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上り降りする際にどのように障害物や階段を認知しながら歩行を行っているかという研究報告は極めて少ない1)。前回の報告では、学生を用いて、障害物をまたぎ越えるという課題における歩行運動中の眼球運動の解析を行った5)。この研究で、アイカメラを用いて実際の歩行運動をある程度解析が可能であることを知り得たので、この度の報告では、高齢者の歩行運動中の解析に応用することにした。

実験条件としては、これまでの研究と同様に階段を降りる条件とした4)。階段を降りる際に高齢者が、危険を感じたり、転倒の可能性が大きいと思われたからである。

 

研究方法

1. 被検者

本実験に協力していただいたのは、東広島市在住の高齢者5名(69.0-71.0歳、平均年齢68.6±1.7歳、男性3名、女性2名)および、学生5名(22.0-24.0歳、平均年齢22.4±0.9歳、男性2名、女性3名)であった。身長は、高齢者群:平均155.4cm±8.6cm、学生群:平均166.8±7.2cmであった。

 

2. 使用機材および使用ソフト

本実験で使用したアイカメラは、前回の報告5)とおなじアイマークレコーダーEMR-7(ナック社)である。詳細については、前回の報告5)と同様であるので省略する。

 

3. 実験場所

本実験を行った場所は、JR西条駅(山陽本線)構内の上りホームヘとつながる陸橋の東側の階段を利用した。それぞれの階段一段の高さは16.5cm、踏み面幅35.0cmであった。階段は全部で27段からなっており、階段の最上段から最下段までの距離は、9.89mであった。

 

4. 測定手順

被検者には、あらかじめ実験の目的および内容を説明し実験に協力することの同意とともに実験内容に関する理解を得た。現地で、被検者にアイカメラを装着してもらい、視覚位置の校正を行った後、階段を降りる歩行を行ってもらった。階段を降りる際には、被検者には「自分の好きなぺ一スで歩いて下さい。」とだけ指示した。被検者は、3回の試行を行った。歩行動作の様子を観察するために、被検者の後方からビデオカメラでモニターした。なお、実験時には、一般の乗降客が全くいない時間帯を選んで行った。

 

5. 解析方法

階段を降りる平均速度を測るため、ストップウオッチにより階段の降り始めから最後の一歩の着地が終了するまでの時間を計測した。アイカメラによる測定区間は階段の降り始めから5段目の位置までとした。アイカメラによる測定時間は6秒間とした。

アイマークデータの入った映像は、いったんハンディタイプのビデオカメラに録画しておき、この録画したビデオテープをデータプロセスユニットを介して、RS232Cケーブルでコンピュータ(NEC 9821 Xa 10)に取り込み解析した。

 

6. 解析項目

歩行速度の外に、取り込まれたデータをアイマーク解析ソフトEMR7(ナック社)を用いて以下の9項目について比較検討することにした。アイマーク軌跡、アイマーク時系列、停留時点系列、停留点密度分布、累積停留時問分布、累積停留時間の頻度、注視点の移動方向の分布、注視点の移動速度の頻度。

また、眼球運動は片方の眼球の運動を記録するものである。眼球運動に関しては、眼球最大移動面積(眼球がX軸方向すなわち、左右方向に最大の範囲に移動したときの値と、Y軸方向すなわち、上下方向に最大の範囲で移動したときのそれぞれの最大値から、移動面積の最大値をもとめる)、垂直方向眼球移動距離(眼球がY軸方向すなわち、上下方向に移動したときの眼球の移動範囲をもとめ、移動量の最大変動幅から垂直方向の移動距離を求める)、水平方向眼球移動距離(眼球がX軸方向すなわち左右方向へ移動したときの眼球の移動範囲をもとめ、移動量の最大変動幅から水平方向の移動距離をもとめる)、累積停留時問分布(停留時間を0.250秒ごとに区分し、停留時間帯においてどの程度の割合で停留したかを累積し

 

 

 

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