1952年生まれ。苦学しながら学生時代から文筆活動をはじめ、大学在学中の77年から小説家として活動。脚本家としては『香火』(79、徐進良監督)でデビュー。80年中央電影公司に入社。81年、『同班同学』で第18回金馬奬最優秀脚本賞を受賞。台湾ニューウェーヴを代表する脚本家として活躍。侯孝賢監督とは、『坊やの人形』(83)以来、コンビを組んでおり、なかでも『恋恋風塵』(86)は彼の自伝的色彩が強いといわれる。『海辺の一日』(83)、『坊やの人形』(83)、『客途愁恨』(89)などをはじめ、65作品以上にも及ぶ多数の脚本を手がける。94年『多桑-父さん』で監督デビューを果たし、さらに97年には第2作『太平・天国』を発表。映画、CM、ラジオなどへの出演多数。
解説
“多桑”とは、日本語の父さんに漢字を当てた台湾語である。日本統治時代に日本人として育った世代は、戦後の国民党支配の時代に大きな疎外感を感じてきたという。戦後も日本文化に憧れ続ける彼らは、反日教育を受けた新世代からは時代遅れとみなされたのである。侯孝賢作品を始め、多くの台湾ニューウェーヴ作品に脚本を提供してきた呉念真眞が監督デビュー作として発表したこの作品は、そうした世代の一人であった実父の物語であり、“かつて日本人だった父”へ捧げる鎮魂歌でもある。多桑という台湾語はそれを象徴するかのようである。この映画は台湾では父の日に封切られ、多桑と同世代の観客が詰かけたという。この作品の中で多桑が観に行く映画は岸恵子主演の『君の名は』である。ここでは台湾語の活弁がついているが、その声は呉監督の盟友で『多桑』の製作を担当した侯孝賢である。また全編にわたるナレーションは呉監督自身による。