日本財団 図書館


国連海洋法条約の日本の安全保障の影響

軍艦はいかなる権限と義務を持つか

 

手塚正水(元海上幕僚副長)

 

はじめに

 

国連海洋法条約は正式には「海洋法に関する国際連合条約」と言い、その署名会議が1982年12月(昭和57年)にジャマイカのモンテゴ・ベイで開催されたことに因んで、「モンテゴ・ベイ条約」とも呼ばれている。長い年月をかけて審議してきたこの国連海洋法条約が発効し、発展途上国は勿論、先進諸国を含む多くの国々がこの条約の批准手続きを進めている。このことは、世界の海の平和と安定にとって極めて重要な意義を有している。わが国も、平成8年の7月20日(海の日)に「国連海洋法条約」を国会で承認し、所要の批准手続きが完了している。

地球上の陸上部分の天然資源は、開発が進み、限界に近づいており、そのシェアも国境線により略確定している。各国が海洋資源の開発、利用に期待をかけて、海洋への権益拡大の主張を強めたのはこのためである。特に大陸国や発展途上国にその傾向がみられた。国連海洋法条約は、こうした海洋の自由使用と沿岸国の海洋権益とを調整し、海洋に関する思想を統一し、包括的な海洋秩序を打ち立てようとしたものである。

しかしながら、条約審議の過程で露呈したように、南北の対立、海洋国と大陸国との主張の違いには、厳しい隔たりがあり、採択された条約の内容には、妥協の産物と言える点もある。

また、排他的経済水域や大陸棚といった主権の及ぶ海でもない、そうかといって全く自由な海でもない、中間的な海洋も出現した。深海底にみられるように、公海の海底の開発を国家ではなく、新しい国際機関を中心に行おうとするなど革新的な考え方も導入されている。従って、今後、各国間で利害の対立が増える状況も予想される。

政府は勿論、われわれ日本国民が、この国連海洋法条約について、わが国の安全保障の観点からも考察しておくことは、極めて重要である。

条約は17部、320箇条、九つの附属書、深海底の開発に関する実施協定を加え、合計で約500箇条から成っている。その内容は、領海、接続水域、国際海峡、群島国家、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底、海洋環境の保護保全、海洋の科学的調査、国際海洋法裁判所など広い分野にわたっており、海洋国日本にとっては、極めて重要な意味を持った条約である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION