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ご紹介を賜りました草柳でございます。

ご承知のように、今日は情報化時代を迎えています。また、これからの21世紀は情報化時代が切り開いた地球時代、あるいは地球社会時代、――つまり国境やイデオロギーなどを越えて、人々がそれぞれ知恵を持ち合って国や生活を運営していく――という非常に特徴的な時代に突入いたしました。

そういった中、私たちの最も新しい認識の中に、デ・ファクト・スタンダード(世界標準)というものがあります。何事でも、世界標準というすばらしく知恵や論理などが整理された一つの物差しができると、その物差しに沿って皆がそれぞれの価値を生んでいくことができるのです。日本の場合、現在のところこの世界標準を22くらい持っているようです。

例えばマイクロモーターです。皆さんがお宅に帰りますと、大体1所帯あたり41〜42個のマイクロモーターのお世話になっているはずです。また、日本の国産車の場合、およそ62個のマイクロモーターが入っています。そして全世界のマイクロモーターの需要に対して、日本は現在のところ78%あるいは80%も供給しているマイクロモーター大国です。いまや日本のマイクロモーターなしには世界の文明社会、文明軸は語れないのです。

消防の場合も日本はどうも世界標準のようなのです。ですから、日本の世界標準は消防を加えて23個になると考えてもいいと思うのです。

元消防庁次長の山越芳男さんという方が『わかりやすい消防行政』という著書において「国際的にみても、わが国の消防は世界に冠たる水準を行くものと言えます。」続けて「特に近年は、諸外国からのわが国消防に対する評価は極めて高くなっており、開発途上国からは消防協力の要請が相次いでいる状況にあります。ブラジルに対する消防救助技術の実地指導、インドネシアに対する消防体制確立に関する助言、シンガポールに対する予防行政に関する協力、中国に対する消防用機械器具の検定技術の指導など、着々と成果を上げています。特にエルサルバドル地震災害に対してわが国際消防救助隊の活躍振りは、まさに特筆すべきものがありました。今後もますますわが国消防に対する諸外国からの協力要請が多くなることでしょう。」とお書きになっています。これはすばらしいことです。消防のハードあるいはノウハウを、とうとう日本は輸出する国になったのです。輸出というのは必ず相手国に対しては赤字を生みます。日本は黒字で相手方は赤字になるわけですが、しかしこの消防技術の輸出においては互いに黒字になるのです。相手の国の生命財産に対して黒字を輸出しているということになりますので、日本にとって一つの大きなプレゼンス――国際的な存在――というものがまた加わったような感じがしました。

私はいま熱海に住んでいますので、震度3や4という地震が頻繁にあります。大阪にいる方はあまりおわかりではないかもしれませんが、「一揺れ1億」といいまして、震度3ぐらいの地震が来ますと、ホテル・旅館のキャンセルがおよそ1億円分になるのです。揺れが3日間続くと3億円分の減収です。いま、熱海から伊豆半島にかけては、地震というものが景況の非常に大きな関数になっているわけです。その点で、震災というものに対して私どもは、ほかの地域に住んでいる方とは違って生活経験として非常な不安感を持っているのです。

日本は、世界に冠たるハードとソフトが確かにあり、世界の国々に輸出するくらいの力もある。ところが実際に震災や火災が起きた場合の対策は、シミュレーションを重ねていくより方法がありません。わけても、私はまず個人のシミュレーションが非常に大切だろうと考えます。

私自身、軍隊経験があります。習志野の飛行学校におりましたときには、グラマン戦闘機が頻繁に習志野の航空基地を叩きにまいりました。先輩の将校たちは空中退避といって飛行機に乗って空に逃げてしまうのですが、私たち見習い士官以下は高射機関銃にしがみついて飛行機に向かって射撃をするのです。私は戦友と一緒に一つの高射機関銃の銃座を担当させられまして、その時は戦友が射手で私は弾業手でした。

そうしたらグラマンがやってきました。応戦するために壕の中に飛び込んで、ガチンガチンと弾薬を機関銃に入れたのですが、全然弾が出ません。戦友は一生懸命に引き金を引いているのですが、弾が出ない。ひょっと見ると安全弁がかかっています。

 

 

 

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