ただ、私は、安全保障問題について先進国にあるもう1つの非常に大きな危険は、エモーショナリズムといいますか、きれいごとといいますか、そのような問題です。非常に挑発的なことを申し上げますが、ごく最近のことをいうと、対人地雷の禁止です。
私も、地雷は日本の防衛などに関していえばアウト・オブ・デートな兵器だと思います――韓国の防衛にとっては絶対必要だと思いますけれども。日本の自衛隊は地雷をもっていますが、その地雷で死んだ人はいないのです。市民は死なないのです。きちんと管理していますから絶対大丈夫なのです。あれは破壊するのに10億円かかる。しかも、地雷のかわりにほかの兵器を開発する必要があるというともっとお金がかかるわけです。
ヨーロッパで第2次世界大戦のときに対人地雷を、今の世界中にばらまかれている約1億個といわれているものの数倍はばらまいたというのです。けれども、第2次世界大戦が終わってからほとんど市民は死んでいないです。今、市民が死んでいる、シビリアンで対人地雷にひっかかって、片足を吹っ飛ばしたり何かして悲惨なことがあるのは、あれはまともな国家ではないからなのです。地雷を後できちんと排除しないからです。そうすると、対人地雷について一番必要なことは、まずお金とボランティアで人を出して、現在、無責任に放置されている地雷を掘り起こして無害化することなのです。それをやるべきなのに、世界の関心は――これはカナダとダイアナがよくないと思うのですが、プリンセスダイアナがあんなことをやったものですから、ソロス財団が300万ドルもお金を寄附して、本来なら地雷の撤去のためにいくべきお金と人が地雷の廃止という方向にいってしまったのです。地雷の廃止条約に賛成するのはまともな国だけです。まともな国の地雷は安全なのです。危ない国はそういうものに参加しない。
つまり、ああいう条約というのは、日本政府も既に賛成しているわけですが、私はその点では日本政府に極めて批判的なのですけれども、ああいう条約というのは、エモーショナリズムときれいごとの世界で安全保障を考えて、一番やらなければならないことをやらないで、やらなくても大丈夫なことをやっている。これは、先進民主主義国の世論に動かされた安全保障政策の危なさをよく示していると思います。これについてはご意見が山のようにあるのではないかと思うのですが、あえて挑発的に申し上げます。
○モデレーター 岡崎さんは、さっき地政学的な理由があるのかなと言われました。しかし、佐藤さんはどちらかというと、先進ということをはっきりさせた上で民主主義諸国の間での戦争というのはないとみてまず大丈夫だろうと言われましたが、田中さん、何かその点について。
○田中 その点については、理論というのは国際政治にしろ、社会科学にしろみんないい加減なものですから、余りまともに信じないというのが第一の前提だろうと思うのです。民主主義国同士の平和というのもありますけれども、最近私が目にしたのは、マクドナルドのある国同士は戦争しないという理論なのです。これは例外ないのです。今のところ起こっていません。イギリスとアルゼンチンが戦争したときには、アルゼンチンにはマクドナルドがなかったのです。今はアルゼンチンにマクドナルドがありますから、もうフォークランドで戦争は起きない。それから、インドとパキスタンは危ないのです。インドに今度マクドナルドができましたけれども、パキスタンにはないのです。ですから、インドとパキスタンは戦争になる可能性がある。