はじめに
日本には世界に誇る2つの事柄があります。その1つに、世界に類のない早さで高齢社会から超高齢社会に突入することと、もう1つは、平均寿命が世界一長寿であることです。このような背景条件のもとで、わが国でも、1985年、老人人口が10%代に入ったときに、長寿社会対策大綱をまとめ、つづいて1990年には、それを具体化する諸施策を盛り込んだ、通称、ゴールドプランという高齢者保健福祉10カ年戦略を発表しました。施設ケアから在宅ケアヘ、中央集権から地方自治体主導へと、諸制度、対策が進展しています。
本報告は、その中でも、主に物的環境の側面から、日本における高齢者を中心に据えて見た、居住環境の現状、問題点、課題を踏まえて高齢者の望まれる住環境について述べたいと思います。
まず具体的に述べる前に、我々の調査から高齢者、高齢社会に向けての住環境の整備目標・とらえ方について、2〜3のポイントを述べます。
1.高齢者を配慮した住環境整備の目標
老後の住環境づくりは何が大切かについて我々が行った調査の結果をスライド1に示しています。つまり高齢に伴う心身機能の低下や生活そのものの変化への対応、および人間関係、社会関係の形成、維持、あるいは経済条件……など高齢者の諸特性に着目した場合の居住環境として、基本的に配慮すべき項目のうち、最も重要と思う頃目3つを選択させた結果を示しています。60歳代、70歳代とも「住み慣れた住宅に長く住み続けられる」を第1位に、「病気やけがを予防するなど健康が維持できるように」を第2位に挙げております。第3位では60歳代が「できる限り自立した生活を続けられる」であるのに対して70歳代では「心身機能低下への配慮」を挙げています。つまり生活の場は、今までの生活が継続して行えるよう、地域に融合し、限りなく住まいらしくあることが、価値ある老年期の生活の質を保ち得る環境の基本条件といえます。
しかし、人は年を増すにつれ、心身機能が低下することは自然の摂理であり、老後の良好な生活の質を保つためには、老後のライフステージにおいて、これを補って、より自立した生活を営み得る、あるいは生命を維持するためには、心身の低下や家族扶養の変化に伴って必要となるケアサービスなどの供給体制や人的配置といったソフト側面についての検討が必要となります。他方では、心身機能の低下との関連で物的条件を整備するなどハード側面についての検討が必要です。つまりハード条件として、老後の良好な生活の質を保つためには、人生80年時代の諸ニーズに合う物的障壁のない(バリアフリー)環境を整えるべきであります。
バリアフリー環境を構築するプロセスは、スライド2に見るように、自助具や生活補助機器など、道具レベルから始まり、建築設備、便所などの単位空間、住宅、施設、公共建築などの建築物レベルヘ、さらに交通機関を含む都市レベルにおよび、面として総合的に継続して整えていく必要があります。
一方、ソフト条件とは、高齢者の心身機能の低下を配慮した場合、高齢者が日常生活において生活の維持および活性化を図るために有用なケアサービス全般を指します。
スライド3に示しているようにライフステージすなわち心身機能の低下にしたがって段階的に必要となる多種多様なサービスは、自立生活の段階では主に?@生活向上のためのサービスを必要とするが、徐々に心身機能が低下するにしたがって各種の対人サービスが必要となり、?A炊事・洗濯・掃除などの日常的な家事援助(residential careまたは、Home help care)を、さらに?B排泄・移動などの日常生活動作レベルでの介助(personal care)、?C専門的な看護(nursing care)、?D医療(medical care)、?E最後に生をみとる終末看護(terminal care)です。
心身機能の低下は徐々に進行するために、それに対応するケアサービスも段階的に据える必要があるが、重要なことは、これらの連続性であります。
スライド1
スライド2
スライド3
心身機能の衰えを支援する住環境条件
以上に説明したハード条件とソフト条件は、車の両輪のごとく高齢化社会における居住環境を構成する上に不可欠であり、身体が不自由になった場合を想定して、老年期における生活を維持するために必要となるケアサービスなどのソフト条件および住宅の質などのハード条件について高齢者の住ニーズを調査しました。結果は?@希望レベルでのケアサービスニーズを見ると家事作業の援助や身の回りの世話が必要になったとき「施設入所」を希望する者は動作能力の程度にかかわらず、同居群では1〜2割、ただし、排泄介助が必要となったときのみ3割前後、別居群では3割前後、排泄介助を必要とするときは5割前後でありました。
また、自宅を改造するか、住み替えるかを聞いた結果は、約3割が住み替えを希望しており、特に持ち家でも、重度の障害を持つ単身者、または、体の不自由な度合いとは関係なく、借家に住む単身世帯に高いなどの結果が把握されました。
さらにハード条件とソフト条件の結合形態の一例としてケア付き住宅の条件を選択させた結果、寝たきりになった場合の看護、緊急対応となっています。つまり、ケア付き住宅は、寝たきりになっても住み続けられることが望まれています。さらに、このような条件が整った住宅への入居希望率をみると、全体では、53%を占めていました。その中で、特に借家住まいの重度の障害を持つ単身、または老夫婦のみの世帯では76%と高く、注目すべき結果が把握されました。
以上のことから、高齢者の居住空間として基本的に望まれていることは、できるかぎり住み慣れた住居に住み続けたいとするニーズがあり、他方では、特に住宅事情の悪い借家層内での障害の重い単身老人、老夫婦世帯が移り住む望ましい条件を備えた新しい老人住宅へのニーズがあることが、実証的に把握されました。
これらの調査の結果として得た貴重なことは、わが国における高齢者が望む住環境の基本とする条件は東西を問わず同じであることであります。これを踏まえてわが国における住環境の現状、問題は何かについて、皆さんとその概要をみていきたいと思います。
まず、住環境として、検討すべき範囲についてみます。スライド4にわが国にて、実存する広義の住宅、保健、医療、福祉諸施設を生活の拠点および在宅生活をサポートする諸利用施設に分けて位置づけています。まず生活の拠点として、通常の住宅と病院のほかに、この間に多種類の生活の容器が存在していることが示されています。縦軸に上から家事作業、身の回りの世話、看護・医療サービスなどの濃度を容器に付設している対人サービスとして示し、横軸に所得階層の高低など、経済条件を設け整理した、結果は、多種多様な生活の拠点となる容器は、機能的には長期療養型施設とケア付き住宅に大別できます。高齢者の住生活ニーズからいっても、これらの住宅、施設は居住空間としての機能を備えるべきであります。言い換えれば、生活の拠点は、一般住宅はもとより、新たに制度化されたケアつき住宅、福祉、医療施設を含め拡大した居住空間として検討すべきであります。
さらに、住み慣れた環境にて生活を継続するためには生活拠点の右側?Eにまとめているデイサービスセンター、ショートステイなどの通所施設および、?Fの各種利用施設、?Gの保健、医療、福祉と多岐にわたるケアサービスの相談、提供、調整を行う機関がありますが、これらは地域レベルに統合され生活の拠点と有機的に結びついた仕組みにならないと、豊かに老いられる住環境は実現できません。
2.心身機能が低下しても安心して住み続けられるために
では、まず、生活の拠点について、その実態、問題、課題を説明します。老齢期の居住モデルには自宅に住み続ける、または住み替えるの2通りがあることは前に述べた通りです。その自宅、つまり高齢者の住宅事情についてみると、65歳以上の高齢者がいる世帯全体の持ち家率は86%に及び、居住水準も他の世帯より高いが、単身高齢者は他の高齢者世帯と比べて持ち家率が低く、多くの者が借家や借間に居住し、その借家は、最低居住水準未満や、老朽度が高く、立ち退きなどの問題も発生しています。また一方、心身機能の低下に対応したバリアフリー環境としても多くの問題があります。医療施設でリハビリテーションを受け、病院では自立生活できる人も、自宅に戻るやいなや寝たきりになる者も多いのが実情です。
老人病院のリハビリテーション病棟の退院患者に住宅改造の有無を聞いたところ、全体の約61%が改造を行っており、それらの大多数が便所、浴室を改造しています。このような実情に対して、近年、自助具や補装具、生活補助器具など多くのテクニカルエイド−わが国では福祉機器と称していますが−、その重要性が認識され、在宅介護センターに、福祉機器の展示と住宅の改造相談などのサービス機構が設けられる一方、福祉機器を販売、配達する福祉機器ショップも増加しています。しかし、日常生活の中ではウサギ小屋と悪評されている住宅事情もあり、これら福祉機器のほとんどは役に立たないのが実態です。スライド5に見る例は6畳間で、リフターを活用して92歳の親を介助している73歳の息子の話題は多くの新聞で報道されているホットな出来事です。床走行式のリフターを活用するために柔らかすぎる畳の上に段ボールをしき、ベッドの横に浴槽を備え、まるで潜水艦のように機能的であります。が、これら一連の福祉機器が利用できるように機能的に室内がしつらえられているからこそ介護が可能なのです。
このようにわが国においても、悪い住宅条件の中で生活補助器具の役割が大きいことが認識されつつあります。今後の課題としては、本人の自立、介護者の負担軽減のためにも機器の低価格化および、地方自治体での機器の貸与、給付と関連して、機器の限定や助成金額の上限あるいは一部負担金制度などを撤廃することが望まれます。
さらに、機器を使用するための処方と適合の訓練、および機器のサービスと保修、改造などを行う専門的な職種とそのための設備・空間が必要です。
デンマークには、補助器具を活用する健全な理念と、評価から処方、選択、試用から改造、訓練、そして公的負担とリサイクルによるシステムがあります。例えば、ゲントフト市にある補装具センターには11人の職員(作業療法士5人、理学療法士1人、技術者2人、他3人)が在籍し、4,000種類にも達する補助器具類が展示されています。サービス内容は、機器についてのみでなく、住宅、職場の改造から公営住宅建設時のアドバイスまで行っています。わが国においても、福祉機器の展示、相談のみにとどまらず、専門職の養成と配置、および福祉機器の有効的使用のための、使用制度、リサイクル方式など、システムづくりに本腰を入れるべきであります。
スライド4
スライド5
次に、既存の住宅改善についてのべます。
1990年から建設省では従来より実施していた増改築相談員制度を活用し、大工・工務店を対象に高齢化対応住宅の増改築に関する研修制度を開始しています。また、厚生省では福祉機器・住宅増改築の専門相談員を育成し、都道府県の高齢者総合相談センターに配置しています。しかし、住宅改造の普及に向けて、両省の実質的な連携体制はまだほとんどないのが実情です。また、これらの制度は相談指導に限られ、具体的な設計施工までは立ち入っていません。さらに、住宅改善に欠かせない医療(PT・OT)、福祉(SW、行政担当者)、建築分野の連携も、制度的に支援されていないなど、いまだ問題は多いことが指摘できます。
一方、近年地方自治体、区市町村などにおける住宅改善制度も進展しております。なかでも東京都江戸川区における持家層に対する所得制限、助成上限無しの住宅改善助成制度は注目に値します。1990年から1992年4月まで、計453ケースが工事完了と多数の実績を上げています。その中の一例としてスライド6に見るように、段差解消機で玄関の上がりかまちの段差をなくし、90度横に回転して椅子になるフランスベッドを使用し、建築的には床の段差の解消、浴室・便所の改造など計321万円の改造費を区が助成しましたが、その結果、親を特別養護老人ホームからひきとりました。江戸川区の場合、特別養護老人ホームにおける1人当たりの経費は月36万円であり、一部本人が負担をするとしても1年間で回収できる計算になります。この事例が示したように、住宅改造と福祉機器の導入による効果は在宅生活を長引かせ、介護に要する費用・人的資源、病院の社会的入院、福祉施設の入居者の減少にもつながります。これは税の有効活用を導くものであります。これらの相互効果を加味した経済的効果を長期的視点に立ち評価し、一層の制度の充実が必要です。
次には高齢者の住生活ニーズを踏まえて、わが国における住まいが備えるべき性能は何かについてスライドを用いて、既存住宅における物的障壁の状況を2〜3紹介いたします。スライド7は住宅内における性別よりみた日常的な不慮の事故の状況ですが、発生頻度の第1位は、同一平面上の転倒で、第2位が階段からの転落です。我々の住宅には、1〜2cmの段差がいたるところにあり、それが転倒の原因にもなり、車椅子の運行にも邪魔になります。
スライド8に見る階段は法的に許されている、52度の急勾配の直線階段です。この家の主は82歳の現役の理事長でしたが、ある日孫が遊びに来て奥さんが本人がいつも寝ていたところに布団をひき、その隣に本人の布団をひいたのですが、夜中、いつもの通り、出て1回転すれば便所にいけたはずなのが、位置がずれていたのを忘れて、1回転したとたん階段からまっしぐらに墜ちまして、90cm先の壁に頭をぶつけて脳内出血をし、1年くらいで亡くなりました。スライド9に見るように、階段の位置が出入口に面して、通路の端に沿ってすぐ1段目が始まっていることと、このように1段を踏み出すときの手すりの位置が前すぎることが原因として挙げられます。
次のスライド10のように一段分延長したところにある手すりが転ばぬ先の杖として重要であります。このように住宅は、健康自立期から安全性を考える必要があります。
次に最近老夫婦2人でなんとか助け合って暮らしたいとする方が増えてきています。スライド11のように夫が妻をベッドから車椅子に移すのにも、1人ではできません。そこで、家の改造に踏み切りました。まず、狭い40cmも上がる玄関からの出入りをあきらめて(スライド11)、夫人の部屋の縁側の濡れ縁をカットし、そこに電動の段差解消機をつけました(スライド12)。次に天井走行リフターを取り付けました(スライド13)。そのリフターに沿ってスライド14で見るように日中は布団の横に座り、リフターの一方は便所へ(スライド15)、さらに一方は浴室へ伸び(スライド16)、それを活用することにより、夫1人で妻の介護をすることができました。
しかし、リフターを取り付けるための天井補強工事が大変である上、そのための費用は電動リフターと同じくらいかかりました。このことからも、住宅は万が一に備えて簡単に生活補助器具が取り付けられるような可変性が必要であります。ここで、高齢者に配慮した住宅の性能についてまとめますと、スライド17に見るように、従来の住宅としての良好な質を確保することに加えて、必要とする性能として、4つのポイントが挙げられます。
まず、健康な生活をいかにして1日でも長く維持できるかに寄与する安全性能であります。
次に必要なのが、心身機能の低下を少しでも食い止められ、かつ、身体が不自由になっても日常生活が自立できる期間を1日でも長く維持できるための性能です。それを、筆者は補完性、またはリハビリテーション性と称しています。
自立生活ができなくなり、他人に多くの世話を受けざるを得ない臥床期や終末期においては、介護者の労力の軽減ができ、かつ、本人も安心して療養生活が送れるよう、住宅内の老人室は、病室としての高度の性能を兼ね備えるべきです。これを療養性と呼びます。以上述べた3つの性能は、住み手である高齢者の健康期から障害期、臥床期へと変化していく、ライフステージの各段階の住生活ニーズに相応して入れ子型に機能を発揮できることが望ましいのです。つまり、その時々の心身機能を最大限に活用して生活できるように、住宅は部分的改造や部品の交換、簡単に生活補助器具が取り付けられるように変化できる仕組みがほしいのです。これを可変性と称します。
以上述べた、4つのポイントの中でも特に重要なのは、第1ポイントの安全性と第4ポイントの可変性であります。安全な住まいづくりは、安心して健康で自立した老後の生活を1日でも長く行い得させます。一方、安全性から、補完性、療養性へ容易に変化できる可変性があってこそ、その人らしい日常生活が継続でき、残された能力を活用し、自分の意志で生活を選ぶことが可能になります。
わが国の住宅問題は土地問題であるといわれて久しいのですが、近年になって、借地利用を活性化し、高騰した土地の効率的活用を図るのをねらいとした借地借家法の改正要綱および地方自治体が主体性を持って住宅に取り組めるよう大都市法を改正する、また、大都市での地上げ屋による高齢者の居住不安定を解消するための家賃補助、住宅条例を制定するなど、住宅問題に立ち向かう気運が現れています。しかし、高齢者に適した居住の場としての質は何かについては、いまだに公的な見解がありません。高齢者が居住する場としての最低面積、間取り、および備えるべき設備などに関するヨーロッパ諸国の基準に比較して、わが国の実態はあまりにもお粗末であります。
1991年に、ようやく公営住宅法に基づく公営住宅建築基準が改正されましたが、肝心の建築基準法は依然として改正の気運がないままです。スウェーデンでは、建築基準法内に新築、改造を含めて適用するべき詳細なバリアフリー仕様が制定され、それを実現するための融資制度、および実施されているかをチェックするコントロールの仕組みがあります。この3つの組み合わせにより、1977年以後の建物、個人の住宅、老人ホーム、サービスハウジングすべてがバリアフリー環境として、整えられています。
1990年に厚生省より、「高齢者が住みやすい住宅増改築、介護機器の相談マニュアル」を、建設省も“高齢化対応住宅リフォームマニュアル”をまとめています。しかし、これらは法的に規制力がない上に、高齢者を歩行困難者、車椅子使用者、寝たきり、とに分けて段階的な仕様をまとめています。つまり、障害者向けの仕様であります。なぜ、筆者がここでそれを指摘するのかを述べます。高齢者の心身機能の低下を軸にして、生活環境づくりをすすめる場合、その障害特性のみに注目するのでなく、高齢者については、身体が不自由になるまでの過程に留意することがより大切であります。
物的側面からの高齢者の生活をいかにサポートするか、そのアプローチの仕方は、例えば、障害者は治療医学的アプローチであり、高齢者は、予防医学的アプローチである、といえばそのちがいがわかりやすいのです。つまり、高齢者に向けての空間づくりのポイントは、1に安心を買うための空間づくり、2にそれぞれのニーズの変化に対応できる可変性のある融通のきく空間づくりであるといえます。そのためにも、住宅の新築に際しては、心身機能の低下に容易に可変できる住宅の仕組みを実現できるための最低備えるべき基本条件を公的に検討し、これを一般住宅の標準仕様とすることが、早急に望まれます。
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ケア付き住宅について
近年、わが国において高齢者向けのケア付き集合住宅が、雨後の竹の子のごとく出現しています。まず、有資産階層が対象となる有料老人ホーム、手づくりの老人版コーポラティブ住宅としてのシニアハウス、公団が建設しようとしている家賃一括前払いの賃貸型シニア住宅、および厚生省と建設省が連携して制度化したシルバーハウジングなどがあります。一方、福祉サイドでは新たに、別名「新型軽費老人ホーム」と称するケア・ハウスや、人口過疎地域における高齢者単独世帯を対象とした10人程度の居住とデイサービス、地域の交流拠点という3つの機能を統合した複合型地域施設である高齢者生活福祉センターが制度化されています。この自立した生活を地域社会の中で一日でも長く続けられるよう支援する種々の世話付き集合住宅に位置づけられる容器としての問題は、
?@ケア・サービスの連続性がないこと
スライド18で見るように一部の有料老人ホームを除いたほかは、ケアサービスの継続性がなく、住み替えてもさらに他に移らざるを得ません。この自分の意に反して、住み替えざるを得ないことが高齢者にいかに不安と不幸をもたらすかは多くの研究が物語っています。
外国におけるサービスハウジング、シェルタードハウジングと称する、ケア付き集合住宅も今日では、心身機能が低下し、種々のケア・サービスが必要になっても住み続けたい居住者に対して、ケアを増加する、またはナーシングホームを組み入れる、小規模に分散して、在宅ケアを導入するなど、本来の姿とはちがった多様なソフト条件とハード条件の結合形態が示されています。北欧において今日到達している結論では、住宅のハード条件として適切なバリアフリー仕様を備えており、さらに在宅ケア・サービスとして、24時間ケア・サービスがシステマティックに地域レベルにて結合されていれば、もはや、ケア・サービスを組織内(on site)に専有する必要はなく、それぞれの地域のニーズに合った有効な組み合わせ方が多様に示されています。
スライド18
?A有効性について
自分の意に沿って住み替えるにも、適切な費用で入居できる公的ケア付き住宅が量的に著しく不足しています。そのなかでも明らかにいえるのが、中流階層の人が移り住む先のうつわが、他に比べて不十分であることが指摘できます。現状では一応、住宅・都市整備公団が社宅や官舎などに住んでいる中層サラリーマンの需要に答えるために、一時払い終身年金保険を併用したシニア住宅を年間1千戸建設しています。一方、手づくりの老人版コーポラティブ住宅として都会の中に立地し、入居費用を低くする努力をしているシニアハウスがあります。
しかし、これらも量的に限られており、土地の高騰に価格は上昇する一方であります。この切実な問題に対して1992年から居住型福祉施設として新設したケアハウスについて、建設費にかかる設置者負担分の金額を入居者から管理費として徴収することができ、これに伴い入居者の収人制限をなくす方針を打ち出しています。しかし、そのほとんどは特別養護老人ホームに併設しており、地域の中に適正配置されにくいなど、問題があります。ちなみに、住宅事情がわが国に比べて良いイギリス、スウェーデンにおいても、公的ケア付き住宅の入居老人は全体の4〜5%を占めています。住宅事情が悪い、わが国では、これ以上のニーズがあるはずです。国民全体に公正に行きわたる供給計画を行うべきだと思います。
では、次は長期療養型施設つまりナーシングホームについてみて行きます。わが国には、介護が必要な、病弱で障害を持つ高齢者を対象とした容器には、福祉施設としての特別養護老人ホーム、医療施設としての老人病院、老人保健施設などがあります。
老人保健施設は、病院と施設、あるいは住宅との中間的機能を担う通過施設として、高齢者がリハビリテーション医療を受け、速やかに地域社会へ戻るという目標を掲げて制度化されました。しかし、実態ではそのように機能してなく、療護型老人保健施設と称するものも多いのです。
このように、医療施設を生活の場としている者を、社会的入院患者としているが、多くの病院は正にこのような社会的要因で余儀なく入院してる高齢者によって占有されているのが、現状です。北欧諸国と比べてわが国は、特別養護老人ホーム等で生活している高齢者は1.6%、医療施設が4.3%計5.9%と、他の先進諸国に比べて医療施設に入院している比率が著しく高いことが指摘されています。
半世紀ぶりで改正される医療法では、病院を特定機能病院と一般病院に分けるほか、高齢者など長期慢性患者を収容している病院や病棟を療養型病床群に指定する内容になっています。この療養型病床群は、生活の場として内容を充実していくことが前提であるが、できるだけ、そこに長期滞留しないように、老人保健施設のリハビリテーション機能を、強化し、流れをスムーズにすべきです。
しかし、もどりつく先の容器の1つとしての特別養護老人ホームを見ると、まず、量的に不足している上に入居者の高齢化、重症化に伴い、急増する痴呆症老人への対応、つまり従来の「ねたきり老人」を中心に行ってきたケアサービスに対して、職員構成やケア技術等のソフト面、および建築面に対して、新たに改善を要する種々の問題が発生しています。スライドを用いてその実情を2、3点見ることにします。
個の空間の確立
まず議論されるのが定員別居室のあり方でしょう。現実では、入所前の老人のほとんどは自分の寝室を持っているにもかかわらず、特別養護老人ホームの居室人員構成の実態は、4人部屋が過半数を占め、個室は3.5%です。このような多人数雑居を前提としている居室構成は、個人のプライバシーや、精神安定の確保に問題があるのみならず、頻繁に行われる部屋替えの理由からも、ケア・サービス面に多大な負担を強いていることが察知できます。
小家具の持ち込みについてみると、認めているのが、わずか17%であり、スライド19に見るように何もないベッドサイドに、寮母さんが壁面に飾っているのは、本人と関係のない品物であったり、スライド20に見るよう格子柵に囲まれている事例も見られます。また、スライド21に見るよう4人部屋でも1人9?uくらい取れれば、このように入居者はそれぞれの個性に合ったしつらえをすることができます。
居室構成について私見を述べると、2人就寝が可能な個室、および将来個室になり得る2人室と4人室の組み合わせが望ましいと思います。スライド22は現段階における望ましい便所付き個室です。1室当たり16?u〜20?uは必要です。
日中過ごすための空間について見ると、俳徊のスペース、グループ活動を行う空間など、動き回る痴呆性老人のためのゆとりのあるデイルームスペースの整備も不十分です。スライド23、24に見る例は4人部屋の壁面に、昼夜、異なったカーテンをつけ、日中はベッドを一角に寄せて、デイルーム代わりにしています。施設での良好な生活の質を保つためにも、このプライバシー空間とパブリック空間が両立して満たし得る面積配分が必要であることを痛感します。
介護単位の小規模化:個別性
次に大切なのは、この公私空間をいかに家庭的雰囲気に似通わせてつくり出すかです。調査よりわが国においても、スライド25に見るように、50人以上と大きくなりがちな居住棟を15〜25人と小グループに分けてグループ処遇する可能性を追求することにより、よりよいケア・サービスを模索している事例が散見します。しかし、物的条件は設計当初からの企画ではなく、敷地の制約条件などによってできた分割された居住棟を、逆にケア・サービスの小規模化にもっていった例がほとんどであります。
施設を住居らしくする手法はスライド26に見るように、?@まずプライバシー空間の充実、?A小規模にグループ化した生活単位に、それぞれ家庭的雰囲気のある日中使用できるリビングスペース的セミパブリック空間を設ける、?Bケア・サービスを効率化し、または専門職員、地域老人を交えて使用する大集会室などのパブリック空間を、いくつかの生活単位グループが共用する、この3段階空間構成です。さらに、これら公的空間と私的空間がバランスよく面積配分されていることであります。
スライド19
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排泄ケアと空間
物的側面からの支援で、研究レベル実態レベルにおいても欠けているのが、知的能力の低下に対する配慮です。便所を例として説明しますと、スライド27は、わが国の痴呆性老人を抱える家族の会に対して調査した結果より、まとめたものです。今までの知見は、一番下のADLの低下に限られています。上からみる、場所、時間、操作などの失見当としての記憶力の低下、さらに進んで弄便や錯乱などの精神症状により住宅内の物的要因がどのような問題を起こし、それにどう対処するかの方策については、今後さらに追求していかなくてはなりません。我々の研究室では、ここ数年、特別養護老人ホームにおける痴呆性老人のケア環境の研究に全力を挙げています。
その1例として排泄ケアと空間についてスライド28にて説明しますが、排泄と関連する、施設における介護の作業量が占めるウエートは、全生活ケアの中で最も大きいものであることが、当研究室にて行った寮母、看護婦の1日におけるケア行為の追跡調査から明らかに把握されました。一般に排泄ケアには、内容的には、トイレ用便ケア、おむつケア、ポータブル便器ケア、失禁ケア等があり、1日のケアスケジュールとしては、時間帯を決めて、ひと通り各痴呆性老人をケアする定期的ケアと、個別的に適宜行う随時ケアがあります。
便所などの諸室の配置関係を見るために、スライド29に随時ケアの1日における痴呆性老人のケアの発生場所をつないだ働線図です。このように、便所のほかに分散配置をしている汚物処理室、リネン室、私的衣類収納スペースなどの諸室間の無駄な行き来が多いことが示されています。また、痴呆性老人に多い誘導ケアは、スライド30で見るようにこの姿勢で便房の中に入ると職員が身動きできません。また、スライド31に見る排泄中のケアなどを加味して、スライド32に見る便房を設計しました。この便房は設計趣旨に記してあるように痴呆性老人の動作特性を配慮したモデルタイプです。
わが国は、2000年を目標に特別養護老人ホーム(24万床)および老人保健施設(28万床)の増設を挙げていますが、施設基準の改善については触れていません。“公的負担の増加や計画の遅れがあっても、ともかく個室を”、と東京都の都民の8割が支持しています。また、在宅における高齢者の9割が自室を持っていることからみても、特別養護老人ホームは生活の場として自立生活とプライバシーを保証できる空間を備え、地域社会に溶け込み、開かれた施設となりうるよう、基準の改正が望まれます。
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3.地域における、保健、福祉、サービスの相談調整を行う
在宅介護支援センターについて
現状と問題
多様化したケアサービスを有効に高齢者のニーズに対応できるように、わが国では1990年に全県1つの目標で高齢者総合相談センターを建設しています。これに加えて1991年には在宅介護支援センターが創設され、ゴールデンプランに基づき2000年までには中学区に1カ所計1万カ所を目標に整備を行っています。1992年、現在153カ所が指定されていますが、建築費設備費(特に自動車、業務無線の設置費)に対する補助金の増額や、各関連機関との情報交換などネットワークの強化、およびセンターとしての役割、位置づけの明確化など、多くの要望が挙げられています。このことからみても今後在宅介護センターが効果的に機能していくためにも、当面解決すべき課題は山積みされていることがわかります。
長期的展望から言えば、大切なのは1つの在宅介護支援センターがカバーできる地域の広がりとしてのサービス地区をどのように設定するかであります。大都市と地方都市のちがいをはじめ、それぞれの地域特性、高齢者ニーズなどを加味して検討する必要があります。次に大切なのは保健、医療、福祉と縦割りに供給されていたケアサービスを、どのようにして効率よく公正に供給するかであります。そのためのチームづくり、またはコーディネターとしての権限の程度などの検討課題もあります。しかし、物的側面から言えば、そのための空間、設備をどう用意すればよいか、つまり、地域ケアの核としてのセンターの拠点をどこに設けるかです。現在は、特別養護老人ホーム、老人保健施設、老人病院等に併設する方向になるが、問題はこれらの施設の立地条件です。地域的に偏りがあるのみならず、多くは地域の中心から離れているなど、センターとしての適性配置ができにくく、難点が多いのです。その打開策としては、用地確保と関連して、遊休公用地の積極的活用や用地費助成の強化、および小学校など他法で規制されている建物との合築や複合化などが挙げられます。
今、わが国の地方自治体では、保健、医療、福祉、住宅が統合した地域づくりの第一歩として、地域保健福祉計画で、頭を悩ましています。以上に述べた、住環境を構成する諸生活の受け皿が、なじみのある地域に統合するための方策について、さらにつけ加えるとしたら、その1つに、世話付き集合住宅や、長期療養型施設群の小規模化と居住化、もう1つは、わが国にはない居住形態の検討が挙げられます。
小規模居住および施設の小規模処遇の必要性
北欧では、過去に大量に建設された大規模な施設を解体し、プライバシーのある自立生活が営める生活の場となるよう、または、地域社会に統合しやすいように規模を縮小しています。
このように施設的環境の中でのグループ生活は、入居者が自分たちの生活を自分の意思に沿って、より主体的にコントロールすることを可能にします。また、長期療養施設においても1つの介護チームで構成する生活単位を家庭らしく小規模化することは、ケアの質を向上する上でも有効であることが立証されています。小規模化は特に痴呆性老人の個別性を十分に配慮した生活療法を施しやすく、なじみのある仲間と落ち着ける家庭的な空間の中で一緒にいること自体が生活のリズムをつくり出すのに役立ちます。
一方、在宅での生活が中心になるなかで施設の小規模化のみでなく、近年は小規模住宅が見直されている。例えば、スウェーデンにおける、痴呆性老人のグループ住宅、または小規模のコレクティブ住宅または、ハウスシェアリングや老人短期委託家族ケアなどです。この小規模のグループ住宅または家庭生活を味わえる居住形態は地域社会との統合を助長するのみならず、老人にとっても集団の中での孤独を感じさせることなく、なじみのある環境内で、家族との親しい交わりを維持しながら、快適な老後を過ごせる有効なものです。
わが国における小規模施設として、大規模な老人ホームは必要としない過疎地、遠隔地などの地域における老人ホームの代替策、および、近年新しく制度化されたものなどがありますが、例として過疎地域対策としての15人程度の小規模高齢者生活福祉センターについてみると、現状では、付設するケアサービスの内容が心身機能の低下に対応していないなど定員に満たない施設が多いのです。その中で、全国、唯一である、民間主導型の小規模多機能施設を紹介しようと思います。スライド33で見るように、町の中にあるこの施設は、誰でも利用できる多機能性を備えています。スライド34に見るように、近所の住民も気軽に来る、夫を介護する妻も、一緒に住める(スライド35)など……ほほえましいこのような、町の中にある小規模な多機能施設が普及できるよう公的になんらかの援助を期待したいものです。
わが国において、今なお試みられていない、居住形態として、アメリカを中心に発展してきたHouse Sharing(以下H.Sと略称する)およびアメリカ、イギリスにて非営利団体が中心に建設し運営しているグループ住宅と、スウェーデンでの痴呆性老人のためのグループ住宅および北欧で育ったコレクティブハウジングが挙げられます。それぞれについて内容を説明すべきですが、時間の制約上特にわが国において緊急に制度化してほしい痴呆性老人のグループ住宅についてスライドを用いながら紹介します。
スウェーデンにおける痴呆性老人のグループ住宅について
去年の国際シンポでバルブロ・ベック・フリース女史が、「バルツガルデンの家」について話されたことを皆さんは忘れていないと思いますが、筆者は、1992年の3月にこの痴呆性老人のグループホームを理解するためにスウェーデンとオランダを訪問しました。
筆者が訪問した人口23万、高齢化率21%のマルメ市では、痴呆性老人に適切な生活リハビリテーションを早期に行える17カ所の痴呆性老人向けグループ住宅が、ナーシングホームや精神病院における痴呆性老人の医療費を節約しています。マルメ市の、老人痴呆症専門の内科医、レーナ・アンネルステッド女史の研究成果として、グループホーム居住患者と同程度の長期療養病棟の痴呆性老人の予後を比較したところ、局所脳血流には差はありませんが、日常生活行為には大きな差が出ており、グループ住宅の有効性が評価されています。女史は長年の経験でスライド36に見るように、知的能力の尺度としてBergerスケール、日常生活能力にはKatzのADLスケールを用いて、グループホームでの居住に適した痴呆性老人のレベルを明らかにしています。
さらに注目すべきことは、グループホームでの生活の質は、ナーシングホームより高いにもかかわらず、ナーシングホームでは1日当たり909クローネかかるのに対して、グループホームでは338クローネと経費が安いことです。全国的にもナーシングホームの経費に比べて20〜30%安いことが立証されており、1987年には60カ所(500人)であったグループ住宅を、1992年には1,000カ所(6,900人)さらに1993年には2,500カ所(25,000人)増築する予定です。
クリッパン市にあるグループ住宅
マルメ市から電車で1時間の人口16,400人のクリッパン市にある1992年に完成した痴呆性老人向けのグループ住宅を紹介します。
スライド37に見る8住戸の一戸建てのグループホームです。スライド38に見るように、家族と楽しく語り合えるパーゴラを中心に、各自の個室(スライド39)は昔の思い出深い、愛着のあるものにかこまれ、職員と一緒に食事をつくり食べ(スライド40)、ごくあたりまえの毎日を過ごしています。職員は8人の痴呆性老人の居住者に対して9.5人で、日中は5人が従事しています。
建築の側面においては、ルンド大学建築科のウベ教授の全面的協力が得られ、大学の実験室で居室の実寸大のモデルルームをつくり検討されたり、ケアの面でもマルメ市のレーナ医師が協力しています。次のスライド41は狭い国土の中で、オランダが試みたユニークな痴呆性老人のグループ住宅“アントピクホフ”です。6世帯を1つのグループとし6つのグループ住宅が廊下でつながっており、オランダのハーレム市の新興住宅地の一階に堂々と居を構えています(スライド42)。2階には、一般住戸を組み込んでおり(スライド43)、現在は、2組の入居者の夫が下のグループ住宅に入居しています。6戸×6=36戸の変形的なグループ住宅は、わが国において、実現できるアイデアであると痛感しました。
うさぎ小屋と称される個人の住宅においての痴呆性老人のケアは、同居する人の日常生活をも崩壊させる深刻な問題です。痴呆が顕在化し、問題が家庭内から社会化する時期には、すでに痴呆の程度がかなり進んでいるといわれており、家族はその、手に余る状態の折に医院めぐり、福祉施設探しをしているのが実態です。
自宅ケアに限界を感じ出した家族が痴呆性老人を送り出す先は、現状では50人定員の痴呆性老人専用特別養護老人ホーム、老人病院、あるいは精神病院の老人病棟です。痴呆性老人の施設では、50人定員の中に軽度から重度の者が混然と生活しており、これらの施設の調査研究を介して痛切に感じるのは、痴呆性老人が初期の段階、または問題行動が顕著にでない段階から住み慣れた地域で、公的支援の体制のもとで、家族の手を借りながら生活できるグループ住宅の必要性です。
グループ住宅にて早期に対応することにより、多くの老人はその痴呆度の進行を遅くすることができる、あるいは問題行動を少なくすることができると、スウェーデンでの試みは立証しています。身体的能力の低下と知的能力の低下の度合いが同じカーブを描ければ、痴呆性老人の生活の質をよりよく保つことができるといわれています。
わが国における痴呆性老人の在宅ケアを成り立たせるには、痴呆性老人のグループ住宅を各地域レベルに設置し、痴呆の早期対応をすることが重要だといえます。さらにグループ住宅は地域のデイケア施設などと有機的に連携をとることが大切です。各地に適正分散配置できたグループ住宅の運営は現在主な地方自治体などにある「ボケ老人を抱える家族の会」に委託することも1つの案として考えられます。
最後にスライド44で見る提案は林らが1983年頃に検討し、提案した小規模居住形態を主軸にした事例を示しますが、このように長年のケアサービスのノウハウのある福祉関連施設を中心に据え、一方高度情報技術を駆使すれば、地域レベルにて適正分散配置をした小規模居住形態のコミュニティープランの実現は現実に整合性のあるものと考えられます。1993年度の厚生省の予算要求内に、?@小規模特別養護老人ホーム(定員を50人から30人へ引き下げる)の創設やサテライト(分館)方式などによる小規模保健施設のモデル的整備、?Aケアハウスの定員30人を10人に引き下げるなど、喜ばしい項目が入っています。国も小規模施設の重要性を認めていることは、1983年から筆者らが望ましい居住環境づくりとして温めていた夢も、一歩一歩実現できる方向に向かっていると思います。
スライド36
スライド37
スライド38
スライド39
スライド40
スライド41
スライド42
スライド43
スライド44
4.まとめ
豊かに老いられる居住環境は、まず、住み慣れた自宅に住み続けられるよう通常の住宅を高齢者の諸特性に向けて、整えることから始めるべきですが、住み替える先のケア付き集合住宅や、福祉、医療施設も居住性能を高め、一般住宅とともに地域に融合しやすいよう小規模化し、広義の住宅として位置づけて計画されるべきです。さらに、この住環境において、1日でも健康に生活でき、かつ心身機能が低下しても安心して住み続けられるためには、ケアサービスが継続して迅速に供給される、つまりケアサービスと有機的に連結した地域居住システムの確立が重要です。わが国の高齢者対策は、施設ケアから在宅ケアヘと軌道が修正されてきましたが、次のスナップは在宅ケアと施設ケアを融合した地域ケアサービス環境の構築へと取り組むべきです。つまり、なじみのある1つの広がりのある地域(これをコミュニティー、生活圏、福祉圏と称している)に根付いた、住み続けられる保健、医療、福祉、建築、の4者が一体になった居住システムの構築です。
近年わが国における、高齢社会に向けての諸施策は、まさに先進諸国に追いつけ追い越せと言わんばかりに進展しつつあります。しかし、世界に類のない速度で超高齢社会に突入するこの厳しい実情を考え合わせれば、遅れて高齢社会に仲間入りしたわが国では、先進諸国の轍を踏まないことはいうまでもなく、さらに先取りした諸施策に真剣に取り組まなくてはならないと痛感します。特に物的側面からの望ましい居住環境を整えることについては、建築という固定的な性状を考えれば、一度人生80年時代にそぐわない質の悪い物的環境を構築したならば、それを改善するために、その何倍かの予算と労力を必要とします。
さらにハードは、その名のとおり、建築化したならば変えにくいのです。長期的コストを考えれば、初期投資が増えても、合理的である。さらに高齢社会を維持する社会コストの面からみても、将来4人に1人の超高齢社会になる時点では、環境改善のための余分な努力も経済力も、医療、介護面でのマンパワーの需要にも応じがたくなることは明かです。社会に活力のある今こそ、ソフト面をとらえ得るハード条件の先行投資を行い、超高齢社会を乗り越えられるよう、質の好い居住環境を蓄積すべきです。
以上限られた時間内で、十分に言いつくせませんでしたが、手元に私がまとめた資料がありますので参考にしていただければ幸いです。
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