○モデレーター ありがとうございました。
もう1つ、田中さんの配られたペーパーの中に、アジア太平洋の同盟ネットワークということの関連で、アジアも徐々にNATO的な多角的同盟の自主的な機運が進みつつあるというくだりがあるわけですし、それとの関係で、例えば、アメリカ、欧州、日本の三国同盟案ということについての言及があるのですけれども、アジアにおいてNATO的な多角的同盟の方向へ進むとこれから考えていいのか。それとも従来的な二国間同盟関係を幾つか束ねた形での同盟関係というものが引き続いて基調になっていくのか。それから、今の多角的な同盟というように動いていくとする場合に、岡崎さんが提起された集団的安全保障との問題を一体どのように考えるのか。そういう点を少し議論していただけたらと思います。
○佐藤 私は、NATOのような多角的な同盟関係は、アジア太平洋地域にはできないし、むしろつくるべきではないと思っているのです。まず、できないというのは、明白な共通の敵がないと、ヨーロッパで今からつくるといってもNATOはできないと思うのです。あれは、ソ連の脅威というのが非常に明白で、かつ差し迫っていたからできたのであって、今からつくることはできない。つくると、今度は当然多角的な同盟ですから、ではだれが共通の敵だということになる。ソ連のように明らかにだれがみても文句なく敵だというのはいいのですけれども、中国を共通の敵とした多角的同盟をこれからつくったら、中国は非常にネガティブにレスポンスするでしょうから、むしろよくないという意味で、私はつくれないし、つくるべきではないと思います。
2番目は、例えば、日本とアメリカとオーストラリアとニュージーランドのJANZUS同盟というアイデアがオーストラリアから出ていますけれども、それをやらなくても、例えばパシフィックリムの海軍の共同演習とか、そういう形でジョイントオペレーション、ジョイントエクササイズを実際にやることの方が紙に書いたきちんとした同盟条約をつくるよりは、はるかに賢くて緊張を激化させないで済むのではないかと思います。
○モデレーター 岡崎さん、何か意見ありますか。
○岡崎 今のご意見ですけれども、紙に書いた同盟をつくるよりも実質的な方がいいということは、一般論からいえば、やはり同盟があった方がいいということなのです。
一番の問題は韓国なのです。アメリカで、冷戦時代がずっと続いて、何とかして日韓間の同盟をつくりたい、要するに、北東アジア同盟をつくりたいという議論は何度も何度もあったのです。それが今までできないでいたその主な理由は、韓国の反日感情というのを一番大きな理由にしておりました。ところが最近、私は韓国の人と会って話をしていますと、どうもちょっと違うような感じがしてまいりました。
それはどういうことかと申しますと、例のコーエン国防長官の言った、統一後も極東に米軍を置ぐべきだという議論から発展して、統一後は駐韓米軍を維持すべきかどうかという論争が韓国であるようです。その結論が、これは不思議なことですけれども、私の会った戦略関係のインテレクチュアルは、100%がアメリカ軍はいるべきだという議論です。ところが韓国の世論調査をみますと、大体5割以上がアメリカはいない方がいいということになっている。それはどういうことかということなのでございますけれども、どうも世論というものが韓国ではアメリカや日本とは違うようです。韓国というのは、やはりまだ階級社会なのです。知識階級というのは無知な大衆の意見を余り尊重しておりませんし、上流と下流との区別もありますし、ディフェンスインテレクチュアルはどうもアメリカとの同盟があった方がいいと考えているようです。それはそうだと思います。