平成9年度
国際理解のためのアジア文化講座「東南アジア」
(7)「女たちの構築する世界-インドネシア」
日時:12月8日(月) 13:30〜15:30
場所:きゅりあん(品川区民総合会館) 6階大会議室
鍵谷 明子 東京造形大学教授
1997年12月8日
〈女たちの構築する世界-インドネシア〉
東京造形大学 鍵谷明子
インドネシアは、女性の社会的地位が相対的に高く、女性がパワー(権力)をもち生き生きと生活している地域の一つであることが知られている。しかし、多民族多言語国家であり、イスラム教を基盤としながらも呪術宗教的要素を多く含む伝統的な慣習法が強い影響力をもつインドネシアで、女たちの作りあげてきた世界も多様である。ここでは以下の三地域-ジャワ、スンバ、サプ・ライジュア島の各社会をとりあげ、力に満ちた女の世界の質的違いと、特に“権力と権威”のあり方を通してみてゆく。
*権力・・・人及び物事に効果的に作用し、個人もしくはその役割に割り当てらている、権利ではない好ましい決定をしたり決定を固める能力
*権威・・・固有の決定をし、服従を強いる権利
1 ジャワ インドネシア文化の中心地。イスラム教を基礎にしながらもヒンドゥー・仏教の影響を強く受けた“神秘主義”が支配的な役割を果たし、ヒンドゥー以前のアニミズムの要素もふくむ信仰の多層性が特徴。
双系制、婚後の独立居住、核家族を最も重要な親族単位とする親族システムをもち、“母親中心主義”が顕著。
2 スンバ(西部県) 東インドネシアの中位の島。キリスト教化が進んでいるが、アニミスティックな土着宗教の信奉者が圧倒的に多い。西部のコデイ郡には双系出自がみられ、ワラと呼ばれる母系の集団が独特な女の世界をつくっている。
3 サブ・ライジュア 東インドネシアの小島。スンバ島同様キリスト教化が進んでいるが、ライジュア島は未だに4割弱の島民が土着宗教(魔女信仰)の信奉者としてとどまっている稀有の地域。女たちが権力のみでなく、権威をも手にいれている世界でも類例のない社会。親族システムは二重単系制で、母系集団が卓越した重要性をもつ。女の“ポトラッチ”が顕著。
*ポトラッチ・・・個人や集団が特権と名誉を求めて、莫大な富や財の消費(浪費)にとどまらず破壊にまで至る競争的贈与
ここでは特に、これまで報告されてこなかった女の権力と権威が最高度に達していると思われるライジュア島の事例を、文化人類学的調査で得られた資料から重点的にみてゆく。