日本財団 図書館


スターダンサーズ・バレエ団の30年
―シリーズ(7)―

元芸術監督遠藤善久氏を偲んで

「今朝父が亡くなりました。」と子息の康行君から知らせを受けたは新しい年を迎えた元旦の午後のことでした。2年半前に胃を殆ど大手術をうけた時からこの日が来ることを覚悟はしていたもののいまだに信じられない思いでおります。後はこの2年間入退院をくり返しながら病魔と強かってきましたが、ぐちひとつこぼさず私達とも何事もないようにつきあい、 1昨年までは、コッペリアやドラゴン・クエストに出演して舞台をもりたててくれました。最後の晩になった大晦日には、家族と楽しく語らい、奥様へ感謝の気持を伝る言葉とプレゼントを息子夫婦に託したと、ご遺体の前で奥様にうかがいました。まるで今にも語りかけそうな美しい表情を私達に残して……。
1965年にチューダー・バレエ公演に出演していただいたのが彼と初の出会いでした。彼は素晴らしいダンサーでした。振付家の言葉と精神を踊りで表現の出来るダンサーであったと思います。この公演を機にバレエ団の設立に参加し、翌年の創作公演で振付家としデビューし、「高熱」を発表、今日まで30を越える作品を残しております。「カインの幻影」、「直立殺人」、「男と欲望」、「からす」、「地平線のドーリア」、「ロミオとジュリエット」、「よう精のくちづけ」、「火の鳥」、「輝夜姫」など。
19704から71年にかけてロックフェラー財団の招きで渡米、ニューヨークでの研鑽を経て帰国後スターダンサーズ・バレエスタジオ監督に就任、75年から87年まで12年にわたって芸術監督として活躍し多くの業績を残しました。
子息遠藤康行の振付家としてのデビューを前に、彼は62年の人生の幕をおろしましたが、きっと思い残すことなく安らかな眠りについたのではないかと思っております。
彼が残してくれた「スターダンサーズ・パレエ団と私」を再掲載して彼の追悼といたします。

1998年1月31日
太刀川瑠璃子

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION