日本財団 図書館


海洋工学の将来技術

 

九州大学応用力学研究所教授

小寺山 亘

 

海洋は資源・空間利用の点で陸地の供給量の不足を将来的に補うものとして、期待されてきた。21世紀の発展途上国において予想される世界人口の爆発に伴って、このことは現在は強く意識されている。しかしながら、必要な技術が確立していないために、その供給能力の総量と経済性はまだ確定していない。また陸地・海洋を問わず将来の大規模開発に伴う地球環境への影響を的確・定量的に把握する技術は開発技術と同様に重要である。

現在は陸上の資源・空間の深刻な不足は起こっておらず、従って進行中の海洋における技術開発は現時点では経済性の検討は十分には行われていないものが大部分であり、将来への準備的な要素が大きい。しかしながら陸上の開発は確実に飽和に近づきつつあり、21世紀の人類の将来を左右する重要な役割を担っている。また地球環境の悪化は日増しに深刻化しており、緊急に対応する必要がある。特に海洋調査技術の開発は海洋工学分野に強く要請されている。講演では海洋空間の利用技術、海洋資源探査・生産技術、海洋環境の調査・保全技術などの現状の動向と将来への展望について述べる。

 

(1) 海洋空間の利用技術

埋め立て工法による海洋空間の利用はウォターフロントの開発として全国各地で実行されているが、いわゆる船舶・海洋工学におけるものとしては、浮体または鉄鋼構造物に限って考えることが一般的である。現在我が国の船舶海洋工学分野の最大のトピックスは言うまでもなく超大型浮体による海上空港計画である。長さ5000m、幅1000mの規模の空間を浮体建造技術によって創出するための技術的検討をメガフロート研究組合が中心となって行っている。

経済性・安全性・環境への影響などについて検討するなかで、構造物と入射波浪との流力弾性的応答や流れ・波・水温・塩分などの物理量はもちろんのこと動物・植物プランクトンなどの生態系や水質への影響の予測モデルの構築など、従来の船舶・海洋工学では取り扱われなかった多方面の現象について精力的に研究が行われている。取り敢えず目標としているのは関西国際空港の第2滑走路の建設であるが、ここで開発された技術が今後の国際空港や地方空港の建設に生かされる日が近いことが実感されるように成りつつある。

またマリンフロート推進機構においては浮体が地震に強い特性を生かして、浮体式コンテナヤードの試設計を行っている。ノルウェーにおいては大水深のフィヨルドを横断するための浮体式橋梁や海中浮体式トンネルが建設されつつある。我が国においても海中浮体式トンネルは海上交通への影響が無い利点に着目して、建設が検討されている。

浮体による海洋空間の利用は従来から例えば、海上ホテル・ヘリポートや上五島や白島の石油備蓄基地などにすでに実施例を見ることができる。よた発電プラントや新鋭工場を浮体ごと我が国で建造し、発展途上国に輸出することなどが行われた。これらはいずれも単なる遊休空間の利用でなく、海洋空間の持つ特徴すなわち都心へのアプローチの容易さや浮体構造物の特徴である重層性や移動性などを生かして、成功したものである。今後も環境への影響も含めてこれらの浮体の持つ特徴を生かしたプロジェクトが実現されると考えられる。

 

(2) 海洋資源探査・生産技術

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION