「うみのバイブル」シリーズの配布について
1996年(平成8年)7月20日、日本は国会で「国連海洋法条約」を批准し、「海の日」が定められました。今年も、間もなく「海の日」が訪れようとしています。日本は、言うまでもなく四方を海に囲まれた国です。食糧や石油の輸入、製品の輸出もその多くを海上輸送に依存しています。しかし、国民の多くは必ずしも海の事情に高い関心を示しているとは思えません。
「国連海洋法条約」は第2次大戦後、3次にわたる国連海洋法会議を経て、1982年にようやく国連条約として採択されたものですが、世界最大の海軍国である米国はこれを批准しておりません。国連での同条約の審議過程で露呈した通り、南北の対立は厳しく、また海洋国と大陸国の主張にも超えがたい隔たりが見られました。これに加えて、「国連海洋法条約」には条文の内容が曖昧な部分もあり、今後解釈の違いによる混乱が生まれることも予想されます。
また、冷戦の集結とともに、世界的な海軍力の削減が始まりましたが、一方では、海軍力を増強している中国の意図や今後の動向が注目されます。アジア金融危機で、アジアの国は中国も含めて、一時的に勢いを削がれましたが、わたしたちは中国問題を考える時には、常に20年、30年のスパンで考えるべきであると思います。
さらに、尖閣、韓国との漁業交渉など、わが国の海を巡る問題は多様化しています。
これらの問題を国民がみずから考えようとするとき、与えられた情報はあまりにも皮相的であり、片寄っていると思うのです。とくに、海軍力を基盤とするシーパワーの概念、海洋地政学の知見、中国海軍、南シナ海の基本情報が不足しているように思えました。
国際経済政策調査会は、岡崎研究所を協力団体とし、日本財団の事業助成を得て、1997年4月に有識者50名を委員とする「公海の自由航行プロジェクト」を発足させました。この研究会は、ロシア、英国、ベトナム、カンボジアなどの有識者を日本に招くなど、7回の研究委員会を東京で開催し、1998年1月27日には岡崎研究所にてマスコミ等を対象とする公開セミナーを開催しました。その後、2月末にはハワイにて米国シンクタンクとの意見交換を行っております。
過去1年間は研究体制の整備と、基礎的な文献の収集、意見交換、討論に当てましたが、その成果を冊子にまとめたのが、いまご覧になっている「うみのバイブル」第1巻〜第3巻です。7本の書きおろし論文と、17本の海外論文の翻訳が3巻にまとめられています。以下、各巻の内容をご紹介いたします。
第1巻
第1巻には「国連海洋法条約」、海上の事故、海賊に関する基礎的な論文をあつめました。
第1論文「海洋法の安全保障への影響:軍艦はいかなる権限と義務を持つか」は、手塚正水元海上幕僚副長の書きおろし論文です。「国連海洋法条約」の入門的な解説に加え、条約の問題点や日本の安全保障にあたえる影響について包括的な議論が行われました。第2論文「海洋における権利と義務」は、海洋においても、権利だけでなく、義務が問われる時代が到来したことを明らかにした、ポール・マックグラスの論文です。第3論文は、米国SAICの研究者スタンレー・ウィークス氏の「海洋における法と秩序」で、太平洋での海賊行為、麻薬問題、不法入国への共同対処に関する論文です。第4論文は同じウィークス氏の「海上における事故防止協定と信頼醸成措置」で、公海上の事故防止協定(INCSEA)を超えた活動を提案しています。第5論文は、アジアにおける海洋研究のメッカである豪ウーランゴン大学海洋研究所サム・ベー