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樹木の防火効果

明治大学農学部

教授 岩 河 信 文

 

1 は じ め に ―昔の知恵から一

 

古事記及び日本書記の中にあらわれる樹木の種類は53種27科40属と言われる。

古事記「神代記」では、伊諾那岐草が、先立たれた最愛の妃伊諸那美尊に一日会いたいと黄泉の国に訪ねていかれたが、その恐ろしさにたまらず逃げ帰るとき、鬼の追跡から逃れるのにエビヅル、タケ、モモの3種の樹木の助けをかりている。人(神)を庇護した樹木の話としては、これが‘はしり’であろうか。

ブナなどの落葉樹の幼樹を風雨や寒気から保護するために常緑樹のモミやマツが植えられることがある。これらは保護樹すなわちNureseTree或はMotherTreeと云われる。風に弱いカカオの幼樹の保護樹は、Madre de Cacaoと呼ばれている。このように樹木には、従来「保護する」という機能が備わっているのである。

本稿の主題である「防火」についても、この樹木の「保護する」機能を基に、各地で様々な利用が見られる。その一つ「火に耐える機能」は、古くから認識されていた。飛騨高山の名物‘ほう葉みそ’は、ホウノキの葉の上にみそを乗せ、コンロで焼くが、葉が炎上した話は聞かない。島根地方の‘焼き豆腐’は、豆腐をアオキの葉に包んで焼くが葉が燃えることはない。7回かまどにくべないと燃えないところからナナカマドという名のついた木もあるように、樹木は比較的火には強いものと言えよう。一方、「火を遮る機能」についても、古くは保元の乱(1156)で有名な左大臣藤原頼長の文庫周辺の芝垣(シラカシの垣根)が書物を火災から守るものであったと云われるように、その利用の歴史は古い。火を遮る火伏木(火防本)として、筑波山の北ではモチノキが用いられ、南では主としてシラカシ、更に南の水海道ではサンゴジュが使われている。静岡市や浜松市ではイヌマキ、伊豆ではサンゴジュが防風を兼ねた火伏木である。この他、島根の築地校や砺波平野のスギを主体とした屋敷林など、人を庇護するために設けられた樹木として名高いものがある。            

 

 

 

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