5.2.2潮流下における推定評価
交通流シミュレーション内の船舶の速力は、潮流や昼夜等の区別なく、連続した48時間の実態観測結果から得られる対地速力分布を基に、その統計的性質を模擬する乱数によって付与される。一方、今回用いた潮流分布データの南流最強時には、最大9ノットに達する潮流域があり、中水道を通過できない速力の船舶発生が予測され、追越し制限の仮定と相俟って、同水道が完全に閉塞される事態が生起するため、シミュレーションの実行は最大流速の75%に止めた。現実的には、かような強潮流が長時間持続することはなく、75%流速であっても非現実的との指摘を受ける可能性はあるが、一つの試算結果として、比較評価を試みたので、以下に報告する。
交通流シミュレーション手法による試算評価の狙いは、先に述べたとおり、追越し制限を付加しながら逆潮にて中水道を航行する状況において、潮流速をパラメトリックに変化させた場合の影響を見る事にある。船舶問の出会い状況に起因する航行環境の難易度を計るための指標には、昨年度と同様に、避航操船空間閉塞度と避航操作量を説明変数とする推定困難度を用い、中水道狭隘部を略中央とする南北3km弱の海域を評価対象海域に適用した。
図IV-5-10は、評価対象海域を航過した各船舶の1トリップ平均の推定困難度を横軸に採り、縦軸にはサンプル数(通過船舶数)を配したものであるが、平均的に見て、潮流速の増加と共に推定困難度が増加している。
図IV-5-11は、評価対象海域を航行した各船舶の推定困難度最大値を抽出し、その出現頻度を潮流速別に比較したものであるが、潮流速が最強時の50%を超える付近から困難感を覚える事例(推定困難度が5以上)の出現頻度が増加しており、一定値以上の対地速力維持を要求する等の対策が必要なものと推察される。
一方、潮流がない条件下で実施した「追越し制限なし」と「追越し制限あり」の2ケースを直接比較の対象とし、追越し制限による効果について見ると、両者の相違は微少であり、顕著な改善効果は期待されず、むしろ平均的な推定困難度は微増傾向にある。(図IV-5-10および図IV-5-11において、「来島中水道現状」および「中水道追越制限」を比較・参照)
今回の交通流シミュレーションにおける各船舶のバンパー(安全離隔距離)の大きさには、潮流等の影響が比較的少ない一般海域での観測値を用いており、また、各船舶の操縦性能を明示的には模擬していないことから、中水道の狭隘部であっても安全に追い越せる状況も生起し得るが、これを制限したことによる滞留の発生が上記の結果をもたらしている可能性があって、モデル化の適否も含め、更なる検討が必要であろう。
図IV-5-12から図IV-5-15には、潮流がなく、現状の航法に従って中水道を航行するケースを比較の基準とし、それぞれ、追越し制限を付加した場合、追越し制限に加え最強流速の25%値の逆潮を仮定した場合、同じく50%の逆潮および75%の逆潮を仮定した場合の推定困難度増減比率を、100m×100mメッシュの小海域毎に比較.出力した図を掲載した。
追越し制限を付加した逆潮25%流速のケースまでは、各小海域における推定困難度の増減は相半ばしていると共に、その比率は1割以内の小変動であるが、逆潮50%流速を超える場合には、推定困難度が増加する海域は大勢を占めると共に、その増加比率が2割を超える海域も観測されるようになる。
図IV-5-16から図IV-5-20には、評価対象海域(中水道狭隘部)を航行中(1トリップ中)に推定困難度の最大値が5以上(操船者が困難感を覚え始める値)となった地点の分布を、交通流シミュレーションの各ケース毎に、作図・出力したものを掲載した。各図中、○印の大小は当該船舶の大小に比例させているが、これらの出力図からも、逆潮流速が最強時の50%(4〜5ノット)を超える当たりから、困難な船舶遭遇事例の発生頻度が増加するものと考えられる。