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高齢者ケア国際シンポジウム
第2回(1991年) 痴呆性老人の介護と人間の尊厳


分科会II 発表
アルツハイマーコミュニティーでのアルツハイマー協会の役割

米国アルツハイマー協会会長
Edward F. Truschke



アルツハイマー病患者とその家族および介護者のためのアメリカのボランティア団体であるアルツハイマー協会のプログラムとサービスについて、また、アルツハイマー協会がアメリカのヘルスケアシステムの枠内でどのように他の組織と協力しながら仕事を行っているかを以下に述べたい。
協会は、アルツハイマー病と闘っている家族の切なる要望にこたえる形で発足し発展してきたが、最初に、この協会の短い歴史について触れることとする。
次に、われわれの主な活動領域であるコミュニティーサービス、広報活動、研究、教育について述べ、最後に、アメリカのアルツハイマー病にかかわる人々のコミュニティーが直面する問題、そしてこれらの挑戦にこたえ、援助を必要としている人たちを支援するため、本協会が今後どのような活動をしていくかについて述べることとする。
まず、アルツハイマー協会の仕事を説明する前に、アメリカとそのヘルスケア環境について相互関係をもつ4つの事実をご理解いただきたい。
第1は、アメリカには国民健康保険制度がなく、高齢者、精神不能力者、障害者のケアを行う際、中心となる社会政策または基金もないということ。
第2に、アメリカには、ヘルスケアを規制する政府の部署が何段階にもわたって存在している。ワシントンの連邦政府、50の州政府、何千とある地方自治体がそれである。これらはヘルスケアやソーシャルサービスを規制し、それぞれの定まった管轄内で予算を計上するため、規制が重複したり、サービスの提供に矛盾があったりして、情報やサービスのアクセスが混乱したりするのである。
第3として、アメリカ人は自分の面倒は自分でみているということである。
アメリカで常時介護と監督を必要とする痴呆症の重症患者、推定180万人のうち80〜90%は家族の介護(通常は、女性の配偶者や成人した子ども)を家庭内で受けている。
家族による介護という伝統があるのは、それに代わるふさわしいものがないこと、家族に義務感があること、アルツハイマー病患者が自宅での介護を好むこと、和やかな家庭環境にいるほうが機能は長く保てる、という理由からである。
アメリカにおける介護は全般的に重くかつ長期にわたる。これについて、われわれは1日36時間、あるいは終わりのない葬列と表現することがある。その結果、介護者に対してアルツハイマー病患者自身と同程度の援助が必要なことが分かった。
第4は、アメリカにおけるアルツハイマー病介護のための大半の費用は、患者とその家族および個人の負担によるということである。家庭内介護の費用は、年間約18,000ドルと推定される。このほとんど全額を家族が負坦しているのである。
また、アルツハイマー病患者の10%ほどが利用していると思われるナーシングホームの費用は、年平均30,000ドルである。ナーシングホームの介護費は連邦または州が負担している。もし患者が経済的な援助を受ける資格があれば、低所得者に対する医療扶助制度(メディケイド)が適用になる。あるいは、65歳以上の老人であれば、医療健康保険制度(メディケア)が適用になり、最長90日の支払いを受けることができる。しかし、このような資格取得条件は厳しく、家族がナーシングホームの費用を負坦しなければならなくなっている。
したがって、この病気が長期にわたると、アルツハイマー病患者を抱える家族は破産することもある。
これら4つの事実が複雑に絡み合い、アメリカの痴呆性老人のための介護システムは秩序がなく十分開発されていないというのが現状である。

1.アルツハイマー協会(Alzheimer's Association:AA)

上述したようなことからアルツハイマー協会の使命と活動が決定した。しかし、アメリカでの痴呆症または関連する介護問題について仕事を行っているのは、われわれだけというわけでは決してない。
私たちの仕事は、国の多くの機関と非常に密接にかかわっている。たとえば、NIH(国立保健研究所)、老人福祉局(Administration on Aging)、病院認定合同委員会(Joint Commission on Accreditaion of Health Care Organizations)などがある。州レベルの仕事については、州の老人福祉課(State Agencies on Aging)、ヘルスケア産業、公衆衛生部(Public Health Department)と接触をもっている。地域レベルでは、訪問看護婦協会や食事の宅配というようなソーシャルサービスや宗教団体と深いかかわりをもっている。
われわれと同じように、アルツハイマー病と取り組む多くの社会支援団体との協力もある。たとえば米国退職者協会(American Association of Retired Persons)、ナーシングホーム改革のための全国市民連合(The National Citizens' Coalition for Nursing Home Reform)、よりよい介護のための市民団体(The Citizens for Better Care)などである。
こうした機関との連携によって、私たちは介護の基準と認可を定義付け、地域社会のなかでヘルスプログラムとソーシャルサービスを展開し、秩序付けようと努力している。

本協会は、アルツハイマー病患者の家族によってわずか11年前に設立された。アルツハイマー病に関連する障害の原因、治療、予防(究極的には治癒)を研究し、苦しんでいる患者とその家族への支援と助力を提供することを目的とするものである。協会はいかなる政府組織とも連携していない非営利団体で、運営経費いっさいを慈善寄附で賄っている。また、会員のほとんどがアルツハイマー病患者の家族で、ボランティア組織である。
本部はイリノイ州シカゴにあり、ワシントンに公共政策支援事務所、そして全米49州(アラスカ州を除く)に209のコミュニティー支部(チャプター)ネットワークをもつ全国組織である。
またアルツハイマー協会は、レベルの高い2つの専門家による委員会を有している点で独自といえる。1つは医科学諮問委員会で、われわれの研究助成金や報奨プログラムを監督し、医学と科学の分野においてこの病気への関心を高いレベルで持続することを約束するものである。この委員会メンバーの専門知識によって、協会は政府、医学科学の分野で第一流との評価を得た。
もう1つの委員会は、社会、企業界の優れたリーダーたちで構成され、われわれのプログラムやサービスの展開を監督したり資金集めに専念している。彼らは協会の活動のために名前やその手腕を貸し、自分たちのチャプター内で協会を代表している。
各チャプターにも地域の委員会があり、全部で2,100人ほどの委員がいる。すべてボランティアであり、その指導力、知識、社会的事業上の縁故、そして端的には彼らの財力という方面での貢献は、われわれの運動にとって計り知れないものがある。
資金集めは、アルツハイマー協会の存亡にかかわる重大事である。われわれの活動の財源は、事実上個人の献金、つまり個人・企業・財団からの寄附、有名人ゴルフマッチやウォーカソン、上流社会のダンスパーティーというイベントの際の特別の資金集めで賄っている。本年は4,000万ドル以上の募金が見込まれ、これを協会プログラムと活動の資金にあてるつもりである。将来、われわれのサービスが拡大するにつれ資金収集も拡大しなければならない必要性が出てくる。
また、国際組織として、国際アルツハイマー協会(ADI)がある。ADIは、アルツハイマー病についての事業を慈善的に、教育かつ科学の面において発展させるべく1984年に設立された。現在世界で23団体が加入しており、日本では京都の「ぼけ老人を抱える家族の会」が入会されている。

アルツハイマー協会は、主に4つの領域のプログラムをもっており、これは頭文字を取ると“CARE”という語になり、すなわち、Community Service(コミュニティーサービス)、Advocacy(広報活動)、Research(研究)、Education(教育)である。
4つの領域は、必要に応じて自然に発生したものである。患者の家族が助けを必要としたことから、患者と家族のサービスを基本とするコミュニティーのネットワークをつくった。また、家族が経済的、身体的、精神的に重圧を受けたことから、公共政策と支持プログラムをつくった。次にこの病気の原因、治療の方法についてはなにも判明していないことから、研究プログラムをつくった。そして、一般人あるいは専門家の介護者でさえ病気に対し無知で、恐怖感を抱いていたことから、認識を深める目的で教育プログラムをつくった、という具合である。
アルツハイマー病患者、介護者、家族を援助するためになにをなすべきかということについては、4つの領域のプログラムが物語っている。それらについて、以下にさらに詳しく述べることとする。

まず最初にコミュニティーサービスについて述べる。
シカゴにある本部では、質の高い支援サービス、プログラム、アルツハイマー病とその介護についての情報を展開している。評価のための手段、介護の実地訓練、ビデオを使った実地教育、アルツハイマー病と協会に関する出版物などがその資料に含まれる。
このようなプログラムやサービスは、209か所あるチャプター、1,600の家族支援団体、35,000人のボランティアの全国ネットを通じて、アルツハイマー病患者の介護者である家族に直接配られる。
チャプターは本部からその設立を許可され、協会が設定した一定の基準に基づいて仕事をする。チャプターの専門スタッフとボランティアは、訓練を受けて、ヘルプライン(telephone help lines)、介護者の訓練、一時休暇、コミュニティーの紹介などを、最も重要と思われる家族支援団体を通じてアルツハイマー病患者を抱える家族に対して行う。
チャプターの家族支援固体は、われわれのサービスになくてはならないものである。事実、介護の技術を調査し改良するための協会の実験室といえる。月例会議では、介護者と家族たちが小グループに分かれ、情報を交換、あるいは対処方法等の意見交換を行っている。また、デイケアを受けるための資格条件等の特定の問題について講演会を開催したりする。
グループ間で知識と経験を交換し、さらにそれを本部が各チャプターにくまなく速やかに伝達することが非常にたいせつとなる。
たとえばコロラド州デンバーのチャプターは、アルツハイマー病の初期段階の人たちのために特別な支援団体プログラムを編成している。10週間のプログラムには、将来の介護問題について患者と家族が協力して行動できるようにするため、診断、患者と家族の目標設定、機能が変化あるいは消失した際の対処、経済的・法律上の問題、将来の介護ニーズ、保険の補償範囲、コミュニティーでの資源、長期介護のプランニング等が含まれている。本プログラムは本部で集人成され、現在では全国のチャプターで利用できるようになった。
他のチャプターでは、介護の専門家のための訓練モデルの開発、あるいは患者の徘徊、患者の安全、警護訓練、孤立した介護者、痴呆患者の介護のためのユニットつきナーシングホームの選択という特定の介護問題を目標にしたプログラムを開発すべく本部と協力している。
メンバーである家族が最も望んでいるショートステイのあり方が、協会の重要な課題であり、現在チャプターは介護者を休養させるためのモデル作成に努力している。
1つのプロジェクトは、アルツハイマー型老年痴呆患者のために特に考案された革新的なデイケア、家庭内での一時預かり、短期の施設介護プログラムのテストに関連するものである。もう1つは、家庭内での一時預かり、デイケア、送り迎え、ヘルスケアという組織化されたサービスについての経済的可能性をロバート・ウッド・ジョンソン財団、米国老人福祉局、アルツハイマー協会の後援で共同事業としてテストするものである。さらに第3の実践プロジェクトとして、連邦組織でアルツハイマー型老年痴呆患者のための住み込みのコンパニオンとして年配の市民ボランティアの利用を試みた。
また、われわれの実践プロジェクトが得た貴重なデータを本部が分析し、介護提供者のための資料として出版している。「アルツハイマー病介護プログラムガイド」と「患者と家族;アルツハイマー型老年痴呆介護に関する参考一覧表」がよく知られている出版物である。
本部で最も知られているコミュニティーサービスは、情報提供と電話による照会である。この電話サービスは、訓練を受けた専門家を24時間配置し、問い合わせに対してアルツハイマー病と介護についての情報を提供し、コミュニティーチャプターやサービスを紹介するものである。電話は全国フリーダイヤルで、1990年には30,000件の電話相談に応じた。
また、アルツハイマー協会は、解剖支援ネットワークをもっており、死亡したアルツハイマー病患者の脳の組織を解剖する取り決めができている。1990年の1年間で約2,000家族と研究者のために、アルツハイマー病の信頼される最後の診断テストができるように協会の45ネットワークのボランティアたちが協力した。

アメリカには、全国的ヘルスケアプログラム、研究と介護のための適切な基金、組織的な介護サービスがないため、われわれの第2のプログラム領域である支援は、非常に重要なものとなっている。しかしいかに社会医療が整った国といえども、アメリカと同様、公共政策問題が少しは生じるのではないかと思われる。財源が限られ、虚弱な高齢者の急増を抱えて、私たちはいずれ役所におしかけて抗議の声を上げることになると思われる。
アメリカでは、長期的ヘルスケア融資を提唱している140余の全国組織と提携し、社会政策の最優先事項を積極的に推し進めている。その最優先事項を以下に述べる。
?@生理学分野の研究とアルツハイマー病患者およびその家族のためのヘルスサービス用の連邦基金として、5億ドルを1995年までに計上する。
?A長期にわたる介護を全面的かつ包括的に保護する連邦の長期社会保険プログラムの立法化。その内容は、メディケアを通して公費負担を増やす努力や、利用できる介護施設、特に退役軍人病院を拡大し、このような施設のなかでの患者の介護と治療の質を調整することである。
?Bショートステイの利用機会を増やし、家庭でアルツハイマー病患者の介護をしている家族の支援サービスを増強するため、連邦および州法を立法化する。
われわれが関心をもっているのは、個人の長期介護保険、アルツハイマー病患者へ実験薬を用いる治療法、ナーシングホームにおけるアルツハイマー病患者に対する特別介護ユニットのためのガイドライン、ナーシングホームの改革法を連邦および州が積極的に立法化することである。
アルツハイマー協会はシカゴとワシントンの事務所が主導してはいるが、全国に散らばる35,000人の会員により支援されている。地方議会、州議会、そしてワシントンにおいても同様に彼らの働きは大きい。
われわれの努力の結果は、ワシントンで毎年開かれる公共政策フォーラムに提出される。ここでは全国から集まった人々が、議会に働きかけ、政府要人と会い、議会の委員会で証言し、情報を交換し、講師から立法と予算の経過報告を受ける。
アルツハイマー病患者の家族の熱心な擁護がなければ、アルツハイマー協会の現在の姿はないだろう、というのが私の正直な感想である。彼らは才能と、エネルギーとアイディアと現実参加(Commitment)の巨大な宝庫である。欲得なしで、立法への働きかけ、募金、近隣への手助け、コミュニティーへの報告などに進んで力を提供してくれるのである。ほかの国々においても、このボランティアの宝庫を利用するよう勧めたいものである。

われわれの第3番目のプログラムの領域は、研究部門である。これが重要なのは、アルツハイマー病の人たちのコミュニティーに学問上の利益をもたらすことが明白であること、われわれの仕事に専門的知識と権威をもたらすという2つの点である。
研究プログラムは、アルツハイマー病と関連障害の原因、治療、管理、予防、治癒のための研究を奨励することを目的として1982年に始まった。脳の退化性疾患に関する生物学的・臨床的・社会的研究の提案を求めることによって行っている。前述したように協会の医科学委員会は、毎年、約500件に及ぶ助成金の応募に対し、NIHの研究費審査(peer review)方法を手本に審査・決定している。
今日までに研究費助成として2,000万ドルを支出した。われわれは、まず当初資金を提供し、それによって他から大型の助成金を受けられるような学問的に興味のある、予備研究結果を導く形態をとっている。
賞は5段階方式とし、革新的なプロジェクトのための予備研究用の25,000ドルをはじめとして、1年、2年と目標を決める研究費、また、これまでアルツハイマー病研究に多大な貢献があり、今後も貢献が期待される科学者に対して年間10万ドルを助成するという最高プログラムも新しく設けられた。
1991年に助成金プロジェクトをタンパク異常、脳化学、遺伝学、脳機能、社会心理学研究に分類した。
1990年の社会心理学研究のなかには、アルツハイマー病患者のためのサービス枠の拡大のための個人助成11作が含まれている。1991年には、ナーシングホームにいる両親と成人した子どもとの関係に影響を与える要素について研究しているプロジェクトを助成した。これは介護専門家がアルツハイマー病患者の家族の問題を理解し、基礎研究を分析して患者と家族のために実際の利用に役立てるようにするためのわれわれの努力の一環である。
研究プログラムでは、アルツハイマー病に関与している人々との相互対話の推進に努力しており、1990年の年間活動としては、アルツハイマー病に関する国際シンポジウムを主催した。また、ローマのシグマ・タウ財団の後援を受けて有名なアルツハイマー病研究者による何年にもわたる学術講演シリーズをはじめ、アルツハイマー病患者への薬物投与の臨床試験に関する声明書も発表した。そのほかに、アルツハイマー病患者のためのナーシングホームの特別介護ユニットに関する専門家会議の共催も行っている。

われわれの第4番目のプログラムの領域は、教育と認識である。協会の本部とチャプターの執行委員は協力して、介護者と一般人の両者を教育するための情報資科を提供し、メディアからの情報の要請にこたえている。
協会が行う仕事の範囲についての理解の一助とするため、協会の活動のいくつかを1990年、1991年に限って話したいと思う。
フリーダイヤルの電話相談では、病気、協会、コミュニティー組織への紹介などアルツハイマー病に関する情報のすべてが得られる。
アルツハイマー病という診断がくだされたとき、家族は今後どのようなことが起こるのかについて、信頼かつ分かりやすい情報を欲しがるものである。このニーズにこたえるために、家族介護者のための最新の実際的な情報を盛り込んだ6本のビデオを制作した。ビデオは、自分たちの日常の経験を語るアルツハイマー病の家族介護者を取り上げ、介護の実生活上の困難にどう対処するかを伝えるものである。またビデオは、その他の教育的資料といっしょに、支援団体、チャプター、あるいは介護者の自宅等でみることができる。
もう1つの教育的活動として、英米人以外の社会に対しても活動を開始し、1990年にはスペイン系コミュニティー向けのプログラムを全国規模で発足させた。2種類のスペイン語のビデオと、患者と家族が必要としている病気とサービスについての指導を提供するパンフレットを出版した。
協会が出版した情報については、すべてカタログ化し通信販売されている。
一方でアルツハイマー病に対する一般社会の関心の高まりを反映して、情報に対する要望が多くなり、1990年には、われわれの組織と主張がテレビ、相談欄、ニュース番組、雑誌等で大きく取り上げられるようになった。
また、われわれの啓蒙運動の結果、本部、チャプター合わせて総計50,000人の人たちから問合せの手紙や電話があった。また、チャプターと直接連絡をとったのは、約20万人と推定される。
1991年に入り。一般社会の認識・関心はさらに高くなり、“U. S. News and World Report”誌はアルツハイマー病についての広範囲にわたる記事、“Wall Street Journal”紙は協会と薬物治療の臨床試験についての記事を掲載した。
また、National Public Radio放送は、アルツハイマー病に関する番組を放送、さらに本年の10月には、発行部数3,500万部を誇る全国紙の日曜版“Parade Magazine”にアルツハイマー協会の記事が載ったばかりである。全国ケーブルテレビ綱で「すべてをなくす:アルツハイマー病の現実」が放映された。12月にはリーダース・ダイジェスト誌に記事が掲載され、17か国語に翻訳されて世界中で発行される。
1991年には、最終的にアルツハイマー病関係の記事や放送は、5億人以上の耳や目に触れるだろう。アルツハイマー病はいまだに医学の謎といえるかもしれないが、あらゆる情報からもう未知のことではなくなってきている。
もう1つ非常にたいせっな教育と啓蒙として、11月にシカゴに新しくオープンしたグリーンフィールド図書館がある。この図書館の目的は、アルツハイマー病の人々のための国際研究資源となり、アルツハイマー病コミュニティの医学的・社会的局面についての情報を収集し普及することにある。この図書館は病気に関するすべての刊行物、オンライン調査の機能、チャプターの実地プロジェクトの生データ一覧を所蔵し、アルツハイマー病にかかわるあらゆる人々にとって完璧な情報源となると考えられる。
いままでのことを要約すると、アルツハイマー協会の4つのプログラムは、アルツハイマー病コミュニティヘ支援を提供するために情報と密接に結びついている。毎年、組織全体(委員会のメンバー、シカゴとワシントン事務所の専門家スタッフ、チャプターのスタッフ、ボランティアの人たち)がシカゴの年次会議に集まる。この会議でプログラムとサービスの情報を交換し、訓練プログラムやセミナーに参加している。主題委員会の会合では、プログラムと資料のレベルを高め翌年に向けての活動の軌跡を設定している。アルツハイマー病と闘ううえで、外部との情報や経験の交換は非常に重要である。
われわれは日々努力を続け、その任務を分担し、促進するために定年退職者、労働組合、教師、医師会、政府機関、WHOのような国際機関、および各種団体との提携を図っていきたいと願っている。

2.アメリカにおけるアルツハイマー病の将来

われわれの将来はどうなるのだろうか。将来、われわれが抱える問題は何か。
アルツハイマー協会およびアルツハイマー・コミュニティーの多くの人々が不要になることはなさそうである。
最近の推定では、アメリカ人400万人がアルツハイマー病に罹患している。この病気の猛威をくい止めるものが見つからない限り、人口の高齢化を考えた場合、21世紀半ばまでに1,400万人ものアメリカ人がアルツハイマー病にかかることになる。1人ひとりが介護を必要とする一方で、病気についての知識が高まり、早期に優れた診断ができるようになることで、より長期にわたる介護が必要になるだろう。
このニーズの急増は、アメリカやその他の国でいままで行われている家族による介護が破壊の危機に瀕しているという事実と相まって事態を悪化させている。
一方、介護費用は上昇を続け、米国技術評価庁(OTA)が1987年に概算したところでは、アルツハイマー病患者の介護総額は年間800億ドルだった。このうち480億ドルは直接費用で、320億ドルは家族や友人が提供した家庭内サービスの額である。もし「逸失生産性」を含むとすれば、年間概算は優に1,000億ドルを超えると思われる。しかもこの1987年は、アメリカにはアルツハイマー病患者が200万人しかいないと考えられていた年である。
介護問題の取扱いは、非常に難しい。なぜならばアルツハイマー病患者とその介護者のニーズは、非常に主観的で、変化しやすいためである。事実、アルツハイマー協会はその役割を、研究から介護者の支援と教育へと移行したが、指針となるべき基準も定義もなく、われわれの仕事は著しく困難になったのである。
アルツハイマー・コミュニティーの最大の挑戦は、これまで医学の分野で進めてきた介護者のためのプログラムとサービスを同レベルとすることと考えている。
まず、最初に問題の定義づけをし、優先順位を決める。これは、基本的に介護者の質の向上を促すことになり、国中、世界中にある病気の情報を通して広がることとなる。そして、われわれにとってはすべてが費用の問題にかかわってくるものである。介護のニーズに見合う財源が世界に十分あるわけではなく、介護者と患者にとってなにがいちばん重要か、どのようにして経費の負担を果たすかを明確にしたほうがよい。

3.アルツハイマー協会の今後

アルツハイマー協会は将来の展望として、資源を最も重要な部分に充当する予定でいる。医学の仕事として、権威と教育と支援と情報のために利用し、特に情報と照会という役割についてチャプターを強化し、われわれの経験を総合して他のアルツハイマー・コミュニティーに提供すべく努力するつもりである。
どのような結果が得られるのか、どのようにしてそれを実現するのかについては、明確には分からない。いまの時点でも、疑問に見合うだけの回答は得られていない。しかし、アルツハイマー病それ自体が単なる1つの思い出にすぎないという時代がくるまで、政府や学会、1対1の介護者など、どのレベルの問題であっても調査を喜んで引き受け、役立つ介入が成功することを希望するものである。





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