結核予防会イベント・報告
アジア太平洋結核対策ワークショップ報告
10月20日〜11月7日/北京市(中国)
結核研究所国際協力部
企画調査課 大角 晃弘
1997年10月20日から11月7日まで、中国北京市で結核予防会とWHO西太平洋地区の共催により、日本財団の協力を得て、「アジア太平洋結核対策ワークショップ」が開催されました。結核対策管理研修コースとして、本ワークショップには、WHO西太平洋地区内の14カ国から25名の医師が参加し、他に中国人医師数名が加わって実施されました。筆者はその中の1名として参加しましたので、内容を簡単に紹介いたします。
第1週目は、結核予防会島尾会長による結核の疫学、対策、診断及び開業医の結核対策における役割等の講義や、エナーソン博士(国際結核肺疾患連合)による結核の病理、疫学、結核対策の原則、結核とHIV感染症等の、基本的事項の講義がなされました。結核菌の細菌学については金博士(大韓民国結核研究所)による、講義と抗酸菌塗抹染色の実験とがありました。中国保健省の結核対策について、ドゥアム・ホンジン国家結核対策センター長から紹介があり、また、北京市におけるDOTSの導入の経緯について、リ・チンツアン中国結核予防会理事長から説明されました。その他に、結核対策における費用効果分析、薬剤供給体制、宣伝、NGOの役割、これまでにDOTSが導入されたいくつかの国々における経緯の紹介等がなされました。
第2週目には、WHOが作成した国家レベル結核対策モジュール(国レベルでDOTSを含む結核対策を導入するための諸原則を、説明文と練習問題を通して学ぶもの)、郡レベル結核対策モジュール(郡レベルにおける結核対策の実際面により即した内容のもの。結核の治療、診断、登録、報告、細菌検査、薬剤供給体制及び末端部への指導監督等についての説明及び練習問題を含む)が、5つのグループに分かれて実施されました。
第2週目週末からは、北京市郊外の河北省石家庄地区(市)(人口約860万人)を訪問し、中国における結核対策活動の現場を見学しました。訪問第1日目に石家庄市結核対策局から、同市における結核対策の経緯と、最近の結核患者の登録状況及び登録患者の治療成績についての説明があり、96年の塗抹陽性罹患率は31.6、同年に新登録された患者の治癒率は98%とのことでした。第2日目からは4つのグループに分かれて、石家庄市近郊の郡レベルと、それより末端部の活動状況を見学しました。筆者の所属したグループは、鹿泉郡及び申后地区の各結核担当部局、申后村のクリニックや治療中の結核患者宅を訪問して、村医や治療中の患者から話を聞きました。中国におけるDOTSの中心的役割を果たしている、いわゆる「はだしの医者(村医)」は、村レベルのクリニックで働いており、ここで出会った医師は普段農作業も行っているとのことでした(もちろんはだしではなく、靴をはいています)。村医は、その地域で人望のある人が推薦されて2年間の訓練を受け、後に医師として働くようになり、咳、下痢、発熱、腹痛、軽い外傷等の症状を訴える患者に適当な薬を処方しています。村医は、1日おきに村のクリニックを訪れて来る結核患者に抗結核薬を投与して、患者が薬を服用するのを確認しています。
DOTS導入地域で結核患者の治癒率90%以上を維持している中国において、結核対策の基礎を学び、いかにDOTSを導入すべきかを実際行われている結核対策を通して考えることができたことは、筆者にとって大変有意義なものでした。今後もこのような研修が継続して持たれることを期待しています。