第一の選択は、交渉を通じた境界画定につき日中間で合意することである。東海大陸棚に関し、中国の自然延長論と日本の中間線原則について妥協点を得るため、例えば中国大陸東部沿岸と沖縄との海岸線の比率に基づき、64対36の割合で中間線より日本側に線を引くのも一案であろう。
第二の選択は、本件をICJ乃至第三者の調停に委ねることである。日本も中国も司法手続きに訴えることに慣れていないが、調停により解決された前例も多くあり、場合によっては解決が迅速になることもある。例えば、ビーグル海峡を巡るアルゼンチンとチリの紛争は過去150年にわたり続いてきたが、第三者の調停により1984年に決着した。
第三の選択は、現時点でも最も実行可能性が高いと思われる共同開発である。尖閣周辺は、石油や天然ガスの見込みこそ少ないが漁業その他の資源に恵まれており、資源開発が管轄権を巡る紛争のために遅れるのは望ましいことではない。具体的には、まず両国の主張が重なる水域を明らかにした後、北緯30度線で東シナ海を南北に分割する。その北部分については、1974年以来日韓間で共同開発を行ってきた経緯もあり、日韓中三国間で同様に共同開発を行うことも難しいことではないかもしれない。他方南部分は、沖縄トラフの扱い、尖閣諸島が大陸棚を持ち得るか及び尖閣諸島の帰属問題といった困難な要素があり、主張の重なる水域の画定も難しい。水域画定のためには、まず中国の自然延長論と日本の中間線原則を調整し、次に尖閣諸島の帰属及び地位の確定を図る必要がある。しかしその前に重複する水域さえ画定できれば、日中両国は共同開発のための交渉を進めることができよう。その際に、海洋生物資源の保存や漁業の共同管理について話し合うことも可能である。台湾の扱いは、中台間で別途取決めを結べばよい。
資源開発等の経済的必要性及び協力は、主権を巡る紛争に優先すべきである。国連海洋法条約発効を契機に、問題のある水域と接する沿岸国は、海域の境界について関係国と検討する努力を行う必要がある。尖閣諸島を巡る紛争の当事国である日中両国も、協力と協調の精神に基づいて共同開発を行うことが期待されている。
(了)