日本財団 図書館


た結果であります。この種の努力を通じて、新しい事実の発見をもたらすことがあるいは出来るかもしれません。

図2(306頁)は、中国のGDPの最近の推計を概観したもので、中華人民共和国統計局との緊密な協力によって得られたデータによっています。この内容は、GDPとその構成内容でありまして、1952年から1995年までをカバーしております。我々が行いましたのは、中国統計局が集計し発行した往年の、マルクス主義の方法論と概念に基づいた古い統計シリーズを改訂・再編成する作業であります。この新しい推計値は、SNAの理論枠組に準拠するよう最善の努力がされております。この図では、2つの推計値の比較が示されております。ひとつは、いま述べましたGDP(実質ベース)の年間成長率の比較であります。もうひとつは、以前にアンガス・マディソン(Angus Maddison)教授が作成された推計値であります。

中国本土に関するGDPの新しい推計値に基づいて、私は二つの比率を計算いたしました。ひとつは、平均消費性向で、これは図3(307頁)の上部に示されております。そしてもうひとつ、GDPに占める資本形成の比率が下に示されております。

今度は図4(308頁)をご覧いただきますと、中国に関する二つの比率(図3)と同様のものが、日本に関するデータに基づいて描かれております。この消費データは、篠原三代平教授の推計に基いたものであります。興味深いことですが、この二つのグラフ、図3と図4を重ね合わせて比べて見ますと、二つの比率が両国の間で非常に類似しております。対象期間は全く異なっているにもかかわらず、です。もっとも、比率の水準は異っておりますけれども、動きが非常に似通っているのはおもしろい点だと思います。

図5(309頁)は、暫定的な推計値ではありますが、戦後のタイの失業率の時系列データを示しております。統計の作成には種々の困難があったと聞いておりますが、このグラフをみますと、非常に大きな失業率の変動があったことがわかります。タイの労働市場で1980年代には何が起きていたのか、また、90年代には何が起きていたのか、もっと立ち入って考えてみたくなります。

今度は図6(310頁)でありますが、これは欧州諸国に関する統計であります。この図をみて分かりますように、欧州諸国の場合でさえも、工業化初期の時期においては、実質賃金は急速には増えておりません。もちろんグラフは徐々に上がっていますが。これと関連して、私が論じたかったのは、第二次大戦後のフィリピンの経験であります。今回はデータを用意することができませんでしたけれども、フィリピンの実質賃金は、ラモス政権が成立するまで、継続して下がってきていました。1人当たり実質国民所得が、マルコス政権下も含めて、確実に上昇してきていたにもかかわらず、実質賃金は下がり続けてきたのであります。つまり、フィリピンにおいては、1970年代と80年代にわたって、実質賃金の下降と1人当たり実質所得の上昇とが併存していたという不思議な事実があるわけであります。このパズルの解答を私はまだ得ておりません。

しかし、図6に示されたヨーロッパの経験に照らせば、一定の条件のもとでは、工業化の中でさ

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION