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高齢者ケア国際シンポジウム
第2回(1991年) 痴呆性老人の介護と人間の尊厳


分科会II 分科会報告  「痴呆性老人への地域ケア」

国立下総療養所所長
国立精神・神経センター精神保健研究所老人精神保健部長
大塚俊男



分科会IIでは、「痴呆性老人への地域ケア」という課題で、最初にデンマークのホルベク市の老人福祉課長のラウルセン先生に発表いただいた。ホルベク市の人口は約31,000人であり、そのうち65歳以上の老人が約14.2%、そして500人のフルタイムの職員が、さまざまな老人問題、福祉の問題にかかわっている。
ホルベク市では、齢をとり、健康状態が悪く自分1人で生活をすることが困難になった場合、公的援助が必ず受けられるという制度ができている。例えば、住宅の確保、年金、ホームヘルパー・看護婦派遣というように、自分の家でできる限り長く生活ができるように、かつ一般市民と同じレベルの生活ができるようにという信念の下に、在宅ケアが行われている。
一方、職員に対しては、1年間の教育を受ければ社会ヘルパーになれ、さらに1年半すれば社会アシスタントになれる、という制度が設けられている。
また、家庭医は県と契約を結び、そのなかで援助を行う形態をとっている。しかし最近、超高齢者が徐々に増加していることから、非常にコストがかかるため、マンパワーを効率的に使うなど、少ない予算でケアをしなければならない現状である。その対策として、食堂、図書館、リハビリテーションセンターを完備し、活動ができるような地域センターを5つの地区に整備し、その近くに高齢者の住宅もつくり世話をしていることが報告された。
例えば住宅の場合は、朝7時に2人のホームヘルパーが訪問し、さまざまな世話をする。しかし、自立の意味も含めて本人たちにできることは、できる限りさせるようにしている。
痴呆性老人が人間として尊厳ある生き方をするためには、できる限り在宅生活をさせる必要があることは世界各国でいわれていることである。しかし、在宅生活が不可能になった場合にはできる限り小グループでケアができる入所施設が整備されている必要がある。
また、看護体制を24時間体制としたしたことでナーシングホームは、その数が300から220に減ったということであった。ナーシングホームはコスト面で非常に高くつき、24時間体制ということになると経費等の面でもさらに違いが出てくるわけである。そしていままでは、看護婦さんは看護婦さん、ホームヘルパーはホームヘルパーというようにそれぞれの職種別にいろいろな任務を果たす方向であったが、最近は1人のヘルパーが高齢者のすべてをみる形態がよいのではないかとの報告があった。なお、これらの制度改革にあたっては、市民参加の下で再編成を試みたことを強調された。
次に、アルツハイマー協会のトウラシュケ会長は、介護者のニーズに対応して発足したアルツハイマー協会の経緯およびその基本になっている以下の4つの点を挙げられた。
?@アメリカには日本のような医療保険制度(全国的なヘルスケア)がない。
?Aアメリカは国の規制や州の規制など、いろいろなものが重複している状況にある。
?Bアメリカの家族は、自分で自分の家族をみていくという長年のファミリーケアの伝統をもっている国である。
?Cアメリカでは医療制度がないため、ケアに対してのコストは自分自身が支払っているが、その負担が非常に高い。
また痴呆性老人に対しては、やはり人間の尊厳ある生き方ができるように考えなければいけない。そして、小グループでケアするほうがよいだろう、という話があった。
このアルツハイマー協会は、協会のみではなく、宗教団体やNIA等、関連する団体と協力しながら活動している。組織としては、理事会ともいうべき委員会、医学的、学識的な委員会と、社会的にも地位が高く資金の面で援助している人たちの委員会の2つがある。
協会の発足は11年前で、現在212の支部があり、そこで年間集められた約4,000万ドル(日本円にして約50億円)を基に活動を行っている。その活動は、ケア「CARE」の文字に則っており、「C」は、コミュニティ・サービスである。いろいろなパンフレットや研修、介護者の一時休暇・情報の伝達の問題等、コミュニティ・サービスを1つの目的にしている。
次の「A」は、アドボカシーということで、運動をする、という意味である。例えば、政府に働きかけ、連邦政府のこの面に対する予算の獲得。社会保険制度の導入に対する主張。個人向け医療保険の導入。そしてアメリカでよくいわれる痴呆性老人のスペシャル・ケア・ユニットのガイドラインづくりである。
3番目の「R」はリサーチ、研究である。アルツハイマー病の治療、管理、予防、ケアに対する研究を生物学的、かつ臨床的に行う。この研究申請は年間500にも上り、NIHもそれに協力している。また、アルツハイマー病の国際シンポジウムも開催している。
最後の「E」は、エデュケーション、教育であり、いろいろな人たちへの教育のために、最近ではビデオテープの製作やテレビ放映による啓蒙を行っている。
いずれにしろ、痴呆性の老人を抱えた家族の介護者の崩壊というものが問題であり、ケアのコストがアメリカでも相当深刻化している。そのため、アルツハイマー協会でも、限られた資源を意義ある箇所へ投入していく、という方法論を考えて、今後も努力していきたいと述べられた。
次に、スウェーデンのランドストロム先生から、スウェーデンの高齢者の人口比率(総人口850万、うち65歳以上18%)およびその高齢者のうち、後期高齢者の5人に1人が痴呆症にかかっていることが報告された。ストックホルムでは、できる限り長く在宅でケアできるように、ホームワーカーが1日に3〜4回訪問し、介護をすること。そしてこの形態に無理が出てきた場合には、デイケアセンター、それでもなおかつ困難な場合には、いわゆるナーシングホームやグループホーム等に入所させて、ケアをするというシステムの紹介があった。
続いて、グループホームの話があり、現在、盛んにグループホームの建設が行われているが、方向性としては小人数ケアの方向であること。また、6〜8人ぐらいの痴呆性老人のためにグループホームが設計され、それを2つ重ねてつくっていく。つまり、2つのグループが隣接してそこで生活するような形にしていく。内装も、自分の家のような内装をそのなかに取り込んでいく。入所者のなじみの深い品物をいろいろ持ち込めるような、1人あるいは2人用のグループホームの部屋をつくっていく。
かつ、コンタクト・パーソンという、最初から本人にかかわり、責任をもってケアを行えるような人を決めることがよいのではないかという話があった。
日本からは、東京都の「ぼけ老人を抱える家族の会」の代表である笹森さんから発表があった。笹森さんは、ご自身の経験から、社会に働きかけ、できる限り家族が困らないようなサービスをつくっていかなければならないという運動を起こされ、1980年、アメリカのアルツハイマー協会ができたちょうど同じ年に、京都で発足した該当団体「ぼけ老人を抱える家族の会」に参加、いま活躍をされている。
日本のアルツハイマー協会にあたる「ぼけ老人を抱える家族の会」の仕事は、家族の援助と福祉の向上を目指し、会報の発行、「ぼけ老人を抱える家族の会」の人たちの実態調査、行政への働きかけ等を行っている。また、東京都は特別にテレホン相談を行い、多くの方たちの相談に応じている。
次に、国立医療・病院管理研究所室長の外山先生は、いろいろな人間と環境のかかわり、特に物的環境と老人のかかわりという問題を研究され、今回は、スウェーデンと日本の橋渡し的なご意見をいただいた。
先生は、それぞれの国には自ずと異なった背景があり、それを考慮に入れるべきだとして、日本とストックホルムの実情を数値的に述べられた。日本には、約99万人の痴呆老人がいるが、そのうちの約74.4%が在宅であるという状況。ところが、ストックホルムの在宅は26%、そのうちだれかと同居している人が4%、ひとり暮らしの人が22%。また、ケア付きの住宅にいる人が16%、老人病院が45%、老人ホームが7%、精神病院が6%という状況である。
いずれにしろ、こういう状況の違いのなかで制度的な問題も考えてみる必要がある。特に緊急対応の問題、あるいは夜間の問題は非常に重要なことになるだろう。また北欧では最近、24時間体制が整い、随分状況も変わってきたという話があった。
演者の発表後の質問については、以下のとおりである。
アメリカのアルツハイマー協会では、ボランティアの参加が非常に多いが、日本ではなかなかボランティアが集まってこない。最初に、このボランティアに対する考え方について、マンパワーの確保も含めて、議論が集中した。国の違い、考え方の違いがあるにせよ、日本におけるボランティア活動に対する1つの問題提起がされたように思う。
また、ケアに携わる専門家の資質の問題が問われた。なぜ、スウェーデンやデンマークの人たちは熱心に介護に加わっているのだろうかということに対して、その人間の歴史にさかのぼり、その人たちをよく理解したうえでケアしていくのが理念の根本であるということであった。ほかに、ケアをする人には想像力、ユーモア、温かさがなければいけないなどの考え方が述べられた。
次に、マンパワーを確保するにはどのようにすればよいかという問題が出た。アメリカではいまのところ看護婦不足の問題はないとのことである。日本とほかの国との違いはあるが、結論として、数の問題ではなく、ケアの質の問題を高めることが重要ではないか、ということである。特に全人的なケアにチャレンジしてみなければならないのではないか、という意見が出た。
次に出た問題は、初老期痴呆に対して、日本では種々のサービスが年齢制限で外されている問題が提起された。北欧でもある確度の制限はあるようだが、その点は徐々に改められているという話であった。日本でもこの問題については、老人保健施設で、初老期痴呆もこれから入所可能としていくように、徐々に改められていくと思われるが、国の違い、また考え方の違い等による問題が提起された。
もう1つは、痴呆を抱えた家族の相談窓口が、日本では医療・福祉・保健等とさまざまであり、なかなか統合されないという問題に対して、スウェーデンでは来年ぐらいから市町村単位で保健・福祉・医療が一体化されるとのこと、日本においても、厚生省のゴールドプランの10ヵ年戦略ということで、平成5年までに各市町村で保健・医療の計画を策定しなければならない。
最後に、老人の身になって、老人が住みよい町づくりをしようということで、私たちがいまある制度のなかでできる限りのことをしようということを結論づけて分科会IIを終了した。





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