実態調査や交通流シミュレーションの結果を用いて、船舶の周囲の交通環境を評価する場合、たとえば船舶の大きさ、速力、可航水域の余裕、他船との航過距離や見合い関係等、考慮すべき項目は極めて多岐にわたり、総合的な評価を困難なものとしている。
評価の舞台を交通流の場のみに限定した場合、最も望ましい状況は自船のみが航行し、他船からの干渉を一切受けない場合である。一方、他の航行船舶の存在による衝突の危険性とこれを避けるための避航操船負担が増加するにしたがって、交通環境は悪化すると考えられる。
このような観点に立って交通環境を評価する場合、接近距離や避航のための操作量のような外面的に現れる物理量のみではなく、操船者の内面に展開される心理的な負担をも評価尺度に加えなければならない。その代表的な例を図?-6-17に比較・提示している。
(a)図は同航船に囲まれた状況を例示しているが、衝突の危険は未だ顕在化していないため何等の外面的行動は観測されないが自由度は阻害され、ある程度の心理的な負担を操船者に与えているものと推察される。
また(b)図は反航の出会いを例示しており、衝突危険の存在は明白であって運航操船に伴う物理量から操船者の負担を類推できるが、このような場合であっても危険回避のための操作量と残存する危険はトレードオフの関係にあり、物理量が総てを代表する訳ではなく、経済性と安全性の競合問題に帰着すると考えてもよい。
以上の如く、交通環境を評価する場合には、潜在あるいは残存する危険性と顕在化した物理的負担の双方を同時に考慮しなければならないが、操船者に委ねられているのは針路と速力の選択のみであること、そして情報と経験に基づき、危険性や安全性あるいは経済性を総じて直感的に計り、現状の針路、速力の維持も含め最も適切と思われる操船方法を選択しているものと考えられることから、評価のための空間を操船方法決定の場に写し換えることが適当である。