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高齢者ケア国際シンポジウム
第1回(1990年) 不安なき高齢化社会をめざして


第3部 発表 スウェーデンの老人ケア:その成功と失敗、および新たな方向

イエンチェピング高齢者研究所・教授
Gerdt Sundstrom,Ph.D.



1.背景
スウェーデンにおける高齢者ケアはいまや、財政上および人間的な配慮の両面から問題になっている。高齢者ケアに目を向け論述する前に、スウェーデンの現状についての新しい証言を発表したい。

2.高齢者ケアおよびサポートの概観
老人ケアには、広い意味で公的な経済面の援助も含まれる。いまやこれは変わりつつあることに注目したい。歴史的には社会の富の一部が継続的に高齢者には分配されているといえる。スウェーデンにおいても、当初は、国力が乏しい・貧しいという理由から満足なものとはいえなかった。しかし第2次世界大戦後、国の歳入が増え始めたのに伴って、年金の支給額も引き上げられ、住宅手当が導入されるに至った。1960年代、1970年代に入っても高齢者および一般人口に対するこの傾向は続いたが、80年代に入ると、伸びは実質的に頭打ちとなった。高齢者の生活レベルも中年齢層に比べ、いまは以前よりも低い。多くの女性、超高齢者(80歳以上)の受け取る年金は依然として僅少で、貧困とはいわないまでも、それに近い状況で生活している。
もう1つの実例を表1に示す。1980年代初期には国のレベルまたは1人当たりの高齢者費用の増加はない。


表1 高齢者の年金種類、平均収人(年金収人と総収入)、性別による分類(1988年)

しかし、この経費は地域、自治体のレベルで大きな差がみられる。この件に関しては後述する(図1)。


図1 スウェーデンにおける高齢者ケアの支出

3.住宅および生活関連の制度
高齢者の多くは収入の増加に伴い、子供らとではなく、配偶者との2人暮らしやひとり暮らしをするようになった。1954年における67歳以上のひとり暮らしの割合は27%であったが、現在では約36%になっている(ただし65歳以上)。この数字を上回っているのはデンマークのみで、施設に収容されていない70歳以上の高齢者の53%が配偶者との二人暮らしかひとり暮らしである。ちなみにスウェーデンでは約44%、地中海諸国は約20%、日本は10%程度であり、わずかながら増加傾向を示している。現在のスウェーデンにおいて、高齢者が子供と同居することは非常に珍しく、その割合はわずかに6%である(日本では約60%)。以前はその割合はもっと高かったが、同居の子供のほとんどが未婚であり(日本の場合はおよそ4分の1)、しかも娘ではなく息子がその面倒をみている。現在は両世代とも別々に暮らしている(図2)。



図2 65歳以上の人が子供と同居する割合の国別比較(1950〜88)

これは、物質的水準の向上により、高齢者とその子供が、既婚未婚を問わずおのおのが独立して生計を営む自由が増えてきた証拠とも思われる。また高齢者のうち、家族との同居を望んでいる人は非常に少ないという調査結果も出ている。同居ではなく、むしろ近くに住むことを望み、相当数が実行に移している。しかし、高齢者のほとんどは子供と頻繁に顔を合わせていることから、接触や個人的な介護が減っているとはいえない。

4.高齢者の家族事情
高齢者のおよそ8分の1(13%)は結婚経験がない(もしくは異性との同居経験がない)。世代が下がると結婚率は高くはなるが、しかし40〜44歳の女性の8%は結婚経験がなく、5%が異性との同居経験がない。例えば日本と比べると(約1%)、これは非常に高い数字である。さらに、高齢者の24%は子供がなく、世代が下がったとしても約14%と、日本に比べて高い数字を示している。言い替えると、この数字は、最低50年近くは公的な、あるいは家族以外からの援助を高齢者に与える必要があるということを示している。

5.社会的孤立/仕事からも追放
高齢者は概して孤独で、自分は不必要な人間だという感覚をもっていると思っているスウェーデン人は多い。しかし、こうした感情を抱く人の割合が高いとする調査結果はなく、以前に(高齢者の多くが家族と同居していたころ)比べて、また他国に比べて多いとはいえないであろう。もちろん、人々が現状を受け入れていることを考慮しなければならないが、横断面的なデータが示す以上に、こうした感情を抱く人は多いと考える。また高齢者が仕事に従事している割合は、非常に少ない。すでに1950年代もかなり少なかったが、これは、高齢者が自主的に仕事から退いているようにも思える部分もある。彼らが自ら望んで仕事を離れていく根底には、そうするだけの経済的基盤があるからかもしれない。理由はどうであれ、半数以上の人が、65歳を迎える前に仕事をやめているのである。

6.スウェーデンにおける高齢者公的ケアの実情
スウェーデンは現在、世界でいちばん高齢者人口の多い国であり(65歳以上が19%、80歳以上が7%)、当然あらゆる種類のケアの需要は非常に大きい。スウェーデンの全人口は800万人で、そのうち150万人が65歳以上、36万人が80歳以上である。しかし、わが国の抱える問題や課題は、他の西洋諸国と比較してもそれほど違いがないことがわかる。
例えば、ヘルス・ケア費用のGNPに占める割合は西洋の他の国々と同程度であるし、家族以外の人間によるケアについても、他の北欧諸国と同様にほぼ公的手段で賄われている。
65歳以上の人の約5%が痴呆症にかかっている。高齢者の数の伸びは非常にゆっくりとしているが、平均年齢の上昇により、痴呆症患者の数は現在の7万人から、2000年には10万人になると思われる。
国同士の比較は難しいため、1つの例を掲げる。スウェーデンでは、高齢者(65歳以上)の約6%が施設に入っているが、日本ではおよそ1.6%というのが正式に発表された数字である。しかし、日本の高齢者(70歳以上)の約4.4%は、医療的処置が施せない状態でありながら、6か月以上病院に入院していると、1988年に来日したおりに友人から聞いた数値である。この数字は、スウェーデンで施設に入っている人の割合と非常に近い。また日本の老人のなかには、家族がいない、あるいは家族との同居を拒んでいる、また家族が引き取りや同居を拒否している人がいる。こうした人々を加えれば、施設に収容してケアを受ける必要のある人は、ほぼ同じ割合になる。
スウェーデンとデンマークは、1つの点で他国と異なっている。それは、高齢者の在宅ケアに力を入れていることである。しかしわが国でも施設ケアは行っており、超高齢者(80歳以上)の25%は施設に入っている。言い替えれば。65歳以上の高齢者の5分の1、さらに高齢の人の3分の2は、なんらかの公的なケアや配慮を受けていることになる。図3,4に、施設ケアと在宅支援(ホーム・ヘルプ)の供給が過去数十年間にどのように変化したかを示す。


図3 超高齢者(80歳以上)1,000人当たりの施設数。1965〜85年のスウェーデンとアメリカの比較、スウェーデンは2000年までの計画数も示す。


図4 スウェーデンの高齢者1,000人当たりの年齢集団別ホーム・ヘルプ下利用数(1965〜89年)

スウェーデンの施設ケアは、老人ホームと長期看護病院とで行われている(各50,000箇所)、前者の場合、入居者は個室をもつが、食事はダイニングルームで一緒に取る。後者は通常の病院と非常によく似た方式になっており(1部屋当たりたいていは2〜4人。6人のこともある)、無欠性、プライバシーはほとんどない。老人ホームのなかには、1950〜60年代に建てられたものがいくつかあり、長期看護病院の多くは70年代に建設された。現在では、高齢者は自宅にいるべきだという考えが強く、そのほうが当人にとっても住みやすく、また費用も節約できるからであろう。高齢者ケアにだれが責任をもつかという大きな問題は、現在も議論されており、これが解決しない限り多くのことは望めない。図3をみると、2000年には施設のベッドを確保するのが、1985年に比べて確実に3倍は困難になると予測できる。また、サービス・アパートメントとよばれるものがあるが(35,000箇所)、これは正式には施設ではない。これは、24時間体制のホーム・ヘルパーがいる家形態の高級アパートメント(部屋数は1〜3)であり、近年はわずかしか建設されていない。
需要を考えると、民間企業が高齢者(55歳以上)を対象とした私的サービスアパートメントを建設することは驚くにあたらないかもしれない。この需要は非常に大きい。
図4に示すとおり、1977〜78年は絶対的にも相対的にもホーム・ヘルプの供給が減っていることが分かる。ホーム・ヘルプの利用は週に4〜6時間が典型的で、利用時間に上限はなく、資産調査を行うわけでもないのだが、時間をこれ以上増やしたり、夕方から夜間のサービスを頼む人は少ない。ホーム・ヘルパーの主な仕事は掃除、買物、料理、洗濯で、こうした仕事が全時間の80%を占める。自治体が雇っているホーム・ヘルパーは、週に20〜38時間働く。ある意味では、ホーム・ヘルパーは家族等が十分にできる仕事を肩代りしている。しかし利用者の大半はひとり暮らしであり、(近くに)家族がいないことが多い。召使いは、過去の裕福な人びとにのみ許される選択であった。したがってホーム・ヘルパーは家族に代わって利用者を手助けするわけであるが、ヘルパーがいないと満足な、あるいは全く手助けが得られない人が多い。「古き良き時代」には、こうした手助けを全く得られない高齢者がいた。過去のケア基準はもはや現代では受け入れがたい。そして、ホーム・ヘルプ利用者のほとんど(85%)がひとり暮らしであることは、注目すべき事実である。
ひとり暮らしの高齢者を多く抱える自治体(実情はさまざまだが)は、それだけホーム・ヘルプを盛んに行っている。施設に入る高齢者の多くは、それまでひとり暮らしをしていた人で、今日ではほとんどの人が施設に入る前にホーム・ヘルプを利用した経験がある。しかし需要を十分に賄うサービスは受けていない。
言葉を替えれば、スウェーデンでも他国と同様に、家族の存在が高齢者の公的サービス利用や施設人所を妨げている。ただしスウェーデンが他国と異なるのは、ひとり暮らしの割合が高いということである。とはいっても、高齢者への手助けは、ここスウェーデンでも家族が行っている。家族の構成員のなかで最も重要な存在は、既婚者であれば配偶者である妻、あるいは夫が面倒をみているということである(87歳の女性の14%、男性の8%が面倒をみている)。配偶者がいない場合は、子供になる。高齢者は家族とホーム・ヘルパーの両方の手助けを受けることが多く、施設に入る前には家族が十分に面倒をみているのが普通である。さらに多くの助けが必要であれば、家族とホーム・ヘルパーの両方に頼る。
高齢者に対する公的援助は減少している。長年の間に老人ホームは閉鎖されるか、いわゆるサービス・アパートメント、ときにはユースホステルなどに改装された。現在では、老人ホームを1つも所有していない自治体や長期ケア病院をもっていないところもある。サービス・アパートメントは全体の20%しか建設されていない。
施設ケアは政治的な課題でもあり、与党の社会民主党はすべての老人ホームの閉鎖を目指したが、反対派は存続を希望した。しかし施設ケアヘの大衆の支持を知り政府は方針を変更した。世論調査を行った結果、相当数の高齢者が施設への入所を希望していることが判明した。また超高齢者や体の弱い高齢者に聞いてみると、ほぼ半数が施設を現実的かつ魅力的な選択肢と考えていることが分かる。そして実際に施設に入るのは、こうした人たちなのである。現在良識あるオブザーバーの多くは、施設に適切な数のベッドが必要だと考えている。問題は、上述したような需要に対して供給が落ち込んでおり、施設におけるケアの内容が必ずしも充実していないことである。最近論議が活発になったものの、施設での仕事と実践をこれまでと変えたところはほとんどなく、とくに長期ケア病院は、入居者を精神的に励ますことなく、プライバシーもほとんど保護されず、厳しい画一的な規則で拘束していることがある。
施設に入る老人の痴呆症罹患率は増加傾向にある、この傾向はサービス・アパートメントでも同様である。にもかかわらず、こうした施設や老人ホーム側は、痴呆性老人に適切な配慮をする準備もできていなければ、人員もいない。スウェーデン南部地域で、1969〜70年に退職した人全員を対象に面接や健康調査を行った。当時の調査対象者で、現在も存命中の人は多少いる。全体の約30%は遅かれ早かれ施設に入り、20〜25%は痴呆症で死亡している(いずれも平均は5%)。彼らの多くは配偶者や他の家族から長年にわたって手助けを受けているが、ホーム・ヘルプではいつまでも家に留まることができない。イエンチェピングで実施された調査でも同じ結果が現れた。記憶障害等の問題がある高齢者で、ホーム・ヘルプを受けている人は、表向きには高齢者は自宅にいるべきだという通念があり、ホーム・ヘルプや訪問看護婦、特別な装置を利用することで「どのような住宅もサービス・アパートメントになる」とうたわれてはいるが、現実にはすぐに施設に入っている。
もう1つの例として、イエンチェピングに住む84〜90歳の超高齢者全員を対象に1987年に行った調査では、住んでいる地域にかかわらず、痴呆の症状を呈する人は施設に入っている割合が多い(図5)。


図5 イエンチェピングに住む81〜90歳の人の、精神状態別(痴呆症か否か)生活状況

特に注目を集めるのは、痴呆症の症状を呈しながらもひとり暮らしをしている高齢者である。1987年の時点で12人のうち10人はホーム・ヘルプを受けており、残り2人は(他の場合と同様に)家族が面倒をみていた。1989年の追跡調査では、12人のうち自宅でひとり暮らしを続けていたのはわずかに3人で、2人が死亡、残りの7人は施設に入所していた。ひとり暮らしをしている3人は、痴呆症状が比較的軽く、そのうえ家族の手助けが得られる状況にあった。痴呆症が進んだ高齢者には、いわゆる集団生活ユニットを作るのが政府の方針である。これは24時問対応できるスタッフがいる小規模な住居もしくは病院で、収容患者は6〜8人が理想である。各患者は小さな台所つきの個室(一人で2部屋ももつことがある)に入る。また患者が調理を手伝えるセントラル・キッチンや、共同のダイニング(兼リビング)ルームもある。ある意味ではかつての老人ホームに似ているが、水準はこちらのほうがはるかに高い。これは正式には施設ではない。いわゆるサービス・アパートメントのように、高い生活水準が維持され、正式なリース契約で入居する(建設に際して政府から援助を得て、入居者にも補助金が助成される)。しかし自治体はこの種のユニットの計画・建設に消極的である。現在、痴呆症の高齢者を対象としたこの種のケアは、全国900箇所で実施されているが、その数は明らかに不足している。前掲の図5は、いずれも全国的な平均値と変化を示したものである。しかし高齢者向けの支出は、ホーム・ヘルプや施設ケアの規模など、スウェーデンの284自治体で大きく異なる。われわれは1985年の特別調査でこの点を分析した。図6、7に超高齢者(80歳以上)の実態を示す。



図6 スウェーデン国内で、1985年にホーム・ヘルプのサービスを受けた高齢者(80歳以上)の割合の自治体別分布



図7 スウェーデン国内で、1985年に施設に収容されている高齢者(80歳以上)の割合の自治体別分布


図8 利用者(65歳以上)1人が年間に利用したホームヘルプの時間別自治体分布(1985、スウェーデン)

ホーム・ヘルプを受けている割合は、対象者の17%から80%までとまちまちである。ちなみに全国平均は43%である。同様に施設ケアの割合も9%から43%までとさまざまである。ホーム・ヘルプが充実していない自治体は、その代わりに施設ケアに力を入れるという考えがあるかもしれない。その逆のケースもある。しかしわれわれは、この種の代替が盛んに行われているとは考えていない。あらゆる種類のケアに力を入れている自治体もあれば、すべてのケアが貧弱な自治体もある。その割合は31%から100%に分かれ、全国平均は67%となる。
スウェーデンでは、高齢者ケアは主として自治体の責任であり、自治体の独立性は憲法で保障されている。ホーム・ヘルプと一口にいっても、すべての地域で「同じ」とは限らない。図8をみると、ホーム・ヘルプの利用時間およびホーム・ヘルパーの数にかなりの開きがあることが分かる、自治体のいくつかでは、ホームヘルプを受けられる人もその時間もわずかしかないが、他では、多くの人がそのサービスを受けられ、また時間も長いという状態である。わが国を訪れた外国人は、福祉国家でこれほどの差があることを知って驚くだろう。しかしデンマークやノルウェーでも同様の傾向があることは指摘しておきたい。おそらくどこの国でも同じであろう。われわれはスウェーデンの地域格差の理由を探そうと試みてきたが、説明は困難であるといわざるを得ない。
都心よりも地方、そして貧しい地域(地方のことが多い)ほどケアは充実している。これは、スウェーデンの自治体間で行われている税収再配分に拠るところが大きい。この方式は(裕福な)自治体には評判が悪く、格差は依然として続くと思われる。どこの自治体の高齢者も、たいていは必要なケア、または彼らが必要だと考えるケアを受けている。公的援助が少ない場合は、おそらく家族が手を貸し、高齢者自身も高望みしないのであろう。
高齢者ケアの新たな方向、とりわけ施設の不足や自宅生活の強調は、家族、つまり妻や娘、嫁に多大な重荷を強いることになるともいわれる。
多くのスウェーデン人は、「昔に比べると」子供個人は親の面倒をあまりみておらず、代わりにその仕事は「国」に任せると考えている。これは真実であり、反面誤りでもある。高齢者ケアの総「労力」を考えると、子供の負担は昔より軽くなっている。とくにホーム・ヘルプのおかげで、買い物と洗濯はやらなくてもすむ。高齢者も子供も、このやり方にはある程度満足しているようである。
結局ホーム・ヘルプは、行政の過程で必要性が叫ばれていたものである。いまや高齢者は子供に手伝いを頼む必要はなく、もっと楽しいことでともに時間を過ごすことができる。貧困状態にある高齢者は、配偶者を除けばどんな助手よりもホーム・ヘルパーを好むという調査結果もある。
われわれはまた87歳の超高齢者を対象にして、彼らの両親をだれが面倒をみたかを質問し、現在と比較した。それによると、昔もいまも、20〜25%の人が遅かれ早かれ親の面倒をみるという結果が出た。この数字は昔にしてはかなり低いが、理由は「親が高齢に達する前に死亡した」「兄弟や姉妹が代わりに面倒をみた」「住んでいる場所が遠すぎた」などであった。昔は相当数の高齢者が、必要な手助けを得られなかったのである。言葉を変えれば、個人で親の面倒をみる状況は、われわれが思っているほど変わっていないということである。それに両親の面倒をみたことのある女性は、自分が年を取ったときに、娘に同じことをさせたがらないようである。

7.結論
1980年代まで、高齢者向けの支出はかなりの伸びをみせてきた。しかし現在、高齢者向けサービスの実施者は効率化を図り、対象者の優先順位をつけようとしている。年金の価値は上がっておらず(高齢者個人では、1981〜87年まで伸びは0%)、住宅手当、ホーム・ヘルプ、施設ケアを受けられる人の数も減っている、黄金時代は終わったのである。
年々体が弱っていく高齢者を施設に入れると、混乱や痴呆に拍車をかける。
ホーム・ヘルプを受ける人も年をとっていくため、行政側は買い物や洗濯、そして料理などのサービスを切り捨て、個人ケアに振り向けようとしている。近くに家族が住んでいる人は、それだけ受けるサービスも少ない。つまり自宅に住む人ほど、体が弱って助けを必要としたとき、家族が助けなければならない。新しい法律(1989年7月)で、親族の面倒をみる場合は30日間の欠勤が認められ、病欠時の給与相当分が手当として支払われることになった。最初の半年で2,500人がこの手当を受け取っている(欠勤日数は1件半たり平均6日間。支払い額は合計1,500万 Sw Cr/年)しかし手当の支給を受けるには医者の証明が必要であるため、ほとんどの人は経済的な損失となっても手当てを申請せ
ずに親の面倒をみているといえる。
体の衰弱した高齢者の家族が「ホーム・ヘルパー」になることもあり、その数は約7,000人にのぼる。この方式が普及している自治体もあるが(例:イエンチェピング)、大半の自治体はほとんど行っていないか、またはまったく行っていない。家族への支援が公けに認められているにもかかわらず、この方式は以前に比べて下火になっている(1970年代初頭には、ホーム・ヘルパーとして雇われる人の25%を家族が占めていた)。プロフェッショナルが行う社会サービスと家族のケアの間には本来矛盾があるために、1つのシステムに結びつけることは難しいのだろう。
スウェーデン人が親の面倒をみる割合は、昔もいまも変わらないと述べた。現在は高齢者の数も増えている(1900年で24万人、現在は150万人)ので、かつてないほど多くの高齢者が、家族の手助けを受けている。しかしこれまでみてきたように、彼らは家族以外の手助けも受けている。言葉を変えれば、高齢者はかってないほどさまざまな種類の援助を受けているのである。これこそ、すべての人に(ほぼ)すべてのものを、という福祉国家の目指す姿だからである。上述のとおり、サービスの成長が将来足踏みするという見通しがある。これは高齢者にとっても若年層にとっても、厳しい挑戦かもしれない。われわれはもてる資源を友好に活用し、必要とする高齢者に平等に分配しなくてはならないのである。





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