぐに皆様方からのご質問なりご意見なりを受けたいと思います。時間としては、あと30分あまりございますので、どうぞ皆様ご遠慮なく、ご質問あるいはご意見を出していただきたいと思います。それではどうぞ、どなたからでも、お手を挙げいただきたいと思います。
[A(上原)]老人ホームに勤務しています上原と申しますけど。アナセンさんのほうにお聞きしたいと思うんですけど。スタッフの技術、特にリハビリとかですね、そういった面についての、スタッフの育成といいますかね。日本ではまだまだほんと数が少なくて、やってあげたくてもできないという状態なんですけど。どうなんでしょうか、ボランティアの方たちともですね、やはりそういった知識を必要だと思うんですけど。スタッフの技術的な勉強といいますか、育成といいますか、そういった方面は、お国のほうはどんなふうになってるんでしようか。システムについて、おうかがいしたいのです。以上です。
[アナセン]はい。システムがありまして、システムによりましてスタッフの訓練をしています。ナースは看護婦の教育から受けておりますし、ホームヘルパーの場合ですと、半年間、7週間ですけども、教育を受けます。ある場合には1年間の教育もあります。そういう教育を終わってから、仕事をやるわけです。で、チームワークに入れるわけです。地方自治体でも、それらのスタッフに対する教育をやっています。作業療法士、理学療法士などが、地域社会のスタッフの訓練官として、訓練にあたっています。ですから、かなりの教育が自治体で行われているということです。そういうお答えで大丈夫? お答えになりましたか。
[前田]よろしゅうございますか。では、他のご質問を、どうぞ。
[B(松橋)]秋田の鷹巣町というところから参りました松橋といいます。一応建築のほうの仕事をしてますけれども、ソルベイさんにおうかがいしたいんですが。先ほど、補助器具関係のお話をしてましたけども、外部に対するアクセスも重要ですというお話がありましたが、私も雪国に育ちましたので、スウェーデンのほうも雪が多いと思いますけれども、雪に対する考えのほうを、もう少し詳しく聞きたかったんですけれども。よろしくお願いいたします。
[ソルベイ]ちょっと複雑な質問だと思います。除去します。取り除きます。村とか町で雪払いをします。でも、特別なことをやっているわけではありません。雪下ろしをするということです。高齢者・障害者のために、特別なことをやっているということではないと思います。もちろん、ホームサービスの際に援助を受けることができまして、アシスタントが家にやって来て、雪を下ろすのを助けてくれる、庭から雪を取り除いて、そして、道路に歩いて行けるようにするとか、道をきちんとしていくとか、そういうようなことをやってるぐらいなんですけれども。ちょっとこれ以上詳しくは答えられません。私の質問の理解をしていないかもしれませんけど。物理的な問題ではないと思うんですけれども。
[前田]もっと詳しく具体的なご質問を出していただいてはどうでしょうか。
[B]具体的といいましても、今、お聞きしたことで大体わかったんですけれども。私たちの町はとても小さい町でして、過疎が進んでるんです。それで、おじいちゃんとおばあちゃん2人だけの生活をしてる方々もいらっしゃるんですが、そういう場合の雪寄せなんかは、近所の人たちがお手伝いするような状態、また、さらに雪が積もったままの状態で、ようやく生活してる方もいらっしゃるんですが、色々スウェーデンのほうのお話とか聞きますと、雪に関する問題に対しては、あまりこう大げさに取り上げてない部分が多くて、ほんとうに小さいことなんですけども、その辺がいつも気にかかっていたもんですから。大体わかりました。どうもありがとうございました。
[ソルベイ]では、わかりました。少し加えますと、スウェーデンでは、どういう内容のサービスをと、ホームサービスのスタッフが、どういう内容のサービスを促進するべきかということが議論になっています。スウェーデンのあるところでは、冬、雪が積もるということで問題となります。ですから、当然アシスタンスを与えなければいけないわけで、雪を取り除くという援助が必要です。高齢者のほうで、他の人のところに出て行くことができる、道路に出られるということが当然必要で、クリーニングが必要ですから、そういう議論になっています。非常にタフな難しい議論になっていますが、窓拭きの援助も受けるべきか、庭仕事のアシスタントも必要か、また犬の世話のアシスタントさえも必要なのかという議論にまで広がっております。ただ、財政緊縮時代でありますので、こういうような種類のサービスが、真っ先に切り捨てられているという状況です。
[前田]ありがとうございました。よろしゅうございますね。
[B]どうもありがとうございました。
[前田]それでは、次のご質問に移りましょう。
[C(山下)]福井県の山下と申します。今、特別養護老人ホームをつくりかけているといいますか、申請を出しているところでございますけれども。痴呆性老人の小グループ介護の問題ですけれども、このことについて、ちょっと基本的な考え方を、どなたの先生でもよろしいですから、ひとつお願いしたいと思います。
[前田]小グループで介護する。
[C]グループ介護の考え方とかやり方とか。
[前田]小グループでお世話するときの、考え方とかやり方とか、そういうことについて、おうかがいしたいということですね。ウエイ先生お答えいただけますか?
[ウエイ]非常に重要な問題だと思います。フリイデル先生、それから、林先生の考え方を支持したいと思います。高齢者で痴呆の人、あるいは知覚障害がある人、あるいは挙動の問題があるかもわかりません。クロウ先生がおっしゃいましたように、挙動がおかしくなる、徘徊をする、あるいは、ときには攻撃をするという問題がある場合もあると思います。その場合のケアですが、小グループのほうが良好だと思います。これが第1点です。第2点、これらの高齢者でも、環境に対して小グループの個人のほうが、慣れ親しむことができる。物理的に小さな単位にする、小グループにするほうが慣れると思います。環境に対して。
それから、さらに手がかりを与えて、色の感覚とか、形の感覚などを助けるようにすると。昔から使っているものを持ち込むようにするということ、そういうような努力をしますと、助かると思います。ケアも、方向づけも、また環境に慣れる、熟知するということを助けると思うわけです。精神障害を持った人とか、共同の問題があるなしにかかわらず、痴呆の人ですけれども、その場合には、どのぐらいの知覚機能が残されているのかということ、どのぐらいのレベルなのかということです。短期的に情報の処理ができなくなる場合がありますけれども、それでも頭脳明晰な場合もあるわけです。それから、かなりこの認識ができなくなる場合のインターバルが長くなると、情報処理ができなくなる期間が長くなるという場合もあると思うわけで、そのレベルを認識しなければいけません。しかし、見識見当ができるようにすると、環境を見分けること、慣れることができると、そうしましたら、なるべく知覚能力を維持し、あるいはそれを高めると最適化することに助かるというふうに思います。
[前田]どうもありがとうございました。他の先生で何かコメントがおありですか?……、それではアナセンさん、どうぞ。
[アナセン]私も同じようなことを申し上げたいと思います。確かに、毎日の活動をさせるということは大変大事です。やはり、自分たちではやりませんから、優しく、さあ動きましょうね、とちょっと押してやるわけですね。心理学的にも、押してやればいいわけです。例えば、色々な活動にお入りなさいね、というふうにすすめませんと。大体じいっと座っているか徘徊するかだけになってしまいますので、やはり優しく押してやることが大事ですね。
[前田]クロウ先生どうぞ。
[クロウ]これらの高齢者の家を開放し開設をするときには、スタッフが大事ですね。スタッフが十分な処理ができるかどうかということを、調べることが大事だと思います。問題のある高齢者に対して、どうやって対処することができるのか、そういうことをきちんとスタッフが、対処できるようにしなければいけません。ですから、スタッフの訓練が大変に大事ですよ。特に新しい施設を開所するときには、良いスタッフを持つことが大事です。多くの高齢者は認知能力がありませんので、スタッフが何か言っても、これに対応することができないことがあります。ですから、バックアップサービスをして、スタッフがきちんとした仕事ができるようにしてください。
[前田]フリイデルさん、どうぞ。
[フリイデル]スライドをお目にかけましたし、林先生のほうからも、スウェーデンの高齢者のための集合住宅を示してくださいました。8人ぐらいの高齢者が、24時間集合住宅に住んでおります。クロウ先生がおっしゃる通りですよ。やはり、スタッフの訓練がとても大事です。職員の訓練が大事です。しかし、訓練を受けたスタッフのほかに、毎日の仕事は高齢者と共にやらなきゃいけないわけです。例えば、皿洗い、料理なども高齢者と一緒にやることが大事です。自分では、できないわけですけれども。しかし、参加をすることができますね。色々なレベルで、料理だとか、皿洗いに参加することができます。昨日のスライド、覚えてらっしゃいますか。お皿を拭いてる女性が出てきましたね。この老婦人は、もはや会話をすることができない人なんです。もうことばを失ってしまった人です。でもね、皿を拭くことをとても喜んでくれるんです。ですから、これが彼女の責任で、仕事なんですよ。 1日の生活の一部として、高齢者が全く何もなく、ただただ日にちを過ごしてしまうようでは、一番大きな脅威になるわけです。何か仕事を与えてあげてください。でも、複雑な高度なものではだめですよ。単純なものでなければだめです。しかし、毎日の行動、しかも良い知識を持って、話をし、実際に示して、指差して、一緒にやってやれば高齢者もできます。これはやはり訓練を受けたスタッフがやってやらなきゃだめなんですよ。
[前田]次、林先生どうぞ。
[林]去年、国際シンポジウムをここでやりまして、そのときに、スウェーデンのほんとに痴呆性老人のグループ住宅の創設者みたいな方が、さっき申しましたガルツガルデンの家という本を1冊訳しています。その中には、いろんなスケジュールとか、いろんな考え方がすごく細かく出ていますので、もしこちらに余部あったら求めてみていただければ、すごく詳細なことがわかります。
[前田]どうもありがとうございました。
[C]どうもありがとうございました。
[前田]それでは、次のご質問をどうぞ。
[D(中村)]茅ヶ崎に住んでおります中村和子といいます。ただ今、補助器具といいますか、什器ですね、そういうお店をやっております。また、在宅で夫をみとったという介護者の経験もある者でございます。ただ今、大変先生方のけっこうなお話ありがとうございました。特に私はアナセン先生にお願いしたいんですけれども。私も補助器具を扱う店を自分でやってるもんですから、大変先生のお話が興味がありました。それで、お聞きしたいことは、申告を本人から、高齢者なり、身障者なり、申告をしますですね。それはどういう流れで、住宅改造なんかはできるのか。住宅改造に関して最初申請してから、どういう流れで、本人が使いやすいような住宅まで改造されるのか。賃貸住宅なんかの場合、その器具がまた取り壊されて、リサイクルにすると、また次のお宅でも使われると聞いて、大変何と言いますか、おもしろいと思いました。やはり、日本の場合、アパートなんかですとね、やあアパートだからできないんだ、という方が非常に多いわけですね。そういう悩みは、大変日本でも参考になるんじゃないかと思いました。それから、昨日のお話ですと、デンマーククローネで、200クローネですか、それ以下は自己負担だと聞きましたが、ちょっと具体的になるんですけれども、例えば、おむつとか、そういうものはどうなるんでしょう。ちょっとわからないんですけれども、大体どのくらいのものを自己負担があるのでしょうか。以上お聞きしたいんですが。
[アナセン]住宅の改造ですけれども、家主がノーということは、ほとんどないんですけれども、もしノーと言っても、やはり移転しなければなりませんけれども、そのときには、市町村が面倒をみます。例えば、大きなアパートメントなどの場合は、なるべくそれを市町村で持っていて、何度も使うことができるようにしています。例えば、小さなアパートでは、どうも家主が、そのようなことを許してくれないときもあります。そういうときには、私たちがその移転のことまで面倒をみなければなりません。2つ目の質問でしたけれども、コストの負担についてですね。市町村が支払います。200クローネというのは、ほんのちょっとのお金なんです。ですから、誰でも200クローネまでは支払えるんですね。200クローネぐらいは払えるわけですけれども、補助具に対しては、政府のほうが面倒をみると。
[D]200クローネというのは、大体5,000円くらいとみてよろしゅうございますか。
[アナセン]4,000円ぐらいだと思います。
[前田]ミセスアナセン。もう1つご質問が残っていたと思うんですけれども、住宅改造の申請をしたときに、どういう事務的な流れで、実際にそういうサービスがなされるのかということを、具体的に知りたいというお話だったんですけれども、いかがでしょうか。
[アナセン]高齢者なり、職員のほうで、改造の必要があるということが考えられますと、例えば、作業療法士、または市町村のほうに申請をいたします。それから、建築家を伴いまして、その家を訪ねます。非常に金がかかるものか、それともほんのちょっとの改造で済むかどうかということを調べます。現場を見たら、何をしたらよいかがわかるわけですから、ほとんどの場合は、作業療法士のほうで、きちんと注文することができます。非常に高価なときだけ、特別な手続きが必要になります。簡単に改造を申請し、実行することができるということです。
[前田]ありがとうございました。大変おもしろいお話なんですけれども、よほどの高価なものでない限りは、OTの方が自分で決めて、注文することができるということなんです。これは、日本とはずいぶん違っていると思います。日本だったら、町長さんの判までは知りませんけど、そうとう偉い人の判が、小さいものについてまで必要です。なおもう1つ質問が残っておりまして、住宅改造のときに、これ以上高いものはできないというような上限、アッパーリミットがあるんだろうかということです。
[アナセン]原則としては、上限はありません。でも、すべてなんでも高いですから、できれば他のところを見つけるようなことをいたします。というわけで、市町村のほうで高齢者住宅を建てているわけです。今の住宅を改造するのが、あまり金がかかり過ぎるようでしたら、市町村が持っているほうに移っていただくわけです。
[前田]どうもありがとうございました。それでは、どうぞ他のご質問をどうぞ。
[E(山本)]私は鎌倉に住んでる山本ミキオでございます。医師で、公衆衛生を最近まで大学で教えておりましたが、私はこういうような場合に、いつでも思い出すのは、20年ぐらい前にスウェーデンにうかがったときに、ナーシングホームのすぐ近くに幼稚園みたいなもの、子供の教育施設をつくってて、そうすると、ひとりでに、子供さんたちは夕方になると、おばあちゃんのとこ、そのナーシングホームにいるお年寄りをお訪ねするようなことになる。これは、ここじゃなくて隣のセッションのところでやっておられるかもしれないし、昨日お話が出たかもしれませんけども、私は、子供の、さっきどなたかがおっしゃられまして、子供のときからそういうくせをつけるということが非常に大事だと、非常にほんとに大事だと思うんです。
それともう1つは、今、申しました物理的にでも、いつでも子供さんが、そのおばあちゃんのところを、おじいちゃんのところを訪ねることができるようになってるというようなことが、無理して、「あなたそのナーシングホームを訪ねなさい」ということよりも、むしろ、非常に自然にそういうふうな、この習慣がついて、子供もお年寄りのことをよく考えて育つ子供になるということで、非常に私、大事だと思いますので、もうお話が出たかもしれないと思ったんですけれども、一言申し上げます。
[前田]どうもありがとうございました。今、ご意見をお出しくださいました山本ミキオ先生は、日本の社会老年学の草分けの1人でございまして、今、活躍している社会老年学の人たちの多くは、山本先生にご指導を受けて育ったものでございます。今のはご意見でございまして、質問ではありませんけれども、何かコメントがございましたら、どうぞクロウ先生。
[クロウ]ウエイ先生にうかがいたいんですけれども、今、山本先生がおっしゃったことに関してですけれども、私ここに座って思いついたことがあります。若い人たちは高齢者をみることができますけれども、良く面倒のみられた高齢者をみるということで、高齢者というのはなかなか問題があると、難しいもんだなあというような経験を持たないでしょうか。やはり、良い経験と悪い経験があると思うんですけれども。やはり、高齢者に優しくなるためには、良い経験、悪い経験、両方分けて考えなきゃいけないんじゃないでしょうか。ウエイ先生にですけれども。
[ウエイ]山本先生、大変すばらしいコメントいただきまして、ありがとうございました。確かに、若い人たち、特に幼児たちに対して、自分の良いモデルを、こうなりたいというようなモデルを示すことは、大事だと思いますけれども、しかし、ただ、高齢者と触れ合う、直接触れ合うというこの経験そのものが、とても大事だと思います。若い人たちと、そして高齢者との間に触れ合いがあったときには、特別のものが生まれます。初めて会ったとき、心配するんです。両方共、心配しちゃうわけですね。どうなるだろうかとドキドキするんですけれども、時間をかけてお互いが知り合う、そしてお互いに、この出会いの質がだんだん大事になってくるわけです。若いときに高齢者に会いますと、ちがうかたちで高齢者を見ることができるようになるわけです。
私が小さいときのことを、2つ申し上げたいと思います。私が行きました学校では、子供たちが、近い養護老人ホームを、少なくとも1年に2回か3回、訪問するというシステムがありました。これはすごいことだなと思って、そして、高齢者たちに会って、歌をうたってあげたり、お絵かきをしてあげたり、その絵をプレゼントしたりということをしていたわけです。そして、老人ホームの老人たちも、とてもこれを喜んでくれたわけですね。若い人たちが来てくれる、訪問してきてくれるということで、いつも、とても歓迎をしてくれたわけです。こういうわけで、お互いいつも感謝の気持ちが、これだけの世代のギャップがある人たちの間で生まれたわけです。私の子供も、そういうことを期待していると思います。楽しみにしていると思います。
また、もう1つ、私の経験に基づいて言うわけですけれども。子供たちが9歳と、それから5歳の子供がいますけれども、私の母親が死ぬ前に、子供たちがいたわけです。そして、いつも子供を、おばあさんが呼んでくれたわけですね。そして、息子が言うんです。「おばあさんはぼくの言うことをわかってくれないけれども、そして、おばあさんはとってもすぐ忘れてしまうんだけれども、何度も何度も繰り返してあげなきゃいけないんだけれども、でも、おばあさんとの思い出は大事だよ」と子供が言っています。「ぼくの小さいときにおばあさんが生きていたね、おばあさんの思い出は温かい思い出だ」と彼は言ってきます。すなわち、特別な忍耐心と言ったらいいでしょうか、おばあさんに対して、寛容であるわけです。小さいときに、おばあさんが生きていて、おばあさんとの楽しい思い出が、いまだに彼にとっては良い思い出となって残っているようです。
[前田]ありがとうございました。先ほど、クロウ先生が、子供との接触には、良い接触と悪い接触があるといわれましたが、このような問題は日本の老年学者の間で、大きな関心になっておりまして、私もかつてそういう調査をやったことありますが、最近、東京都老人総合研究所でやった調査でも、小さいときからおじいさんおばあさんと同居していると、老人に対する態度が、かえって多少悪くなる傾向がみられるわけですね。これはたぶん、お年寄りの良い面も見るけれども、悪い面も見てしまうということだと思います。つまり、同居をしているとかえって態度が良くなくて、同居しないで、ちょっと離れて接触していたほうが、態度がいいという、調査結果が出ておりますので、ちょっと申し上げたいと思います。それでは、もう1人ぐらいご質問なり、ご意見なりをお受けしたいと思います。
[F(谷)]私、奈良県の生駒から参りました谷と申します。現在、ヘルパーをやっております。私のかかえておりますクライアントは筋萎縮性の側索硬化症で、人工呼吸を装置いたしております。ヘルパーの看護内容といたしましては、カテーテルによる吸たんと、そして自己呼吸が不全になりました場合の人工器具装置です。それは、陰圧式の体外式人工呼吸器の装着をいたしておりますが、皆様方、先生方の国で、ヘルパーがそういうふうな医療的な介護は、資格がなければできないのでしょうか、私は、ただ薬剤師の資格しか持っておりませんけど、そういうふうな分野まで介護しているんですけど、他のお国のほうではどうなってるのか、ちょっとお聞きさせていただきたいと思います。
[前田]はい、それでは、クロウ先生、よろしいですか。
[クロウ]はい。イギリスでは、私共は共同でケアをすることにいたします。例えば、今の質問なさったような、具体的な資格はない方と組み合わせて、チームをつくるわけですね。つまり、そのようなヘルパーの方と、訓練を受けた方とを、組み合わせてケアをさせるわけです。というのは、例えば、カテーテルですとか、そういった装置の取り扱いの中には、これこれこういった問題が起こったら、こういった動作をしろというような、具体的な指示があると思うんですね。感染症などが起こった場合に、どのように取り扱ったらいいかについて、具体的な指示が必要だと思います。ですから、私共は、正看護婦をたぶん送り込むと思います。そして、正看護婦、つまり資格のある看護婦が評価を行って、そして、技術的なケアの側面というものを、たぶん担うと思います。一方で、この正看護婦が日常のケアについて、ヘルパーを助ける補助的な役割もすると。これでお答えになりましたでしょうか。
[前田]質問なさった方、今のお答えでよろしいですか。
[F]はい、けっこうなんですけれど、そういうふうなヘルパーといたしまして、看護婦さんが、もちろんなさるということが良くわかったんですけど、ヘルパーの中には、看護婦という資格を持ってる者が非常に少ないですし、現在、日本において、看護婦が訪問するという制度もできておりますけど、今のところ、なされてない自治体が非常に多いですので、これから末期を家で迎えたいという方がありますし、そういうふうなクライアントが、ますます増えてくると思いますので、ぜひ日本も、先生方のお国に見習って、訪問介護というのを、充実させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
[前田]今のご発言は、ご質問というよりも、今日お集まりの、日本の皆様方に対する注文でございまして、特に、都道府県や市町村の自治体からお越しくださってる方々が、たくさんおいでになりますけれども、ぜひ、今のご注文を真剣に受け取めていただきたいと、私からもお願いをいたしたいと思います。それでは、まだご質問のおありの方、あるいはご意見のおありのある方がいらっしゃるかもしれませんが、予定の時間がまいりましたので、本日の午前のセッションを、これで終了させていただきたいと思います。それでは、 5人の先生方、どうもありがとうございました。最後に、拍手でお礼申し上げたいと思います。





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